6-tert-ブチル-m-クレゾールのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験
Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening
Test of 6-tert-Butyl-m-cresol by Oral Administration in Rats
要約
6-tert-ブチル-m-クレゾールの反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(以下,併合試験)を行い,同化合物の雌雄ラットに及ぼす反復投与毒性ならびに生殖発生毒性について検討した.すなわち,0(媒体対照),2.5,12.5および60 mg/kgの6-tert-ブチル-m-クレゾールを,Sprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各13匹/群)に,交配前2週間および交配期間2週間経口投与した.さらに,雄では交配期間終了後2週間,雌では妊娠期間を通して分娩後哺育3日まで投与を継続して,剖検した.
1. 反復投与毒性
死亡動物は,対照群を含むいずれの投与群においても認められなかった.
60 mg/kgの投与により,雌では,体重の増加抑制および摂餌量の減少,さらに肝臓重量の増加が認められた.病理組織学検査の結果,雌雄ともに,小葉中心性の肝細胞肥大が観察された.また,腎臓重量の増加が雌雄ともに認められたが,病理組織学検査では投与の影響と考えられる変化はみられず,雄で実施した尿検査の結果にも異常はなかった.12.5 mg/kg以下の投与では,器官重量,病理組織学検査の結果に投与の影響と考えられる変化は認められなかった.雌雄の一般状態,雄の体重推移および摂餌量,雄について実施した血液学検査および血液生化学検査には,投与の影響は認められなかった.
2. 生殖発生毒性
雌雄動物の交尾率,受胎率,分娩および哺育状態に投与の影響はなかった.60 mg/kgの投与により,生児産児数が減少し,妊娠黄体数,着床数,分娩率および生児出生率に減少する傾向がみられ,さらに,産児体重が低値を示した.しかし,産児の性比および形態に影響は認められなかった.
3. 無影響量
これらのことから,本試験条件下では,6-tert-ブチル-m-クレゾールの反復投与毒性に関する無影響量は,雌雄ともに12.5 mg/kg/day,生殖発生毒性に関する無影響量は,雄に対しては60 mg/kg/day,雌および産児に対しては12.5 mg/kg/dayであると結論される.
方法
1. 被験物質
本試験に使用した6-tert-ブチル-m-クレゾール(Lot No. :1271012,純度:99.23 %)は住友化学工業(株)(東京)より提供を受けたもので,入手後は室温で保管した.被験物質の試験期間中の安定性は,残余被験物質を提供元で再分析することにより確認した.
投与検体は,コーン油〔ナカライテスク,Lot No. :V7R2020〕に溶解し,いずれの用量においても1回の投与液量が2 mL/kg体重になるように含量を調整し,調製検体は室温,遮光条件下で保管して使用した.投与検体中に含まれる被験物質の含量については,秦野研究所において確認した.
2. 使用動物および飼育条件
試験には,雌雄ともに7週齢で購入した日本チャールス・リバー厚木飼育センター生産のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD(SD)IGS, SPF)を使用した.購入した動物は,入荷後1週間,馴化と検疫を兼ねて予備飼育し,雌雄とも投与開始日(投与1日)の体重をもとに体重別層化無作為抽出法に準じて群分けした.
各動物は,基準温湿度各24±1℃,および50-65 %,換気回数約15回/時間,照明12時間(午前7時-午後7時)に制御された飼育室で,金属製ケージに個別に収容して飼育し,固型飼料(CE-2,日本クレア)および飲料水(水道水,秦野市水道局給水)を自由に摂取させた.妊娠14日(精子確認日=妊娠0日)以後の母動物は,ラット用繁殖ケージに収容し,床敷として紙パルプ製チップ(ALPHA-dri,加商)を適宜供給した.
3. 投与量,群構成,投与期間および投与方法
本試験の投与量は,本試験と同系統のラット各群雌雄5匹に,6-tert-ブチル-m-クレゾールの0(コーン油),30,60,120 mg/kgを14日間強制的に連続経口投与した予備試験(以下予備試験と略記)の結果に基づき,14回の反復投与により,一般状態,体重,血液生化学検査,器官重量および内部器官に投与の影響が明瞭に認められた60 mg/kgを本試験の高用量に設定し,以下,公比5で減じて中用量には12.5 mg/kgを,低用量には2.5 mg/kgを設定した.
