N-フェニルマレイミドのラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of N-Phenylmaleimide by Oral Administration in Rats

要約

N-フェニルマレイミドのラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行い,雌雄動物に対する毒性影響を検討するとともに,雌雄親動物の生殖能力および児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.投与量は,20 mg/kgを最高用量とし,以下10,5および2.5 mg/kgとした.対照として媒体(コーンオイル)投与群を設けた.各群の使用動物数は雌雄各12例とした.

1. 反復投与毒性

雄においては,いずれの群とも死亡および瀕死例は認められなかった.一般状態では,20 mg/kg群で被毛の汚れがみられた.体重は,20 mg/kg群で低値傾向がみられた.摂餌量は,10および20 mg/kg群で一過性の低値がみられた.尿検査では,投与による変化はみられなかった.血液学検査では,20 mg/kg群でPTおよびAPTTの低値あるいは低値傾向がみられた.血液生化学検査では,20 mg/kg群で総蛋白およびアルブミン量の低値がみられた.剖検では,5 mg/kg群で前胃粘膜の潰瘍および浮腫,10 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚,20 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚と潰瘍がみられた.器官重量では,20 mg/kg群で脾臓の絶対および相対重量の高値傾向あるいは高値がみられた.病理組織学検査では,胃において5 mg/kg群で前胃角化亢進および前胃上皮過形成,前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.10 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.20 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤,腺胃粘膜への炎症細胞浸潤および前胃のびらんがみられた.

雌においては,死亡例が20 mg/kg群で3例認められた.一般状態において,投与による変化はみられなかった.体重は,20 mg/kg群で妊娠期に一過性の低値がみられた.摂餌量は,20 mg/kg群で妊娠期に一過性の低値がみられた.剖検では,10および20 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚および潰瘍がみられた.器官重量では,投与による変化はみられなかった.病理組織学検査では,胃において2.5 mg/kg群で前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.5 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.10 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.20 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.

2. 生殖発生毒性

病理組織学検査では,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺,卵巣,子宮,腟および乳腺に投与による変化はみられなかった.

発情回数,交尾率,交尾所要日数,受胎雌数,妊娠期間,分娩状態,哺育状態,受胎率,妊娠黄体数,着床数,着床率および出産率では,投与による変化はみられなかった.

総出産児数,死産児数,哺育0日の新生児数,分娩率,児の産出率,出生率,哺育4日の生存児数,新生児の4日の生存率,新生児の外表,一般状態,体重および剖検所見では,投与による変化はみられなかった.

以上のように,N-フェニルマレイミドの一般毒性学的無影響量は,雄では5 mg/kg投与により胃に影響が認められたことから2.5 mg/kg/day,雌では2.5 mg/kg投与により胃に影響が認められたことから2.5 mg/kg/day未満と考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雌雄とも20 mg/kg投与してもいずれの観察項目にも影響は認められなかったことから20 mg/kg/dayと考えられる.児動物では,20 mg/kg投与してもいずれの観察項目にも影響は認められなかったことから20 mg/kg/dayと考えられる.

方法

1. 被験物質および媒体

被験物質のN-フェニルマレイミドは,黄色フレーク状の物質である[Lot No. N-00919,純度:99.2 %,大八化学工業(株)(大阪)].入手後は,室温・遮光・気密条件下で保管した.なお,投与期間終了後,残余被験物質は,再分析し,使用期間中の安定性を確認した.

被験物質は,コーンオイルで懸濁して調製した.調製に際して,被験物質の純度による換算は実施しなかった.なお,調製液は,室温・遮光条件下で7日間保存しても安定性に問題のないことが確認されていたため,各濃度の調製液は調製後,室温・遮光条件下で保管し,調製後7日以内に使用した.投与開始日に使用した各投与検体中の被験物質濃度をした結果,被験物質濃度に問題はなかった.

2. 使用動物および飼育条件

8週齢のSprague-Dawley系雌雄ラット[SPF, Crj:CD(SD)IGS]を日本チャールス・リバー(株)から購入した.入手した動物は,5日間の検疫期間およびその後7日間の馴化期間を設け,一般状態および体重推移に異常がみられず,また性周期観察で異常が認められなかった動物を群分けした.群分けは,コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に,無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与開始日に行った.

