4-(1-メチルエチル)アニリンのラットを用いる
反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening
Test of 4-(1-Methylethyl) aniline by Oral Administration in Rats

要約

4-(1-メチルエチル)アニリンの6,20および60 mg/kgをSD系(Crj:CD)のラットの交配前2週間および交配期間の2週間を通じて経口投与し,さらには雄では交配期間終了後20日間,雌では妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで連続投与し,親動物の反復投与毒性および生殖能ならびに児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

雌の60 mg/kg群で妊娠25日に1例が死亡した.一般状態の観察では,眼貧血および流涎が雌雄とも20および60 mg/kg群で観察され,皮膚の蒼白が主として60 mg/kg群の妊娠期間の雌に観察された.

体重では,20および60 mg/kg群の雄と60 mg/kg群の妊娠期間の雌で軽度な増加抑制が認められ,摂餌量では60 mg/kg群の雄で投与期間の初期に低値が認められた.

雄の血液学検査では,20および60 mg/kg群でメトヘモグロビン比率が高値を示し,さらに60 mg/kg群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数およびMCHCが低値を,MCV,MCH,血小板数および網赤血球比率が高値を示した.血液凝固能検査では被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学検査では60 mg/kg群でアルブミン,A/Gおよび総ビリルビンが高値を示した.

病理学検査では,骨髄,脾臓および肝臓に被験物質の影響が示唆される変化が認められた.器官重量は,脾臓重量が雄の60 mg/kg群,雌の20および60 mg/kg群で高値を示し,肝臓重量が雄の20および60 mg/kg群ならびに雌の60 mg/kg群で高値を示した.剖検所見では脾臓の黒色化および肥大が雌雄の20および60 mg/kg群で認められ,病理組織学検査では骨髄の造血亢進(赤血球系造血),脾臓のうっ血,色素沈着および髄外造血(赤血球系造血)が雌雄の20および60 mg/kg群で,肝臓の髄外造血が雄の60 mg/kg群,雌の20および60 mg/kg群で,肝臓(クッパー細胞)の色素沈着および肝細胞肥大が雌雄の60 mg/kg群でそれぞれ発生率の増加あるいは程度の増強が認められた.

2. 生殖発生毒性

性周期,交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められなかった.

分娩時観察および妊娠期間にも被験物質投与の影響は認められなかったが,60 mg/kg群で雌雄の新生児の哺育0日の体重が低値を示し,新生児の4日の生存率が低値を示したことから,被験物質投与による出生前後の新生児の発育抑制および生存性に対する影響が示唆された.その他,出産率,出生率に被験物質投与の影響は認められず,新生児の外表,死亡児および哺育4日の剖検にも被験物質投与の影響は認められなかった.

以上の結果から,本試験条件下では4-(1-メチルエチル)アニリンの反復投与によりメトヘモグロビン血症および貧血が惹起され,それらに起因すると考えられる一般状態,血液学検査値,血液生化学検査値,骨髄,肝臓および脾臓の変化が雌雄の20 mg/kg以上の投与群で認められ,無影響量(NOEL)は雌雄とも6 mg/kg/dayと判断された.雌雄の生殖能に及ぼす影響は60 mg/kg/day投与でも認められず,無影響量は60 mg/kg/dayと判断された.児動物の発生・発育に及ぼす影響は60 mg/kg/day投与で発育抑制が認められ,新生児の4日の生存率が低値を示したことから無影響量は20 mg/kg/dayと判断された.

方法

1. 被験物質

4-(1-メチルエチル)アニリン[三井化学(株)製造,東京,Lot No. 970918,純度99.27 wt%]は,無〜黄褐色の液体であり,使用時まで室温で遮光下密栓保管した.本ロットは投与期間中安定であったことを確認した.

被験物質は,トウモロコシ油(Lot No. V7P1509,ナカライテスク(株)製造)に溶解し,1.2,4および12 mg/mLの濃度になるよう各群の投与液を調製した.調製後は,使用時まで冷暗条件下で密閉保管した.投与液中の被験物質は1および60 mg/mLの場合,調製後遮光下冷蔵庫保存で8日目まで安定であることを確認した.