各用量の投与検体は,雌雄13匹から成る各群の動物に対して剖検日前日まで, 毎日1回,ラット用胃管を用いて経口投与した.すなわち,雄に対しては交配期間14日間および交配期間終了後14日間までの連続42日間,また,雌に対しては,交配前14日間と最長14日間の交配期間中(交尾まで),ならびに交尾雌では妊娠期間を通して剖検前日までの哺育3日(分娩日=哺育0日)まで,交尾後,分娩の認められなかった動物に対しては妊娠24日相当日まで,それぞれ投与した.毎日の投与は,午前9時から12時の間に行い,各動物の投与液量(2 mL/kg)は,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回の測定体重を基に,また,交尾後の雌については妊娠0日(交尾確認日)の体重を基にそれぞれ算出した.
4. 観察方法
1) 親動物
A. 一般状態の観察
雌雄とも,全例について飼育期間中毎日1回以上観察した.
B. 体重測定
雌雄とも,全例について体重を試験期間中週1回(雄:投与1,8,15,22,29,36,42日,雌:投与1,8,15日)および剖検日に測定した.雄動物と同居中の雌は,投与22日にも体重を測定した.また,交尾した雌では,妊娠0,7,14,20日に,さらに,分娩した雌では,哺育0および4日の体重を測定した.
C. 摂餌量測定
雌雄とも,全例について体重測定日と同日に餌重量を測定し,測定日から次の測定日までの間の摂餌量を算出した.2週間の交配期間中は摂餌量を測定しなかった.交尾した雌では,妊娠0-7,7-14,14-20日の,さらに,分娩した雌では,哺育0-4日の摂餌量を測定した.
D. 尿検査
雄の全例について,解剖日前日に動物を代謝ケージに収容し,約4時間尿を採取して,pH,潜血,蛋白質,糖,ウロビリノーゲン,ケトン体,ビリルビンについて試験紙法(クリニテック200+,バイエル・三共)により尿検査を実施した.
E. 交配
交配は,投与15日の夕方から最長14日間,同群内の雌雄を1対1で同居させて行った.交尾の確認は,毎朝,腟栓および腟垢標本中の精子の存在を調べることにより行い,交尾が確認された雌は,その日を妊娠0日と起算して雄から分離し,個別に飼育した.交配結果から,各群について交尾率[(交尾動物数/交配動物数)×100],受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100],同居開始日から交尾確認日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.
F. 分娩・哺育状態の観察
各群とも交尾した雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の観察は分娩を直接観察できたものについてのみ行った.また,直接観察できなかった例においても分娩後の徴候から分娩状態の良否が判定できるものについては,それを記録した.分娩後は哺育状態を観察し,異常の有無を記録した.
G. 分娩日の規定
分娩の確認は,午前9-11時に限定し,この時間帯に分娩が完了していることを確認した動物について,その日を分娩日と規定した.午前11時を過ぎて分娩を終了した動物については,翌日を分娩日とした.
分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日から分娩日までの日数)を算定し,出産率[(生児出産雌数/受胎動物数)×100]を各群について求めた.
H. 最終検査
(1) 雄動物
全例について,最終投与日に絶食を開始し,その翌日(絶食開始18-24時間後)に以下の検査を行った.
イ. 血液学検査
ペントバルビタール麻酔下で腹部後大静脈よりEDTA-2Kを抗凝固剤として採血し,Coulter Counter Model S-PLUS IV(コールターエレクトロニクス社)を用いた電気抵抗法により,赤血球数(RBC),白血球数(WBC),平均赤血球容積(MCV),血小板数を自動測定した.また,吸光度法により血色素量(Hb)を自動測定してそれらの値から平均赤血球血色素量(MCH=Hb×1000/RBC),ヘマトクリット値(Ht=RBC×MCV×0.001),平均赤血球血色素濃度(MCHC=Hb×100/Ht)を算出した.白血球分類は,Wright-Giemsa染色した静脈血塗抹標本を光学顕微鏡下で観察することにより視算した.
