雌においては,一般状態ではいずれの群とも異常はみられなかった.体重および摂餌量は,各投与群とも対照群との間に差がみられなかった.剖検では,各投与群とも投与による異常はみられなかった.器官重量では,各投与群とも対照群との間に差はみられなかった.病理組織学検査では,1000 mg/kg群において投与に起因すると思われる変化はみられなかった.
総出産児数,分娩率,哺育0日の新生児数,児の産出率,死産児数,出生率,性比,哺育4日の新生児数,哺育4日の生存率では,各投与群とも対照群との間に差はみられなかった.外表観察では,いずれの群においても異常はみられなかった.体重では,各投与群の雌雄とも哺育0日および哺育4日ともに対照群との間に差はみられなかった.一般状態では,対照群および各投与群とも異常症状はみられなかった.また,剖検では,いずれの群においても異常はみられなかった.
以上のことから,当試験条件下における2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの一般毒性学的無影響量は,いずれの項目にも影響が認められなかったことから雌雄とも1000 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,いずれの項目にも影響が認められなかったことから雌雄の生殖および児動物の発生とも 1000 mg/kg/dayと推察される.
被験物質は,0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液に懸濁して調製した.なお,0.2 ,2および 20 %濃度の調製液は,冷蔵・遮光条件下で7日間,さらに室温・遮光条件下で4時間保存しても安定性に問題のないことが確認されていたため,各濃度の調製液は調製後,冷蔵・遮光条件下で保管し,調製後7日以内に使用した.被験物質は純度による換算をしないで,投与量は原体重量で表示した.
動物は,室温 20〜24 ℃,湿度 40〜70 %,明暗各 12 時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数 12 回/時に設定した飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製懸垂式ケージを用いて1ケージあたり5匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製五連ケージを用いて個別飼育した.ただし,交配はステンレス製懸垂式ケージ内で行った.また,母動物は,妊娠 18 日にオートクレーブ処理した床敷(サンフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたプラスチック製ケージに個別に移し,自然分娩および哺育をさせた.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を,飲料水は水道水をいずれも自由に摂取させた.なお,剖検前日の午後4時からは絶食とした.
投与量は,先に実施した雄ラットを用いた2週間経口投与による予備試験(投与段階:0,30,100,300 および 1000 mg/kg,各群5例)の結果により決定した.すなわち,1000 mg/kg群でも死亡発現はなく,体重推移および剖検でも異常はみられなかった.そこで,当試験の投与量は,1000 mg/kgを最高用量とし,以下公比約3で 300,100 および 30 mg/kgとした.また,対照として被験物質と同一容量の媒体(0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液)を投与する群を設けた.
一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.
(2) 体重測定
体重は,1週間に2回測定した.
(3) 摂餌量測定
摂餌量は,交配開始前 14 日間および交配期間終了後から毎週2回測定した.
(4) 血液学検査
投与期間終了の翌日に,ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から血液を採取し,以下の検査を実施した.
赤血球数(RBC),ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数および白血球数(WBC)は,EDTA-2KコーティングしたSysmexサンプルカップに採取した血液について,多項目自動血球計数装置(Sysmex E-2000 ,東亜医用電子(株))を用いて測定した.さらに,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.
網状赤血球数(RET)は,EDTA-2K処理した血液をBrecher法により超生体染色してスライドグラスに塗抹後,Giemsa染色した標本を作製して顕微鏡下で赤血球 1000 個中の数を計数した.
白血球百分率は,EDTA-2K処理した血液をスライドグラスに塗抹し,May-Giemsa染色した標本を作製して顕微鏡下で白血球 100 個を分類計数した.
プロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)およびフィブリノーゲン濃度は,3.13 %クエン酸ナトリウムで処理した血漿について,散乱光検出方式により血液凝固分析装置(コアグマスター�供せ斡�(株))を用いて測定した.
(5) 血液生化学検査
血液学的検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液を遠心分離し,得られた血清について,以下の検査を実施した.
