メタクリルアミドのラットを用いる経口投与簡易生殖毒性試験

Preliminary Reproduction Toxicity Screening Test of Methacrylamide
by Oral Administration in Rats

要約

メタクリルアミドはアクリルアミドの誘導体であり,アクリルアミドに類似した性質を持つと考えられている.ラットを用いた単回経口投与毒性試験でのLD50値は,雄1789 mg/kg,雌1774 mg/kgであることが報告1)されている.アクリルアミドはヒトや実験動物に神経症状2)を誘発するが,メタクリルアミドにおいても神経毒性3, 4)が報告されている.一方,アクリルアミドは精巣萎縮などの生殖毒性3)を誘発するが,メタクリルアミド については生殖毒性5)に関する報告は少ない.今回,Sprague-Dawley系雌雄ラットの交配前14日から交配を経て,雄では連続42日間,雌では妊娠期間を通して哺育3日まで,メタクリルアミドの0,12.5,50および200 mg/kgを経口投与し,雌雄ラットに対する生殖毒性について検討した.

その結果,200 mg/kg投与群の雄13例中1例,雌13例中4例が死亡し,同群の雌1例は切迫屠殺した.一般状態の観察では,200 mg/kg投与群の全例に歩行異常が観察された.50 mg/kg以上の投与群において体重の増加抑制がみられ,雄では 50 mg/kg以上,雌では200 mg/kg投与群において摂餌量の低下がみられた.病理学検査では,200 mg/kg投与群で肺に炎症像が観察されたが,内部生殖器にはメタクリルアミドの投与に起因すると考えられる変化はなかった.

生殖毒性に関しては,200 mg/kg投与群で交尾率が低下したが,性周期および受胎率にはメタクリルアミドの影響はみられなかった.200 mg/kg投与群ではさらに妊娠期間が延長し,分娩および哺育状態に異常が観察された.出生児に関しては,200 mg/kg投与群において出生児の生存率が低下し,体重が低値を示したが,出生児の形態に異常は観察されなかった.

以上の結果から,本試験条件下におけるメタクリルアミドの雌雄動物に対する無作用量は 12.5 mg/kg/day,生殖毒性に対する無作用量は 50 mg/kg/day,出生児に対する無作用量は 50 mg/kg/day と判断された.

方法

1. 被験物質

メタクリルアミドは,融点112-114 ℃,沸点215 ℃の白色結晶の固体であり,試験には三井化学(株)(東京)より提供された被験物質(ロット番号:810160,純度:99 %)を使用した.受領した被験物質は使用時まで室温保管した.試験終了後は提供元で再分析し,試験期間中の安定性を確認した.

被験物質は,各濃度ごとに秤量し,注射用水 (製造番号:9707SA,光製薬(株))に溶解して用いた.調製した検体は投与時まで冷蔵,遮光条件下で保存し,調製後1週間以内に使用した.調製検体は,冷蔵,遮光条件下で12日間安定であり,初回調製時の各濃度の投与検体について被験物質の含量測定を実施した結果,いずれも所定量の被験物質が含有されていることを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

試験には,7週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD(SD)IGS, SPF)雌雄ラットを日本チャールス・リバー(株)の筑波飼育センターから購入し,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて入荷後12日間予備飼育して使用した.予備飼育中に雌は毎日腟スメアを採取し,性周期が4日周期を示した動物のみを試験に供した.群分けは,雌雄とも検疫終了日の体重を基にして体重別層化無作為抽出法により行い,雌雄とも1群13匹からなる4群に分けた.投与開始時の週齢は,雌雄ともに9週齢であった.

動物は,温度24 ± 1 ℃,湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に制御された飼育室で,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.交尾した雌については,妊娠14日から哺育4日まで,紙パルプ製チップ (ALPHA-dri加商(株))を入れたプラスチック製ラット用繁殖ケージに収容した.

3. 投与量の設定および投与方法

投与量は,予備試験の結果をもとに設定した.すなわち,雌雄ラットにメタクリルアミドの0,50,100および200 mg/kgを14日間反復経口投与した結果,100 mg/kg以上の投与群で体重の増加抑制および摂餌量の低下がみられ,200 mg/kg投与群では,精巣および精巣上体の重量が増加する傾向が認められたが,200 mg/kgは最大耐量を下回る量と判断して,高用量には200 mg/kgを設定し,公比4で減じて中用量には50 mg/kgを,低用量には12.5 mg/kgを設定した.対照群には,メタクリルアミドの媒体である注射用水を用いた.