ロ. 血液生化学検査
全例について,血液学検査のための採血に引き続き,ヘパリンを抗凝固剤として採血し,血漿を分離して,遠心方式生化学自動分析装置COBAS-FARA(ロシュ)を用いて総蛋白濃度(ビウレット法),アルブミン濃度(BCG法),総コレステロール濃度(COD・DAOS法),トリグリセライド濃度(GPO・DAOS法),ブドウ糖濃度(グルコキナーゼG6PDH法),尿素窒素濃度(BUN;ウレアーゼGr.DH法),クレアチニン濃度(Jaff法),アルカリフォスファターゼ活性(ALP;GSCC法),GOTおよびGPT活性(IFCC法),総ビリルビン濃度(Jendrassik/Grof法),カルシウム濃度(OCPC法),無機リン濃度(Inorg. phos.;モリブデン酸直接法),γ-GTP活性(γ-グルタミル-3-カルボキシ-4-ニトロアニリド基質法)を測定し,全自動電解質分析装置EA05(A&T)を用いてイオン電極法により,塩素,ナトリウムおよびカリウムの各濃度を測定した.また,A/G比は上記の測定結果に基づいて算出した.
ハ. 病理学検査
全例について剖検し,器官・組織の肉眼的観察を実施した.その際,脳,心臓,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,副腎,精巣および精巣上体の重量を測定し,併せて比体重値(相対重量)を算出した.これらの器官のうち,精巣および精巣上体はブアン液に固定して保存し,その他の器官ならびに膀胱および剖検時に異常が認められた器官(肺および脱毛部位)は,10 w/v%ホルマリン液に固定して保存した.固定器官のうち,肝臓はすべての投与群について,また,その他の器官は対照群および高用量群について常法に従ってパラフィン切片とし,ヘマトキシリン-エオジン染色を行って病理組織学検査を行った.剖検時に異常が観察された肺および脱毛部位については,いずれも発現例数ならびに発現頻度に投与量に依存した傾向がみられなかったことから,被験物質投与による影響ではないと判断し,病理組織学検査を実施しなかった.
(2) 雌動物
分娩した動物は哺育4日に,交尾は確認されたが分娩しなかった動物は妊娠25日相当日に,それぞれペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させて剖検した.妊・不妊のいずれの例においても卵巣および子宮を摘出し,子宮については着床痕を数え,着床の認められた動物を妊娠例とした.卵巣は実体顕微鏡下で妊娠黄体数を数え,ブアン液に固定して保存した.不妊例の卵巣については,病理組織学検査を行った.また,脳,心臓,胸腺,肝臓,腎臓,脾臓,および副腎重量を測定し,10 w/v%ホルマリン液に固定して保存した.固定器官のうち,肝臓,副腎および脾臓はすべての投与群について,その他の器官は対照群および高用量群について雄と同様に病理組織学検査を行った.剖検時に病変が認められた脱毛部位および肺については,いずれも発現例数ならびに発現頻度に投与量に依存した傾向がみられなかったことから,投与による影響ではないと判断し,病理組織学検査を実施しなかった.
2) 出生児
A. 産児数の算定
哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を調べ,分娩率[(産児数/着床痕数)×100]および生児出産率[(出産生児数/着床痕数)×100]を求めた.また,産児の外表奇形の有無および性別を調べ,生存児の性比[(雄の生児数/雌の生児数)×100]を算出した.
B. 死亡児数の算定
死亡児数を毎日調べ,出生率[(出産生児数/産児数) ×100]および新生児の4日の生存率[(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100]を求めた.死亡児は剖検し,異常の有無,外表および内部器官の肉眼的観察を行った.
C. 体重測定
哺育0日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter重量)を測定し,(litter重量/測定児数)を各腹について求めた.
D. 剖検
哺育4日に全例をエーテル吸入により致死させて剖検し,外表および内部器官の肉眼的観察を実施した.
