o-sec-ブチルフェノールのラットを用いる反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験
Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental
Toxicity Screening Test of o-sec-Butylphenol by Oral Administration in Rats
要約
o-sec-ブチルフェノールの反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(以下,併合試験)を行い,同化合物の雌雄ラットに及ぼす反復投与毒性ならびに生殖発生毒性について検討した.すなわち,0(媒体対照),12,60および300 mg/kgのo-sec-ブチルフェノールを,Sprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各13匹/群)に,交配前2週間および交配期間2週間経口投与した.さらに,雄では交配期間終了後2週間,雌では妊娠期間を通して分娩後哺育3日まで投与を継続して,剖検した.
1. 反復投与毒性
死亡動物は,対照群を含むいずれの投与群においても認められなかった.
300 mg/kg投与群において,雌雄ともに投与後一過性の流涎および活動性の低下(自発運動の減少,腹臥位または横臥位,寄り掛かり姿勢),半眼が,さらに,雌ではふらつき歩行も観察された.同群では,肝臓の比体重値が雌雄ともに増加した.肝臓の病理組織学検査の結果,雄に小葉中心性の肝細胞の肥大が観察されたが,雌には認められなかった.また,雄について実施した血液生化学検査では,300 mg/kg投与群で,総コレステロール濃度の増加が認められた.摂餌量および体重には,雌雄ともに被験物質投与による影響は認められなかった.雄について実施した血液学検査にも被験物質投与の影響は認められなかった.60 mg/kg投与群では,投与期間初期に自発運動の減少が少数例の雄に観察されたが,雌には一般状態の変化は認められなかった.12 mg/kg投与群には被験物質投与の影響は認められなかった.
2. 生殖発生毒性
雌雄動物の交尾率,受胎率,雌動物の妊娠維持,分娩および哺育ならびに産児の生存性,性比,発育および形態に,被験物質投与の影響は認められなかった.
3. 無影響量
以上の試験成績から,本試験条件下では,o-sec-ブチルフェノールの反復投与毒性に関する無影響量は,雄では12 mg/kg/day,雌では60 mg/kg/day,生殖発生毒性に関する無影響量は,雌雄および産児ともに300 mg/kg/dayであると判断される.
方法
1. 被験物質
本試験に使用したo-sec-ブチルフェノール(Lot No. :970922,純度:99.15 %)は,本州化学工業(和歌山)より提供を受けたもので,入手後は室温,遮光条件下で保管した.被験物質の試験期間中の安定性は,残余被験物質を提供元で再分析することにより確認した.
投与検体は,コーン油(ナカライテスク(株),Lot No. :V7R2020)に溶解し,いずれの用量においても1回の投与液量が2 mL/kg体重になるように含量を調整し,室温,遮光条件下で保管して使用した.投与検体中に含まれる被験物質の濃度については,秦野研究所において確認した.
2. 使用動物および飼育条件
試験には,雌雄ともに7週齢で購入した日本チャールス・リバー(株)厚木飼育センター生産のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(IGS),SPF)を使用した.購入した動物は,入荷後1週間,馴化と検疫を兼ねて予備飼育し,雌雄とも投与開始日(投与1日)の体重をもとに体重別層化無作為抽出法に準じて群分けした.
各動物は,基準温湿度各24±1℃,および50-65 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(午前7時-午後7時)に制御された飼育室で,金属製ケージに個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア)および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させた.妊娠14日(精子確認日=妊娠0日)以後の母動物は,ラット用繁殖ケージに収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商)を適宜供給した.
3. 投与量,群構成,投与期間および投与方法
本試験の投与量は,本試験と同系統のラット各群雌雄5匹に,o-sec-ブチルフェノールの0(コーン油),30,100,300 mg/kgを14日間強制的に連続経口投与した予備試験 (以下予備試験と略記)の結果に基づき,14回の反復投与により,雌雄の一般状態,体重および肝臓重量に影響が認められたが,その他の検査項目には被験物質投与による著しい変化が認められなかった300 mg/kgを本試験の高用量に設定し,以下,公比5で減じて中用量には60 mg/kgを,低用量には12 mg/kgを設定した.
