メタクリル酸(2-ヒドロキシプロピル)エステルの
ラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 2-Hydroxypropyl methacrylate in Rats
要約
既存化学物質の毒性学的性質を評価するために，メタクリル酸
(2-ヒドロキシプロピル)エステルを雌雄ラットに1回経口投与し，その毒性について検討した．投与量は2000 mg/kgを高用量とし，以下1000および500 mg/kgとした．対照として媒体(注射用水)投与群を設けた．
死亡は，いずれの群にも発現しなかった．
2000 mg/kg群では，雄で投与直後に流涎がみられた．
体重は，各投与群の雌雄とも対照群とほぼ同様の推移を示した．
剖検において，いずれの群の雌雄とも異常はみられなかった．
メタクリル酸
(2-ヒドロキシプロピル)エステルのLD50値は，雌雄とも2000 mg/kg以上と考えられる．
方法
1. 被験物質，媒体および投与検体
被験物質のメタクリル酸
(2-ヒドロキシプロピル)エステル(CAS No.923-26-2)は，分子量：144.17，融点：-57℃，沸点：96℃の無色透明の液体であり，水に溶けやすく，アセトンおよびDMSOにきわめて溶けやすい(Lot No.0348402，製造元：三菱レイヨン(株)，純度：98％，ただし，不純物としてジプロピレングリコールモノメタクリレートを2％以下含有)．入手後は，室温・遮光下で気密容器に入れて保管した．なお，投与終了後に被験物質の一部を製造元に送付して分析した結果，純度は99.0％であり，使用期間中の安定性が確認された．
被験物質は秤取し，注射用水に溶解して必要濃度の投与検体を用時調製した．なお，被験物質は純度換算しないで，投与量は原体重量で表示した．
2. 使用動物および飼育条件
4週齢のSprague-Dawley系雌雄ラット［Crj：CD(SD)，(SPF)］を日本チャールス・リバー(株)から購入した．入手した動物は，5日間の検疫期間およびその後3日間の馴化期間を設け，一般状態および体重推移に異常の認められない動物を群分けして試験に用いた．群分けは，コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に，無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように投与日に行った．
動物は，室温
20〜24℃，湿度40〜70％，明暗各12 時間(照明：午前6時〜午後6時)，換気回数12回／時に設定した飼育室で飼育した．検疫・馴化期間中および絶食期間中はステンレス製懸垂式ケージを用いて1ケージあたり5匹までの群飼育とし，群分け後はステンレス製五連ケージを用いて個別飼育した．
飼料は固型飼料
(CRF-1，オリエンタル酵母工業(株))を，飲料水は水道水をいずれも自由に摂取させた．ただし，投与前日の夕刻から投与までの約18時間と投与後約6時間まで絶食させ，群分け時から投与後約6時間までは絶水させた．
3. 投与経路，投与方法，群構成および投与量
メタクリル酸
(2-ヒドロキシプロピル)エステルは，経口的に人に摂取される可能性が考えられるため，投与経路として経口投与を選択した．投与に際しては，金属製経口胃ゾンデを取り付けたプラスチック製ディスポーザブル注射筒を用いて，強制経口投与した．投与液量は，投与直前に測定した体重を基準として10 ml/kgで算出した．投与回数は1回とした．投与日の週齢は約6週齢であり，体重範囲は雄が115〜122 g，雌が 97〜104 gであった．
投与量は，先に実施した雄ラットを用いた予備試験
(投与段階：0，80，400および2000 mg/kg)において，2000 mg/kg投与により投与直後に流涎がみられたのみで，死亡発現はなく，体重推移および剖検所見にも異常は認められなかった．そこで，当試験では，2000 mg/kgを高用量とし，以下公比2で1000および500 mg/kg投与群を設定した．また，対照として被験物質と同一液量の媒体(注射用水)を投与する群を設けた．
4. 観察および検査項目
1) 観察期間
観察期間は，投与後
14 日間とした．
2) 一般状態
投与日は投与前および投与後
6時間(投与後30分まで，投与後2，4および6時間)まで，投与翌日からの観察期間中は1日1回，一般状態および死亡の有無を観察した．
3) 体重測定
投与日および投与後
1，3，7，10 ならびに14日に測定した．
4) 剖検
生存動物は観察期間終了時にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した．
5. 統計解析
体重は，各群で平均値および標準偏差を算出した．有意差検定は対照群と各投与群の間で多重比較検定を用いて行い，危険率
5％未満を有意とした．すなわち，Bartlett法による等分散性の検定を行い，等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い，有意ならばDunnett法により行った．一方，等分散と認められなかった場合は順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い，有意ならば順位を利用したDunnett法を用いて行った．
結果
1. 一般状態および死亡状況
いずれの群の雌雄においても，死亡は発現しなかった．
対照群，
500および1000 mg/kg群では，雌雄とも観察期間中に異常症状はみられなかった．2000 mg/kg群では，投与日の投与直後に流涎が雄1例にみられたが，投与後2時間以降には雌雄とも異常は認められなかった．
2. 体重推移
各投与群の雌雄とも，対照群とほぼ同様の体重推移であり，いずれの測定日とも有意差はみられなかった．
3. 剖検所見
いずれの群の雌雄とも，異常はみられなかった．
考察
メタクリル酸
(2-ヒドロキシプロピル)エステルは2000 mg/kg投与によっても，雌雄ともに死亡発現はなく，LD50値は雌雄とも2000 mg/kg以上と考えられる．一般状態では，2000 mg/kg投与群で流涎が雄の少数例にみられたが，投与直後に一過性に認められたのみで，軽度な変化と考えられた．なお，2000 mg/kg投与しても，体重推移および剖検所見に異常はみられなかった．
| 連絡先 |
| 試験責任者： | 古橋忠和 |
| 試験担当者： | 長瀬孝彦，虫賀勇樹，松井英児，
吉島賢一，牧野浩平 |
| (株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所 |
| 〒501-62 岐阜県羽島市福寿町間島6-104 |
| Tel 058-392-6222 | Fax 058-392-1284 | |
| Correspondence |
| Authors: | Tadakazu Furuhashi(Study director)
Takahiko Nagase, Yuuki Mushiga, Eiji Matsui,
Ken-ichi Yoshijima and Kohei Makino |
| Nihon Bioresearch Inc. Hashima Laboratory |
| 6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-62, Japan |
| Tel +81-58-392-6222 | Fax +81-58-392-1284 | |