動物は,室温20〜26 ℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持されている飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製ケージを用いて1ケージ当たり5匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製ケージを用いて個別飼育した.母動物は,妊娠18日以降オートクレーブ処理した床敷(サンフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたプラスチック製ケージで個別飼育し,自然分娩および哺育させた.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株)を自由に摂取させた.ただし,雄は投与終了日(投与49日)の夕刻から絶食した.飲料水は水道水を自由に摂取させた.

3. 投与経路,投与方法,投与量および投与期間

投与経路は,経口投与を選択した.投与に際しては,金属製経口胃ゾンデを取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒を用いて,強制経口投与した.投与液量は,雄では投与日あるいは投与日に最も近い測定日の体重を基準とし,5 mL/kgで算出した.雌では,交配前および交配期間中は投与日あるいは投与日に最も近い測定日の体重を,妊娠期間中は妊娠0,7,14および21日の体重を,授乳期間中は哺育0日の体重を基準とし,5 mL/kgで算出した.

投与開始日の週齢は雌雄とも10週齢であり,体重範囲は雄が311〜347 g,雌が230〜271 gであった.

投与量は,雄ラットを用いた2週間経口投与による予備試験1)(投与段階:0,12.5,25,50および100 mg/kg)の結果により決定した.すなわち,死亡例が,25および50 mg/kg群で各1/5例,100 mg/kg群で4/5例認められた.また,12.5 mg/kg以上の群で流涎および前胃粘膜の肥厚,25 mg/kg以上の群で体重の低値あるいは低値傾向,50 mg/kg以上の群で摂餌量の低値がみられた.そこで,当試験では,20 mg/kgを最高用量とし,以下公比2により10,5および2.5 mg/kgとした.また,対照として媒体(コーンオイル)のみを同容量投与する群を設けた.1群の動物数は,雌雄それぞれ12例とした.

投与期間は,雄では交配前14日間とその後35日間の合計49日間とし,雌では交配前14日間,交配期間中(最長14日間),妊娠期間中および哺育3日までの合計40〜51日間とした.なお,投与開始日を投与1日とした.

4. 観察および検査項目

1) 雄

(1) 一般状態

一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.

(2) 体重測定

体重は,1週間に2回測定した.

(3) 摂餌量測定

摂餌量は,交配開始前14日間および交配期間終了後から1週間に2回測定した.

(4) 尿検査

投与期間終了前に採尿ケージを用いて絶食・給水下で3時間で採取した尿(3時間尿)と引き続いて給餌・給水下で21時間で採取した尿(21時間尿)ならびにそれらを合計した尿(24時間尿)について,以下の検査を実施した.

3時間尿:色調は,外観判定とした.pH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンは,尿検査試験紙(ウロペーパー 栄研 7,栄研化学(株))に尿を滴下後に尿自動分析装置(US-2100,栄研化学(株))を用いて検査した.尿沈渣は,沈渣を尿沈渣染色液で染色後に顕微鏡下で観察した.なお,採尿は,当日の検体投与後に行った.

21時間尿:比重を屈折率により屈折型尿比重計(ユリペット-D,(株)ニコン)を用いて測定した.

24時間尿:尿量を比重と重量から算出した.

(5) 血液学検査

最終投与の翌日にペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈からカニュレーションにより血液を採取し,以下の血液学検査を実施した.

赤血球数(RBC),ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数および白血球数(WBC)は,EDTA-2K処理した血液について,多項目自動血球計数装置(Sysmex K-4500,シスメックス(株))を用いて測定した.さらに,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.

網状赤血球比率は,EDTA-2K処理した血液をBrecher法により超生体染色してスライドガラスに塗抹後,Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で赤血球1000個中の網状赤球数を計数した.

白血球百分率は,EDTA-2K処理した血液をスライドガラスに塗抹し,May-Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で白血球100個を分類計数した.

プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)およびフィブリノーゲン濃度は,3.13 %クエン酸ナトリウムで処理後,遠心分離(約4 ℃,3000 rpm,15分間)して得た血漿について,散乱光検出方式により血液凝固分析装置(コアグマスター,三共(株))を用いて測定した.

(6) 血液生化学検査

血液学検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液から遠心分離(約4 ℃,3000 rpm,15分間)して得た血清について,以下の血液生化学検査を実施した.