GOTおよびGPTはHenry変法,ALPはp-NPP基質法,γ-GTPはγ-G-P-NA基質法,総蛋白はBiuret法,総ビリルビンはAzobilirubin法,尿素窒素(BUN)はUrease・GlDH法,クレアチニンはJaff
法,ブドウ糖はGlucose dehydrogenase法,総コレステロールはCOD・DAOS法,トリグリセライドはGPO・DAOS法,Caはο-CPC法,無機リンはMolybdenum blue法により,自動分析装置(AU 500,オリンパス光学工業(株))を用いて測定した.
NaおよびKはイオン選択電極法により,Clは電量滴定法により,いずれも全自動電解質分析装置(EA04,(株)A & T)を用いて測定した.
蛋白分画は,電気泳動法により自動電気泳動装置(AES 600,オリンパス光学工業(株))を用いて測定した.
アルブミン量は総蛋白量および蛋白分画値から,A/G比は蛋白分画値から算出した.
(6) 剖検
上記の(4)および(5)の項で採血した動物をさらに放血致死させた後に器官・組織の肉眼的観察を行った.胸腺,肝臓,腎臓,精巣および精巣上体は摘出後に重量を測定し,副腎,脳,心臓および脾臓とともに 10 %中性緩衝ホルマリン液(ただし,精巣および精巣上体はブアン液)に固定した.
(7) 病理組織学検査
摘出した器官・組織について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.対照群および 1000 mg/kg群の心臓,肝臓,脾臓,胸腺,腎臓,精巣,精巣上体,副腎および脳についてH-E染色組織標本を作製し,病理組織学的に検査した.
一般状態および死亡の有無は,投与前・後の1日2回観察した.
(2) 性周期
性周期は,投与開始日から交尾確認日まで毎日1回観察した.なお,発情期が連続2日間にわたって観察された場合は1回と計数した.
(3) 体重測定
体重は,交配開始前 14 日間および交配期間中には毎週2回,妊娠期間中には妊娠0,7,14 および 21 日に,哺育期間には哺育0および4日にそれぞれ測 定した.
(4) 摂餌量測定
摂餌量は,交配開始前 14 日間までは毎週2回測定した.また,妊娠期間中は妊娠2,9,16 および 21 日に,哺育期間中は哺育4日に測定した.
(5) 交尾不成立雌の剖検
交尾不成立雌は,交配期間終了後にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,着床の有無により妊娠の成否を確認した.
(6) 分娩状態の観察
交尾雌は自然分娩させ,分娩状態の異常の有無,分娩終了の確認を妊娠 21 日から妊娠25 日の午前 10 時まで毎日行った.午前 10 時に分娩が終了していた場合,その日を哺育0 日とした.
(7) 哺育状態の観察および剖検
母動物は,哺育状態を哺育4日まで毎日観察し,哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,着床痕数および黄体数を数えた.肝臓,腎臓,胸腺および卵巣は摘出後に重量を測定し,副腎,脳,心臓および脾臓とともに 10 %中性緩衝ホルマリン液に固定した.
(8) 全出生児が死亡した母動物の剖検
全出生児が死亡した母動物は,発見後速やかにエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し,着床痕数および黄体数を数えた.
(9) 病理組織学検査
摘出した器官・組織について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.対照群および 1000 mg/kg群の心臓,肝臓,脾臓,胸腺,腎臓,卵巣,副腎および脳についてH-E染色組織標本を作製し,病理組織学的に検査した.
交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い,腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として,その日を妊娠0日として起算した.
出産時に総出産児数と性,死産児数,新生児数および外表異常の有無を観察した.
(2) 新生児の観察
新生児は,一般状態および死亡の有無を生存期間中毎日1回観察した.
(3) 体重測定
体重は,哺育0日(出生日)および4日に測定した.
(4) 剖検
新生児は,哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検した.
体重(親動物,新生児),摂餌量,発情回数,交尾日数,妊娠期間[分娩日(哺育0日)-交尾確認日],着床痕数,総出産児数(新生児数+死産児数),新生児数,死産児数,分娩率[(総出産児数/着床痕数)× 100],児の産出率[(哺育0日の新生児数/着床痕数)× 100],黄体数,着床率[(着床痕数/黄体数)× 100],出生率[(哺育0日の新生児数/総出産児数)× 100],哺育4日の新生児数,哺育4日の生存率[(哺育4日の新生児数/哺育0日の新生児数)× 100],外表異常出現率[(外表異常児数/新生児数)× 100],性比(雄/雌),器官重量(相対重量を含む),血液学検査成績,血液生化学検査成績については,各群で平均値および標準偏差を算出した.有意差検定は,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散ならば一元配置法による分散分析1)を行い,有意ならばDunnett法2)を用いて行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定3))を行い,有意ならば順位を利用したDunnett型の検定法を用いて行った.
