2−アミノ−5−クロロ−4−メチルベンゼンスルホン酸は、0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液に懸濁し、0、100、300および1,000 mg/kgを毎日1回、4週間連続経口投与した。その結果は、次のとおり要約される。
投与期間および回復期間を通じて、雌雄いずれの群にも一般状態の観察で異常の認められた動物はなく、死亡例も認められなかった。
体重は、雄の300および1,000 mg/kg群で増加抑制傾向にあったが、被験物質投与の影響と言える程明確なものではなかった。
摂餌量には、投与期間および回復期間を通じて雌雄とも群間で差が認められなかった。
血液形態学的検査、血液凝固検査および血液生化学的検査結果には、雌雄とも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった。
尿検査の結果、雌雄ともウロビリノーゲン陽性、尿pHの低下が認められたが、主に被験物質の代謝物による変化と考えられ、特定臓器の障害に起因した変化とは考えられなかった。
臓器重量測定の結果、雌雄とも重量測定を実施したすべての臓器について、被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった。
病理学検査の結果、投与終了時および回復試験終了時の計画屠殺動物において、被験物質投与によると考えられる肉眼所見は、雌雄とも観察されなかった。
投与終了時の対照群および1,000 mg/kg群について組織学検査を行ったが、被験物質投与によると考えられる所見は、雌雄とも観察されなかった。
以上の結果、雌雄とも無影響量は1,000 mg/kg/dayと判断された。
動物を検収後、試験環境に9日間馴化させた後、6週齢で投与を開始した。動物はあらかじめ体重によって層別化し、無作為抽出法により各試験群を構成するように群分けした。
動物の識別は、個体別飼育ケージに動物標識番号(Animal ID-No.)を付すことにより行った。
投与開始時の体重は雄で137〜151 g、雌で111〜127 gであった。
株式会社東京技研サービス(東京都府中市)の水洗式飼育機(W 674.2×D 80.0×H 175.5 cm)を使用し、金属製前面・床網目飼育ケージ(W 20.0×D 28.2×H 18.0 cm、飼育ケージ・スペース10,152 cm^3)に動物を1匹ずつ収容し、オリエンタル酵母工業株式会社(東京都中央区)製造の放射線滅菌改良NIH公開ラット・マウス飼料および水道水を自由に摂取させた。飼育ケージは隔週1回、給餌器は週1回取り換えた。
なお、動物の馴化期間を含め、投与および回復期間中、データの信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因の変化はなかった。
1群雌雄各5匹とし、0および1,000mg/kg群に雌雄各5匹の回復群を設け、計60匹を使用した。
[用量設定理由]
用量設定のための2週間投与による予備試験を0、100、300および1,000 mg/kg/dayの4用量で実施した。
その結果、死亡例はいずれの投与群でもみられず、また、体重、飼料摂取量、病理解剖所見および臓器重量にも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった。従って、28日間反復投与試験における最高用量は、限界用量の1,000 mg/kgとし、以下公比3で除し中用量を300 mg/kg、低用量を100 mg/kgに設定した。別に、担体(0.5%カルボキシメチルセルロース・ナトリウム水溶液)のみを投与する対照群を設けた。
採血するに当り、動物は約16時間絶食させた。動物をエーテルで麻酔後開腹し、腹部大動脈から採血した。
a.血液形態学的検査
検査にはEDTA-3Kを添加した初血を用いた。
白血球数(WBC:暗視野板法)、赤血球数(RBC:暗視野板法)、ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法)、ヘマトクリット値(HCT:全赤血球の容積より補正)、平均赤血球容積(MCV:RBC, HCTより算出)、平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBCより算出)、平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCTより算出)、血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)は血液自動分析装置THMS(米国テクニコン社)を用いて測定した。
網赤血球(RC)率算定用に、全血をキャピロット(テルモ株式会社、東京都渋谷区)で染色後、血液塗抹標本を作製し保管した。
また、クエン酸ソーダ添加血液の血漿について、プロトロンビン時間(guick 1段法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(クロット法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国Amelung社)を用いて測定した。
b.生化学的検査
血清を用いて、総蛋白(ビューレット法)、アルブミン(B.C.G.法)、A/G比(計算値)、血糖(ヘキソキナーゼ法)、中性脂肪(酵素法)、総コレステロール(酵素法)、尿素窒素(BUN:ウレアーゼ改良法)、カルシウム(アリザリン法)、無機リン(モリブデンブルー法)、ナトリウム(電極法)、カリウム(電極法)および塩素(電極法)をEKTACHEM 700N(米国コダック社)で、クレアチニン(Jaff