ASTはMDH-UV法,ALTはLDH-UV法,ALPはρ-ニトロフェニルリン酸基質法,γ-GTPはL-γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法,総蛋白はBiuret法,総ビリルビンは安定化ジアゾニウム塩法,尿素窒素はウレアーゼ・GlDH法,クレアチニンはクレアチニナーゼ・F-DAOS法,ブドウ糖はヘキソキナーゼ・G-6-PDH法,総コレステロールはCOD・HDAOS法,トリグリセライドはGPO・HDAOS法,Caはο-CPC法,無機リンはPNP・XDH法,Na,KおよびClはイオン選択電極法により,いずれも生化学自動分析装置(AU 400,オリンパス光学工業(株))を用いて測定した.

アルブミン量は総蛋白量および蛋白分画値[電気泳動法,自動電気泳動装置(AES 310,オリンパス光学工業(株))]から,A/G(アルブミン/グロブリン)は蛋白分画値から算出した.

(7) 剖検および器官重量測定

採血した動物をさらに放血致死させた後に剖検した.脳(大脳,小脳,延髄),下垂体,甲状腺,胸腺,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣および精巣上体は重量を測定した.ただし,下垂体および甲状腺重量は,20 %中性緩衝ホルマリンで1晩固定後測定した.これらの器官は,肺,気管,膵臓,唾液腺(舌下腺・顎下腺),食道,胃,十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,リンパ節(下顎・腸間膜),膀胱,精嚢,前立腺,上皮小体,脊髄,坐骨神経,眼球,ハーダー腺および骨髄(胸骨・大腿骨)とともに20 %中性緩衝ホルマリンで固定した.ただし,精巣および精巣上体はブアン液で約24時間固定後90 %アルコールに再固定し,眼球はグルタールアルデヒド・ホルマリンで1晩固定後20 %中性緩衝ホルマリンに再固定した.

(8) 病理組織学検査

対照群および20 mg/kg群について,各器官・組織のHE染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.20 mg/kg群の検査で対照群と比べて異常を示す動物数に差があると考えられた胃および心臓については,2.5,5および10 mg/kg群についても同様に検査した.また,剖検で異常の認められた10 mg/kg群の1例の精巣および精巣上体,1例の精巣上体についても同様に検査した.

2) 雌

(1) 一般状態

一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.

死亡例は,発見後速やかに剖検し,妊娠黄体数および着床数を数えた.

(2) 性周期

性周期は,投与開始日から交尾確認日まで毎日1回観察した.なお,発情期が連続2日間にわたって観察された場合は1回と計数した.

(3) 体重測定

体重は,交配開始前14日間および交配期間中は1週間に2回,妊娠期間中は妊娠0,7,14および21日に,哺育期間中は哺育0および4日にそれぞれ測定した.

(4) 摂餌量測定

摂餌量は,交配開始前14日間までは1週間に2回測定した.また,妊娠期間中は妊娠2,9,16および21日に,哺育期間中は哺育4日に測定した.

(5) 交尾不成立雌

交尾不成立雌は,交配期間終了後にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

(6) 分娩状態の観察

交尾雌は自然分娩させ,分娩状態の異常の有無,分娩終了の確認を妊娠21日から妊娠25日の午前10時まで毎日行った.午前10時に分娩が終了していた場合,その日を哺育0日とした.

(7) 哺育状態の観察

母動物は,哺育状態を哺育4日まで毎日観察した.

(8) 剖検および器官重量測定

新生児が全例死亡した日あるいは哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,妊娠黄体数および着床数を数えた.脳(大脳,小脳,延髄),下垂体,甲状腺,胸腺,心臓,肝臓,脾臓,腎臓,副腎および卵巣は重量を測定した.ただし,下垂体および甲状腺重量は,20 %中性緩衝ホルマリンで1晩固定後測定した.これらの器官は,肺,気管,膵臓,唾液腺(舌下腺・顎下腺),食道,胃,十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,リンパ節(下顎・腸間膜),膀胱,子宮,腟,上皮小体,脊髄,坐骨神経,眼球,ハーダー腺,骨髄(胸骨・大腿骨),乳腺および剖検で異常の認められた器官・組織[対照群の1例(No.057)の乳腺の腫瘤]とともに20 %中性緩衝ホルマリンで固定した.ただし,眼球はグルタールアルデヒド・ホルマリンで1晩固定後20 %中性緩衝ホルマリンに再固定した.