各用量の投与検体は,雌雄13匹から成る各群の動物に対して剖検日前日まで, 毎日1回,ラット用胃管を用いて経口投与した.すなわち,雄に対しては交配期間14日間および交配期間終了後14日間までの連続42日間,また,雌に対しては,交配前14日間と最長14日間の交配期間中(交尾まで),ならびに交尾雌では妊娠期間を通して剖検前日までの哺育3日(分娩日=哺育0日)まで,交尾後,分娩の認められなかった動物に対しては妊娠24日相当日まで,それぞれ投与した.毎日の投与は,9時から12時の間に行い,各動物の投与液量(2 mL/kg)は,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回の測定体重を基に,また,交尾後の雌については妊娠0日(交尾確認日)の体重を基にそれぞれ算出した.
4. 観察方法
1) 親動物
A. 一般状態の観察
雌雄とも,全例について飼育期間中毎日1回以上観察した.
B. 体重測定
雌雄とも,全例について体重を試験期間中週1回 (雄:投与1,8,15,22,29,36,42日,雌:投与1,8,15日)および剖検日に測定した.雄動物と同居中の雌は,投与22日にも体重を測定した.また,交尾した雌では,妊娠0,7,14,20日に,さらに,分娩した雌では,哺育0および4日の体重を測定した.
C. 摂餌量測定
雌雄とも,全例について体重測定日と同日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を算出した.2週間の交配期間中は摂餌量を測定しなかった.交尾した雌では,妊娠0-7,7-14,14-20日の,さらに,分娩した雌では,哺育0-4日の摂餌量を測定した.
D. 交配
交配は,投与15日の夕方から最長14日間,同群内の雌雄を1対1で同居させて行った.交尾成立の確認は,毎朝,腟栓および腟垢標本中の精子の存在を調べることにより行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/交配動物数)×100],受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100],同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.
E. 分娩・哺育状態の観察
各群とも交尾した雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の観察は分娩を直接観察できたものについてのみ行った.また,直接観察できなかった例においても分娩後の徴候から分娩状態の良否が判定できるものについては,それを記録した.分娩後は哺育状態を観察し,異常の有無を記録した.
F. 分娩日の規定
分娩の確認は,午前9-11時に限定し,この時間帯に分娩が完了していることを確認した動物について,その日を分娩日と規定した.午前11時を過ぎて分娩を終了した動物については,翌日を分娩日とした.
分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/受胎動物数)×100]を各群について求めた.
G. 最終検査
(1) 雄動物
全例について,最終投与日に絶食を開始し,その翌日(絶食開始18-24時間後)に以下の検査を行った.
イ. 血液学検査
ペントバルビタール麻酔下で腹部後大静脈よりEDTA-2Kを抗凝固剤として採血し,Coulter Counter Model S-PLUS IV(コールターエレクトロニクス)を用いた電気抵抗法により,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),平均赤血球容積(MCV),血小板数を自動測定し,また,吸光度法により血色素量(Hb)を自動測定してそれらの値から平均赤血球血色素量(MCH=Hb×1000/RBC),ヘマトクリット値(Ht=RBC×MCV×0.001),平均赤血球血色素濃度(MCHC=Hb×100/Ht)を算出した.白血球分類は,Wright-Giemsa染色した静脈血塗抹標本を光学顕微鏡下で観察することにより視算した.