投与液の濃度確認のため全試験群について,調製開始時に調製した各群の投与液から無作為にサンプルを抽出し投与液中の被験物質濃度の分析を実施した.その結果,投与液は設定濃度の96.5〜102.0 %の範囲で調製されていた.したがって,投与液にはほぼ所定量の4-(1-メチルエチル)アニリンが含有されていたことを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,日本チャールス・リバー(株)(神奈川)から購入した生後8週齢のSprague-Dawley(Crj:CD(SD), SPF)系雌雄ラットを使用した.購入した動物は7日間検疫・馴化飼育した後,一般状態に異常が認められなかったものを10週齢で群分けして試験に用いた.群分け終了時の体重は,雄で384〜420 g,雌で213〜240 gの範囲であった.

動物は,温度24±2℃,湿度55±10 %,換気回数15回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステムの飼育室でアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに1匹ずつ収容し飼育した.妊娠18日以降の母動物は哺育4日までアルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに哺育トレーおよび巣作り材料(Care FRESHTM, Absorption corporation製造)を入れて飼育した.

飼料は,オリエンタル酵母工業(株)製造のNMF固型飼料(放射線滅菌飼料)を使用し,飼育期間中自由に摂取させた.飲水は,水道水を自由に摂取させた.

3. 群分け

動物は投与開始日の体重をもとに層別化し,無作為抽出法により1群当たり12匹を振り分けた.

4. 投与量,群構成,投与期間および投与方法

本試験の用量は先に実施した予備試験「4-(1-メチルエチル)アニリンのラット用いる反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験-2週間投与予備試験」の結果を参考にして決定した.すなわち,0,10,30,100 および300 mg/kgを雄および雌に14日間連続経口投与した結果,300 mg/kg群で雌雄の各1例が死亡した.一般状態の変化として,眼貧血が雌雄ともに30 mg/kg群で少数例に,100および300 mg/kg群で全例に観察され,流涎および蒼白が雌雄の100および300mg/kg群でほぼ全例に観察された.その他,散瞳,着色尿,体温低下,歩行異常および立毛等が300 mg/kg群で観察された.また,300 mg/kg群の雌雄に体重増加抑制および摂餌量の低下が認められた.雄の血液学検査では,30 mg/kg以上の投与群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値を示し,100および300 mg/kg群でMCVおよびMCHが高値を,MCHCが低値を示した.さらに300 mg/kg群で好中球比率が高値を,リンパ球比率が低値を示した.血液生化学検査では100および300 mg/kg群でアルブミンおよびA/Gが高値を示し,300 mg/kg群で総蛋白およびGPTが高値を示した.

剖検では,30 mg/kg以上の投与群で雌雄のほぼ全例に脾臓の黒色化および肥大が観察されたほか,雌雄の300 mg/kg群で肝臓の黒色化および肥大がほぼ全例に,腎臓の黒色化が全例に観察された.剖検時の器官重量では,雄の100 mg/kg以上,雌の30 mg/kg以上の投与群で脾臓の絶対および 器官重量・体重比(相対重量)が高値または高値傾向を示し,100および300 mg/kg群で肝臓の絶対および相対重量が高値を示した.さらに,雄の100および300 mg/kg群で精巣の相対重量の高値,雌雄の300 mg/kg群で胸腺の絶対および相対重量が低値または低値傾向を,腎臓の相対重量が高値を示した.

以上の結果から,本試験の最高用量を明らかな毒性兆候が現れることが予想される60 mg/kgに設定し,以下公比約3で除し,20および6 mg/kgを設定した.

投与容量は,体重100 g当り0.5 mLとし,交配前および交配期間中の雌雄では,個体別に測定した最新体重に基づいて算出を行った.また,妊娠期間および哺育期間中の雌は,妊娠0,7,14,21および哺育0日に測定した個体別体重に基づいて算出を行った.胃ゾンデを用いて毎日1回(7日/週)強制経口投与した.対照群にはトウモロコシ油のみを同様に投与した.

