3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の一世代生殖毒性試験を行い,本化合物の雌雄動物の生殖ならびに出生児に対する毒性について検討した.すなわち,0(媒体対照),12.5,50および200 mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各25匹/群)に,雄は5週齢から10週間,また,雌は10週齢から2週間経口投与し,3週間を限度として交配させた.雄は,交配期間終了後1週間を経過した後に剖検した.雌は,交配後,自然分娩させ,哺育21日に出生児とともに剖検した.雌雄ともに剖検の前日まで投与を継続し,この間,親動物の一般状態,体重増加および摂餌量の変化などを観察するとともに,親動物の分娩および泌乳を含む繁殖能力,ならびに出生児の離乳までの発育を観察した.
出生児については,行動を含む一般状態ならびに生存性に被験物質投与の影響は認められなかったが,発育については,200 mg/kg投与群の体重が雌雄ともに出生日から生後21日まで低値を示し,胎児期から哺育期に亘る発育抑制が認められた.形態については, 死亡児あるいは生存産児の剖検において,曲尾,短尾,短曲尾あるいは小眼といった外表奇形を有するものの頻度が200 mg/kg投与群においてやや増加した.200 mg/kg投与群では,精巣の位置異常および脾臓の低形成,横隔膜ヘルニアの内臓奇形も認められた.これらの奇形の発現は特定の腹に偏って認められたが,本試験の結果からは被験物質の催奇形性を否定はできなかった.
投与検体は,各濃度毎に秤量した被験物質を,媒体とした0.5 w/v%カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC Na)水溶液(日局カルメロースナトリウム:丸石製薬(株),製造番号:6Z09,日局注射用水:光製薬(株),製造番号:9707SA)に懸濁することにより調製し,冷蔵保管して使用した.投与検体中に含まれる被験物質の含量および均一性は,秦野研究所において確認した.
動物は,基準温湿度各24 ± 1 ℃,および50-65 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(7-19時点灯)に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および飲料水(水道水,秦野市水道局給水)を自由に摂取させた.妊娠14日(腟栓あるいは精子発見日=妊娠0日)以後の母動物は,プラスチック製ラット用繁殖ケージに収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商(株))を適宜供給した.
各用量の投与検体は,各群の動物に対して剖検の前日まで毎日1回,調製検体をマグネティックスターラーで攪拌しながらラット用胃管を用いて経口投与した.すなわち,雄に対しては交配前10週間から最長3週間の交配期間を経て剖検前日に至るまでの連続98日間,また,雌に対しては交配前2週間,交尾までの交配期間,妊娠期間,哺育20日(分娩日=哺育0日)まで投与した.毎日の投与は,一定時刻の間(9-13時)に行い,各動物の投与液量(5 mL/kg)は,雄および交配前,交配期間中の雌では週1回測定される体重を基準とし,交尾後の雌では妊娠0,7,14,20日の体重を,分娩後の雌では哺育0,4,7,14日の体重を基準にそれぞれ算出した.
雌雄とも,全例について飼育期間中毎日1回以上観察した.死亡例については発見後直ちに剖検した.また,翌日まで生存の可能性が乏しいと判断された瀕死動物は,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,後述の剖検の項に記載した方法と同様にして剖検した.
B. 体重測定
雄は全例について,週1回(投与1,8,15,22,29,36,43,50,57,64,71,78,85,92日)および剖検日に測定した.
雌は全例について,交尾を確認するまでは週1回(投与1,8,15,22日),交尾確認後は,妊娠0,7,14,20日に,分娩後は哺育0,4,7,14,21日に測定した.これらのうち,投与22日については,交尾が確認されていない動物についてのみ測定したので評価の対象から除外した.
C. 摂餌量測定
雄は全例について,投与2-3,9-10,16-17,23-24,30-31,37-38,44-45,51-52,58-59,65-66,71-72,79-80,86-87日に測定した.これらのうち,投与79-80日および86-87日については,交配期間中に当たり,飼育条件が動物により異なったため,評価の対象から除外した.
雌は全例について,交配前期間は投与2-3および9-10日,交尾確認後は,妊娠0-7,7-14,14-20日に,分娩後は哺育0-4,4-7,7-14,14-21日に測定した.