交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)× 100],受胎率[(受胎雌数/交尾成立動物数)× 100],出産率[(新生児出産雌数/受胎雌数)× 100]は,χ^2検定を用いた.
死亡は,対照群,各投与群とも認められなかった.
一般状態観察において,対照群,30,100,300 および 1000 mg/kg群とも観察期間を通していずれの動物にも異常はみられなかった.
(2) 体重推移(Fig.1)
各投与群の体重は,対照群とほぼ同様の推移であり,いずれの測定日にも有意差はみられなかった.
(3) 摂餌量
30,100 および 1000 mg/kg群の摂餌量は,対照群とほぼ同程度であり,いずれの測定日にも有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて投与 41 日に摂餌量の有意な低値がみられたが,投与量に依存したものではなかった.
(4) 血液学検査(Table 1)
30,100 および 300 mg/kg群では,対照群と比べていずれの測定項目にも有意差はみられなかった.1000 mg/kg群では,対照群と比べてヘマトクリット値の有意な低値がみられた.
(5) 血液生化学検査(Table 2)
各投与群とも,対照群と比べていずれの測定項目にも有意差はみられなかった.
(6) 剖検
片側性の精巣上体の尾部に黄白色結節が対照群で1例,100 mg/kg群で2例と 1000 mg/kg群で1例にみられたが,いずれも少数例であり,投与によるものではないと判断した.なお,30 および 300 mg/kg群では,いずれにも異常はみられなかった.
(7) 器官重量(Table 3)
各投与群とも,対照群と比べていずれの器官重量にも有意差はみられなかった.
(8) 病理組織学検査(Table 4)
腎臓において近位尿細管内の好酸性小体,精巣上体において尾部の精子肉芽腫がみられたが,いずれも少数例であり,対照群でも同程度にみられていることから,偶発的変化と判断した.なお,精巣上体に変化が認められたものは,剖検において精巣上体の尾部に黄白色結節が観察された動物であった.その他には,心臓,肝臓,脾臓,胸腺,精巣,副腎および脳では対照群および 1000 mg/kg群とも異常はみられなかった.
死亡は,対照群,各投与群とも認められなかった.
一般状態観察において,対照群,30,100,300 および 1000 mg/kg群とも観察期間を通していずれの動物にも異常はみられなかった.
(2) 体重推移(Fig.2)
交配開始前および交配期間中,妊娠期間中ならびに哺育期間中を通じて,各投与群の体重は対照群とほぼ同様の推移であり,有意差はみられなかった.
(3) 摂餌量
交配開始前および交配期間中,妊娠期間中ならびに哺育期間中を通じて,各投与群の摂餌量は,対照群とほぼ同程度であり,いずれの測定日にも有意差はみられなかった.
(4) 剖検
対照群,30,100 および 300 mg/kg群では異常はみられなかった.1000 mg/kg群では,脾臓と腹壁と大網との癒着がみられたが,1例のみであり,投与によるものではないと判断した.
(5) 器官重量(Table 5)
各投与群とも,対照群と比べていずれの器官重量にも有意差はみられなかった.
(6) 病理組織学検査(Table 6)
副腎において片側性の束状帯巣状変性,脾臓において癒着性の炎症(剖検で脾臓と腹壁と大網との癒着が観察された動物)がみられたが,いずれも少数例であり,偶発的変化と判断した.その他には,心臓,肝臓,胸腺,卵巣,腎臓および脳では対照群および 1000 mg/kg群とも異常はみられなかった.
交配前の投与期間(14 日間)の発情回数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.