雄の投与期間は,交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後20日間の連続48日間とした.雌の投与期間は,交配前14日間と交配期間中(最長4日間)ならびに交尾成立雌の妊娠期間を通じて分娩後の哺育3日まで(41〜45日間)とした.

5. 観察および検査

1) 一般状態

雌雄とも,全例について試験期間中毎日観察した.

2) 体重

雄では,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および49日(剖検日)に測定し,投与1から43日までの体重増加量を算出した.

雌では,投与1(投与開始日),8および15日に測定し,投与1から15日までの体重増加量を算出した.また,交尾成立後の雌は,妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定し,それぞれ妊娠0から21日および哺育0から4日までの体重増加量を算出した.

3) 摂餌量

雄では,投与1(投与開始日),8,15,22,29,36,43および48日(剖検前日)に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日および投与22から48日までの累積摂餌量を算出した.

雌では,投与1(投与開始日),8および15日に測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め,平均1日摂餌量を算出するとともに投与1から15日までの累積摂餌量を算出した.また,交尾成立の雌は妊娠0,7,14および21日に,分娩した雌は哺育0および4日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの摂餌量を求め,平均1日摂餌量を算出するとともに妊娠0から21日までの累積摂餌量を算出した.なお,交配期間中の摂餌量は測定しなかった.

4) 交配

交配前14日間の性周期観察を行った雌を同群内の雄のケージに入れ1対1で最長14日間毎晩同居させた.翌朝,腟垢中の精子確認をもって交尾が成立したとし,その日を妊娠0日とした.性周期観察は交尾成立日まで行い,発情期から次の発情期までの間の日数を性周期日数として平均性周期を算出した.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100]を算出した.

5) 自然分娩時および新生児の観察

妊娠動物は全例を自然分娩させた.分娩の確認は午前9〜10時に行い,この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体についてその日を哺育0日とした.午前10時を過ぎて分娩が完了した個体については,翌日を哺育0日とした.分娩を確認した全例について妊娠期間(哺育0日の年月日から妊娠0日の年月日を減じた日数),受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100)],出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100],着床率[(着床痕数/妊娠黄体数)×100)],分娩率[(総出産児数/着床痕数)×100],出生率[(出産生児数/総出産児数)×100)]を算出した.

新生児は哺育0日に出産児数(生存児+死亡児)を調べ,性別を判定するとともに外表異常の有無を調べた.また,哺育0および4日に雌雄個体別の重量を測定し,1腹の雌雄別平均体重を算出した.

哺育4日の新生児の同腹児重量を測定後に新生児全例をエーテル麻酔により安楽死させ,器官・組織の肉眼観察を行った.なお,哺育期間中の死亡児についても同様に主要器官の肉眼観察を行った.また,新生児の4日の生存率[(哺育4日生児数/出産生児数)×100]を求めた.

6) 臨床検査

各群の雄全例について剖検時に実施した.動物を最終投与日(投与期間:48日間)の夕方から翌朝まで約16時間絶食させた後,エーテル麻酔下で開腹し,腹部大動脈から採血した.

a) 血液学検査

検査はEDTA-2Kを添加した初血について,THMS H・1E(米国マイルス社)を用いて白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を測定した.白血球百分率は前述の機器で測定したが,別途血液塗末標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色して保管した.網赤血球(RC)比率の算定については,EDTA-2K添加血液をニューメチレンブルーで染色後,血液塗末標本を作製した.高用量群で貧血傾向が認められたため,全群全例の標本の観察を行った.

b) 血液凝固能検査

検査にはクエン酸ソーダ添加血液を3000 r.p.m.,13分間遠心分離して得た血漿について,血液凝固測定装置KC-40(独国アメルング社)を用いてプロトロンビン時間(PT:Quick 1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:クロット法)およびフィブリノーゲン量(Fibrinogen:トロンビン時間法)を測定した.