D. 性周期
全例について投与開始2週間前から交配開始後,交尾確認日まで,腟スメア標本を作製して観察し,細胞構成から,発情期,発情前期および発情休止期に分類した.さらに,投与開始前2週間および投与開始後2週間の各時期について,発情期(発情期像が連続した場合は,最終日)から次回発情期を回帰するまでの日数を各動物について数え,平均発情回帰日数を算出するとともに,4日で発情を回帰した動物の性周期は4日周期に,5日で発情を回帰した動物の性周期は5日周期に,4および5日の間隔が混在して認められたものは,4および5日周期に,それ以外は不正性周期に分類した.
E. 交配
交配は,雄は10週間投与後(投与71日)から,雌は2週間投与後(投与15日)から,交尾を確認するまで,3週間を限度として同群内の雌雄1:1で連日同居させることによって行った.交尾の確認は,腟スメア中の精子の存在および腟栓を毎朝確認することにより行い,いずれかが確認された日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.
交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100],受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100],同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.なお,交配前期間中の死亡および瀕死剖検により,交配開始時に対照群,12.5 mg/kgおよび50 mg/kg投与群において各1例の雄動物が不足したため,これらの動物と交配を予定していた雌動物については交配開始日を投与17日に延期して,同群内の既に交尾が確認されている雄動物と交配させた.
F. 分娩および哺育状態の観察
各群とも,交尾した雌は,全例を自然分娩させて哺育させた.
分娩の確認は,妊娠20日から妊娠25日までの9-11時に行い,腟からの出血あるいは受胎産物の娩出といった分娩徴候の有無を観察した.分娩の直接観察が可能な例については分娩状態を観察した.直接観察ができなかった例については,分娩完了後の一般状態から分娩困難の有無を判断して記録した.
分娩完了を確認した日を分娩日とし,それを哺育0日と規定して,分娩を確認した全例について,妊娠期間(妊娠0日-分娩日の日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/妊娠動物数)×100]を各群について求めた.また,哺育1日から毎日,哺育状態を観察した.
G. 剖検
(1) 雄動物
死亡・瀕死動物は,胸腹部主要器官について異常の有無を肉眼的に確認し,下垂体,胃,副腎,精巣,精巣上体,凝固腺,精嚢,前立腺を含む胸腹部主要器官を摘出した.摘出した器官・組織のうち,精巣および精巣上体はブアン液で固定し(長期保存は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液),その他は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定して保存した.これらのうち,異常の認められた器官・組織,および下垂体,胃,副腎,精巣,精巣上体,凝固腺,精嚢および前立腺腹葉については,常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って,病理組織標本を作製し,全例について検査した.
投与98日まで生存した動物は,その翌日に全例を剖検した(定期解剖).剖検に先立って,ペントバルビタールナトリウム麻酔下で,腹部後大静脈から抗凝固剤としてEDTA-2Kを用いて採血し,さらに放血・致死させて剖検した.剖検では,胸腹部主要器官の異常の有無を肉眼的に確認し,異常が観察された組織は,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.また,下垂体,胃,副腎,精巣,精巣上体,凝固腺,精嚢および前立腺ならびに死亡および瀕死動物の剖検において異常が認められた骨髄,脾臓および肝臓についても摘出し,異常の有無を肉眼的に確認した後,精巣および精巣上体はブアン液で固定し(長期保存は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液),その他は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.これらのうち,異常の認められた組織については常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織標本を作製し,検査した.また,全例について骨髄,脾臓,肝臓,下垂体,胃,副腎,精巣,精巣上体,精嚢,前立腺腹葉および凝固腺の病理組織標本を作製し,骨髄,脾臓および肝臓は全例について,その他の組織は対照群および高用量群の全例について検査した.胃については,高用量群において異常が観察されたため,中および低用量群についても追加観察した.
定期解剖時に得られた血液は,Coulter Counter Model S-PLUS IV(コールターエレクトロニクス)を用いて,電気抵抗法により赤血球数および白血球数を自動測定した.また,血液塗抹標本を作製してWright-Giemsa染色を施し,光学顕微鏡下で白血球分類を視算した.これらの血液検査成績は,12.5 mg/kgおよび50 mg/kg投与群の死亡あるいは瀕死剖検例に認められた骨髄性白血病が,その他の動物にも発症しているかどうかを診断するための補助とした.