(9) 病理組織学検査

対照群および20 mg/kg群(死亡例および交尾不成立雌を含む)について,各器官・組織のHE染色組織標本を作製し,病理組織学検査を実施した.20 mg/kg群の検査で対照群と比べて異常を示す動物数に差があると考えられた胃および心臓については,2.5,5および10 mg/kg群についても同様に検査した.また,剖検で異常の認められた5 mg/kg群の1例の脾臓についても同様に検査した.

3) 親動物の生殖発生に及ぼす影響

14日間投与した雌雄を同一群内で1対1に組み合わせて同居交配した.交配期間は14日を限度として,交尾を確認するまでの連続同居交配とした.

交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い,腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として,その日を妊娠0日として起算した.

4) 児動物

(1) 出産時の観察

出産時に総出産児数と性,死産児数,新生児数および外表異常の有無を観察した.

(2) 児動物の観察

児動物は,一般状態および死亡の有無を毎日1回観察した.

(3) 体重測定

体重は,哺育0日(出生日)および4日に測定した.

(4) 剖検

生存児は,哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.

5. 統計解析

統計解析は以下に示したように,対照群と各投与群の間で行い,危険率を5 %とした.

体重,摂餌量,尿量,尿比重,血液学検査,血液生化学検査,器官の絶対重量および相対重量,発情回数,交尾所要日数,妊娠期間,妊娠黄体数,着床数,着床率,総出産児数,死産児数,新生児数,分娩率,児の産出率,出生率,哺育4日の生存児数,新生児の4日の生存率,性比および外表異常の出現率は,各群で平均値および標準偏差を算出した.その後,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い,有意ならばDunnett法により行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い,有意ならば順位を利用したDunnett型の検定法により行った.

交尾率,受胎率および出産率は,x2検定により行った.なお,妊娠1日に死亡した20 mg/kg群の1例では,妊娠の成否が不明であったため,受胎率の集計には用いなかった.また,妊娠19日に死亡した20 mg/kg群の1例では,出産率の集計には用いなかった.

病理組織学検査において,20 mg/kg群の雌雄で毒性学的影響が示唆され他の用量群についても検査を実施した胃の所見については,対照群との群間比較を上記の順位を利用したDunnett型の検定法を用いて行った.そこで対照群との間に有意差が認められた場合は,Cochran・Armitageの傾向検定を用いて用量反応性の検定を行った.

結果

1. 反復投与毒性

1) 雄に及ぼす影響

(1) 一般状態

死亡および瀕死例は,いずれの群でも認められなかった.

一般状態観察において,対照群および2.5 mg/kg群では異常はみられなかった.5,10および20 mg/kg群では,投与後に一過性の流涎がみられた.また,20 mg/kg群では,投与38および39日に被毛の汚れが1例みられた.

(2) 体重推移(Fig. 1)

2.5,5および10 mg/kg群では,対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べて有意差は認められないものの,投与15〜49日に体重の低値傾向がみられた.

(3) 摂餌量(Fig. 2)

2.5および5 mg/kg群では,対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.10および20 mg/kg群では,対照群と比べて投与13日に摂餌量の有意な低値がみられた.

(4) 尿検査(Table 1)

各投与群とも,対照群と比べて尿量および比重に有意差はみられなかった.

色調,pH,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群とも対照群とほぼ同程度であった.

(5) 血液学検査(Table 2)

2.5,5および10 mg/kg群では,対照群と比べていずれの測定項目にも有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べてAPTTの有意な低値,有意差は認められないもののPTの低値傾向がみられた.

(6) 血液生化学検査(Table 3)

20 mg/kg群では,対照群と比べて総蛋白およびアルブミン量の有意な低値がみられた.

その他,2.5 mg/kg群では,対照群と比べてNaの有意な低値がみられたが,投与量に依存したものではないことから,投与に基づく変化ではないと判断される.また,5および10 mg/kg群では,対照群と比べて無機リンの有意な高値がみられたが,投与量に依存したものではないことから,投与に基づく変化ではないと判断される.

(7) 剖検

対照群および2.5 mg/kg群では,いずれにも異常はみられなかった.5 mg/kg群では,前胃粘膜の潰瘍および浮腫が1例みられた.10 mg/kg群では,前胃粘膜の肥厚が1例みられた.20 mg/kg群では,前胃粘膜の肥厚が11例と潰瘍が9例みられた.