ロ. 血液生化学検査
全例について,血液学検査のための採血に引き続き,ヘパリンを抗凝固剤として採血し,血漿を分離して,遠心方式生化学自動分析装置COBAS-FARA(ロシュ)を用いて総蛋濃度(ビウレット法),アルブミン濃度(BCG法),総コレステロール濃度(COD・DAOS法),トリグリセライド濃度(GPO・DAOS法),ブドウ糖濃度(グルコキナーゼG6PDH法),尿素窒素濃度(BUN;ウレアーゼGr.DH法),クレアチニン濃度(Jaff法),アルカリフォスファターゼ活性(ALP;GSCC法),GOTおよびGPT活性(IFCC法),総ビリルビン濃度(Jendrassik/Grof法),カルシウム濃度(OCPC法),無機リン濃度(Inorg. phos.;モリブデン酸直接法),γ-GTP活性(γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法)を測定し,全自動電解質分析装置EA05(A&T)を用いてイオン電極法により,塩素,ナトリウムおよびカリウムの各濃度を測定した.また,A/G比は上記の測定結果に基づいて算出した.
ハ. 病理学検査
全例について剖検し,器官・組織の肉眼的観察を実施した.その際,脳,心臓,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体の重量を測定し,併せて比体重値(相対重量)を算出した.これらの器官のうち,精巣および精巣上体はブアン液に固定して保存し,その他の器官ならびに膀胱および剖検時に異常が認められた器官(肺および胃)は,10 w/v%ホルマリン液に固定して保存した.固定器官のうち,肝臓および心臓はすべての投与群について,また,その他の器官は対照群および高用量群について常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織学検査を行った.剖検時に異常が観察された肺および胃については,被験物質投与による影響ではないと判断して検査を実施しなかった.
(2) 雌動物
分娩した動物は哺育4日に,交尾は確認されたが分娩しなかった動物は妊娠25日相当日に,それぞれペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させて剖検した.妊・不妊のいずれの例においても卵巣および子宮を摘出し,子宮については着床数を数え,着床の認められた動物を妊娠例とした.卵巣は実体顕微鏡下で妊娠黄体数を数え,ブアン液に固定して保存した.不妊例の卵巣については,病理組織学検査を行った.また,脳,心臓,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,および副腎重量を測定し,10 w/v%ホルマリン液に固定して保存した.これらの固定器官は対照群および高用量群について雄と同様に病理組織学検査を行った.これらの器官以外で剖検時に異常が観察された器官(肺,胃)も,10 w/v%ホルマリン液に固定して保存したが,被験物質投与の影響ではないと判断して,病理組織学検査は実施しなかった.
2) 出生児
A. 産児数の算定
哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(産児数/着床痕数)×100]および生児出産率[(出産生児数/着床痕数)×100]を求めた.また,産児の外表奇形の有無および性別を調べ,生存児の性比[(雄の生児数/雌の生児数)×100]を算出した.
B. 死亡児数の算定
死亡児数を毎日調べ,出生率[(出産生児数/産児数)×100]および新生児の4日の生存率[(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100]を求めた.死亡児は剖検し,異常の有無,外表および内部器官の肉眼的観察を行った.
C. 体重測定
哺育0日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter重量)を測定し,(litter重量/測定児数)を各腹について求めた.
D. 剖検
哺育4日に全例をエーテル吸入により致死させて剖検し,外表および内部器官の肉眼的観察を実施した.
5. 統計解析
交尾率および受胎率についてはYatesの補正を含むχ^2検定を行った.病理組織学所見については,グレード分けしたデータについてはMann-WhitneyのU検定1, 2)を用いて検定し,陽性グレードの合計値についてはFisher直接確率の片側検定2)を用いた.一般状態,剖検所見および尿検査データについては,統計解析を行わなかった.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として,先ずBartlett法3)により各群の分散の一様性について検定した.その結果に基づき,一元配置型の分散分析3)あるいはKruskal-Wallis順位検定4)を行い,群間に有意性が認められた場合に,対照群と被験物質各投与群との差についてDunnett法5)あるいはScheff法6)を用いて検定した.有意水準は,5 %および1 %とした.
