1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 1,3-Bis(2-methylphenyl)guanidine in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係わる毒性調査の一環として,1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンを1群雌雄各5匹のCrj:CD(SD)IGSのラットに,0(対照),15,30,60および120 mg/kgの用量で1回経口投与し,その急性期の毒性徴候および概略の致死量について検討した.

120 mg/kg群の雄4/5例および雌5/5例,60 mg/kg群の雄1/5例および雌3/5例が投与後30〜45分に死亡した.一般状態では,散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸,振戦および腹臥位が認められた.病理学検査では,肉眼的に腺胃粘膜に軽度の暗赤色点,組織学的に腺胃粘膜固有層の軽度の出血が認められた.

生存例では,120 mg/kg群の雄1例で死亡例と同様の症状が認められた.60 mg/kg群では,雄で散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦がみられ,雌で散瞳および自発運動の低下が認められた.30 mg/kg群の雄では散瞳がみられ,雌では散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦が認められた.これらの変化は投与後1日にはすべて消失していた.体重では,60 mg/kg群の雌雄および30 mg/kg群の雌で低値傾向を示した.病理学検査では,全例で何ら変化は認められなかった.

以上の結果から,1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンのLD50値(95 %信頼限界)は雄が85.3 mg/kg (44.8〜216.9 mg/kg),雌が56.0 mg/kg(40.2〜78.0 mg/kg)であった.

方法

1.被験物質および投与液の調製

1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジン(住友化学工業(東京),ロット番号30J08,純度99.6 wt%)は白色粉末である.入手後の被験物質は室温で保存し,試験終了後に提供元にて分析を行い,試験期間中安定であったことを確認した.媒体には0.1 % Tween 80添加0.5 % CMC-Na溶液(Tween 80,CMC-Na:ナカライテスク)を使用し,これに被験物質を1.5,3,6及び12 mg/mLの濃度となるように懸濁して調製した.調製は投与2日前に行い,調製した投与液は褐色バイアルに入れて室温で保存した.なお,投与開始前に投与液の濃度が規定範囲内にあることを確認した.また,本調製法による0.1および100 mg/mL液は均一であり,かつ褐色ガラス容器中で室温あるいは冷蔵保存下で安定であることを確認した.

2.使用動物および飼育条件

5週齢のCrj:CD(SD)IGSラット(日本チャールス・リバー)を7日間検疫馴化したのち, 6週齢で試験に使用した.群分けは,投与前日に当日の体重を基に層別連続無作為化法で行った.投与日の体重は,雄が177.4〜190.2 g,雌が131.4〜152.7 gであった.

動物は,温度24 ± 2℃,湿度55 ± 10 %,照明12時間(午前7時〜午後7時)および換気回数13〜15回/時に設定したバリアーシステム飼育室で床敷(ホワイトフレーク,日本チャールスリバー)を入れたポリカーボネイト製ケージに1ケージ当たり2〜3匹ずつ収容して飼育した.飼料は高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業)を,飲水は次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した井戸水を給水瓶によりそれぞれ自由に摂取させた.

3.投与量,投与方法および試験群構成

投与量は,予備試験(10,30,100および300 mg/kg,雌雄各3匹/群)の結果,300 mg/kg群の雌雄で100および300 mg/kg群の雌雄全例が死亡し,一般状態では散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦などが認められた.したがって,本試験では全例が死亡すると予想される120 mg/kgを高用量とし,以下公比約2で除した60,30および15 mg/kgを設定した,媒体を投与する対照群を加えて計5群とし,1群当たりの動物数は各群とも雌雄各5匹とした.

投与経路は,経口とし,約18時間絶食させた動物に胃管を用いて1回強制投与した.投与容量は10 mL/kgとし,各動物の投与液量は投与日の体重を基に算出した.対照群には同容量の媒体を投与した.

4.観察および検査

1) 一般状態観察

観察期間は投与後14日間とし,投与日(投与0日)は投与後6時間まで経時的に,投与後1日から13日は午前および午後の1日2回,投与後14日は午前中に1回,一般状態の観察および生死の確認を行った.

2) 体重測定

投与日の投与前,ならびに投与後1,3,5,7,10および14日に測定した.

3) 病理学検査

死亡した動物は発見後速やかに,また,観察期間終了後の生存動物はエーテル麻酔下に放血致死させたのち剖検した.肉眼的に異常が認められた肺および胃は摘出し,10 %中性緩衝ホリマリン溶液に固定し,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施して光学顕微鏡下で観察した.

5.半数致死量(LD50)の算出

投与後14日間の累積死亡動物数から,雄ではProbit法,雌ではVan der Waerden法によりLD50値を算出した.

