o-アセトアセトトルイジドのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of o-Acetoacetotoluidide in Rats

要約

o-アセトアセトトルイジドの単回投与毒性試験を,5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラットを1群雌雄各5匹用い,0(溶媒),819,1024,1280,1600,2000および2500 mg/kg用量を単回経口投与して実施した.その結果,死亡は,雄で1280 mg/kg以上,雌で1600 mg/kg以上の群において投与後3時間から2日の間に認められた.主な中毒症状として自発運動の低下,腹臥位,筋弛緩,眼瞼下垂,呼吸深大化,立毛,体温降下,流涙および全身蒼白が認められた.死亡動物は,これらの症状が重度化し,呼吸が微弱となって死亡した.生存動物の症状は,投与後1日から5日までに概ね回復し,13日には全て回復した.体重は,投与後1日に用量依存的に減少が認められたが,3日には回復傾向が認められた.剖検では,投与翌日以降の死亡動物で,腺胃の点状出血,胃および腸の血様内容物ならびに膀胱の膨満が認められた.腺胃の病理組織学検査では,粘膜のびらんが観察された.LD50値(95 %信頼限界)は,雄で1854(1549-2298)mg/kg,雌で1945(1654-2318)mg/kgであった.

方法

1. 被験物質

o-アセトアセトトルイジドは,融点103.5℃,植物油および水に難溶な白色針状結晶である.試験には,三星化学工業(株)(東京)製造のもの(ロット番号7434,純度99.93 %)を用い,これを1 %メチルセルロース水溶液に懸濁して,投与液とした.被験物質の安定性ならびに投与液中での被験物質の安定性および均一性については,分析して確認した.

2. 使用動物および飼育条件

日本チャールス・リバー(株)より搬入した5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラット(雄120〜137 g,雌106〜118 g)を1群雌雄各5匹用いた.ラットは,室温21〜23℃,湿度56〜60 %,換気回数10回以上/時(オールフレッシュエアー方式),照明12時間/日(午前6時点灯,午後6時消灯)に制御した飼育室で,ステンレス製金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料〔ラボMRストック,日本農産工業(株)〕と水は自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

1群雌雄各3匹のラットを用い,雌雄とも593,889,1333,2000および3000 mg/kgを単回経口投与した投与量設定試験の結果,雌雄とも死亡は2000 mg/kg以上の群で認められた.したがって,本試験の用量は,雌雄とも819,1024,1280,1600,2000および2500 mg/kg(公比 1.25)の6群を設定した.他に,溶媒のみ投与の対照群を設けた.投与方法は,投与液量を体重100 g当り1.0 mLとし,テフロン製胃ゾンデおよび注射筒を用いてラットの胃内に単回経口投与した.投与は午前中に行った.ラットは前日の午後5時より投与後3時間まで除餌し,水のみを自由に摂取させた.

4. 観察事項

観察期間は投与後14日間とし,その間の一般状態の観察と生死を確認した.体重は,投与直前,投与後1,3,7および14日に測定した.剖検は,死亡例は発見後直ちに,生存例は観察期間終了後にエーテル麻酔死させて行った.病理組織学検査は,剖検で投与翌日以降の死亡動物に胃の変化が認められたので,それらの内投与後24時間以降の死亡例で死後変化の認められなかった2匹(雌の1600 mg/kg群および2500 mg/kg群)について胃を採取し,10 %中性リン酸緩衝ホルマリン液で固定後,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を施して鏡検した.LD50値は,投与後14日間の観察期間終了時における死亡率を基に,プロビット法を用いて算出した。

結果および考察

1. LD50値(Table 1)

死亡は,雄で1280 mg/kg以上,雌で1600 mg/kg以上の群に認められ,死亡率より算出されたLD50値(95 %信頼限界)は,雄1854(1549-2298)mg/kg,雌1945(1654-2318)mg/kgであった.o-アセトアセトトルイジドのラットにおける経口LD50値については,1600 mg/kgとの報告1)があり,概ね一致した結果であった.

2. 一般状態

被験物質投与の全群の雌雄に共通して,投与後約10分から自発運動の低下および腹臥位が認められた.また,多くの例で筋弛緩,眼瞼下垂および呼吸深大化が認められた.さらに,投与後1〜3時間から立毛,体温降下および流涙,投与翌日(投与後1日)から全身蒼白が,用量に依存して認められた.その他に,よろめき歩行,削痩および下腹部の汚れが散見された.死亡動物は,これらの症状が重度化し,次第に呼吸微弱化し,投与後3時間〜2日の間に死亡した.生存動物の症状は,投与後3〜6時間から回復傾向が認められ,多くの症状は投与翌日から5日までに回復したが,全身蒼白のみ12日まで持続的に認められた.この変化は,ラットへの反復投与により溶血性貧血が認められている2)ことと関連性があるものと考えられた.

3. 体重推移

雌雄とも投与後1日に,対照群に比べて体重減少が用量に依存して認められた.しかし,3日には回復傾向を示し,多くの症状が回復した7日以降は順調な増加が認められた.

4. 病理学検査

死亡動物の剖検において,投与翌日以降に死亡した雌雄の多くの例で,腺胃の点状出血およびそれとの関連性が考えられる胃および腸の血様内容物,ならびに膀胱の膨満がみられた.また,雌1例には腹水の貯溜が認められた.腺胃の病理組織学検査では,点状出血は粘膜のびらんであることが確認された.投与日の死亡動物および14日間生存動物の剖検では,肉眼的変化は認められなかった.

文献

1)REGISTRY OF EFFECTS CHEMICAL SUBSTANCES, AK6550000
2)厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 7,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1999, p. 275.

連絡先
試験責任者:山本 譲
試験担当者:伊藤義彦,伊藤雅也
(財)畜産生物科学安全研究所
〒229-1132 神奈川県相模原市橋本台3-7-11
Tel 042-762-2775Fax 042-762-7979

Correspondence
Authors:Yuzuru Yamamoto(Study director)
Yoshihiko Ito, Masaya Ito
3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229-1132, Japan
Tel +81-42-762-2775Fax +81-42-762-7979