既存化学物質の安全性点検調査事業の一環として,1,2-ジシアノベンゼンについて雌雄のSD系ラットに単回経口投与した時の毒性を検討した.投与用量は0,30,60,120,240および480 mg/kgの6用量を設定した.
投与の結果,雌雄とも60 mg/kg以上の用量群で死亡例がみられた.死亡動物では痙攣および口周囲の汚れが60 mg/kg以上の群で認められ,240 mg/kg以上の群では上記に加え自発運動の低下,腹臥位,異常発声,挙尾およびチアノーゼが認められた.雄の60 mg/kg群では自発運動の低下,歩行異常のみが認められた.
生存動物では,雌の60 mg/kg群で投与後6時間に自発運動の低下が認められ,そのうち1例は第2日に自発運動の低下および不整呼吸が認められたが,それ以降は回復した.
生存動物の体重および全動物の剖検所見に異常は認められなかった.
1,2-ジシアノベンゼンの半数致死量(LD50値)は,雌雄とも85 mg/kg(95 %信頼限界50〜143 mg/kg)であった.
検疫・馴化期間を含めた全飼育期間を通して,温度22 ± 2 ℃,相対湿度55 ± 15 %,換気約12回/時,照明12時間/日(7:00-19:00)に自動調節した飼育室を使用した.
動物は,実験動物用床敷(ベータチップ:日本チャールス・リバー(株))を敷いたポリカーボネート製ケージに1ケージあたり5匹(同性)で収容し,飼育した.動物には,実験動物用固型飼料(MF:オリエンタル酵母工業(株))と,5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.
投与用量は予備検討の結果(0,3,10,30および100 mg/kg,動物数:1用量あたり雌雄各2匹,300 mg/kg,動物数:雌雄各3匹),300 mg/kgの用量で雌雄全例が投与後4時間までに死亡した.これらの結果から,本試験では480 mg/kgを最高用量とし,以下公比2で240,120,60および30 mg/kgの計5用量を設定した.この他に溶媒(0.5 % CMC-Na水溶液)のみを投与する対照群を設けた.投与液量は5 mL/kgとし,投与直前の体重に基づいて算出した.被験物質は溶媒(0.5 % CMC-Na[岩井化学薬品(株)]水溶液)に懸濁調製した.投与前に投与液中の被験物質の均一性および0.1 mg/mLと200 mg/mLの8日間の安定性について確認した.また,各用量群の投与液を分析し,被験物質の濃度が設定通りであることを確認した.
半数致死量(LD50値)は,雌雄とも85 mg/kg(95 %信頼限界50〜143 mg/kg)であった.
生存動物では,雌の60 mg/kg群の4例で投与後6時間に自発運動の低下が認められ,そのうち1例は第2日に自発運動の低下および不整呼吸が認められたが,それ以降は回復した.
その結果,投与日に雌雄とも480および240 mg/kg群で全例が死亡し,以下60 mg/kg群まで死亡個体が認められた.
死亡動物では,痙攣および口周囲の汚れが60 mg/kg以上の群で認められ,240および480 mg/kg以上の群では上記に加え自発運動の低下,腹臥位,異常発声,挙尾およびチアノーゼが認められた.雄の60 mg/kg群では自発運動の低下,歩行異常のみ認められた.生存動物では,雌の60 mg/kg群で投与後6時間に自発運動の低下が認められ,そのうち1例は第2日に自発運動の低下および不整呼吸が認められたが,それ以降は回復した.
以上の結果から,本被験物質の半数致死量(LD50値)は雌雄とも85 mg/kg(95 %信頼限界50〜143 mg/kg)と結論した.
1) | 後藤稠,池田正之,原一郎編,“産業中毒便覧増補版,”医歯薬出版,東京,1984, pp.1169-1170. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 須藤雅人 | ||
試験担当者: | 伊藤重美,泉孔美子,鈴木美江,増田久美子 | ||
(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所 | |||
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Correspondence | ||||
Authors: | Masato Sudo(Study director) Shigemi Itoh, Kumiko Izumi, Yoshie Suzuki, Kumiko Masuda | |||
Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd., Kashima Laboratory | ||||
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255 Japan | ||||
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