細胞増殖抑制試験の結果をもとに,短時間処理法のS9 mix存在下,非存在下で1600 μg/mLを最高濃度として,公比2で4濃度を設定した.連続処理法の24時間処理では,1600 μg/mLを最高濃度として,公差400で4濃度を設定した.
短時間処理法のS9 mix存在下および非存在下のいずれの処理群においても,染色体の構造異常や倍数性細胞の出現頻度は5 %未満であった.また連続処理法の24時間処理の1200,1600 μg/mLにおいて,染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ17.0,74.0 %であった.連続処理法24時間処理において,倍数性細胞の出現頻度は5 %未満であった.
以上の結果より,本試験条件下では2-エチル酪酸は,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
ディッシュ(径6 cm,Becton Dickinson and Company)に播き,37 ℃のCO2インキュベーター(5 % CO2)内で培養した.
短時間処理法では,細胞播種3日目にS9 mix存在下および非存在下で6時間処理し,処理終了後新鮮な培養液でさらに18時間培養した.また連続処理法では,細胞播種3日目に被験物質を加え,24時間処理した.
被験物質原体は,通常の取り扱い条件で安定である.酸化剤と激しく反応する.
その結果,2-エチル酪酸の約50 %の増殖抑制を示す濃度を,生存曲線において細胞増殖率が50 %前後を示す2点を結ぶ直線式より算出したところ,短時間処理法のS9 mix存在下および非存在下でいずれも1002 μg/mLであった.また連続処理法の24時間処理における約50 %の増殖抑制を示す濃度は1272 μg/mLであった(Fig. 1).
陽性対照として,短時間処理法のS9 mix存在下では,ベンゾ[a]ピレン(東京化成工業(株),ロット番号:GG01)の濃度を20 μg/mL,S9 mix非存在下では,マイトマイシンC(協和発酵工業(株),ロット番号:283AIG)の濃度を0.1 μg/mL,連続処理法では,マイトマイシンC(協和発酵工業(株),ロット番号:286AIH)の濃度を0.03 μg/mLに設定した.
連続処理法による染色体分析の結果をTable 2に示した.2-エチル酪酸を加えて24時間連続処理した結果,1200,1600 μg/mLで染色体の構造異常細胞の出現頻度はそれぞれ17.0,74.0 %であった.倍数性細胞の出現頻度は全ての処理条件で5 %未満であった.
なお,処理開始時および処理終了時の細胞処理液のpHを測定したところ,連続処理法24時間処理の1200,1600 μg/mLにおける細胞処理液のpHは6.6〜7.1であった.よって,染色体構造異常誘発は,細胞処理液のpH低下に起因するものではなく,被験物質の染色体異常誘発性に起因するものであると考えられた.
以上の結果から,2-エチル酪酸は本試験条件下において,染色体異常を誘発すると結論した.
なお,類似化合物である氷酢酸,酪酸ならびに乳酸は,いずれも連続処理法で陰性の結果が報告されている2).
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp.16-37. |
2) | 祖父尼俊雄監修,"染色体異常試験データ集〈改訂1998年版〉,"エル・アイ・シー,東京,1999. |
連絡先 | |||
試験責任者: | 中川宗洋 | ||
試験担当者: | 太田絵律奈,石毛裕子,成見香瑞範 | ||
(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所 | |||
〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14 | |||
Tel 0479-46-2871 | Fax 0479-46-2874 |
Correspondence | ||||
Authors: | Munehiro Nakagawa(Study director) Erina Ohta, Yuko Ishige, Kazunori Narumi | |||
Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd., Kashima Laboratory | ||||
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255 Japan | ||||
Tel +81-479-46-2871 | Fax +81-479-46-2874 |