法)、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT:Karmen改良法)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT:Wroblewski and LaDue改良法)、γーグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:酵素法)およびアルカリホスファターゼ(ALP:Bessey-Lowry-Brock改良法)をCentrifiChem ENCORE�供癖胴颯戞璽�ー社)で測定した。
c.尿検査
血液学検査に先立ち、採尿器を用いて24時間(午前10時から翌日午前10時まで)尿を採取し、尿量、色調および濁度を検査後、尿比重計UR-S(株式会社アタゴ、東京都板橋区)を用いて尿比重を測定した。また、尿を遠心分離後Sternheimer変法により沈渣を染色し、鏡検した。
pH、潜血、ケトン体、糖、蛋白、ビリルビンおよびウロビリノーゲンについて、N-マルティスティックスSG試験紙(マイルス・三共株式会社、東京都中央区)およびCLINITEK200(米国マイルス社)を用いて測定した。ウロビリノーゲンについては、ウロペーパー“栄研”UAG-3(栄研化学株式会社、東京都文京区)を追加使用した。
病理組織学検査は固定した器官・組織のうち、対照群と高用量群の心、肝、脾、腎および副腎について行った。常法に従って薄切標本を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色し鏡検した。
なお、用量相関性については、Jonckheereの傾向検定を用いて有意差を検定した。
有意水準は5および1%の片側検定で実施した。
雌では投与期間および回復期間を通じて群間で差が認められず、0〜4および4〜6週間の体重増加量にも差はなかった。
雄では 300 および 1,000 mg/kg群で対照群に比較してMCHCが低値を示した。
雌ではいずれの検査項目においても対照群との間に差は認められなかった。
b)回復期間終了時の結果
雄では1,000 mg/kg群で対照群に比較してヘモグロビン量および血小板数の減少が認められた。
雌では1,000 mg/kg群で対照群に比較して白血球数の減少が認められた。
回復期間終了時の検査で、雌の1,000 mg/kg群でプロトロンビン時間が対照群に比較して延長した。
雄では対照群に比較して100および300 mg/kg群でカルシウムが、また、300 mg/kg 群でアルブミンが減少した。
雌ではすべての被験物質投与群で対照群に比較してγ-GTPの減少、カルシウムの増加が認められ、また、100 mg/kg群で血糖の増加が認められた。
b)回復期間終了時の結果
雄では対照群に比較して1,000 mg/kg群でクレアチンニンの増加、総蛋白、アルブミンおよびカリウムの減少が認められた。
雌ではすべての検査項目において対照群と1,000 mg/kg群で差は認められなかった。
雌雄ともすべての被験物質投与群でウロビリノーゲン1.0 E.U./dl以上の動物が増加し、さらに、300 mg/kg以上の群で尿pH 5.5以下の動物が増加した。
b)回復期間終了時の結果
雄では対照群と1,000 mg/kg群で、すべての検査項目について明確な差は認められなかった。
雌では1,000 mg/kg群で対照群に比較して尿比重が高値を示した。
雌雄ともすべての重量測定臓器について、対照群と被験物質投与群で差は認められなかった。
b)回復期間終了時の結果
雌雄とも1,000 mg/kg群と対照群とで重量に差のある臓器は認められなかった。
雌雄ともすべての重量測定臓器について、対照群と被験物質投与群で差は認められなかった。
b)回復期間終了時の結果
雄では1,000 mg/kg群で対照群に比較して副腎相対重量が増加した。
雌では対照群と重量に差のある臓器は認められなかった。
投与終了時および回復試験終了時の剖検において、雌雄とも対照群に比較して、被験物質投与群で発生が増加した肉眼的異常は観察されなかった。
b)組織所見
組織学的検索は、投与終了時に解剖した対照群および1,000 mg/kg群の雌雄について行った。その結果、雌雄とも両群の間に差のある変化は認められなかった。なお、対照群を含め観察された主な所見は、肝臓の細胞中の小空胞および肉芽巣、腎臓の尿細管上皮細胞の好塩基性化および石灰化、副腎の束状帯の空胞化などであった。
体重は、雄の1,000 mg/kg群で投与3週に対照群に比較し低値を示し、300および1,000mg/kg群で4週間の体重増加量が減少したが、極めて軽微な変化であった。雌では投与期間および回復期間を通じて群間で差が認められなかった。
摂餌量は、雌雄とも投与期間および回復期間を通じて対照群と差がなく、4週間の総摂餌量にも群間差は認められなかった。
血液形態学的検査の結果、投与終了時に雄の300および1,000 mg/kg群でMCHCが低値を示したが、軽微な変化であること、ヘモグロビン量および赤血球数に変化が認められていないことから、意義のある変化とは考えられなかった。回復期間終了時の検査では、雄の1,000 mg/kg群でヘモグロビン量および血小板数の減少が認められ、雌の同用量群で白血球数の減少が認められたが、軽微な変化であり、投与終了時には認められていない変化であることから、毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった。