5. 統計解析
交尾率および受胎率についてはYatesの補正を含むc2検定を行った.病理組織学所見については,グレード分けしたデータについてMann-WhitneyのU検定1, 2)を用いて検定し,陽性グレードの合計値についてFisher直接確率の片側検定2)を用いた.一般状態,剖検所見および尿検査データについては,統計解析を行わなかった.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として,先ずBartlett法3)により各群の分散の一様性について検定した.その結果に基づき,一元配置型の分散分析3)あるいはKruskal-Wallis順位検定4)を行い,群間に有意性が認められた場合に,対照群と被験物質各投与群との差についてDunnett法5)あるいはScheff法6)を用いて検定した.有意水準は,5 %および1 %とした.
結果
1. 反復投与毒性(親動物所見)
1) 一般状態
雌雄ともに,いずれの投与群においても死亡あるいは瀕死動物は認められなかった.
両前肢または臀部の脱毛が,60 mg/kg投与群の雄1例,雌2例に,投与開始4週以降,剖検時までみられた.
2) 体重および摂餌量(Tables 1〜4)
雄の体重推移には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.
雌では,60 mg/kgの投与により,交配前,妊娠期および哺育期を通して体重の増加抑制傾向が認められ,妊娠14日の体重および哺育4日の体重が対照群と比較して有意(p<0.01)に減少した.12.5および2.5 mg/kg投与群の体重は,対照群と同様に推移した.
雄の投与期間中の摂餌量には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.雌の交配前および妊娠期の摂餌量には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかったが,哺育期の摂餌量は,60 mg/kg投与群で有意(p<0.01)に減少した.
3) 尿検査
雄について実施した尿検査の結果では,いずれの検査項目についても,投与に起因したと考えられる変化は認められなかった.
4) 解剖時検査
A. 雄
(1) 血液学検査(Table 5)
いずれの検査項目についても,投与に起因したと考えられる変化は認められなかった.
(2) 血液生化学検査(Table 6)
いずれの検査項目についても,投与に起因したと考えられる変化は認められなかった.
(3) 器官重量(Table 7)
60 mg/kg投与群の腎臓重量が,対照群と比較して有意(p<0.05)に増加した.脳,心臓,肝臓,脾臓,胸腺,副腎,精巣および精巣上体の重量および比体重値には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.
(4) 剖検
肺では,肺と胸壁との癒着が,対照群に1例,暗色点あるいは暗色領域が,対照群に2例,2.5および60 mg/kg投与群に各1例みられた.
心臓では,左室心外膜下に白濁線条が,60 mg/kg投与群に1例みられた.
肝臓では,腫大が,60 mg/kg投与群の2例に,黄色化が,対照群の1例,2.5 mg/kg投与群の1例,12.5 mg/kg 投与群の1例および60 mg/kg投与群の5例に,小葉の明瞭化が,12.5 mg/kg投与群の1例および60 mg/kg投与群の2例にみられた.
腎臓では,腎盂の拡張が,対照群および2.5 mg/kg投与群の各1例に,腫大および皮質表面に陥凹部が,60 mg/kg投与群の各1例にみられた.
その他,副脾が対照群の1例,胸腺の暗色領域が対照群の1例,胸腺の小型化が60 mg/kg投与群の1例,膀胱内に白色固型物が2.5および12.5 mg/kg投与群に各1例,両前肢の脱毛が60 mg/kg投与群の1例にみられた.
(5) 病理組織学検査(Table 8)
心臓,肝臓,胸腺,腎臓および脾臓に以下の所見が認められた.
(心臓)
心筋変性あるいは線維化が,対照群の3例および60 mg/kg投与群の7例にみられたが,両群間に発現頻度および程度の差はなかった.
(肝臓)
小葉中心性の肝細胞肥大が,60 mg/kg投与群の5例にみられ,細胞質は好酸性を呈していた.60 mg/kg投与群における肝細胞肥大の発現頻度は有意(p<0.05)に増加した.その他,限局性壊死あるいは限局性の線維化がみられたほか,門脈周囲性の脂肪化が,対照群を含む各投与群にみられたが,各群間に発現頻度および程度の差は認められなかった.
(胸腺)
ごく軽度な出血が,対照群および60 mg/kg投与群に各1例みられたが,その程度に差はなかった.
(腎臓)
皮質に好塩基性尿細管が,対照群に9例,60 mg/kg投与群に11例みられたが,両群間に程度の差は認められなかった.