その他,10 mg/kg群では左精巣と左精巣上体の萎縮が1例,右精巣上体に黄白色結節が1例みられたが,これらの変化はいずれも偶発所見と判断される.

(8) 器官重量(Table 4)

剖検日の体重において,2.5,5および10 mg/kg群では対照群と比べて有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べて有意差は認められないものの,体重の低値傾向がみられた.

器官重量において,2.5,5および10 mg/kg群では対照群と比べていずれの絶対および相対重量にも有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べて脾臓の相対重量の有意な高値,有意差は認められないものの脾臓の絶対重量の高値傾向がみられた.

(9) 病理組織学検査(Table 5)

胃:5 mg/kg群では,前胃角化亢進および前胃上皮過形成が各2例,前胃粘膜への炎症細胞浸潤が3例みられた.10 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤が各9例みられた.20 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤が各12例,腺胃粘膜への炎症細胞浸潤および前胃のびらんが各2例みられた.なお,胃における前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤は,10および20 mg/kg群で対照群と比べて有意差が認められ,用量相関性も確認された.

心臓:2.5 mg/kg群では限局性の組織球浸潤が6例,5 mg/kg群では2例,10 mg/kg群では5例みられた.20 mg/kg群では,限局性の組織球浸潤が3例と心筋線維化が2例みられた.なお,限局性の組織球浸潤は,投与量との関連が明確ではないこと,対照群でも通常認められることから,偶発所見と考えられる.

その他には,肝臓において微小肉芽腫が,脾臓において髄外造血が,腎臓において尿細管好塩基性変化,尿細管硝子滴出現およびリンパ様細胞浸潤が,精巣において精細管萎縮およびライディヒ細胞過形成が,精巣上体において精子減少が,前立腺においてリンパ様細胞浸潤が,甲状腺において異所性胸腺がみられたが,これらの変化はいずれも偶発所見と判断される.

2) 雌に及ぼす影響

(1) 一般状態

死亡例は,20 mg/kg群で3例認められた.死亡例の一般状態観察において,投与後に一過性の流涎がみられた他には異常は認められなかった.

生存例の一般状態観察において,対照群および2.5 mg/kg群では異常はみられなかった.5 mg/kg群では投与後に一過性の流涎が2例,10 mg/kg群では12例,20 mg/kg群では9例みられた.なお,10 mg/kg群では,哺育0日に被毛の汚れが1例みられたが,20 mg/kg群では認められないことから,投与に基づくものではないと考えられる.

(2) 体重推移(Fig. 3)

交配開始前において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.

妊娠期間中において,2.5,5および10 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠14日に体重の有意な低値がみられた.

哺育期間中において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.

(3) 摂餌量(Fig. 4)

交配開始前において,各投与群とも対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.

妊娠期間中において,2.5,5および10 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.20 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠9日に摂餌量の有意な低値がみられた.

哺育期間中において,各投与群とも対照群と比べて摂餌量に有意差はみられなかった.

(4) 剖検

生存例においては,対照群では乳腺の腫瘍が1例みられた.2.5 mg/kg群では,いずれにも異常はみられなかった.5 mg/kg群では,脾臓の大型化および黄色結節,脾臓,肝臓と胃との癒着が1例みられたが,偶発例と判断される.10 mg/kg群では,前胃粘膜の肥厚および潰瘍が各1例みられた.20 mg/kg群では,前胃粘膜の肥厚が4例と潰瘍が3例みられた.

死亡例においては,20 mg/kg群の1例で前胃粘膜の潰瘍がみられたが,他の2例では異常は認められなかった.妊娠19日に死亡した1例では,異常はみられなかった.なお,妊娠1日に死亡した1例では,妊娠の成否は不明であった.

(5) 器官重量(Table 6)

剖検日の体重において,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.

器官重量において,5および20 mg/kg群では対照群と比べていずれの絶対および相対重量にも有意差はみられなかった.2.5 mg/kg群では対照群と比べて甲状腺の相対重量の有意な低値,10 mg/kg群では脳および甲状腺の相対重量の有意な低値がみられたが,投与量に依存した変化ではないことから,投与に基づくものではないと考えられる.

