染色体異常試験に用いる用量を決定するため,37.5〜2400 μg/mLの範囲で細胞増殖抑制試験を行った結果,S9 mix非存在および存在下ともに600 μg/mL 以上の用量で50 %を上回る細胞増殖抑制が認められた.したがって,染色体異常試験における用量は,75,150,300,450および600 μg/mLとした.
試験の結果,S9 mix存在下の600 μg/mLで染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度7.0 %)が認められた.400,600および800 μg/mLの用量を設定して行ったS9 mix存在下の確認試験においても600 μg/mLで染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度9.0 %)が確認され,800 μg/mLでは,細胞毒性のため観察可能な分裂中期像は認められなかった.
以上の成績から,1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンのCHL/IU細胞に対する染色体異常誘発性は陽性と判定した.
培養開始3日後に被験物質を加えS9 mix非存在および存在下で6時間処理し,処理終了後,新鮮培養液でさらに18時間培養した.
実験終了後,残余被験物質を分析した結果,安定性に問題はなかった.
その結果(Fig. 1),600 μg/mL以上の用量で50 %を上回る細胞増殖抑制が認められ,50 %細胞増殖抑制用量は300〜600 μg/mLの用量域にあると判断した.
陽性対照として,短時間処理法S9 mix存在下では3,4-benzo[a]pyrene(B[a]P,Sigma Chemical)を10 μg /mL,短時間処理法S9 mix非存在下および連続処理法では1-methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine(MNNG,Aldrich Chemical)を2.5 μg/mLの用量で用いた.陽性対照物質の溶媒には,いずれもDMSOを使用した.
染色体異常試験では,1用量あたり4枚のディッシュを用いた.このうち2枚で染色体標本を作製し,残りの2枚について単層培養細胞密度計により細胞増殖率を測定した.陽性対照群については細胞増殖率の測定は行わなかった.
染色体構造異常細胞および倍数性細胞の出現頻度について,多試料χ2検定を行い有意差(有意水準5 %以下)が認められた場合は,フィッシャーの直接確率法を用いて溶媒対照群と各用量群との間の有意差検定(有意水準は多重性を考慮して,5 %または1 %を処理群の数で割ったものを用いた)を行った.
その結果,溶媒対照群と比較して,被験物質による染色体異常細胞の出現頻度が2用量以上で有意に増加し,かつ用量依存性あるいは再現性が認められた場合,陽性と判定した.
一方,S9 mix存在下では,600 μg/mLのみで染色体の構造異常を有する細胞の有意な増加(出現頻度7.0 %)が認められた.1用量でのみの増加であったため,用量相関性および結果の再現性を確認する目的で,400,600および800 μg/mLの3用量を用いて確認試験を行った.その結果,600 μg/mLで染色体構造異常細胞の有意な増加(出現頻度9.0 %)が認められ,結果の再現性が確認された.800 μg/mLでは,細胞毒性のため観察可能な分裂中期像は認められなかった.
なお,本試験および確認試験のいずれにおいても倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.
したがって,1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンのCHL/IU細胞に対する染色体異常誘発性は陽性と判定した.陽性結果が得られたため,D20値2)(分裂中期像の20 %に異常を誘発させる被験物質の推定用量)を算出したところ,本被験物質のD20値は,短時間処理法S9 mix存在下において2.73 mg/mLであった.本試験結果は,CHL/IU細胞において,染色体異常を有する細胞の出現頻度が5 %未満を陰性,5 %以上10 %未満を疑陽性,10 %以上を陽性とする石館らの判定基準3)からみると疑陽性と判断されるものであった.
1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンの変異原性については,Salmonella typhimuriumを用いた復帰突然変異試験において,陰性であったとの報告があるが,指標菌株に対して毒性が認められるほどの高用量を用いた試験結果ではないので,false negative の可能性もある4)と報告されている.
1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンの類縁化合物の変異原性について,1,3-ジフェニルグアニジンは,S. typhimuriumを用いた復帰突然変異試験で陰性4),S. typhimuriumおよびEscherichia coliを用いた復帰突然変異試験で陰性5),CHL/IU細胞を用いた染色体異常試験で陰性6)と報告されている.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会(編):「化学物質による染色体異常アトラス」朝倉書店,東京(1988)pp.16-37. |
2) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室(監修):「化審法毒性試験法の解説改訂版」化学工業日報社,東京(1992)pp.51-52. |
3) | 石館基(監修):「改定増補 染色体異常試験データ集」エル・アイ・シー,東京(1987)p.19. |
4) | Rannug A, Rannug U, Ramel C:Genotoxic effects of additives in synthetic elastomers with special consideration to the mechanism of action of thiurames and dithiocarbamates. In “Industrial Hazards of Plastics and Synthetic Elastomers”, Alan R. Liss, Inc., New York(1984) pp.407-419. |
5) | 榎本佳明,清水優子,大久保智子:1,-3ジフェニルグアニジンの細菌を用いる復帰変異試験.化学物質毒性試験報告,8:418-422(2001). |
6) | 中川宗洋,大田絵津奈,石毛裕子,成見香瑞範:1,-3ジフェニルグアニジンのチャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる染色体異常試験.化学物質毒性試験報告,8:423-425(2001). |
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