結果
1. 反復投与毒性(親動物所見)
1) 一般状態
雌雄ともに,いずれの投与群においても死亡あるいは瀕死動物は認められなかった.雄では,60 mg/kg投与群の2例に自発運動の減少,1例に投与後の一過性の流涎が投与期間初期に,300 mg/kg投与群の全例に投与後の一過性の流涎,自発運動の減少が投与期間を通じて観察され,9匹に腹臥位または横臥位,2匹に半眼,1匹に寄り掛かり姿勢が投与期間初期にそれぞれ観察された.雌では,300 mg/kg投与群の全例に投与後の一過性の流涎,自発運動の減少,腹臥位または横臥位が,10匹にふらつき歩行がほぼ投与期間を通じて観察され,7匹に半眼,3匹に寄り掛かり姿勢が投与開始から投与期間中期までそれぞれ観察された.これらの変化は,翌日の投与までには回復する変化であった.対照群および12 mg/kg投与群の雌雄ならびに60 mg/kg投与群の雌には,一般状態の異常は認められなかった.
2) 体重および摂餌量(Tables 1〜4)
雄の300 mg/kg投与群において,投与開始後,体重増加の抑制傾向が認められたが,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められず,摂餌量にも投与の影響は認められなかった.
雌では,交配前,妊娠期および哺育期のいずれの時期の体重増加にも,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.しかし,摂餌量については,300 mg/kg投与群において,妊娠0-7日の摂餌量が対照群と比較して有意(p<0.05)な低値を示した.交配前および哺育期の摂餌量には,対照群と被験物質投与群との間に有意差は認められなかった.
3) 解剖時検査
A. 雄
(1) 血液学検査(Table 5)
300 mg/kg投与群において,血色素量およびヘマトクリット値が対照群と比較して有意(p<0.05, p<0.01)な低値を示した.300 mg/kg投与群において赤血球数および白血球数が低下傾向を示したが,対照群との間に有意差は認められなかった.その他の項目についても,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
(2) 血液生化学検査(Table 6)
300 mg/kg投与群において,総コレステロール濃度が対照群と比較して有意(p<0.05)な高値を,塩素濃度が有意(p<0.01)な低値を示した.また,12 mg/kg投与群において,A/G比が有意な低値を示したが,用量に依存した変化ではなかった.その他の検査項目には対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
(3) 器官重量(Table 7)
300 mg/kg投与群の解剖時体重が低下傾向を示したが,対照群との間に有意差は認められなかった.各器官の重量については,300 mg/kg投与群において,肝臓の比体重値が対照群と比較して有意(p<0.05)に増加し,腎臓の重量および比体重値が増加傾向を示し,副腎の重量および比体重値が低下傾向を示した.その他の器官の重量および比体重値には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
(4) 剖検
肝臓では,対照群および12mg/kg投与群各1匹,300 mg/kg投与群2匹に白色あるいは淡色斑が,300 mg/kg投与群1匹に横隔膜結節が,対照群2匹,12および60 mg/kg投与群各1匹に黄色化が,対照群3匹,60 mg/kg投与群1匹に小葉構造の明瞭化が観察された.腎臓では,60 mg/kg投与群1匹,300 mg/kg投与群2匹に皮質の陥凹部が,対照群および300 mg/kg投与群各1匹に皮質の淡色の斑あるいは領域が,60 mg/kg投与群1匹に左側腎盂拡張および他の1匹に右側の皮髄境界部に嚢胞が観察された.肺では,対照群1匹および12 mg/kg 投与群2匹に暗色点が,60 mg/kg投与群1匹に右側肺門部の水腫が観察された.そのほかの所見として,60 mg/kg投与群1匹の前胃粘膜に水腫様部位が,12 mg/kg投与群2匹の脾臓に副脾が,対照群1匹の精巣に小型化が,300 mg/kg投与群1匹の会陰部の皮膚に汚染がそれぞれ観察された.
(5) 病理組織学検査(Table 8)
肝臓,腎臓,脾臓,精巣および精巣上体,心臓ならびに膀胱に以下の所見が認められた.その他の組織に異常は観察されなかった.