c) 血液生化学検査

検査は採血管に血液を採取,30分間静置後3000 r.p.m. 7分間遠心分離して得た血清について,多項目生化学自動分析装置CentrifiChem ENCORE II(米国ベーカー社)およびEKTACHEM 700N(米国コダック社)を用いて総蛋白(ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素色素法),総コレステロール(コレステロールオキシダーゼ法),尿素窒素(ウレアーゼアンモニウム指示薬法),クレアチニン(Jaff法),総ビリルビン(ジアゾ法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(IFCC法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(IFCC法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(Orlowski法),ナトリウム(電極法),カリウム(電極法),塩素(電極法),カルシウム(アルセナゾ III法)および無機リン(モリブデン酸青法)を測定した.

7) 病理学検査

a) 剖検および器官重量

(1) 死亡動物

剖検では器官・組織の肉眼観察を行い,皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨,骨髄(胸骨および大腿骨),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄を10 %中性緩衝ホルマリン液で固定した.

(2) 雄動物

48日間投与した日の夕方から,約16時間絶食をさせた後エーテル麻酔下で採血し安楽死させた.器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体重量を測定し相対重量を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて心臓,精嚢,前立腺,下垂体,骨髄(胸骨および大腿骨)および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として皮膚を10 %中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はブアン氏液で固定した.

(3) 雌動物

哺育4日にエーテル麻酔下で放血安楽死させた.器官・組織の肉眼観察を行った後,脳,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣重量を測定し相対重量を算出した.また,全動物の重量測定器官に加えて心臓,下垂体,骨髄(胸骨および大腿骨)および肉眼所見として変化が認められた器官・組織として舌,鼻の結節および皮膚を10 %中性緩衝ホルマリン液で固定した.また,剖検時に黄体数および着床痕数を調べた.

b) 病理組織学検査

(1) 死亡動物

死亡動物(雌の60 mg/kg群の1例)の皮膚,乳腺,リンパ節,唾液腺,胸骨,大腿骨,骨髄(胸骨および大腿骨),胸腺,気管,肺および気管支,心臓,甲状腺および上皮小体,舌,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸,肝臓,膵臓,脾臓,腎臓,副腎,膀胱,卵巣,子宮,腟,眼球,ハーダー腺,脳,下垂体および脊髄について実施した.

(2) 雄動物

対照群と高用量群では脳,骨髄(胸骨および大腿骨),胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体について実施し,低および中用量群では骨髄,脾臓および肝臓について実施した.

(3) 雌動物

対照群と高用量群では脳,骨髄(胸骨および大腿骨),胸腺,心臓,肝臓,腎臓,脾臓,副腎および卵巣について実施し,加えて高用量群の1例の皮膚および同群の1例の鼻の結節について実施した.また,低および中用量群では骨髄,脾臓および肝臓について実施した.

6. 統計解析

体重,摂餌量,黄体数,着床痕数,出産児数,死産児数,性比,平均性周期,妊娠期間,着床率,分娩率,出生率,外表異常発現率,新生児の4日の生存率,器官重量,相対重量,血液学および血液生化学検査値については多重比較検定1-3)を行った.

出産率,交尾率および受胎率についてはχ^2検定4) 5)を用いた.病理学検査の所見の発生率については,Fisherの直接確率検定法5)を用いて検定し,グレードのある所見は,-を「1」,+1を「2」,+2を「3」および+3を「4」に割り当てた後,順位和検定であるMann-WhitneyのU検定5)を用いて検定した.なお,哺育期間中の新生児に関する成績は1母体当りの平均を1標本とした.有意水準は*:P<0.05および**:P<0.01の2段階とした.

結果

1. 反復投与毒性

1) 死亡および一般状態

雌の60 mg/kg群の1例が妊娠25日(投与43日)の分娩途中に死亡した.