(2) 雌動物
哺育21日に,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で,放血により致死させ,剖検し,胸腹部主要器官の異常の有無を肉眼的に確認した.その際,異常が観察された組織は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.また,子宮を摘出し,着床痕数を肉眼的に数えた後,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.この他に,下垂体,胃,副腎,卵巣,頸部および腟,ならびに死亡および瀕死動物の剖検時に異常の認められた骨髄,脾臓および肝臓についても摘出し,異常の有無を肉眼的に確認した後,卵巣はブアン液で固定し(長期保存は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液),その他の器官・組織は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液で固定して保存した.異常が観察された組織は常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織標本を作製し検査した.その他の組織は対照群および高用量群の全例について病理組織標本を作製して検査した.胃については,高用量群において異常が観察されたため,中および低用量群についても追加観察した.
母動物の分娩完了を確認した日を生後0日とし,直ちに,雌雄別に産児数(生存児+死亡児)を調べ,生存児について外表奇形の有無を観察した.
B. 一般状態および死亡児数の算定
毎日,死亡児数を数え,死亡児は直ちに剖検した.生存児については,生後1日から行動および身体的異常の有無を含む一般状態を毎日観察した.
C. 同腹生児数の調整
生後4日に同腹生児数を8匹(原則として雌雄各4匹)に調整した.同腹生児数が8匹に満たない場合は調整しなかった.
D. 体重測定
生後0,4,7,14および21日に個体別に測定し,各腹ごとに雌雄別の平均値を算出した.
E. 性比および生存率の算定
母動物の剖検時に数えられた着床痕数ならびに分娩観察において数えられた産児数および生存児数(出産生児数)に基づき,分娩率[(産児数/着床痕数)×100],生児出産率[(出産生児数/着床痕数)×100]および出生率[(出産生児数/産児数)×100]を算定した.また,生後0日における性比[(雄の生児数/生児数)×100]を求めた.生後4日の同腹出生児数の調整に際しては,調整前の生児数を基に,新生児の4日の生存率[(生後4日同腹生児数調整前の生児数/生後0日の生児数)×100]を算出し,生後4日における性比[(雄の生児数/生児数)×100]を求めた.さらに,同腹出生児数の調整後の生児数および生後21日における生児数を基に,離乳率[(生後21日の生児数/生後4日同腹生児数調整後の生児数)×100]を算定した.
F. 剖検
死亡児は,外表異常の有無を観察して剖検し,10vol%ホルマリン液に固定して保存した.生後0日の死亡児については肺を摘出して生理食塩液に浮遊させ,浮遊しなかった例を死産と判定した.大きな損傷あるいは浸軟化が認められた死亡児については,固定および保存のみを行った.
同腹生児数の調整により生じた余剰児は,エーテルを吸入させて致死させた後,剖検し,10 vol%ホルマリン液に固定して保存した.
生存児は,全例を生後21日にエーテル吸入により致死させて剖検した.その際,異常が認められた器官は0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定して保存した.また,全例のカーカスをアルコールで固定して,試験終了時まで保存し,異常の観察されたカーカスについてのみ,アルコールに浸漬して長期保存した.
雌では,いずれの投与群の動物にも死亡および瀕死屠殺例はなかった.一般状態の変化としては,200 mg/kg投与群の少数例に流涎が,また,1例に耳介および四肢の発赤が投与後一過性に認められ,投与に関連した所見と判断された.その他の所見としては,脱毛あるいは痂皮形成が50 mg/kg以下の投与群に散見された.
雌では,摂餌量についてはいずれの時期も,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.体重については,200 mg/kg投与群において投与初期,妊娠末期および哺育期の体重増加が抑制され,妊娠20日の体重が対照群と比較して有意(p<0.05)な低値を示した.50 mg/kg以下の投与群の体重増加には,いずれの時期も対照群との間に有意差は認められなかった.
(1) 血液学検査(Table 3)
50 mg/kg以上の投与群において赤血球数が対照群と比較して有意(p<0.01)に増加した.白血球数を対照群と被験物質各投与群との間で比較すると,12.5 mg/kgおよび50 mg/kg投与群では有意(p<0.01)に低下し,200 mg/kg投与群では有意(p<0.05)に増加した.白血球百分比については,50 mg/kg投与群において分葉核白血球の比率が有意(p<0.01)に増加し,リンパ球の比率が有意(p<0.01)に低下した.その他の項目については対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
(2) 剖検
対照群にみられた瀕死屠殺例では,不整咬合および歯の破折が観察され,これに起因すると考えられる口蓋の損傷も観察されたが,その他の器官に異常は認められなかった.12.5 mg/kg投与群における瀕死屠殺例および50 mg/kgにおける死亡例では,脾臓が重度に腫大し,胸腹部各リンパ節にも腫大が認められ,脳では,硬膜に暗色や暗赤色の領域が観察された.さらに,死亡例では脾臓の淡色化,出血,腹膜との癒着および腹腔内への出血,脳硬膜と軟膜との癒着,心臓における心嚢の肥厚および白濁,その一部の心外膜および肺胸膜との癒着が認められ,瀕死屠殺例では,脳の淡色化が認められた.これらの他に,胸腺の暗色化あるいは小型化,被毛の一部の汚れが認められ,死亡例の腺胃粘膜には褐色点が観察された.
