2-クロロフェノールの培養細胞に及ぼす細胞遺伝学的影響を,チャイニーズ・ハムスター培養細胞(CHL/IU)を用いて染色体異常試験を実施した.
細胞増殖抑制試験の結果をもとに,短時間処理法のS9 mix存在下,非存在下では500 μg/mLを最高濃度として,公比2で4濃度を設定した.
短時間処理法のS9 mix存在下の125,250,500 μg/mLで染色体の構造異常の出現頻度はそれぞれ6.0,12.0,38.6 %であった.一方,S9 mix非存在下の500 μg/mLで構造異常の出現頻度は,2枚のディッシュでそれぞれ44.0,7.0 %であった.また,倍数性細胞の出現頻度は全ての処理条件で5 %未満であった.
この結果に基づき,S9 mix非存在下で200,300,400,500 μg/mLで確認試験を実施した.その結果,500 μg/mLで染色体の構造異常の出現頻度は34.0 %であり,染色体異常の誘発性に関して再現性が確認された.
以上の結果より,本試験条件下では2-クロロフェノールは,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
本被験物質はプラスチックディッシュに対して腐食性があるため,被験物質処理の際はガラスディッシュを使用した.
細胞播種3日目にS9 mix存在下および非存在下で6時間処理し,処理終了後新鮮な培養液でさらに18時間培養した.
被験物質原体は,光,空気中で着色するが,密閉容器内では,常温,常圧で安定である.
細胞増殖抑制試験(細胞増殖抑制試験1)を,500,1000,2000,3000,4000,5000 μg/mLで実施したところ,いずれの濃度においても細胞生存率が30 %以下であった(Fig. 1).このため,500 μg/mLを最高濃度として,公比2で6濃度を設定し,再試験(細胞増殖抑制試験2)を実施した.
細胞増殖抑制試験2の結果,2-クロロフェノールの約50 %の増殖抑制を示す濃度を,細胞増殖率が50 %を示す濃度を挟む2点を結ぶ直線式より算出したところ,短時間処理法のS9 mix存在下および非存在下ではそれぞれ328,331 μg/mLであった(Fig. 2).
染色体異常試験の結果,S9 mix存在下の125,250,500 μg/mLで,染色体の構造異常の出現頻度がそれぞれ6.0,12.0,38.6 %であった.一方,S9 mix非存在下の500 μg/mLでは,構造異常の出現頻度は2枚のディッシュでそれぞれ44.0,7.0 %であった.この結果より,S9 mix非存在下について,200,300,400,500 μg/mLの濃度で確認試験を実施した.
陽性対照として,短時間処理法のS9 mix存在下では,ベンゾ[a]ピレン(東京化成工業(株),ロット番号:GG01)の濃度を20 μg/mL,S9 mix非存在下では,マイトマイシンC(協和発酵工業(株),ロット番号:226AHE)の濃度を0.1 μg/mLに設定した.
S9 mix非存在下の500 μg/mL処理群で,染色体の構造異常の出現頻度は,2枚のディッシュでそれぞれ44.0,7.0 %であった.確認試験の結果,S9 mix非存在下の500 μg/mLで染色体の構造異常細胞の出現頻度は34.0 %であり,染色体の構造異常誘発についての再現性が確認された.
また,倍数性細胞の出現頻度は全ての処理条件で5 %未満であった.
以上の結果から,2-クロロフェノールは本試験条件下において,染色体異常を誘発すると結論した.
なお,類似化合物である2,4-Dichlorophenolは,短時間処理のS9 mix非存在下で疑陽性,連続処理で陰性の結果が報告されている.2,3,4-Trichlorophenolは,短時間処理で陽性,48時間連続処理で疑陽性,24時間連続処理で陰性の結果が報告されている.2,3,5-Trichlorophenolは,48時間連続処理で陽性,短時間処理のS9 mix存在下で疑陽性,短時間処理のS9 mix非存在下および24時間連続処理で陰性の結果が報告されている.2,3,6-TrichlorophenolおよびPentachlorophenolは,短時間処理で陽性,連続処理で陰性の結果が報告されている.2,4,5-Trichlorophenol,2,4,6-Trichlorophenol,2,3,5,6-Tetrachlorophenolおよび2,3,4,5-Tetrachloro-phenolは,短時間処理のS9 mix存在下で陽性,短時間処理のS9 mix非存在下および連続処理で陰性の結果が報告されている.3,4,5-Trichlorophenolは,短時間処理で疑陽性,連続処理で陰性の結果が報告されている.2,3,4,6-Tetrachlorophenolは,短時間処理で陽性,連続処理で疑陽性の結果が報告されている2).
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,“化学物質による染色体異常アトラス,”朝倉書店,東京,1988, pp.16-37. |
2) | 祖父尼俊雄監修,“染色体異常試験データ集〈改訂1998年版〉,”エル・アイ・シー,東京,1999. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 中川宗洋 | ||
試験担当者: | 太田絵律奈,石毛裕子,成見香瑞範 | ||
(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所 | |||
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Correspondence | ||||
Authors: | Munehiro Nakagawa(Study director) Erina Ota, Yuko Ishige, Kazunori Narumi | |||
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