主な一般状態の変化として雌雄とも20 mg/kg以上の投与群で眼貧血および流涎が観察された.眼貧血は雄の20 mg/kg群では投与3から4週にかけて複数例に観察されたが,その後は少数例の発現であった.雄の60 mg/kg群では投与1週から複数例に観察され,投与期間終了までほぼ継続して認められた.雌の20 mg/kg群では,交配前・交配期間中は少数例に,妊娠期間中は複数例に観察されたが散発的な発現であった.哺育期間中は分娩直後を中心に発現例数の増加が認められた.雌の60 mg/kg群では,投与期間を通じ20 mg/kg群に比べ発現例数の増加が認められ,交配前・交配期間中は約半数例に,剖検日を除く妊娠および哺育期間中はほぼ全例に継続して観察された.この症状は,雌雄いずれの群でも主として投与後30分から4時間に観察され,翌日には消失したが,60 mg/kg群の雌では翌日まで継続して認められる例もあった.流涎は雌雄の20 mg/kg群で投与期間を通じ少数例にごく散発的に観察された.雄の60 mg/kg群では投与2週までは少数例に,投与3週以降は半数例以上に観察された.雌の60 mg/kg群では交配前・交配期間中は少数例に,妊娠期間中は複数例に観察された.この症状は投与直後から発現が認められ始め,おおむね投与後30分には消失する変化であった.また,皮膚の蒼白が雌の20および60 mg/kg群で観察された.この症状は20 mg/kg群では妊娠期間中に1例のみの発現であった.60 mg/kg群では交配前・交配期間中および哺育期間中はそれぞれ1例のみの発現であったが,妊娠期間中は複数例に観察された.

その他,雄では被毛の汚れ,眼分泌物,外傷,痂皮,体表面の腫瘤および縮瞳が,雌では脱毛,痂皮および体表面の腫瘤が被験物質投与群に1ないし少数例に散見された.死亡動物には,全身状態の悪化に起因すると考えられる変化として,投与41〜42日に立毛および眼瞼下垂が観察された.

2) 体重(Fig. 1, 2)

雌雄ともに投与期間を通じて対照群と被験物質投与群との間に統計学的に有意な差は認められなかったが,雄では20および60 mg/kg群で投与1から43日の体重増加量が低値傾向を示し,雌では60 mg/kg群で妊娠0から21日の体重増加量が低値傾向を示した.

3) 摂餌量(Fig. 3, 4)

雄では対照群に比べ60 mg/kg群で投与1から8日の平均1日摂餌量が統計学的に有意な低値を示し,投与1から15日の累積摂餌量も有意な低値を示した.雌では投与期間を通じて対照群と被験物質投与群の間に差は認められなかった.

4) 雄の血液学検査(Table 1)

対照群と比べ20および60 mg/kg群でメトヘモグロビン比率が統計学的に有意な高値を示した.さらに60 mg/kg群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数およびMCHCが有意な低値を,MCV,MCH,血小板数および網赤血球比率が有意な高値を示した.血液凝固能検査では全ての検査項目において,対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

5) 雄の血液生化学検査(Table 2)

対照群と比べ60 mg/kg群でアルブミン,A/Gおよび総ビリルビンが統計学的に有意な高値を示した.その他の検査項目では対照群と被験物質投与群との間に差は認められなかった.

6) 器官重量(Table 3)

雄では,20および60 mg/kg群で対照群に比べ肝臓および腎臓の相対重量が統計学的に有意な高値を示し,さらに,60 mg/kg群では脾臓の絶対および相対重量が有意な高値を,副腎の絶対重量が有意な低値を示した.

雌では,20および60 mg/kg群で対照群に比べ脾臓の絶対および相対重量が有意な高値を示し,さらに60 mg/kg群では肝臓の相対重量が有意な高値を示した.

7) 剖検所見

死亡動物は雌の60 mg/kg群の1例であった.剖検所見として脾臓の黒色化および肺の赤色化が観察された.雄では,脾臓の黒色化および肥大が20および60 mg/kg群で観察され,いずれの所見も60 mg/kg群で対照群に比べ発生率が統計学的に有意に増加した.その他,単発性に認められた所見として,腎臓の瘢痕,精巣および精巣上体の小型化,皮膚の痂皮および潰瘍が対照群および20 mg/kgで観察された.