生存例の定期解剖では,200 mg/kg投与群に前胃粘膜の肥厚領域が6例に観察され,2例は白濁あるいは白色化を伴っていた.また,肝臓の腫大が3例に観察された.被験物質の用量とは関連なく観察された所見としては,対照群に肝臓の横隔膜結節が認められ,12.5 mg/kg投与群では,腎臓の一側性または両側性の腎盂拡張が,また,50 mg/kg投与群では副腎の暗色化あるいは淡色域がそれぞれ認められた.生殖器官では,50 mg/kg投与群の1例に精巣および精巣上体の片側性の小型化が観察された他に異常は観察されなかった.
(3) 病理組織学検査(Table 4)
対照群の瀕死屠殺例については,不整咬合といった物理的原因により瀕死状態に陥ったため,歯および口蓋の組織学的観察は行わなかった.12.5 mg/kg投与群の瀕死屠殺例および50 mg/kgの死亡例については,生存時に歩行の異常が認められ,剖検では脾臓の著しい腫大も観察されたことから,病変の観察された,脳,脾臓,心臓,リンパ節,骨髄および肝臓の他に,歩行の異常との関連性が疑われる器官についても病理組織学検査も実施した.その結果,骨髄には,比較的狭い弱好酸性の細胞質をもち,類円形の核を有する淡明な細胞が充満しており,分裂像も多数みられ,骨周囲組織あるいは周囲血管内に浸潤している像も認められた.この細胞に環状および分葉状の核は認められなかったが,通常の顆粒球よりは大きく,骨髄芽球に近いと考えられる形態であった.骨髄で観察された細胞は,脾臓では赤脾髄を中心に顕著に増殖し,リンパ節では髄洞に充満していた他,肝臓ではグリソン鞘を中心に類洞内に彌慢性に浸潤していた.また,脳硬膜,坐骨神経の周膜,心嚢および周囲の癒着部にも同様の細胞の浸潤が観察された.これらの所見から,骨髄で観察された細胞は白血病細胞であると断定し,両例を骨髄性白血病と診断した.これらの例の下垂体,胃,副腎,精巣,精巣上体,凝固腺,精嚢,前立腺腹葉の各組織に異常は認められなかった.生存例の定期解剖において採取された各器官および組織に認められた所見を以下に示す.
(下垂体)
対照群および200 mg/kg投与群に,ラトケ嚢の拡張が観察されたが,頻度および程度に両群間で有意差は認められなかった.
(精巣および精巣上体)
剖検時に小型化の観察された50 mg/kg投与群の1例の片側に,間質の水腫を伴う精細管およびライディッヒ細胞の萎縮がみられ,同側の精巣上体の管腔に精子はほとんど認められず,ごく少数の細胞残屑のみが観察された.対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(精嚢)
対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(前立腺腹葉)
対照群および200 mg/kg投与群の間質にリンパ球浸潤が観察されたが,対照群と比較して200 mg/kg投与群における頻度は有意(p<0.01)に低下していた.リンパ球浸潤の程度が強かった対照群の例では,上皮および管腔への好中球浸潤も観察された.
(凝固腺)
対照群および200 mg/kg 投与群の動物に異常は観察されなかった.
(胃)
50 mg/kg以上の投与群の前胃粘膜に扁平上皮の過形成が認められ,その程度は50 mg/kg以上の投与群において,また,頻度は200 mg/kg投与群において対照群と比較して有意(p<0.05,p<0.01)に増強された.
(副腎)
対照群の1例に,被膜の限局性線維化が観察されたが,200 mg/kg投与群に異常は認められなかった.
(肝臓)
門脈周囲性の肝細胞の脂肪化は,200 mg/kg投与群を除く各群に認められたため,200 mg/kg投与群における頻度が対照群と比較して有意(p<0.05)な低値を示した.また,対照群では肝海綿状変性が観察された.しかし,白血病に関連した所見は,いずれの動物にも認められなかった.