その他,対照群に腎盂拡張,eosinophilic bodyがそれぞれ1例に,60 mg/kg投与群に嚢胞が2例,限局性の線維化が1例みられた.しかし,いずれの変化も,発現頻度および程度には両群間に差はなかった.
(脾臓)
褐色色素沈着および髄外造血が,対照群および60 mg/kg投与群の全例にみられたが,両群間に頻度および程度の差は認められなかった.
(その他)
脳,副腎,膀胱,精巣および精巣上体に異常はみられなかった.
B. 雌
(1) 剖検
肺では,暗色点あるいは暗色領域が,対照群の2例,2.5 mg/kg投与群の1例,12.5 mg/kg投与群の2例にみられ,また,表面の顆粒状化が12.5 mg/kg投与群の1例にみられた.肝臓では,60 mg/kg投与群で腫大が5例に,淡色化が3例にみられた.また,横隔膜結節が60 mg/kg投与群に1例,微細白色点点在が対照群の1例にみられた.
腎臓では,淡色化が12.5 mg/kg投与群の1例,60 mg/kg投与群の5例に,腎盂拡張が60 mg/kg投与群の1例にみられた.
脾臓では,被膜と卵巣周囲の脂肪の癒着およびその部位の陥凹が対照群の1例で,副脾が対照群および2.5 mg/kg投与群で各1例みられた.
胸腺の小型化が対照群の4例,2.5 mg/kg投与群の3例,12.5 mg/kg投与群の4例および60 mg/kg投与群の4例にみられたが,発現頻度および程度には各群間に差は認められなかった.また,暗色点が60 mg/kg投与群の1例,暗色領域が2.5 mg/kg投与群の1例にみられた.
その他,臀部の脱毛が60 mg/kg投与群の2例にみられた.
(2) 器官重量(Table 7)
60 mg/kg投与群の心臓および脾臓の重量が対照群と比較して有意(p<0.01)に減少し,脳,肝臓および腎臓の比体重値が有意(p<0.01)に増加した.副腎重量が,2.5 mg/kg投与群で有意(p<0.05)に増加したが,用量依存的な変化ではなかった.
(3) 病理組織学検査(Table 8)
肝臓,胸腺,腎臓,副腎および脾臓に以下の所見が認められた.その他の組織に異常は観察されなかった.
(肝臓)
小葉中心性の肝細胞肥大が,60 mg/kg投与群の10例にみられ,細胞質は好酸性を示していた.60 mg/kg投与群における肝細胞肥大の発現頻度および程度は,有意(p<0.01)に増強した.その他,限局性の壊死あるいは限局性の線維化がみられたほか,全例に門脈周囲性の脂肪化がみられたが,発現頻度および程度には対照群と各投与群との間に差は認められなかった.
(胸腺)
萎縮が対照群の4例および60 mg/kg投与群の7例にみられたが,両群間に明らかな差はなかった.また,ごく軽度な出血が60 mg/kg投与群の1例にみられた.
(腎臓)
皮質に好塩基性の尿細管が対照群の7例および60 mg/kg投与群の3例にみられたが,発現頻度および程度には両群間に差はなかった. その他,近位尿細管の空胞変性が対照群の1例に,近位尿細管の脂肪変性が対照群の3例,60 mg/kgの5例に認められた.また,皮髄境界部の鉱質沈着,腎盂拡張が60 mg/kg投与群に各1例みられた.
(副腎)
束状帯に脂肪滴の増加が,2.5 mg/kg投与群の1例および60 mg/kg投与群の2例にみられた.中程度(++)を示した2.5および60 mg/kg投与群の各1例は,いずれも全産児死亡動物であった.
その他,皮質の限局性壊死(片側)が,12.5および60 mg/kg投与群の各1例にみられた.
(脾臓)
褐色色素沈着および髄外造血が,対照群を含む各投与群の全例にみられたが,60 mg/kg投与群では,髄外造血の程度は有意(p<0.01)に低下した.また,被膜に炎症が対照群の1例にみられた.
(その他)
脳,心臓,膀胱および不妊例の卵巣には,異常はみられなかった.
2. 生殖発生毒性
1) 生殖関連所見
A. 交配成績(Table 9)
全ての動物が交尾した.交尾はしたが不妊であった動物が対照群に1組,60 mg/kg投与群に1組認められた.しかし,受胎率,同居から交尾までに要した日数およびその間の発情回数には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.