雌では,脾臓の黒色化および肥大が20および60 mg/kg群で観察され,いずれの所見も両群ともに対照群に比べ発生率が有意に増加した.その他,胸腺の小型化,舌の潰瘍,肝臓の横隔膜ヘルニア,卵巣の嚢胞および鼻の結節が対照群を含む各群に単発性に観察され,脱毛が全ての被験物質投与群で単発性に観察された.

8) 病理組織学検査(Table 4, 5)

死亡動物では,骨髄,リンパ節,肺,胃,小腸,十二指腸,肝臓,唾液腺,腎臓,甲状腺,副腎および脳の血栓,心臓の壊死,骨髄の造血亢進(赤血球系造血),脾臓のうっ血および色素沈着,胸腺の萎縮,肺のうっ血および浮腫,食道の変性(筋層),びらん,細胞浸潤,錯角化症および扁平上皮増生,胃の浮腫,錯角化症および扁平上皮増生,膵外分泌部のチモーゲン顆粒減少,十二指腸の潰瘍,肝臓の脂肪化および色素沈着(クッパー細胞),子宮内膜炎,腟の細胞浸潤,副腎の空胞変性および皮質増生が観察された.

雄では,骨髄の造血亢進(赤血球系造血),脾臓のうっ血,色素沈着および髄外造血(赤血球系造血)が20および60 mg/kg群で観察され,このうち脾臓の色素沈着は20および60 mg/kg群で,脾臓のうっ血,髄外造血および骨髄の造血亢進(赤血球系造血)は60 mg/kg群で対照群に比べそれぞれ発生率が統計学的に有意に増加した.また,肝臓(クッパー細胞)の色素沈着,髄外造血(赤血球系造血)および肝細胞肥大が60 mg/kg群で認められ,それぞれ発生率が有意に増加した.

心臓の細胞浸潤,肝臓の脂肪化,小肉芽腫,腎臓の尿細管好塩基化および好酸性小体は各群に散見されたが,群間の発生率に有意な差は認められなかった.その他の所見は少数例あるいは単発性の変化であった.

雌では,骨髄の造血亢進(赤血球系造血),脾臓のうっ血および色素沈着が20および60 mg/kg群で観察され,いずれの所見も両群ともに対照群に比べ発生率が有意に増加した.脾臓の髄外造血(赤血球系造血)は対照群,6,20および60 mg/kg群でそれぞれ4,5,9および10例に認められ,対照群に比べ20および60 mg/kg群で発生率と程度の増強に有意な差が認められた.また,肝臓(クッパー細胞)の色素沈着および肝細胞肥大が60 mg/kg群で認められ,このうち色素沈着の発生率が有意に増加した.肝臓の髄外造血(赤血球系造血)は対照群,6,20および60 mg/kg群でそれぞれ2,2,3および9例に認められ,対照群に比べ60 mg/kg群で発生率と程度の増強に有意な差が認められた.肝臓の小肉芽腫は各群に散見されたが,群間の発生率に差は認められなかった.その他の所見は少数例あるいは単発性の変化であった.なお,肉眼所見で60 mg/kg群の1例に認められた鼻の結節は,組織学的には扁平上皮乳頭腫であった.

雌雄ともに脾臓および肝臓の色素沈着の代表例においてベルリンブルー染色を実施した結果,陽性を示したため,これらの色素はヘモジテリンであると考えられた.

2. 生殖発生毒性

1) 交尾および受胎能(Table 6)

交尾および受胎はすべての群で全例成立した.

性周期観察では,いずれの群もほぼ4〜5日の性周期を示し平均性周期に群間差は認められなかった.

2) 分娩および哺育(Table 7)

60 mg/kg群で対照群に比べ雄の新生児の4日の生存率が統計学的に有意な低値を示し,雌の新生児の4日の生存率も低値傾向を示した.その他,60 mg/kg群の死亡動物以外の動物には分娩状態に異常は観察されず,各群の妊娠期間,黄体数,着床痕数,出産生児数および死産児数はほぼ同様な値を示し,出産率,着床率,分娩率および出生率に群間差は認められなかった.

