細胞増殖抑制試験の結果をもとに,連続処理法24時間処理および短時間処理法のS9 mix存在下,非存在下では2000 μg/mLを最高濃度として公比2で4用量,連続処理法48時間処理では1000 μg/mLを最高濃度として公比2で5用量を設定した.
CHL/IU細胞を24時間および48時間連続処理した結果,48時間処理の500,1000 μg/mLにおいて構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ5.0,11.0 %を示した.また,短時間処理法のS9 mix存在下の1000 μg/mLおよびS9 mix非存在下の2000 μg/mLにおいて,染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ5.0,7.0 %であった.このため,短時間処理法における結果の再現性および用量依存性を確認するために,S9 mix存在下では500,750,1000 μg/mL,S9 mix非存在下では1000,1500,2000 μg/mLで確認試験を実施した.その結果,S9 mix非存在下の1500,2000 μg/mLで染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ8.5,68.6 %であった.S9 mix存在下では染色体構造異常細胞の誘発は認められなかった.また,数的異常細胞の出現頻度は全ての処理条件で5 %未満であった.
以上の結果より,本試験条件下では3-メチル安息香酸は,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
連続処理法では,細胞播種3日目に被験物質を加え,24時間および48時間処理した.また,短時間処理法では,細胞播種3日目にS9 mixの存在下および非存在下で6時間処理し,処理終了後新鮮な培養液でさらに18時間培養した.
その結果,3-メチル安息香酸の約50 %の増殖抑制を示す濃度を,プロビット法により算出したところ,連続処理法の24時間および48時間処理ではそれぞれ812,455 μg/mLであった.また,短時間処理法のS9 mix存在下および非存在下における約50 %の増殖抑制を示す濃度は,それぞれ863,1182 μg/mLであった.(Fig. 1).
陽性対照として,連続処理法は,マイトマイシンC(協和発酵工業(株),ロット番号:139AFK)を0.03 μg/mL,短時間処理法は,ベンゾ[a]ピレン(東京化成工業(株),ロット番号:AX01)を20 μg/mLに設定した.
構造異常および倍数性細胞については1群200個の分裂中期細胞を分析した.
短時間処理法による染色体分析の結果をTable 2, 3に示した.短時間処理法のS9 mix存在下の1000 μg/mLおよびS9 mix非存在下の2000 μg/mLにおいて,染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ5.0,7.0 %であった.このため,短時間処理法における結果の再現性および用量依存性を確認するために,S9 mix存在下では500,750,1000 μg/mL,非存在下では1000,1500,2000 μg/mLで確認試験を実施した.その結果,S9 mix非存在下の1500,2000 μg/mLで染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ8.5,68.6 %であった.S9 mix存在下では染色体構造異常細胞の誘発は認められなかった.
また,数的異常細胞の出現頻度は全ての処理条件において5 %未満であった.
なお,染色体異常試験において,1000 μg/mL以上のすべての被験物質処理群で,被験物質処理開始時に培養液の色が黄変し,溶解していた被験物質が析出して沈殿した.しかし,構造異常誘発が見られた被験物質処理群の培養液のpHはいずれも6.2以上であり,これらの染色体異常誘発は,被験物質自体の染色体異常誘発性に由来するものと推測された.
以上の結果から,3-メチル安息香酸は本試験条件下において,染色体異常誘発性を有すると結論した.
なお,類似化合物であるo-トルイジン,ρ-トルイジンは短時間処理において陽性の結果が報告されている.また,安息香酸は連続処理法において疑陽性の結果が報告されている.Methyl benzoateは短時間処理法S9 mix存在下で構造異常および数的異常について疑陽性,短時間処理法S9 mix非存在下および連続処理法で陰性の結果が報告されている.さらに,トルエンは短時間処理および連続処理法のいずれも陰性の結果が報告されている2).
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp. 16-37. |
2) | 石館基監修,"〈改訂〉染色体異常試験データ集,"エル・アイ・シー社,東京,1987. |
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試験責任者: | 太田絵律奈 | ||
試験担当者: | 中川宗洋,石毛裕子,穴澤由美子,玉川 恵,成見香瑞範 | ||
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