B. 分娩および哺育状態
2.5 mg/kg投与群の1例は,分娩日に産児の回集,哺乳が認められず,下腹の汚れが認められた.産児の体表温も低下していた.この動物は,翌日以降も哺育行動を示さず,哺育2日までに全産児が死亡した.12.5 mg/kg投与群の1例は,妊娠25日に産児1例を出産したが,分娩確認時には産児はすでに死亡していた.また,60 mg/kg投与群の1例は,分娩日に異常は認められなかったが,翌日,全産児が死亡した.
その他の動物には,分娩および哺育状態の異常は観察されなった.
C. 出産率および妊娠期間(Table 10)
12.5mg/kg投与群の1例が妊娠25日に(既述),60 mg/kg投与群の1例が妊娠24日に出産した.しかし,妊娠24日に分娩した動物の分娩状態に異常はみられなかった.他の動物は,妊娠22-23日に出産した.出産率および妊娠期間には対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.
D. 妊娠黄体数,着床数および着床率(Table 10)
妊娠黄体数,着床数および着床率には,対照群と各投与群との間に統計学的有意差は認められなかったが,60 mg/kg投与群の妊娠黄体数および着床数は減少する傾向を示した.
2) 出生児所見
A. 一般状態および生存性(Table 10)
分娩率,生児出産率および性比には,対照群と各投与群との間に統計学的有意差は認められなかったが,60 mg/kg投与群の分娩率および生児出産率は減少する傾向を示した.死亡児は,対照群を含む各投与群に認められたが(対照群4例,2.5 mg/kg投与群18例,12.5 mg/kg投与群6例,60 mg/kg投与群20例),死亡時期および死亡児数に特定の傾向は認められなかった.60 mg/kg投与群の生存産児数が対照群と比較して有意(p<0.05)に減少し,出生率も減少傾向を示した.さらに,生後4日の生存児数が,対照群と比較して有意(p<0.05)に減少した.しかし,新生児の4日の生存率には,対照群と各投与群との間に有意差は認められなかった.
B. 体重(Table 10)
60 mg/kg投与群の哺育0および4日の体重が,雌雄とも,有意(p<0.05,p<0.01)に減少した.12.5 mg/kg以下の投与群では,雌雄ともに,対照群と同様な体重推移を示した.
C. 形態
2.5 mg/kg投与群の雌産児1例に尾位置異常および左後肢短肢が認められた.この産児は剖検時まで生存した.その他の産児には,外表奇形は認められず,哺育4日の剖検においても内部器官に異常は認められなかった.また,死亡児の剖検でも異常は観察されなかった.
考察
6-tert-ブチル-m-クレゾールは,ヒトおよび動物の食物,石鹸,動・植物油あるいはガソリンなどに,抗酸化剤として広く使用されているブチレートハイドロキシトルエン(別名アントラシン)の類似化学物質である1).
本試験では,一般状態の変化として,脱毛が雌雄ともに認められたが,発現例数が少ないこと,およびIGSラットでは自然発生的に認められる部位であったことから,被験物質の影響ではないと判断した.
雄では体重および摂餌量に被験物質投与の影響は認められなかったが,雌で60 mg/kgの投与により,体重の増加抑制および摂餌量の減少が認められた.雌の肝臓の比体重値が,60 mg/kg投与群で増加した.雄では肝臓重量に変化は認められなかったが,病理学検査では雌雄とも肝臓が腫大し,細胞質の好酸性化を伴った小葉中心性の肝細胞肥大が認められた.6-tert-ブチル-m-クレゾールの類似化学物質であるブチレートハイドロキシトルエンは肝毒性を有していること9),ラットでは6-tert-ブチル-m-クレゾール投与により薬物代謝酵素誘導を伴わず肝臓重量が増加すること9),さらに本試験に先立って実施した予備試験の雌において60 mg/kg以上の投与により血漿中のGOT活性,ALP活性の上昇が認められていることから,本試験で認められた肝細胞の肥大は,被験物質投与に起因した肝毒性を示唆する変化と考えられる.また,同群では腎臓重量が増加したが,病理組織学検査では被験物質投与の影響と考えられる形態学的な変化はみられず,雄で実施した尿検査の結果からも,腎機能障害を示唆する所見は認められなかった.雌の2.5 mg/kg投与群の1例および60 mg/kg投与群の2例で, 副腎束状帯に脂肪滴の増加がみられた.この脂肪滴の増加が中程度であった2例は,いずれも全産児死亡動物であり哺育状態が不良であったことから,ストレスによる糖質コルチコイドの分泌の増加を示唆する所見と考えられた.また,雌では60 mg/kg投与群において,脾臓の髄外造血の程度の減弱がみられたが,脾臓重量および血液検査に変化はみられず,被験物質投与との関連は明らかにされなかった.血液生化学検査結果には,被験物質投与の影響を示唆する変化は認められなかった.