投与期間は,雄に対しては交配前14日から交配を経て連続42日間,雌に対しては交配前14日から交配および妊娠期間を通して哺育3日(分娩日=哺育0日)までとし,1日1回,一定の時刻に投与した.なお,分娩しなかった雌および交尾が確認されなかった雌はいずれも剖検日前日まで投与を継続した.投与容量は体重1 kg当たり5 mLとし,雄および交配前,交配期間中の雌では,週1回測定した体重を基に,交尾した雌では,最新の測定体重を基に算出した.

4. 観察および検査

1) 親動物

(1) 一般状態

飼育期間中,毎日1回以上観察した.死亡例については発見後直ちに剖検した.また,翌日まで生存の可能性がないと判断した瀕死動物については,切迫屠殺した.

(2) 体重測定

投与期間中週1回〔雄:投与1,8,15,22,29,36,43日,雌:投与1,8,15日(未交尾雌は投与22,29,36,43,50日)〕および解剖日に測定した.交尾した雌は妊娠0,7,14,20日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定した.

(3) 摂餌量測定

投与期間中(交配期間を除く)週1回,体重測定日と同じ日に餌重量を測定し,1週間の摂餌量を算出した.交尾した雌は妊娠0〜7,7〜14,14〜20日,分娩した雌は哺育0〜4日の摂餌量を測定した.

(4) 性周期および交配

予備飼育中に引き続き投与開始日以降も,毎日,腟スメアを採取して,性周期を観察した.交配は,投与15日の夕方から最長2週間,同群内の雌雄を1対1で連続同居方式で行った.交尾の確認は,腟スメア中の精子および腟栓の確認により行い,交尾が確認された雌については,その日を妊娠0日として起算し,雄から分離して個別に飼育した.交配結果および妊娠の成否により,各投与群における交尾率〔(交尾動物数/同居動物数)×100〕,受胎率〔(妊娠動物数/交尾動物数)×100〕,同居開始日から交尾日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.

(5) 分娩および哺育状態の観察

交尾した雌は,全て自然分娩させた.分娩状態の直接観察は可能な動物についてのみ行い,分娩状態を直接観察できなかった動物は,分娩後の徴候から分娩障害の有無を判断して記録した.分娩の確認は,午前9時〜11時に行い,分娩が完了していることを確認した動物については,その日を分娩日(哺育0日)として妊娠期間(妊娠0日〜分娩日の日数)を計算した.分娩後は,哺育状態を毎日観察した.

(6) 剖検・病理組織学検査

雄動物は,投与42日の翌日に,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,剖検した.その際,精巣および精巣上体の重量を測定した.また,精巣および精巣上体はブアン液に固定し,高用量群および対照群の全例について,病理組織学検査を実施した.剖検により異常を認めた器官は,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定し,病理組織学検査を実施した.

雌動物のうち,分娩した雌は哺育4日に,交尾は確認されたが分娩しなかった雌は妊娠26日相当日に,また交尾が確認されなかった雌は交配終了日の24日後に,それぞれ致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,剖検した.その際,卵巣および子宮を摘出して,卵巣については実体顕微鏡下で黄体数を,子宮については着床数を数え,着床率〔(着床数/黄体数)×100〕を算出した.卵巣については,さらにブアン液に固定し,高用量群および対照群の全例について,病理組織学検査を実施した.剖検により異常を認めた器官は,0.1 Mリン酸緩衝10 vol%ホルマリン溶液に固定し,病理組織学検査を実施した.

2) 出生児

(1) 産児数および死亡児

哺育0日に産児数(生存児+死亡児)を数えて,分娩率〔(産児数/着床痕数)×100〕および生児出産率〔(出産生児数/着床痕数)×100〕を求めた.また,出産率〔(生児出産雌数/妊娠動物数)×100〕を算出した.生存児は外表を観察し,性別および外表奇形(矮小児を含む)の有無を検査した.

哺育0日以降は生児数を毎日調べ,出生率〔(出産生児数/総産児数)×100〕および新生児生存率〔(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)×100〕を求めた.死亡児は剖検し,外表および内部器官の異常の有無を検査した.

