4-(1-メチルエチル)アニリンのラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 4-(1-Methylethyl) aniline in Rats
要約
既存化学物質の安全性を評価するため,4-(1-メチルエチル)アニリンを雌雄のCrj:CD(SD)系ラットに単回経口投与し,急性毒性を検討した.
投与量は雌雄ともに700,910,1183,1538および2000 mg/kgの5用量とした.
死亡動物は,雌雄とも910 mg/kg以上の用量群で投与後24時間以降3日までみられ,その多くが投与翌日に認められた.LD50値(95 %信頼限界)は雌雄ともに985 mg/kg(846〜1146 mg/kg)であった.
一般状態の観察では 雌雄ともにすべての用量群で歩行異常,自発運動低下および流涎がみられ,910 mg/kg以上の用量群で流涙ならびに腹臥位,側臥位あるいは円背位が認められた.さらに一部の群で被毛の汚れおよび腹部膨満が観察された.なお,観察期間終了時まで生存していた動物では投与後2ないし3日頃まで自発運動低下,歩行異常あるいは腹部膨満が認められたが,投与後4ないし5日にはすべて回復した.
生存動物の体重は,雌雄とも投与後7および14日の測定で前回の測定値に比較して増加していた.
剖検では,雄の2000 mg/kg,雌の1183および2000 mg/kgで一部の死亡動物の膀胱あるいは胃に赤色の内容物が認められたが,その他の動物には肉眼的異常は認められなかった.
方法
1. 被験物質
4-(1-メチルエチル)アニリン(三井化学(株),東京)は,無〜黄褐色の液体で水に難溶.アルコール,ベンゼン等に可溶,分子量135.20の物質である.本試験に用いたロット9701918の純度は99.27 wt%であった.
2. 供試動物
5週齢のCrj:CD(SD)系ラット(SPF)雌雄各35匹を日本チャールス・リバー(株)(神奈川)から購入した.動物は検収後,試験環境に7日間馴化し,6週齢で投与した.
3. 飼育
動物は,温度23±2℃,湿度55±10 %,換気回数20回/時間,照度150〜300 Lx,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定された飼育室で,(株)東京技研サービスの自動水洗式飼育機を使用し,ステンレス製網目飼育ケージに5匹ずつ収容して飼育した.飼育ケージおよび給餌器は週1回取り換えた.動物には,オリエンタル酵母工業(株)製造の固型飼料MFを自由に摂取させ,飲料水としては,水道水を自由に摂取させた.なお,飼育室の環境調節は試験期間中,目標範囲内であった.動物の馴化期間を含め,観察期間中データの信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因の変化はなかった.
4. 用量設定理由
本試験に先立ち,雌雄各1群当たり2匹に125,250,500,1000および2000 mg/kgを投与し,5日間にわたり中毒症状および生死の観察を行った結果,雌雄ともに2000 mg/kg群で2例全例が死亡したが,1000 mg/kg以下の群に死亡例は認められなかったことから,本試験の投与用量は雌雄ともに700〜2000 mg/kgの5用量(公比1.3)を設定した.
5. 群分け
動物はあらかじめ体重によって層別化し,無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けした.動物の識別は耳介入墨法により行った.投与時の体重は,雄が170〜184 g,雌が127〜142 gであった.なお,余剰動物は炭酸ガス吸入法により安楽死させた.
6. 投与液の調製および投与方法
被験物質は140,182,237,308および400 mg/mLの濃度となるようにトウモロコシ油(ナカライテスク(株),Lot No. V6B7902)に溶解した.すべての投与群について投与液の濃度分析を実施した結果,設定濃度の101〜103 %の範囲であり,適切に調製されていた.
投与容量は体重100 gあたり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与量を算出した.
投与回数は1回とし,投与前16時間絶食させた動物に金属製胃ゾンデを用いて強制経口投与した.給餌は被験物質投与後3時間に行った.
7. 一般状態の観察
中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,以後1日2回,14日間にわたって実施した.
8. 体重
体重は投与直前,投与後7および14日に測定し,死亡動物については死亡発見時にも測定した.
9. 50 %致死量(LD50)の算出
プロビット法により,投与後14日の死亡率からLD50値およびその95 %信頼限界を算出した.
10. 病理学検査
観察期間中の死亡例については死亡発見時に,また生存例については観察期間終了時にエーテル麻酔後放血安楽死させ解剖し,肉眼的病理所見を病理解剖所見用紙に記録した.
結果
1. 死亡率およびLD50値
死亡動物は,雌雄とも910 mg/kg以上の用量群で投与後24時間から3日の間に認められた.700,910,1183,1538および2000 mg/kg群の死亡率は雌雄ともにそれぞれ0,40,80,100 および100 %で,LD50値(95 %信頼限界)は雌雄ともに985(846〜1146)mg/kgであった.
2. 一般状態
雌雄ともにすべての用量群で歩行異常,自発運動低下および流涎が投与後1ないし2時間から認められた.さらに,雄の1538,雌の1183および1538 mg/kg群では投与後1時間以降,その他の910 mg/kg以上の群では投与後6時間以降に流涙ならびに腹臥位,側臥位あるいは円背位を示し死亡する動物が認められた.その他の所見として,一部の群で被毛の汚れおよび腹部膨満が観察された.なお,観察期間終了時まで生存していた動物では投与後2ないし3日頃まで自発運動低下,歩行異常あるいは腹部膨満が認められたが,投与後4ないし5日にはすべて回復した.
3. 体重
生存動物では雌雄とも投与後7および14日の測定で前回の測定値に比較して増加していた.
4. 病理所見
雄の2000 mg/kg,雌の1183および2000 mg/kgで一部の死亡動物の膀胱あるいは胃に赤色の内容物が認められたが,その他の動物には肉眼的異常は認められなかった.
考察
4-(1-メチルエチル)アニリンについてラットを用いる急性経口毒性試験を実施した.
その結果,死亡動物は投与後24時間から3日の間に認められた.中毒症状として,雌雄ともに歩行異常,自発運動低下,腹臥位,側臥位,円背位,流涎,流涙,被毛の汚れおよび腹部膨満が認められた.剖検では雌雄の死亡動物で胃または膀胱に赤色内容物が認められたが,生存動物に肉眼的異常は認められなかった.LD50値(95 %信頼限界)は雌雄ともに985(846〜1146)mg/kgであった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 藤島 敦 |
| 試験担当者: | 藤原正孝 |
| (財)食品農医薬品安全性評価センター |
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Correspondence |
| Authors: | Atsushi Fujishima (Study director)
Masataka Fujiwara |
| Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center) |
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