(6) 病理組織学検査(Table 7)

胃:対照群では,前胃潰瘍が1例みられた.2.5 mg/kg群では,前胃角化亢進および前胃上皮過形成が各5例,前胃粘膜への炎症細胞浸潤が1例みられた.5 mg/kg群では,前胃角化亢進および前胃上皮過形成が各4例,前胃粘膜への炎症細胞浸潤が3例,前胃潰瘍が1例みられた.10 mg/kg群では,前胃角化亢進および前胃上皮過形成が各10例,前胃粘膜への炎症細胞浸潤が9例みられた.20 mg/kg群では,前胃角化亢進および前胃上皮過形成が各9例,前胃粘膜への炎症細胞浸潤が8例,前胃潰瘍が3例みられた.なお,胃における前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤は,10および20 mg/kg群で対照群と比べて有意差が認められ,用量相関性も確認された.

心臓:対照群,2.5,5および10 mg/kg群では,異常はみられなかった.20 mg/kg群では,限局性の組織球浸潤が1例みられたが,雄と同様に偶発所見と考えられる.

その他には,肝臓において髄外造血が,胸腺において皮質の萎縮が,脾臓において髄外造血および広範壊死が,膀胱において粘膜水腫が,甲状腺において異所性胸腺が,乳腺において腺癌がみられたが,これらの変化は対照群でも通常観察される変化であり,また,対照群の出現頻度と比べて差がないことから,偶発的変化と判断される.

2. 生殖発生毒性

1) 親動物の生殖発生に及ぼす影響

(1) 発情回数,交尾率および受胎率(Table 8)

交配前の投与期間(14日間)の発情回数は,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.

未交尾の組み合わせは,20 mg/kg群で1組みられた.しかし,交尾率には各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.交尾所要日数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.

不受胎雌は,いずれの群にもみられなかった.ただし,20 mg/kg群の1例は,妊娠1日に死亡し,妊娠の成否の確認ができなかっため受胎率の集計から除外した.したがって,受胎率はいずれの群とも100 %であった.

(2) 妊娠期間,分娩状態,妊娠黄体数,着床率および出産率(Table 9)

妊娠期間は,各投与群とも対照群と比べて有意差はみられなかった.

分娩状態において,対照群,2.5,5および20 mg/kg群ではいずれの母動物にも異常はみられなかった.10 mg/kg群の1母動物では,出産児が全例死亡したため,新生児は得られなかった.

各投与群とも,対照群と比べて妊娠黄体数,着床数および着床率に有意差はみられなかった.

出産率は,対照群,2.5,5および20 mg/kg群では100 %であった.10 mg/kg群では,1母動物で新生児が得られなかったため出産率は91.7 %であった.なお,20 mg/kg群の1母動物は,妊娠19日に死亡したため出産率の集計から除外した.

哺育状態において,いずれの群とも異常はみられなかった.

2) 児動物に及ぼす影響

(1) 分娩率および出生率(Table 9)

各投与群とも,対照群と比べて総出産児数,死産児数,哺育0日の新生児数,性比,分娩率,児の産出率および出生率に有意差はみられなかった.なお,10 mg/kg群の1母動物では,出産児が全例死亡したが,その他の投与群において出生児全例死亡は認められなかったことから偶発例と考えられる.

(2) 児動物の一般状態および生存率(Table 9)

各投与群とも,対照群と比べて哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率に有意差はみられなかった.

新生児の外表観察においては,対照群,2.5,5および10 mg/kg群では異常はみられなかった.20 mg/kg群では,無尾がみられたが,1例のみで対照群と比べて有意差が認められないことから,偶発例と考えられる.

死産児においては,いずれの群とも異常はみられなかった.

新生児の一般状態において,いずれの群とも異常はみられなかった.

(3) 児動物の体重推移(Table 9)

各投与群とも,対照群と比べて哺育0および4日の雌雄別体重に有意差はみられなかった.

(4) 児動物の剖検

対照群,2.5,5および10 mg/kg群では,異常はみられなかった.20 mg/kg群では,外表観察で認められた無尾が1例みられたが,有意差は認められなかった.

考察

N-フェニルマレイミドのラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行い,雌雄動物に対する毒性影響を検討するとともに,雌雄親動物の生殖能力および児動物の発生・発育に及ぼす影響について検討した.