(脾臓)
全例に髄外造血および褐色色素の沈着が観察されたが,これらの程度に対照群と被験物質各投与群との間で有意差は認められず,白血病に関連した所見は,いずれの動物にも認められなかった.
(骨髄)
いずれの動物にも異常は観察されなかった.
(剖検時異常器官)
腎盂の拡張が観察された12.5 mg/kg投与群の2例には,皮質の好塩基性尿細管を伴う腎盂の拡張が観察され,そのうちの1例に鉱質沈着およびeosinophilic bodyが,他の1例には皮髄境界部に嚢胞が観察された.
B. 雌
(1) 剖検
対照群および12.5 mg/kg投与群に異常は観察されなかった.50 mg/kg投与群では,両側性の腎盂の拡張が1例に観察された.同様の変化は,200 mg/kg投与群の1例にも観察された.この他,200 mg/kg投与群では,前胃粘膜の肥厚領域,片側子宮角の腫大および卵管の結節がそれぞれ1例ずつ観察された.
(2) 病理組織学所見(Table 4)
各器官および組織に認められた所見を以下に示す.
(下垂体)
対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(卵巣)
対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(子宮角および頸部)
対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(腟)
200 mg/kg投与群の1例の粘膜固有層に嚢胞が観察されたがその頻度および程度には対照群との間に有意差は認められなかった.
(胃)
200 mg/kg投与群の前胃粘膜に扁平上皮の過形成が認められ,その程度および頻度ともに対照群と比較して有意(p<0.01)に増強されていた.
(副腎)
対照群および200 mg/kg投与群の動物に異常は観察されなかった.
(剖検時異常器官)
腎盂の拡張が観察された50 mg/kgおよび200 mg/kg投与群の各1例の腎臓には,皮質の好塩基性尿細管を伴う腎盂の拡張が観察され,そのうちの200 mg/kg投与群の例は程度も強く,移行上皮の過形成も観察された.
結節の観察された200 mg/kg投与群の1例の卵管には,粘膜および粘膜固有層に好中球の浸潤を伴う管腔の嚢胞状拡張が認められた.
(3) 着床数(Table 2)
着床数に対照群と被験物質各投与群の間で有意差は認められなかった.
生存性については,出生日に発見された死亡児のうち,死産児の頻度は,対照群では5例中4例であったのに対し,12.5 mg/kgおよび200 mg/kg投与群では3例全例が死産児であった.また,50 mg/kg投与群では観察した1例は出生後死亡であったが,対照群と被験物質各投与群との間で有意差は認められなかった.産児数,分娩率,出生日ならびに生後4および21日における生存児数,生児出産率,出生率,新生児の4日の生存率および離乳率についても対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められず,各時期の性比にも有意差は認められなかった.
死亡児,同腹生児数調整における余剰児,ならびに生後21日の剖検では,対照群の動物には変異および奇形を含む形態変化は観察されなかった.被験物質投与群では,12.5 mg/kgおよび50 mg/kg投与群のそれぞれ25腹中1腹,ならびに200 mg/kg投与群の25腹中3腹の出生児に形態変化が認められた.これらのうち,外表奇形は,12.5 mg/kg投与群では1腹の1例(生後21日剖検児)に短尾が認められた.また,200 mg/kg投与群では,2腹のうち前述の曲尾が認められた腹の出生児に,短尾(生後4日余剰児4例および生後21日剖検児1例),短曲尾(生後4日余剰児1例)あるいは曲尾(生後21日剖検児1例)が,また,他の1腹の死亡児には小眼が1例認められた.内臓奇形は,200 mg/kg投与群の小眼が認められた腹およびこれらとは別の腹の計2腹において,死亡児に横隔膜ヘルニアあるいは脾臓の低形成および精巣の位置異常がそれぞれ1例ずつ観察された.これらの他に,内臓変異のひとつである腎盂の拡張が,50 mg/kg投与群に観察された.剖検した出生児について形態変化を認めた出生児の総数を求め,その割合を対照群と被験物質との間で比較すると,外表に関しては,200 mg/kg投与群において有意(p<0.01)に増加したが,内臓に関しては有意差は認められなかった.
一般状態の変化としては,雌雄ともに200 mg/kg投与群において,流涎および鼻汁が投与後一過性に観察された.これらは,高用量群のみに認められた変化であり,投与に付随して観察された変化であることから,被験物質に起因した変化であると考えられる.その他の変化については,1例のみの発生あるいは被験物質の用量とは無関係に観察されたものであることから,偶発的変化であると考えられる.