(肝臓)
300 mg/kg投与群にごく軽度ではあるが,小葉中心性の肝細胞肥大が観察され,その頻度は対照群と比較して有意(p<0.01)に増加した.この変化は,60 mg/kg以下の投与群では認められなかった.また,対照群を含む全例に門脈周囲性の肝細胞の脂肪化が観察されたが,300 mg/kg投与群におけるその程度は対照群と比較して有意(p<0.05)に低下した.被験物質の用量とは無関係に認められた変化としては,小肉芽腫,限局性の壊死,限局性の出血,被膜に限局性の線維化および肝細胞の限局性の脂肪変性が各群に散見された.また,横隔膜結節が肉眼的に観察された1匹には,被膜に限局性の線維化が観察され,一部には肉芽組織が観察された.
(腎臓)
Eosinophilic body,皮質の好塩基性尿細管,皮髄境界部における尿細管の嚢胞,間質のリンパ球の浸潤ならびに皮質に円柱が,観察を行った対照群と300 mg/kg投与群に散見されたが,いずれも両群間に有意差は認められなかった.
(脾臓)
対照群および300 mg/kg投与群の全例に髄外造血および褐色色素沈着が観察されたが,両群間で変化の程度に有意差は認められなかった.
(精巣および精巣上体)
生殖細胞の減少を伴う精細管の萎縮が観察を行った対照群と300 mg/kg投与群に観察され,そのうちの対照群1匹の精細管内には多核巨細胞が出現し,生殖細胞の減少が明瞭であった.この例の精巣上体では,管腔内の精子の減少や細胞残屑が認められた.また,精巣上体の間質にリンパ球の浸潤が両群の動物に観察された.
(心臓)
被験物質各投与群に心筋変性が観察されたが,細胞浸潤を伴い,かつ変性している領域は狭く,限局性あるいは散在性に存在しており,用量に依存した変化ではなかったことから自然発生的な変化と考えられた.
(膀胱)
300 mg/kg投与群の1例に粘膜固有層にリンパ球の浸潤が観察された.
B. 雌
(1) 剖検
60 mg/kg投与群1匹に左側脳室の拡張が観察された.肝臓では,300 mg/kg投与群1匹に淡色化を伴う腫大が,12 mg/kg投与群1匹に淡色斑が観察された.さらに,対照群の1匹では,肝臓の尾状葉は暗色化を伴い硬化しており,白色斑が散在していた.腎臓では,300 mg/kg投与群3匹に淡色化が,60 mg/kg投与群1匹に右側腎盂拡張が,12 mg/kg投与群1匹の皮髄境界部に嚢胞が観察された.肺では,対照群,12および300 mg/kg投与群各1匹に暗色点が観察された.胃では,対照群および60 mg/kg投与群の各1匹に腺胃粘膜に黄色域あるいは赤色点散在が観察された.胸腺では,12 mg/kg投与群1例,60 mg/kg投与群2例,300 mg/kg投与群3例に小型化が観察された.そのほかの所見として,300 mg/kg投与群の1匹に脾臓の腫大および他の1匹に副脾が観察された.
(2) 器官重量(Table 7)
300 mg/kg投与群において,肝臓の重量が増加傾向を示し,比体重値は対照群と比較して有意(p<0.05)に増加した.また,対照群との間に有意差は認められなかったが,副腎の重量および比体重値が低下傾向を示した.その他の器官の重量および比体重値については,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
(3) 病理組織学検査(Table 8)
対照群および300 mg/kg投与について観察した結果,肝臓,腎臓,脾臓および胸腺に以下の所見が観察された.その他の組織に異常は観察されなかった.
(肝臓)
両群に門脈周囲性の肝細胞の脂肪化および限局性壊死が観察されたが,いずれも両群間で有意差は認められなかった.また,雄の300 mg/kg投与群で観察された小葉中心性の肝細胞肥大の頻度の増加および脂肪化の程度の減少は,雌では明らかではなかった.そのほかに,肉眼的に尾状葉に異常がみられた対照群1匹では,同葉に広範囲な出血および壊死が観察され,多数の好中球が浸潤していた.
