4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジブロモフェノール)の
ラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 4,4'-Isopropylidenebis(2,6-dibromophenol) in Rats

要約

既存化学物質の安全性点検調査事業の一環として,4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジブロモフェノール)について雌雄のSD系ラットに単回経口投与した時の毒性を検討した.投与用量は0および2000 mg/kgの2用量を設定した.

4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジブロモフェノール)を雌雄のラットに0および2000 mg/kgの用量を1回経口投与した結果,死亡は認められず,一般状態,体重および剖検で異常はみられなかった.本被験物質の半数致死量(LD50値)は雌雄とも2000 mg/kgより大と結論した.

方法

1. 被験物質

4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジブロモフェノール)(東ソー(株),山口,ロット番号8Y291G,純度99.5 %)は,融点182 ℃,沸点316 ℃,真比重2.2,水に難溶,アセトン,メタノールに易溶の常温で白色無臭の固体で,プラスチックス添加剤であるハロゲン系難燃剤(Fire retardants)1)の中の臭素系の代表物質として知られている.

被験物質原体は室温に保存し,試験に供した.被験物質は試験期間中安定であったことを確認した.投与液は冷蔵・暗所に保存し,試験に使用した.

2. 試験動物および飼育条件

日本チャールス・リバー(株)から入手した雌雄のSD系ラット(Crj:CD(SD)IGS, SPF)を,8日間検疫・馴化後,試験に供した.投与前日に体重層別化無作為抽出法により,1群につき雌雄各5匹に振り分けた.投与日の週齢は5週齢,体重範囲は雄が144〜158 g,雌が122〜131 gであった.

検疫・馴化期間を含めた全飼育期間を通して,温度22 ± 2 ℃,相対湿度55 ± 15 %,換気約12回/時,照明12時間/日(7:00-19:00)に自動調節した飼育室を使用した.

動物は,実験動物用床敷(ベータチップ:日本チャールス・リバー(株))を敷いたポリカーボネート製ケージに1ケージあたり5匹(同性)で収容し,飼育した.動物には,実験動物用固型飼料(MF:オリエンタル酵母工業(株))と,5 μmのフィルター濾過後,紫外線照射した水道水を自由に摂取させた.

3. 投与量および投与方法

投与経路は経口,投与回数は1回とした.投与前日から約18時間絶食させたラットにゾンデを用いて投与した.投与後約3時間は飼料を与えなかった.

投与用量は,予備検討の結果(100,500,1000および2000 mg/kg,動物数:1用量あたり雌雄各2匹),変化は認められなかった.この結果から,本試験では雌雄ともに2000 mg/kgの1用量とし,この他に溶媒(0.1 % Tween 80添加0.5 % CMC-Na水溶液)のみを投与する対照群を設けた.投与液量は10 mL/kgとし,投与直前の体重に基づいて算出した.被験物質は溶媒(0.1 % Tween 80 [DIFCO LABORATORIES]添加0.5 % CMC-Na[関東化学(株)]水溶液)に懸濁調製した.投与前に投与液中の被験物質の均一性および0.4 mg/mLと200 mg/mLの8日間の安定性について確認した.また,各用量群の投与液を分析し,被験物質の濃度が設定通りであることを確認した.

4. 観察および検査項目

1) 一般状態

投与日は30分,1,3および6時間の4回,以後は1日1回,14日間にわたって生死および一般状態を観察した.

2) 体重

体重は投与直前,第4,8および15日に測定した.

3) 病理検査

全例について観察終了後にチオペンタール・ナトリウム麻酔下で放血し,安楽死させた後,剖検した.

4) LD50値の算出

LD50値の算出は実施しなかった.

結果

1. 死亡動物

2000 mg/kg群で死亡は認められなかった.

2. 一般状態

全例に異常は認められなかった.

3. 体重

雌雄の2000 mg/kg群とも,対照群と同様に体重が推移した.

4. 剖検所見

全例に異常は認められなかった.

考察

4,4'-イソプロピリデンビス(2,6-ジブロモフェノール)をラットに1回経口投与した.

その結果,死亡は認められず,一般状態,体重および剖検で異常は認められなかった.

以上の結果から,本被験物質の半数致死量(LD50値)は雌雄とも2000 mg/kgより大と結論した.

文献

1)“第15類−プラスチックス添加剤,難燃剤(Fire retardants),ハロゲン系難燃剤,12093の化学商品,”化学工業日報社,東京,1993, p.947.

連絡先
試験責任者:須藤雅人
試験担当者:伊藤重美,泉孔美子,鈴木美江,増田久美子
(株)三菱化学安全科学研究所鹿島研究所
〒314-0255 茨城県鹿島郡波崎町砂山14
Tel 0479-46-2871Fax 0479-46-2874

Correspondence
Authors:Masato Sudo(Study director)
Shigemi Itoh, Kumiko Izumi, Yoshie Suzuki, Kumiko Masuda
Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd., Kashima Laboratory
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-0255 Japan
Tel +81-479-46-2871Fax +81-479-46-2874