結果

1.死亡の発生状況およびLD50値(Table 1)

120 mg/kg群の雄4/5例および雌5/5例,60 mg/kg群の雄1/5例および雌3/5例が死亡した.その結果,LD50値(95 %信頼限界)は雄が85.3 mg/kg(44.8〜216.9 mg/kg),雌が56.0 mg/kg(40.2〜78.0 mg/kg)であった.

2.一般状態

死亡例では,投与後15分より散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸,振戦および腹臥位がみられ,投与後30分に60 mg/kg群の雌1例,120 mg/kg群の雄4例および雌5例が死亡し,投与後45分に60 mg/kg群の雄1例および雌2例が死亡した.

生存例では,120 mg/kg群の雄1例で投与後15分より死亡例と同様の症状がみられ,投与後6時間まで認められたが,投与後1日にはすべて消失しており,その後は何ら変化は認められなかった.60 mg/kg群では,雄で投与後15分より投与後2時間まで散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦がみられ,雌では投与後15分より投与後1時間まで散瞳および自発運動の低下が認められた.30 mg/kg群では,雄で投与後45分より投与後1時間に散瞳がみられ,雌では投与後30分より投与後2時間まで散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦が認められた.15 mg/kg群および対照群の雌雄では,観察期間を通して何ら変化は認められなかった.

3.体重

60 mg/kgの雄および30 mg/kgの雌で投与後1日に,60 mg/kg群の雌では観察期間を通して,体重が低値傾向を示した.30 mg/kg群の雄および15 mg/kg群の雌雄では,観察期間を通して,対照群と同様の増加推移を示した.

4.剖検

死亡例では,120 mg/kg群の雄1/4例で肺の軽度の暗赤色化が認められた.また,60 mg/kg群の雌1/3例および120 mg/kg群の雌3/5例で腺胃粘膜に軽度の暗赤色点が認められた.生存例では,全例で何ら変化は認められなかった.

5.病理組織学検査

死亡した120 mg/kg群の雄で肉眼的に軽度の暗赤色化がみられた肺で組織学的に軽度のうっ血が認められた.また,60および120 mg/kg群の雌で肉眼的に腺胃粘膜の暗赤色点がみられた胃で組織学的に腺胃粘膜固有層の軽度の出血が認められた.

考察

Crj:CD(SD)IGSの雌雄ラットを用い,1,3-ビス(2-メチルフェニル)グアニジンの経口投与による単回投与毒性試験を実施した.投与量は0(対照),15,30,60および120 mg/kgとした.

120 mg/kg群の雄4/5例および雌5/5例,60 mg/kg群の雄1/5例および雌3/5例が投与後30〜45分に死亡した.

死亡例では,雌雄ともに,一般状態の観察で散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸,振戦および腹臥位が認められた.病理学検査では,60および120 mg/kg群の雌で肉眼的に腺胃粘膜に軽度の暗赤色点,組織学的に腺胃粘膜固有層の軽度の出血が認められた.この変化は出血のみの変化で,粘膜上皮の変性や壊死を伴わないものの被験物質にわずかな刺激性があるものと考えられた.また,120 mg/kg群の雄で肉眼的に肺に軽度の暗赤色化,組織学的に軽度のうっ血が認められたが,程度が弱く,出現頻度が低いこと,かつ死亡例でしばしば認められる変化であることから,被験物質投与に起因した変化ではないと考えられた.

生存例では,120 mg/kg群の雄1例で死亡例と同様の症状がみられ,投与後6時間まで観察されたが,投与後1日にはすべて消失しており,その後は何ら変化は認められなかった. 60 mg/kg群では,雄で散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦がみられ,雌で散瞳および自発運動の低下が認められた.30 mg/kg群では,雄で散瞳がみられ,雌で散瞳,自発運動の低下,緩徐呼吸および振戦が認められた.また,60 mg/kgの雄および30 mg/kgの雌で投与後1日に,60 mg/kg群の雌では観察期間を通して,体重が低値傾向を示した.

以上のことから,LD50値(95 %信頼限界)は雄が85.3 mg/kg(44.8〜216.9 mg/kg),雌が56.0 mg/kg(40.2〜78.0 mg/kg)であった.

連絡先
試験責任者:本田久美子
試験担当者:榎嶋輝彦,浜村政夫,大西幹雄,
和泉宏幸,鍬先恵美子
(株)パナファ−ム・ラボラトリ−ズ安全性研究部
〒869-0425 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Kumiko Honda(Study Director)
Teruhiko Enoshima,
Masao Hamamura, Mikio Oonishi,
Hiroyuki Izumi, Emiko Kuwasaki
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto,869-0425, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282