(腎臓)
皮質に好塩基性尿細管および近位尿細管の空胞変性が両群の動物に観察され,300 mg/kg投与群では,間質のリンパ球の浸潤および限局性の線維化が観察されたが,いずれも両群間に程度および頻度の差は認められなかった.
(脾臓)
両群の全例に褐色色素沈着および髄外造血が観察されたが,両群間で変化の程度に有意差は認められなかった.また,300 mg/kg投与群に副脾が観察された.
(胸腺)
300 mg/kg投与群の1例に萎縮が観察された.
2. 生殖発生毒性
1) 生殖関連所見
A. 交配成績(Table 9)
すべての動物が交尾し,受胎率にも対照群と被験物質各投与群との間で有意差は認められなかった.また,同居から交尾までに要した日数およびその間の発情回数にも,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
B. 分娩および哺育状態
対照群を含むいずれの投与群においても分娩および哺育状態に異常は認められなかった.
C. 妊娠黄体数,着床数および着床率(Table 10)
黄体数,着床数および着床率には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
D. 出産率および妊娠期間(Table 10)
出産率はすべての群で100 %を示した.いずれの妊娠動物も妊娠22-23日に出産し,妊娠期間には対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
2) 出生児所見
A. 一般状態および生存性(Table 10)
産児数,分娩率,生存児数,生児出産率, 出生率および新生児の4日の生存率には被験物質各投与群と対照群との間に有意差は認められなかった.また,性比についても対照群と被験物質各投与群との間で有意差は認められなかった.
B. 体重(Table 10)
雌雄とも,哺育0および4日の体重には,対照群と被験物質各投与群との間に有意差は認められなかった.
C. 形態
生存児では,哺育0日の外表検査において,300 mg/kg投与群の産児1匹に鎖肛および無尾が観察された.この産児は,哺育4日の剖検時まで生存した.なお,12 mg/kg投与群の死亡児1匹では,外表奇形として,全身浮腫,短躯,索状尾,鎖肛,内反足,無眼,四肢の減形成奇形が観察され,内臓奇形として,左腎臓および左副腎無発生,右側水腎,右側肺分葉異常,大血管転換が観察された.
考察
一般状態の変化として,雌雄とも300 mg/kg投与群で,投与後に一過性の流涎,活動性の低下(自発運動の減少,腹臥位または横臥位,寄り掛かり姿勢),半眼が観察され,さらに雌ではふらつき歩行も観察された.これらの変化は,o-sec-ブチルフェノールの単回投与毒性試験(単回投与試験)7)および予備試験においても認められていることから,被験物質投与に起因した変化と考えられる.雄では,60 mg/kg投与群においても投与期間初期に,少数例に一過性の流涎,自発運動の減少が観察されたことから,60 mg/kgの投与量も,ごく軽度ではあるが一般状態に影響を及ぼす可能性が考えられる.
剖検の結果,300 mg/kg投与群では,雌雄ともに肝臓の比体重値が有意に増加した.肝臓の比体重値の増加は,予備試験においても認められており,再現性のある変化であること,雄の肝臓の組織学検査においてもごく軽度ではあるが小葉中心性の肝細胞肥大が観察されていることから,肝臓の変化は被験物質投与に起因したものと考えられる.雄について実施した血液生化学検査では,300 mg/kg投与群において総コレステロール濃度が有意な高値を示したが,その程度は僅かであり,被験物質投与との関連は明確ではなかった.また,同群では塩素濃度が有意な低値を示したが,腎臓の組織学検査において異常所見は認められなかったことから,偶発的な変化と考えられた.雄について実施した血液学検査では,300 mg/kg投与群において,Hb,Ht値が有意に低下したが,生理的変動の範囲であり,MCV,MCHCに変化は認められず,さらに,脾臓の組織学検査においても毒性を示唆する変化は認められなかったことから,Hb,Ht値の低下は毒性学的意義に乏しい変化と考えられる.なお,肺の暗色点,肺門部の水腫が対照群を含む各投与群に,前胃粘膜に水腫様部位等の変化が60 mg/kg投与群に観察された.肺の変化は,単回投与試験7)の2000 mg/kg投与群の死亡例に,胃の変化は,500 mg/kg以上の投与群に認められているが,本試験において認められた肺および胃の変化は被験物質の用量に依存した変化ではなく,また,対照群にも認められている変化であることから被験物質投与の影響とは考え難い.