血液凝固検査の結果、投与終了時の検査では、雌雄の対照群と被験物質投与群で差は認められず、被験物質投与の影響はないものと考えられた。回復期間終了時の検査では、雌の1,000 mg/kg群でプロトロンビン時間に延長が認められたが、軽微な変化であった。
生化学的検査の結果、投与終了時に雄の100および300 mg/kg群でカルシウムが、さらに300 mg/kg群でアルブミンが減少したが、いずれも用量相関性のない変化であった。また、雌のすべての被験物質投与群でγ-GPTの減少、カルシウムの増加、100 mg/kg群で血糖の増加が認められたが、カルシウムに関しては、対照群の値が背景値(9.60±0.28 mg/dl、n=35)に比較して僅かに低く、変動が小さいため、投与群で統計学的有意差が認められたもので、その他の項目に関しては、軽微かつ用量相関性のない変化であった。回復期間終了時の検査では、雄の1,000 mg/kg群でクレアチニンの増加、総蛋白、アルブミンおよびカリウムの減少が認められたが、いずれも軽微な変化で投与終了時には認められていないことから、毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった。
尿検査の結果、雌雄ともすべての被験物質投与群でウロビリノーゲン1.0 E.U./dl以上の動物が増加し、300 mg/kg以上の群で尿pH 5.5以下の動物が増加した。ウロビリノーゲンに関しては、血清生化学的検査および病理組織学的検査で肝臓が標的臓器でないと考えられることから、薬剤干渉が示唆され、以下の追加試験を行った。
| (1) | 試験に用いたと同系統、同週齢の雄ラットから尿を採取し、被験物質を加え、飽和させ(被験物質の水溶解度は90 mg/100 g)本試験で用いた尿検査試験紙N-マルティスティックスSGで検査したところ陰性であった。 |
| (2) | 上述(1)で用いた同一ラットに、被験物質1,000 mg/kgを単回投与した後、尿を採取し、本試験で用いたN-マルティスティックス試験紙で検査したところ陽性であった。N-マルティスティックス試験紙のウロビリノーゲンの測定はEhrlichアルデヒド反応を用いているため、これとは異なる測定反応系(ジアゾ・カップリング反応)を用いているウロペーパー“栄研”UAG-3を用いて同一尿を測定した結果、陰性であった。また、被験物質投与後2日の尿を両試験紙で検査した結果、陰性であった。 |
(1)および(2)の結果に加え、回復期間終了時の検査では、対照群と差がないことから、被験物質の代謝物による薬剤干渉の結果、陽性を示したものと考えられた。尿pHに関しては、上述の(1)および(2)で用いたと同一の尿について、N-マルティスティックス試験紙で検査した結果、(1)の尿ではpHは僅かに下がる程度でほとんど変わらず、(2)の尿ではpHが低下したことから、主に被験物質の代謝物の関与が考えられた。
その他、尿検査では、回復期間終了時の検査において、雄の1,000 mg/kg群で尿比重が高値を示したが、尿量が僅かながら少ないためで、投与終了時には認められなかった変化であり、被験物質の投与とそれに引続く休止との関連はないと考えられた。
臓器重量測定の結果、雌雄とも被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった。
病理学検査の結果、肉眼的にも、組織学的にも、被験物質投与によると示唆される病変は、雌雄ともに観察されなかった。
以上の結果、雌では測定および検査したすべての項目で、1,000 mg/kg投与群でも被験物質投与の影響が認められなかった。雄においても、300および1,000 mg/kg投与で極めて僅かな体重増加抑制傾向が認められたが、明確なものではなく、被験物質投与の影響と判断する程のものではなかった。従って、雌雄とも無影響量は1,000 mg/kg/dayと推察された。
| 1) | 大森義仁編,"化審法毒性試験法の解説改訂版,"化学工業日報社, 1992. |
| 2) | 吉村功編,"毒性・薬効データの統計解析," サイエンティスト社, 1987. |
| 3) | A. Jonckheere, Biometrika ,41, 133-145 (1954). |
| 連絡先: | |||
| 試験責任者 | 井上博之 | ||
| (財)食品農医薬品安全性評価センター | |||
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| Tel 0538-58-1266 | Fax 0538-58-1393 | ||
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| Inoue, Hiroyuki | |||
| Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-pyo Center), Japan | |||
| 582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan | |||
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