4,4'-ビフェニルジオールのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 4,4'-Biphenyldiol in Rats

要約

 4,4'-ビフェニルジオールの2000 mg/kgを1群につき各3匹のCrj:CD(SD)IGS雌ラットに単回経口投与してその毒性の概要を検討し,以下の成績を得た. 

投与後1日に赤色尿および体重増加抑制傾向が認められたが投与後2または3日には回復し,剖検所見でも異常は認められなかった.

 以上のことから,4,4'-ビフェニルジオールはGHS (Globally Harmonized Classification System)のCategory 5(>2000-5000 mg/kg)であると結論された.

方法

1. 被験物質および対照物質の調製

 被験物質の4,4'-ビフェニルジオール[ロット番号: 020411,純度:99.96wt%,提供者:本州化学工業(和歌山)]は,沸点300℃/13.3kPa(100 mmHg),引火点281.5℃(O.C),発火点638℃以上,嵩密度は500 kg/m3等の物理化学的性状を示す白色結晶である.被験物質は常温では安定であることから,室温に保存した.

 あらかじめ被験物質の調製液中での均一性および安定性の分析を行い,均一かつ室温保存24時間安定であることを確認した後,被験物質を乳鉢で細砕後,所定の濃度となるように媒体(0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液)に懸濁し,スターラーで分散させた.調製液は投与毎に用時に2回調製し,調製後速やかに遮光気密容器に入れそのまま投与に用いた.投与液の各濃度をHPLCで分析し,規定の範囲内にあることを確認した.

2. 試験動物および飼育条件

 試験には,日本チャールス・リバー厚木飼育センター生産のSPF Crj:CD(SD)IGS雌ラットを用いた.雌ラット8匹を8週齢で購入し,個々の動物について6あるいは9日間馴化飼育後,各3匹を選抜して9週齢で試験に供した.投与前日の体重に基づいて層化無作為抽出法により群分けを行った.

 動物は温度21~24℃,湿度48~61 %,換気回数10~15回/時間,照明時間8時~20時,ブラケット式金属製金網床ケージに,群分け前は2匹,群分け後は1匹収容した.飼料はg線照射固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業)を金属製給餌器により,飲料水は札幌市水道水を自動給水装置により,それぞれ自由摂取させた.

3. 投与量および投与方法

 製品安全データシートのラットにおけるLD50値が4920 mg/kgであるとの記載を参考として,2000 mg/kgを第1群の投与用量に設定した.投与後3日までに死亡例がみられなかったため,第2群にも再度2000 mg/kgを設定した.第2群においても第1群と同様に死亡例がみられなかったこと,また,製品安全データシートのLD50値に関する記載が4920 mg/kgと5000 mg/kg未満であることから,5000 mg/kgの投与群は設定しなかった.

 一晩(16~18時間)の絶食後,9時30分からの1時間で胃ゾンデを用いて強制的に胃内に10 mL/kgの投与容量で経口投与し,投与後約4時間を経過した時点で給餌を再開した.

4. 検査項目

1) 一般状態観察

 全例について動物の生死,外観,行動等を,投与日(0日)の投与直後から投与後1時間までは連続して観察し,以降は投与後2および4時間に観察した.投与後1日から投与後14日の剖検日までは,1日1回観察した.異常が認められる場合は,その症状ならびに症状の発現および消失が観察された時刻を記録した.

2) 体重測定

 全例について動物の体重を,0日(投与日の投与前),投与後1,3,5,7,10および14日(剖検日)に,電子式上皿天秤を用いて測定した.

3) 剖検

 全例について投与後14日に体外表を観察後,エーテル麻酔下で腹部大動脈から放血して安楽死させ,いずれも全身の器官・組織を肉眼的に観察した.

5.統計解析

 体重,体重増加量および増加率の成績について平均値および標準偏差を算出した.

 結果及び考察

1. 死亡状況

 2000 mg/kgの投与後に,第1および2群のいずれにも,死亡例は認められなかった.

2. 一般状態

 2000 mg/kgの投与後に,第1および2群のいずれにも,投与後1日に全例(6例)で赤色尿が認められたが,投与後2日には回復し,以降異常は認められなかった.

3. 体重

 2000 mg/kgの投与後に,第1および2群のいずれにも,投与後1日に軽度な体重増加抑制傾向がみられたが,投与後3日以降には順調な体重増加が認められた.

4. 剖検

 2000 mg/kgを投与した第1および2群のいずれにも,剖検所見で異常は認められなかった.

 以上のことから,4,4'-ビフェニルジオールの2000 mg/kgを投与後,赤色尿および体重増加抑制傾向がみられたが,投与後2日以降に異常は認められず,死亡例も認められなかった.

 したがって,4,4'-ビフェニルジオールはOECD試験法ガイドライン(423)のAnnex 2dよりGHS(Globally Harmonized Classification System)のCategory 5(>2000-5000 mg/kg)であると結論された.

連絡先
試験責任者: 須永昌男
試験担当者: 木口雅夫,咲間正志,平田輝仁,
笠原みゆき,牧野宏美,
平田真理子,石川典子,古川正敏
㈱化合物安全性研究所
〒004-0839 札幌市清田区真栄363番24
Tel 011-885-5031 Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors: Masao Sunaga(Study director)
Masao Kiguchi,Masashi Sakuma,
Teruhito Hirata, Miyuki Kasahara,
Hiromi Makino, Mariko Hirata,
Fumiko Ishikawa, Masatoshi Furukawa
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo, Hokkaido, 004-0839, Japan
Tel +81-11-885-5031 Fax +81-11-885-5313