3) 新生児の形態,体重および剖検所見

新生児の外表異常はいずれの群にも認められなかった.哺育期間中の体重では,60mg/kg群で対照群に比べ雌雄ともに哺育0日の体重が統計学的に有意な低値を示した.

死亡児の剖検では,胸腺頸部残留が対照群,6および60 mg/kg群でそれぞれ3,1および2例に観察された他,右鎖骨下動脈起始異常が20 mg/kg群で1例に観察されたが,いずれの所見も発生率に群間差は認められなかった.哺育4日の剖検で,雄では対照群で胸腺頸部残留が1例,60 mg/kg群で肝臓の白色斑点および緑色化が各1例に観察され,雌では60 mg/kg群で腎臓の腎盂拡張が1例に観察されたが,いずれの所見も発生率に群間差は認められなかった.

考察

1. 反復投与毒性

雌の60 mg/kg群で1例が分娩途中に死亡した.死亡例の病理組織学検査の結果,血栓が骨髄,リンパ節,肺,胃,小腸,十二指腸,肝臓,唾液腺,腎臓,甲状腺,副腎および脳に観察された.さらにこれらの血栓による循環障害を示唆すると考えられる病変として心臓の壊死,肺の浮腫およびうっ血,十二指腸の潰瘍等が観察された.ラットでは胎児の子宮内死亡,妊娠性中毒症等の産褥性疾患による死亡動物において,全身諸臓器の血管に血栓を形成する播種性血管内凝固症候群(DIC)がおこることが知られており6),本例も分娩途中で死亡していることから,DICが死因と考えられ,被験物質の直接的な影響によるものではないと判断された.

一般状態の観察では,眼貧血および流涎が雌雄とも20 mg/kg以上の投与群で観察され,皮膚の蒼白が60 mg/kg群の妊娠期間の雌に複数例認められた.アニリン系化合物の既存化学物質の毒性試験7, 8)においても,共通した毒性としてメトヘモグロビン血症と貧血の発生が報告されており,本試験でもメトヘモグロビン比率の増加や貧血が認められたことから,眼貧血や皮膚の蒼白はこれらに起因したものと考えられた.流涎については,3,4-ジメチルアニリン7)や3,5-ジメチルアニリン8)の投与によっても認められていることから被験物質投与に関連した変化と考えられた.

体重では,20および60 mg/kg群の雄と60 mg/kg群の妊娠期間の雌で軽度な増加抑制が認められ,摂餌量では60 mg/kg群の雄で投与期間の初期に低値を示し,それぞれ被験物質投与の影響が示唆された.

雄の血液学検査では,20および60 mg/kg群でメトヘモグロビン比率が高値を示し,60 mg/kg群でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数およびMCHCが低値を,MCV,MCHおよび網赤血球比率が高値を示した.これらの変化は前述のメトヘモグロビン血症に起因する貧血もしくはそれに対する代償性変化を示すものと考えられた.血液凝固能検査では被験物質投与の影響は認められなかった.血液生化学検査では60 mg/kg群で総ビリルビンが高値を示し,メトヘモグロビン血症に起因した溶血を反映したものと考えられた.その他,同群でアルブミンおよびA/Gが高値を示したが,その起因は明らかではなかった.