摂餌量には被験物質の投与による影響は認められなかったが,体重については,雌雄ともに200 mg/kg投与群において増加抑制が認められた.高用量群に認められた変化であることから,投与に起因した変化であると考えられる.体重増加抑制は,雄では投与末期に,雌では投与初期,妊娠末期および哺育初期−中期に認められた.
生殖能力に関しては,投与開始後に性周期が変化した動物の頻度が増加することもなく,平均発情回帰日数にも変化は認められなかったことから,被験物質は性周期に影響を及ぼさないものと考えられた.また,全例が交尾し,受胎し,分娩異常および哺育状態の異常も観察されなかった.さらに,出産率,妊娠期間および着床数にも投与の影響は認められなかった.しかし,後述のように,200 mg/kg投与群では出生児体重が抑制され,被験物質投与が母動物の泌乳量を抑制した可能性がある.
剖検では,雌雄の生殖器官に被験物質の用量に依存した変化は認められなかった.しかし,200 mg/kg投与群の雄動物には,予備試験において認められた胃辺縁部の粘膜肥厚と同一の所見である前胃粘膜の肥厚領域が観察された.さらに,病理組織学検査では,50 mg/kg以上の投与群の雄,および200 mg/kg投与群の雌に,前胃粘膜扁平上皮の過形成が観察された.3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸には,皮膚および粘膜に対する刺激性のあることが示唆されており(未発表),前胃粘膜の組織変化は粘膜の刺激性に起因した変化であると推測される.200 mg/kg投与群の雄には,肝臓の腫大も観察された.病理組織学検査では,門脈周囲の脂肪化の程度に減弱が認められたが,腫大に関連した明瞭な組織変化は観察されなかったことから,肝臓の腫大については,投与との間に明瞭な関連性はないものと考えられた.この他,骨髄性白血病の診断のために実施した雄の血液検査において,50 mg/kg以上の投与群の赤血球数が増加した.3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を4週間反復投与した試験11)ではこうした変化は報告されていない.しかし,本試験では,被験物質の用量に依存して赤血球数が増加していることから,50 mg/kg以上では雄の赤血球数を増加させるものと考えられる.一方,4週間反復投与試験で認められている副腎の壊死11)は,本試験では雌雄ともに観察されなかった.
200 mg/kg 投与群において奇形および変異などの形態変化を認めた出生児の頻度がやや増加した.最も高頻度に認められたのは尾の外表奇形であったが,1腹の出生児のみに認められた変化であった.その他の奇形はいずれも1例のみの発生であったことから,偶発的変化である可能性が高い.しかし,剖検した総出生児に占める外表異常児の頻度が200 mg/kg投与群で有意に増加したことから,3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の催奇形性について否定はできなかった.
1) | 吉村功,“毒性・薬効データの統計解析(吉村功編),”サイエンティスト社,東京,1977. |
2) | 丹後俊郎,“医学への統計学(古川俊之監修),”朝倉書店,東京,1985. |
3) | 石居進,“生物統計学入門,”培風館,東京,1992. |
4) | 佐久間昭,“薬効評価-計画と解析,”東京大学出版会,東京,1977. |
5) | C. W. Dunnett, Biometrics, 20, 482(1964). |
6) | W. H. Kruskal, W. A. Wallis, J. Amer. Statist. Assoc., 47, 583(1952). |
7) | Arnold, Poultry Sci., 31, 350(1952). |
8) | National Technical Information Service:OTS0533574. |
9) | J. Marhold, “Prehled Prumyslove Toxikologie, Organicke Latky,” 1986, p.663. |
10) | National Technical Information Service: OTS0535574. |
11) | EPA/OTS;Doc #88-950000008:Subacute 28-day oral toxicity study with beta-hydroxynaphthoic acid in rats with over letter dated 100694. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 代田眞理子 | ||
試験担当者: | 佐藤昌子,田子和美,関 誠 | ||
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所 | |||
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5 | |||
Tel 0463-82-4751 | Fax 0463-82-9627 |
Correspondence | ||||
Authors: | Mariko Shirota(Study director) Masako Sato, Kazumi Tago, Makoto Seki | |||
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center | ||||
729-5 Ochiai, Hadano, Kanagawa, 257-8523, Japan | ||||
Tel +81-463-82-4751 | Fax +81-463-82-9627 |