(2) 体重

哺育0および4日に個体別に測定し,各腹ごとに雌雄別の平均値を算出した.

(3) 剖検

出生児は哺育4日に剖検し,外表および内部器官の異常の有無を観察した.

5. 統計解析

交尾率,受胎率および出生児の形態異常出現頻度についてはFisherの直接確率検定を行った.病理組織学所見では,グレード分けしたデータは,Mann-WhitneyのU検定を,陽性グレードの合計値はFisherの直確率の片側検定を行った.その他のデータは,個体ごとに得られた値あるいは各腹ごとの平均値を1標本として,Bartlett法により各群の分散の一様性について検定を行い,分散が一様である場合には一元配置型の分散分析を,分散が一様でない場合にはKruskal-Wallisの順位検定を行った.群間に有意性が認められた場合は,Dunnett法により多重比較を行った.なお,有意水準は5 %とした.

結果

1. 親動物

1) 死亡動物

200 mg/kg投与群の雄1例および雌4例が投与27日以降に途中死亡したほか,同群の雌1例を切迫屠殺した50 mg/kg以下の投与群においては,死亡動物はいなかった.

2) 一般状態

歩行異常(引きずり歩行)が200 mg/kg投与群の雌雄全例に観察された.歩行異常は最も早い動物で投与23日から観察され,いずれの動物においても剖検日または死亡前日まで継続して認められた.同群ではさらに削痩が雄2例,雌1例,自発運動減少が雌1例,一過性の流涎が雄1例,排便量減少が雌雄各1例,努力呼吸が雌1例,体表温低下が雌2例,紅涙が雌1例,頻呼吸および立毛が雌1例,口または排泄口周囲の汚れが雄1例,雌4例に観察された.その他の投与群では,前肢の脱毛が対照群の雌雄各1例および12.5 mg/kg投与群の雌1例に,紅涙が対照群の雄1例および12.5 mg/kg投与群の雄1例に観察された.

3) 体重(Tables 1, 2)

雄では,50 mg/kg以上の投与群において体重の増加抑制がみられた.50 mg/kg投与群では投与初期に体重増加量が対照群と比較して有意に低下し,200 mg/kg投与群では全投与期間を通して,体重が対照群よりも低値で推移した.

雌では,50 mg/kg以上の投与群において体重の増加抑制がみられた.50 mg/kg投与群では投与1〜8日の体重増加量が対照群と比較して有意に低下し,200 mg/kg投与群では妊娠および分娩後を含む全投与期間を通して,体重が対照群よりも低値で推移した.その他12.5 および50 mg/kg投与群では,妊娠0〜14日の体重増加量が対照群と比較して有意に増加したが,メタクリルアミドの影響を示唆する変化ではないと判断した.

4) 摂餌量(Tables 3, 4)

雄では,50 mg/kg以上の投与群において摂餌量の低下が認められた.50 mg/kg投与群では投与8〜15日の摂餌量が対照群と比較して有意に低下し,200 mg/kg投与群では全投与期間を通して,摂餌量が対照群よりも低値で推移した.

雌では,200 mg/kg投与群において摂餌量の低下が認められ,投与1〜8日,妊娠7〜14日および哺育0〜4日の値が対照群より有意に低下した.50 mg/kg以下の投与群においては,対照群との間に有意差は認められなかった.

5) 剖検所見

(1) 死亡および切迫屠殺例

肺には淡色部が雌2例,暗色部が雄1例,雌4例に観察されたほか,腎盂の拡張および膀胱の拡張が雌1例に認められた.その他,雌1例では,子宮内に浸軟胎児が観察された.

(2) 投与終了時剖検例

精巣上体には淡色結節が対照群の2例および200 mg/kg投与群の1例に,暗色結節が12.5 mg/kg投与群の1例に観察された.200 mg/kg投与群の肺には,淡色部が雌雄各2例,暗色部が雄6例,雌3例,暗色点が雄1例に観察された.その他,対照群の1例では子宮内に浸軟胎児が認められた.

6) 器官重量(Table 5)

精巣および精巣上体の実重量には,対照群とメタクリルアミド各投与群との間に有意差は認められなかった.精巣および精巣上体の比体重値は,200 mg/kg投与群の値が対照群と比較して有意な高値を示した.