300 mg/kg投与群において雌の妊娠初期の摂餌量が有意に低下したが,妊娠後期には高値の傾向を示したことから,妊娠初期の摂餌量の有意な低下は偶発的な変化と考えられ,被験物質投与の影響とは考え難い.雄には,被験物質投与に起因したと考えられる摂餌量の変化は認められなかった.雌雄ともに,体重推移には被験物質投与による影響は認められなかった.したがって,雄の一般毒性学的無影響量は,300 mg/kg投与群では一般状態および肝臓に影響を及ぼし,60 mg/kg投与群においても,少数ではあるが,投与期間初期に活動性の低下が認められたことから 12 mg/kg/dayと考えられる.ただし,60 mg/kg投与群による影響はごく軽度と考えられる.一方,雌の一般毒性学的無影響量は,300 mg/kg投与群において,肝臓の比体重値の増加および活動性の低下,半眼,ふらつき歩行等の一般状態の変化が認められたことから60 mg/kg/dayと考えられる.
雌雄動物の交尾率,受胎率には,被験物質投与による影響は認められず,産児の生存性,発育にも被験物質投与の影響は認められなかった.また,哺育0日の生存児の観察において,無尾および鎖肛が認められたが,この異常は,Crj:CD(SD)ラットでは自然発生的に観察される異常であり8),発現頻度も低い(1/155匹)ことから偶発的な変化と考えられる.従って,生殖発生毒性学的無影響量は,雌雄および産児ともに300 mg/kg/dayと考えられる.
以上の試験成績から,本試験条件下では,o-sec-ブチルフェノールの反復投与毒性に関する無影響量は,雄では12 mg/kg/day,雌では60 mg/kg/day,生殖発生毒性に関する無影響量は,雌雄および産児ともに300 mg/kg/dayであると判断される.
文献
1) | 丹後俊郎,"医学への統計学,"古川俊之 監修,朝倉書店,東京,1985. |
2) | 石居進,"生物統計学入門,"培風館,東京,1992. |
3) | 佐久間昭,"薬効評価-計画と解析,"東京大学出版会,東京,1977. |
4) | W. H. Kruskal and W. A. Wallis, J. Amer. Statist. Assoc., 47, 583(1952). |
5) | C. W. Dunnett, Biometrics, 20, 482(1964). |
6) | H. Scheff Biometrika., 40, 87(1953). |
7) | 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修,"化学物質毒性試験報告,"Vol. 7,化学物質点検推進連絡協議会,東京,1999, p. 211. |
8) | T. Nakatsuka, M. Horimoto, M. Ito, Y. Matsubara, M. Akaike and F. Ariyuki, Cong. Anom., 37, 47(1997). |
連絡先 |
| 試験責任者: | 長尾哲二 |
| 試験担当者: | 和田和義,佐藤昌子,関 剛幸,笠間菊子,丸茂秀樹,畔上二郎,三枝克彦,稲田浩子,中尾美津男,安生孝子 |
| (財)食品薬品安全センター |
| 〒257-8523 神奈川県秦野市落合725-3 |
| Tel 0463-82-4751 | Fax 0463-82-9627 | |
Correspondence |
| Authors: | Tetsuji Nagao(Study director)
Kazuyoshi Wada, Masako Sato, Takayuki Seki, Kikuko Kasama, Hideki Marumo, Jiro Azegami, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Mitsuo Nakao, Takako Anjo |
| Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center in Reproductive Toxicology |
| 729-5 Ochiai, Hadano city, Kanagawa, 257-8523, Japan |
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