3−ニトロベンゼナミンのチャイニ−ズ・ハムスタ−培養細胞を用いる染色体異常試験

Chromosomal Aberration Test of 3-Nitrobenzenamine on Cultured Chinese Hamster Cells

要約

3−ニトロベンゼナミンは、代謝活性化系存在下で、チャイニ−ズ・ハムスタ−細胞株(CHL)において染色体の構造異常を有意に誘発することが示された。また、倍数体についても、代謝活性化系の存否にかかわらず、有意な出現頻度の増加が認められた。

緒言

当試験所、安全性生物試験研究センタ−で行われている既存化学物質毒性試験の一環として、3−ニトロベンゼナミンについてチャイニ−ズ・ハムスタ−培養細胞を用いる染色体異常試験を行った。

方法

[被験物質]

純度99.8%の3−ニトロベンゼナミン(3-Nitrobenzenamine)を使用した。

[細胞および試験方法]

チャイニ−ズ・ハムスタ−肺由来の線維芽細胞株(CHL)を用い、直接法および代謝活性化法による染色体異常試験を常法に従って行った1, 2)。直接法においては、細胞2x10^4個を6cmのプラスチックシャ−レに播き、3日目に検体を加え、24時間および48時間後に染色体標本を作製した。検体濃度は予備試験によって、細胞増殖が約50%抑制される濃度を求め、それを指標として公比2で3濃度を設定した。予備試験で毒性が観察されない場合には、10mM程度を最高濃度とした。

代謝活性化法においては、細胞播種後3日目に被験物質をS9 mixと共に6時間処理し、さらに18時間培養した後、染色体標本を作製した。S9は、フェノバルビタ−ル(PB)および5, 6ベンゾフラボン(BF)処理したSDラットの肝から調製した。

染色体異常の観察は、各濃度当り100個の分裂中期像について行い、染色分体型あるいは染色体型の構造異常(ギャップ、切断、交換など)をもつ細胞の出現頻度を記録した。さらに、倍数体(染色体数が倍化した細胞)についても併せて記録した。結果の判定は、未処理及び溶媒処理の対照群では通常4%以上の異常はみられないため、5%未満を陰性(−)、5%以上10%未満を疑陽性(±)、10%以上を陽性(+)とした。

結果および考察

チャイニーズ・ハムスター培養細胞による染色体異常試験の結果をTable 1、Table 2に示す。直接法においては、3−ニトロベンゼナミンは染色体構造異常の誘発性を示さなかった。一方、代謝活性化法では、染色体の構造異常が有意に増加することが示された。S9 mix存在下でのみ染色体異常が誘発されたが、異常を誘発する濃度は比較的高く(1.6 mg/ml)、且つ異常頻度が低い(11.0%)(Table 2)ので、その染色体異常誘発性はさほど強いものではないと判断された。なお、S9 mix非存在下の1.6 mg/mlでは著しい細胞毒性が現われたが、S9 mix存在下ではその細胞毒性が抑えられ、しかも染色体異常の誘発が認められている。

倍数体についても、有意な出現頻度の増加が認められた。代謝活性化系でのみ、S9 mixの有無にかかわらず、倍数体の有意な増加がみられた。しかし、いずれも低濃度の0.4 mg/mlで有意に高く、濃度依存性はみられなかった。

Shahinら3)は、3種のベンゼナミン異性体(2-, 3-, 4-)について、TA1535はじめ5種類の菌株を用いて試験を行い、3-ベンゼナミンのみに変異原性が認められたと報告している。3-ベンゼナミンが陽性結果を示すことについてはいくつかの報告がある4-6)。3-ベンゼナミンの変異原性がハムスターのS9存在下でflavin mononucleotide(ニトロ還元のため)を添加すると、著しく高まることが報告されている7)。また、Kinaeら8)は、沿岸海水中の主要な変異原として3-ベンゼナミンの存在を指摘している。

文献

1)M. Ishidate Jr. and S. Odashima, Mutat. Res., 48, 337 (1977).
2)祖父尼俊雄, 松岡厚子, 環境変異原研究 5, 4 (1984).
3)M. M. Shahin, Int. J. Cosmet. Sci., 7, 277 (1985).
4)C. W. CHiu, L.H. Lee, C.Y. Wang and G.T. Bryan, Mutat.Res., 58,11(1978).
5)C. Z. Thompson, L.E. Hill, J.K. Epp and G.S. Probst, Environ. Mutagen., 5, 803 (1983).
6)M. Shimizu, and E. Yano, Mutat. Res., 170, 11(1986).
7)V. Dellarco and M.J. Prival, Environ. Mol. Mutagen., 13, 116-127 (1989).
8)N. Kinae, M. Yamashita, T. Watanabe, M. Takahashi, S. Yamamoto and I. Tomita, Water Sci. Technol., 17, 1435 (1985).

連絡先:
試験責任者祖父尼俊雄
国立衛生試験所安全性生物試験研究センタ−
変異遺伝部
〒158東京都世田谷区上用賀1-18-1
Tel 03-3700-1141Fax 03-3700-2348

Correspondence:
Sofuni, Toshio
Division of Pathology,
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