細胞増殖抑制試験結果をもとに,短時間処理法-S9処理では1700 μg/mLを最高処理濃度とした228〜1700 μg/mLの濃度範囲で10用量を,+S9処理では1088 μg/mLを最高処理濃度とした285〜1088 μg/mLの濃度範囲で7用量を設定した.S9 mix存在下および非存在下で6時間処理(18時間の回復時間)後,標本を作製し,検鏡することにより染色体異常誘発性を検討した.-S9処理では557, 696, 870, 1088 μg/mLの4用量(公比1.25),+S9処理では357, 446, 557 μg/mLの3用量(公比1.25)について顕微鏡観察を実施した.
その結果,-S9処理および+S9処理のいずれにおいても用量相関性を伴い,統計学的に有意な染色体異常の誘発が認められた.
以上の結果より,本試験条件下では4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)は,染色体異常を誘発する(陽性)と結論した.
成分 | S9 mix 1 mL中の量 |
S9 | 0.3 mL |
MgCl2 | 5 μmol |
KCl | 33 μmol |
G-6-P | 5 μmol |
NADP | 4 μmol |
HEPES緩衝液(pH 7.2) | 4 μmol |
蒸留水 | 0.1 mL |
12ウエルの細胞培養用マルチプレートに細胞を播種し,培養3日後に被験物質液を処理した.S9 mix非存在下(-S9処理)あるいは存在下(+S9処理)で6時間処理した後,新鮮な培養液に交換してさらに18時間培養を続けた.
細胞を10 vol%中性緩衝ホルマリン液(和光純薬工業)で固定した後,0.1 w/v%クリスタル・バイオレット(関東化学)水溶液で10分間染色した.色素溶出液(30 vol%エタノール,1 vol%酢酸水溶液)を適量加え,5分間程度放置して色素を溶出した後,分光光度計(105-50型:日立製作所)を用いて580 nmでの吸光度を測定した.各用量群について溶媒対照群での吸光度に対する比,すなわち相対細胞増殖率を算出し,さらにプロビット法(+S9処理)あるいは対数確率紙(-S9処理)を用いて50 %細胞増殖抑制濃度を算出した.
その結果,細胞増殖を50 %抑制する濃度は,短時間処理法-S9処理で1080 μg/mLおよび+S9処理で824 μg/mLと算出された(Fig. 1).
なお,被験物質処理開始および処理終了時,pHの変動,析出等の特筆すべき変化は,いずれの試験用量においても観察されなかった.
なお,陽性対照として,-S9処理でマイトマイシンC(MMC:協和醗酵工業)を0.1 μg/mL,+S9処理でシクロホスファミド(CP:塩野義製薬)を12.5 μg/mLの用量で試験した.
すべての標本をコード化した後,染色体分析を実施した.
各試験群の構造異常を有する細胞あるいは倍数性細胞の出現頻度を,Fisherの直接確率計算法(有意水準0.05)を用いて検定した.また用量依存性については,Cochran Armitageの傾向検定(有意水準0.05)を用いて検定した.溶媒対照群と比較し被験物質処理群において有意差が認められ,かつ,再現性あるいは用量に依存性が認められた場合に陽性と判定した.
また,分裂中期像の20 %にいずれかの異常を誘発するのに必要な被験物質濃度であるD20値を最小二乗法により算出し,一定濃度(mg/mL)あたりの交換型異常(cte)出現数を示す比較値であるTR値を,染色分体交換の出現頻度(%)を被験物質濃度(mg/mL換算)で割ることにより算出した.
変異原性の強さに関する相対的比較値であるD20値の最小値は0.788(mg/mL),TR値の最大値は20.6(mg当たり)と算出され,既知変異原性物質に比較して本被験物質の変異原性は弱いことを示していた.なお,被験物質処理開始および終了時,-S9処理において1360 μg/mL以上の用量で白色粉末状の析出物が観察された.
以上の試験結果から,本試験条件下において4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)のチャイニーズ・ハムスター培養細胞に対する染色体異常誘発性に関し,陽性と判定した.
なお,本被験物質[4,4'-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)]について,Ames試験で陽性との報告3)があった.また,類縁体であるβ-phenylethylhydrazine sulfateについてもAmes試験で陽性3)であった.さらに,本被験物質について,ラットおよびマウスを用いたUDS試験についても陽性結果との報告4)があった.
1) | Matsuoka A, Hayashi M, Ishidate M Jr: Chromosomal aberration tests on 29 chemicals combined with S9 mix in vitro. Mutation Res, 66: 277-290(1979). |
2) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会(編):「化学物質による染色体異常アトラス」朝倉書店,東京(1988)pp. 31-35. |
3) | 清水英佑,林和夫,竹村望:ヒドラジン化合物の突然変異誘起性に関する研究,とくに発がん性との関係について.Nippon Eiseigaku Zasshi. Japanese Journal of Hygiene, 33: 474-485(1978). |
4) | Genotoxicity of a Variety of Hydrazine Derivatives in the Hepatocyte Primary Culture/DNA Repair Test Using Rat and Mouse Hepatocytes. Japanese Journal of Cancer Research, 79: 204-211(1988). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 中嶋 圓 | ||
試験担当者: | 仲村渠奈美子,尾伸也 永井美穂,梶原玲子,田中 仁, 益森勝志,鈴木雅也 | ||
(財)食品農医薬品安全性評価センター | |||
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田582-2 | |||
Tel 0538-58-1266 | Fax 0538-58-1393 |
Correspondence | ||||
Authors: | Madoka Nakajima(Study director) Namiko Nakandakari, Shin-ya Ozaki, Miho Nagai, Reiko Kajihara, Jin Tanaka, Shoji Masumori, Masaya Suzuki | |||
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center) | ||||
582-2 Shioshinden , Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan | ||||
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