器官重量は,脾臓重量が雄の60 mg/kg群,雌の20および60 mg/kg群で高値を示し,肝臓重量が雄の20および60 mg/kg群ならびに雌の60 mg/kg群で高値を示した.剖検所見では脾臓の黒色化および肥大が雌雄の20および60 mg/kg群で認められ,病理組織学検査では骨髄の造血亢進(赤血球系造血),脾臓のうっ血,色素沈着および髄外造血(赤血球系造血)が雌雄の20および60 mg/kg群で,肝臓の髄外造血が雄の60 mg/kg群,雌の20および60 mg/kg群で,肝臓(クッパー細胞)の色素沈着および肝細胞肥大が雌雄の60 mg/kg群で,それぞれの発生率の増加あるいは程度の増強が認められた.肝細胞肥大については血液生化学検査や組織学的にも肝障害を示唆する変化がないことから,薬物を投与した際にしばしば観察される肝臓の機能亢進像であると考えられた.脾臓のうっ血は赤血球の処理機能が亢進する場合に認められることが知られており9),また,脾臓および肝臓でヘモジテリンの沈着が増加していることや骨髄の造血亢進,脾臓および肝臓の髄外造血は溶血性貧血に対する代償性変化と考えられ,いずれもメトヘモグロビン血症に起因した変化と考えられた10, 11).なお,血液学検査で60 mg/kg群の血小板数の増加が見られたが,骨髄,脾臓および肝臓の病理組織学検査において,巨核球数の変化は明確ではなく,血小板数の増加の理由は明らかにできなかった.また,雄の20および60 mg/kg群で認められた腎臓重量の高値および60 mg/kg群の副腎重量の低値は,病理組織学検査では変化は認められず被験物質投与との関連は不明であった.

以上のことから,4-(1-メチルエチル)アニリンの反復投与によりメトヘモグロビン血症および貧血が惹起され,それらに起因すると考えられる一般状態,血液学検査値,血液生化学検査値,骨髄,肝臓および脾臓の変化が雌雄の20 mg/kg以上の投与群で認められ,無影響量は雌雄とも6 mg/kg/dayと判断された.

2. 生殖発生毒性

性周期,交尾能および受胎能に被験物質投与の影響は認められなかった.

分娩時観察では60 mg/kg群の死亡動物1例を除く妊娠動物はいずれも正常に分娩し,妊娠期間にも被験物質投与の影響は認められなかった.60 mg/kg群で雌雄の新生児の哺育0日の体重が低値を示し,新生児の4日の生存率が低値を示したことから,被験物質投与による出生前後の新生児の発育抑制および生存性に対する影響が示唆された.その他,出産率,出生率に被験物質投与の影響は認められず,新生児の外表にも被験物質投与の影響は認められなかった.また,死亡児および哺育4日の剖検では被験物質投与によると考えられる異常所見は観察されなかった.

以上のことから,4-(1-メチルエチル)アニリンの雌雄の生殖能に及ぼす影響は60 mg/kg/day投与でも認められず,無影響量は60 mg/kg/dayと判断された.

児動物の発生・発育に及ぼす影響は60 mg/kg/day投与で発育抑制が認められ,新生児の4日の生存率が低値を示したことから無影響量は20 mg/kg/dayと判断された.

文献

1)S. Gad and C. S. Weil, "Statistics and Experimental Design For Toxicologists," Telford Press, New Jersey, 1986, pp. 43-45.
2)佐野正樹,岡山佳弘,医薬安全性研究会会報,32, 21(1990).
3)M, Yoshida, J. Japanese Soc. Comp. Statist., 1, 111(1988).
4)佐久間昭,"薬効評価-計画と解析-I,"東京大学出版会,東京,1977, pp. 109-117.
5)石居進,"生物統計学入門,"培風館,東京,1975, pp. 78-107.
6)前川昭彦ら,"毒性試験講座5毒性病理学,"地人書館,東京,1991, p. 66.
7)厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 3,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1996.
8)厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 5,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1997.
9)伊藤信行,"最新 毒性病理学,"中山書店,東京,1994, p. 276.
10)秋元健ら,"毒性試験講座15医薬品,"地人書館,東京,1990, pp. 99-112.
11)P. Greaves, "Histopathology of preclinical toxicity studies," Elsevier, Amsterdam, Netherlands, 1990, pp. 102-104.

連絡先
試験責任者:田中亮太
試験担当者:坂本知恵子,大庭耕輔,伊賀達也,細井理代
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Ryota Tanaka(Study director) Chieko Sakamoto, Kousuke Oba, Tatsuya Iga, Masayo Hosoi
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan
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