雄に関しては,死亡および瀕死例はいずれの群にも認められなかった.一般状態では,20 mg/kg群で被毛の汚れが1例認められたが,一過性のものであることから,軽微な変化と考えられる.なお,5,10および20 mg/kg群で投与後に一過性の流涎がみられたが,被験物質の刺激性に基づくものと判断され,毒性症状とはみなさなかった.体重において,20 mg/kg群でほぼ投与期間を通して低値傾向がみられた.また,摂餌量においては,10および20 mg/kg群で投与13日に一過性の低値がみられた.投与期間終了前の尿検査において異常はみられなかった.投与期間終了時の血液学検査において20 mg/kg群でPTおよびAPTTの低値あるいは低値傾向,血液生化学検査において20 mg/kg群で総蛋白およびアルブミン量の低値がみられた.剖検では,5 mg/kg群で前胃粘膜の潰瘍および浮腫,10 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚,20 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚と潰瘍がみられた.また,器官重量では,20 mg/kg群で脾臓の絶対および相対重量の高値傾向あるいは高値がみられた.病理組織学検査において,胃では5,10および20 mg/kg群で前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤,20 mg/kg群ではさらに腺胃粘膜への炎症細胞浸潤および前胃のびらんがみられた.以上のように,N-フェニルマレイミドの一般毒性学的影響としては胃への影響が顕著であった.血液生化学検査において認められた総蛋白およびアルブミン量の低値,器官重量で認められた脾臓の絶対および相対重量の高値あるいは高値傾向は,関連した器官・組織に病理組織学影響はみられなかったことから,軽微な変化と考えられる.

雌に関しては,20 mg/kg群で3例が死亡した.なお,20 mg/kg群の死亡例では,各組織に死後変化が認められ,病理組織学的に死因を明らかにできなかったが,剖検において前胃粘膜の潰瘍が1例認められていることから,消化管障害が死因の一部と考えられる.一般状態観察において,雄の場合と同様に5,10および20 mg/kg群で認められた流涎は毒性症状とはみなさなかった.体重において,20 mg/kg群では,妊娠期に一過性の低値がみられた.摂餌量において,20 mg/kg群では,妊娠期に一過性の低値がみられた.剖検において,10および20 mg/kg群で前胃粘膜の肥厚および潰瘍がみられた.しかし,器官重量では,投与に起因する変化はみられなかった.病理組織学検査において,生存例の胃において2.5,5,10および20 mg/kg群では,前胃角化亢進,前胃上皮過形成および前胃粘膜への炎症細胞浸潤がみられた.5および20 mg/kg群では,さらに前胃潰瘍がみられたが,対照群においても1例認められている.以上のように,N-フェニルマレイミドの一般毒性学的影響としては雄の場合と同様に胃への影響が顕著であった.

親動物の生殖発生に対しては,前述したように20 mg/kg群でも精巣,精巣上体,精嚢,前立腺,卵巣,子宮,腟および乳腺に病理組織学変化は認められなかった.また,発情回数,交尾率,交尾所要日数,受胎率,妊娠黄体数,着床数,着床率,出産率,妊娠期間,分娩状態および哺育状態では,投与に起因する変化はみられなかった.

児動物に対しては,総出産児数,分娩率,哺育0日の新生児数,児の産出率,性比,死産児数,出生率,一般状態,哺育4日の生存児数,新生児の4日の生存率では投与に起因する変化はみられなかった.新生児の外表観察において,投与に起因する変化はみられなかった.児動物の体重では,各投与群とも対照群との間に差はみられなかった.児動物の剖検では,投与に起因する変化はみられなかった.

以上のように,N-フェニルマレイミドの一般毒性学的無影響量は,雄では5 mg/kg投与により胃に影響が認められたことから2.5 mg/kg/day,雌では2.5 mg/kg投与により胃に影響が認められたことから2.5 mg/kg/day未満と考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雌雄とも20 mg/kg投与してもいずれの観察項目にも影響は認められなかったことから20 mg/kg/dayと考えられる.児動物では,20 mg/kg投与してもいずれの観察項目にも影響は認められなかったことから20 mg/kg/dayと考えられる.

文献

1)古橋忠和ほか,未公刊.

連絡先
試験責任者:古橋忠和
試験担当者:三輪芳久,長瀬孝彦,牧野浩平,内藤一嘉,木村均,岡田雅昭
(株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222 Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors:Tadakazu Furuhashi (Study director) Yosihisa Miwa, Takahiko Nagase, Kohei Makino, Kazuyoshi Naito, Hitoshi Kimura and Masaaki Okada
Nihon Bioresearch Inc.
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan
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