以上の結果から,一般毒性学的無影響量は,雄では60 mg/kgの反復投与により肝毒性が認められ,雌では肝毒性および体重の増加抑制が認められたことから,雌雄ともに12.5 mg/kg/dayと考えられる.
雌雄動物の交尾率,受胎率および出産率には,被験物質投与の影響は認められなかった.12.5 mg/kg投与群の1例および60/kg投与群の1例が,それぞれ,妊娠25日および24日に出産した.12.5 mg/kg投与群の1例については,産児1匹(着床痕:1)に起因した分娩遅延と考えられた.60 mg/kg投与群の1例については,分娩率が40 %(産児6匹,着床痕:15)と低値を示したが,分娩状態および生後4日までの産児の生存性は良好であったこと,他の動物は全て妊娠22-23日に正常に分娩していることから,この2例にみられた分娩遅延は被験物質投与の影響ではないと判断した.哺育状態には被験物質投与の影響は認められなかった.また,60 mg/kgの投与により妊娠黄体数が減少傾向を示したことから,排卵障害が疑われ,さらに,生児出産率が60 mg/kgの6-tert-ブチル-m-クレゾール投与により減少し,胚の子宮内致死作用が示唆された.2.5 mg/kg投与群の1匹に外表奇形が認められたが,他の投与群の産児に外表奇形が認められていないことから自然発生奇形と考えられ,6-tert-ブチル-m-クレゾールに催奇形作用はないと判断した.また,同群では産児の発育抑制がみられたが,産児の生存性,性比には,6-tert-ブチル-m-クレゾール投与の影響はみられなかった.
これらのことから,雄の生殖発生毒性学的無影響量は60 mg/kg/day,雌の生殖発生毒性学的無影響量は,60 mg/kgの投与により排卵障害が示唆されたことから,12.5 mg/kg/day,また,産児の生殖発生毒性学的な無影響量は,60 mg/kgの投与により発育抑制がみられたことから,12.5 mg/kg/dayと考えられる.
以上の試験成績から,本試験条件下では6-tert-ブチル-m-クレゾールの反復投与毒性に関する無影響量は,雌雄ともに12.5 mg/kg/day,生殖発生毒性に関する無影響量は,雄に対しては60 mg/kg/day,雌に対しては12.5 mg/kg/day,産児に対しては12.5 mg/kg/dayであると判断される.
文献
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9) | P. Grasso and R. H. Hinton, Mutat. Res., 248, 271(1991). |
連絡先 |
| 試験責任者: | 長尾哲二 |
| 試験担当者: | 桑形麻樹子,渡辺千朗,関 剛幸,笠間菊子,加藤博康,吉村愼介,畔上二郎,三枝克彦,稲田浩子,中尾美津男,安生孝子 |
| (財)食品薬品安全センター |
| 〒257-8523 神奈川県秦野市落合725-3 |
| Tel 0463-82-4751 | Fax 0463-82-9627 | |
Correspondence |
| Authors: | Tetsuji Nagao(Study director)
Makiko Kuwagata, Chiaki Watanabe, Takayuki Seki, Kikuko Kasama, Hiroyasu Kato, Shinsuke Yoshimura, Jiro Azegami, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Mitsuo Nakao, Takako Anjo |
| Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center in Reproductive Toxicology |
| 729-5 Ochiai, Hadano city, Kanagawa, 257-8523, Japan |
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