1000 mg/kg投与群の1組を除いた全例で交尾が確認された.交尾日数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.また,交尾率にも,各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.不受胎雌は,いずれの群にもみられなかった.したがって,受胎率はいずれの群とも 100 %であった.なお,受胎雌の全例が新生児を分娩した.
(2) 妊娠期間,分娩状態,黄体数,着床率および出産率(Table 8)
妊娠期間は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.また,いずれの動物とも分娩状態に異常はみられなかった. 黄体数,着床痕数および着床率は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.
出産率は,対照群,各投与群とも 100 %であった.
総出産児数および分娩率は,各投与群とも対照群の間に有意差はみられなかった.
哺育0日の新生児数,死産児数,出生率,児の産出率および性比は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.
新生児の一般状態では,いずれの群とも異常症状は観察されなかった.
哺育4日の新生児数および哺育4日の生存率は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.
新生児の外表異常の観察では,いずれの群とも異常はみられなかった.
(2) 新生児の体重(Table 8)
各投与群の体重は,哺育0日および4日とも雌雄ともに対照群との間に有意差はみられなかった.
(3) 新生児の剖検
対照群,300 および 1000 mg/kg群では,いずれにも異常はみられなかった.30 mg/kg群で片側性の水腎症が1例,100 mg/kg群で肝臓の白色化が1例にみられたのみであった.
雄動物に対しては,1000 mg/kg群でヘマトクリット値の軽度な低値がみられたが,当所のバックグラウンドデータの範囲内であることから,生理的範囲内の変動と考えられる.一般状態,体重推移,摂餌量,血液生化学検査,剖検所見,器官重量および病理組織学検査には1000 mg/kgの投与でも影響はみられなかった.
雌動物に対しては,1000 mg/kg群でも一般状態,体重推移,摂餌量,剖検所見,器官重量および病理組織学検査には投与に起因すると思われる変化はみられなかった.
したがって,当試験条件下における 2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの一般毒性学的無影響量は,雌雄とも 1000 mg/kg/dayと考えられる.
親動物の生殖発生に対しては,発情回数,交尾率,交尾日数,受胎率および受胎雌数には,各投与群とも影響はみられなかった.また,各投与群とも妊娠期間,分娩状態,黄体数,着床痕数,着床率および出産率にも影響はみられなかった.
新生児に対しては,各投与群で総出産児数,分娩率,死産児数,哺育0日の新生児数,出生率,児の産出率,性比には影響はみられなかった.外表観察では,いずれの群とも異常はみられなかった.また,一般状態,哺育4日の新生児数,生存率,体重,剖検にも影響はみられなかった.
したがって,当試験条件下における 2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの生殖発生毒性学的な無影響量は,雌雄の生殖および児動物の発生に関していずれも 1000 mg/kg/dayと推察される.
以上のように,2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルの一般毒性学的無影響量は,いずれの項目にも影響が認められなかったことから雌雄とも 1000 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,いずれの項目にも影響が認められなかったことから雌雄の生殖および児動物の発生とも 1000 mg/kg/dayと推察される.
| 1) | 佐久間昭,"薬効評価-計画と解析�機き�," 東大出版会,東京,1977,1981. |
| 2) | C. W. Dunnett,Biometrics,20,482(1964). |
| 3) | W. H. Kruskal,W. A. Wallis,J.Amer.Statist.Assoc.,47,583(1952). |
| 連絡先 | |||
| 試験責任者: | 古橋忠和 | ||
| 試験担当者: | 長瀬孝彦,藤村高志,内藤一嘉,牧野浩平,渡邊ゆかり,木村 均 | ||
| (株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所 | |||
| 〒 501-62 岐阜県羽島市福寿町間島6-104 | |||
| Tel 058-392-6222 | Fax 058-392-1284 | ||
| Correspondence | ||||
| Authors: | Tadakazu Furuhashi(Study director) Takahiko Nagase,Takashi Fujimura,Kazuyoshi Naitou,Kohei Makino,Yukari Watanabe and Hitoshi Kimura | |||
| Nihon Bioresearch Inc.Hashima Laboratory | ||||
| 6-104,Majima,Fukuju-cho,Hashima,Gifu,501-62,Japan | ||||
| Tel +81-58-392-6222 | Fax +81-58-392-1284 | |||