細胞増殖抑制試験で認められた懸濁物の残存が,染色体の顕微鏡観察に支障を来すことが懸念されたため,19.5(短時間処理法-S9処理のみ),78.1, 313, 1250, 5000 μg/mLの用量を用いた予備検討(顕微鏡観察可能用量の把握)を実施した.その結果を基に,短時間処理法-S9処理では78.1 μg/mLを最高処理濃度とし,9.77〜78.1 μg/mLの4用量を,+S9処理では1250 μg/mLを最高処理濃度とし,19.5〜1250 μg/mLの7用量を,連続処理法では78.0 μg/mLを最高処理濃度とし,4.88〜78.0 μg/mLの5用量を設定した.短時間処理法ではS9 mix存在下および非存在下で6時間処理(18時間の回復時間)後,連続処理法では,S9 mix非存在下における24時間連続処理後,標本を作製し,検鏡することにより染色体異常誘発性を検討した.短時間処理法-S9処理では9.77〜39.1 μg/mL,+S9処理では19.5〜78.1 μg/mL,連続処理法では4.88〜19.5 μg/mLのそれぞれ3用量について顕微鏡観察を実施した.
その結果,短時間処理ならびに連続処理のいずれの処理群においても,染色体の構造異常あるいは倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.
以上の結果より,本試験条件下ではC.I.ピグメントイエロー53は,染色体異常を誘発しない(陰性)と結論した.
成分 | S9 mix 1 mL中の量 |
S9 | 0.3 mL |
MgCl2 | 5 μmol |
KCl | 33 μmol |
G-6-P | 5 μmol |
NADP | 4 μmol |
HEPES緩衝液(pH 7.2) | 4 μmol |
精製水 | 残量 |
細胞を10 vol%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬工業(株))で固定した後,0.1 w/v%クリスタル・バイオレット(関東化学(株))水溶液で10分間染色した.色素溶出液(30 vol%エタノール,1 vol%酢酸水溶液)を適量加え,5分間程度放置して色素を溶出した後,580 nmでの吸光度を測定した.各用量群について溶媒対照群での吸光度に対する比,すなわち細胞生存率を算出した.
その結果,短時間処理法+S9処理においては明確な細胞毒性作用が認められなかったが,短時間処理法-S9処理および連続処理法において,用量相関的な細胞毒性作用が認められ,細胞増殖を50 %抑制する濃度は,短時間処理法-S9処理で1843 μg/mL,連続処理法で509 μg/mLと算出された(Fig. 1〜2).
なお,被験物質暴露終了時,懸濁処理のため,84.0 μg/mL以上の用量において懸濁物の残存が認められた.
なお,陽性対照として,短時間処理法の場合,-S9処理でマイトマイシンC(MMC:協和醗酵工業(株))を0.1 μg/mL,+S9処理でシクロホスファミド(CP:塩野義製薬(株))を12.5 μg/mLの用量で,連続処理法の場合マイトマイシンCを0.05 μg/mLの用量で試験した.
すべての標本をコード化した後,マスキング法で観察した.
各試験群の構造異常を有する細胞あるいは倍数性細胞の出現頻度を,石館ら3)の基準に従って判定した.染色体異常を有する細胞の出現頻度が5 %未満を陰性(-),5 %以上10 %未満を疑陽性(±),10 %以上を陽性(+)とした.最終的には再現性あるいは用量に依存性が認められた場合に陽性と判定した.
なお,統計学的手法を用いた検定は実施しなかった.
なお,本被験物質暴露終了時,懸濁処理のため78.0 μg/mL以上の用量において懸濁物の残存が認められた.
以上の試験結果から,本試験条件下においてC.I.ピグメントイエロー53のチャイニーズハムスター培養細胞に対する染色体異常誘発性に関し,陰性と判定した.
なお,本被験物質(C.I.ピグメントイエロー53)の変異原性に関する報告はなかった.本被験物質の構成物質である酸化アンチモン()は枯草菌胞子を用いたレックアッセイで陽性4),TA100およびTA98を用いたAmes試験では陰性4),V79細胞を用いた姉妹染色分体交換試験(SCE)では陽性4)との報告があった.酸化アンチモン()の類縁体である塩化アンチモン()はV79細胞を用いた小核試験は陽性5),V79細胞を用いたSCEでは陽性4)との報告があった.本被験物質の特性により,高用量処理領域での顕微鏡観察が十分できなかったため,陰性結果になった可能性も否定できない.
1) | Matsuoka, M. Hayashi and M. Ishidate Jr., Mutat. Res., 66, 277(1979). |
2) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988,pp. 31-35. |
3) | 石館基監修,"<改訂>染色体異常試験データ集,"エル・アイ・シー,東京,1987,pp. 19-24. |
4) | K. Kuroda, G. Endo, A. Okamoto, S.Y. Yoo and S. Horiguchi, Mutat. Res., 264(4), 163(1991). |
5) | T. Gebel, Mutat. Res., 412(3), 213(1998). |
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試験担当者: | 嶋田佐和子,菊池正憲,鈴木ゆみ子,永井美穂,梶原玲子,春田由美江 | ||
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