7) 病理組織学検査(Table 6)

(1) 死亡および切迫屠殺例

卵巣,精巣および精巣上体に著変は認められなかった.肺では,異物巨細胞を伴った肉芽腫が雌4例に,水腫および好中球浸潤が雄1例,雌4例に,マクロファージの浸潤が雄1例,雌3例に,動脈の鉱質沈着が雌1例,出血が雄1例に観察され,気管支では腔内に好中球の浸潤および異物が雌3例,雄1例,腎臓では乳頭に好中球の浸潤および蛋白円柱が雌1例,膀胱には粘膜下織の出血が雌1例に観察された.

(2) 投与終了時剖検例

精巣上体には,精子肉芽腫が200 mg/kg投与群の2例に観察された.精巣および卵巣には著変はみられなかった.さらに病変部として200 mg/kg投与群の雄7例,雌3例の肺および気管支を検索した結果,肺には異物巨細胞を伴った肉芽腫が雌雄各3例,肉芽腫が雄1例,水腫が雄1例および雌3例に,好中球浸潤が雌雄全例に,マクロファージの浸潤が雌雄各3例,動脈の鉱質沈着が雌雄各1例,出血が雄2例に認められ,気管支では腔内の好中球浸潤が雄2例,雌1例に,気管支腔内の異物が雌1例に観察された.

8) 性周期および交配成績(Table 7)

性周期にはメタクリルアミドの影響を示唆する変化はみられなかった.交配検査の結果,200 mg/kg投与群では交尾率が低下したが,受胎率にはメタクリルアミドの影響は認められなかった.また,交尾までの日数およびその間の発情数に,対照群とメタクリルアミド各投与群との間に有意差は認められなかった.

9) 出産率および妊娠期間(Table 8)

出産率には,メタクリルアミドの影響を示唆する変化はみられなかった.妊娠期間は200 mg/kg投与群において有意に延長したが,50 mg/kg以下の投与群では対照群との間に有意差は認められなかった.

10) 黄体数,着床数および着床率(Table 8)

黄体数,着床数および着床率には,メタクリルアミドの影響を示唆する変化はみられなかった.

11) 分娩および哺育状態

分娩状態の観察では,分娩時間の延長が200 mg/kg投与群の2例に観察され,その内の1例は哺育2日に母動物が死亡し,他の1例は哺育3日に全児が死亡した.哺育状態の観察では,児にミルクスポットの確認されない例が12.5 mg/kg投与群の1例および200 mg/kg投与群の4例に,乳頭の突出不良が12.5 mg/kg投与群の1例および200 mg/kg投与群の2例に観察された.200 mg/kg投与群ではさらに,児を集めない例が2例に観察された.

2. 出生児

1) 生存性(Table 8)

200 mg/kg投与群の総出産児数が低下傾向を示し,分娩率,出産生児数,出生率,生児出産率,哺育4日の生児数および新生児生存率が対照群と比較して有意に低下した.50 mg/kg以下の投与群には著変はみられなかった.

2) 体重(Table 8)

200 mg/kg投与群の哺育0日の体重が雌雄とも有意に低下し,哺育4日の体重が雌雄とも低下傾向を示した.50 mg/kg以下の投与群においては,対照群との間に有意差は認められなかった.

3) 形態

哺育0日の生存児に外表奇形は観察されなかった.なお,矮小児が50 mg/kg投与群に1例,200 mg/kg投与群の1腹に6例みられた.哺育4日の剖検では異常は観察されなかった.

考察

メタクリルアミドの12.5,50および200 mg/kgを Sprague-Dawley系雌雄ラットの交配前14日から交配を経て,雄では連続42日間,雌では妊娠期間を通して哺育3日まで経口投与し,生殖毒性について検討した.

その結果,200 mg/kg投与群において歩行異常が全例に観察され,雄1例および雌4例が死亡したほか,同群の雌1例は切迫屠殺した.メタクリルアミドはアクリルアミドに類似した末梢性の神経毒性を示す物質として報告3)されており,Wistar系ラットを用いた実験6)において脛骨および腓骨神経に髄鞘の萎縮や消失が報告されている.したがって,歩行異常は,メタクリルアミドにより誘発された変化と判断される.体重および摂餌量は,50 mg/kg以上の投与群において用量依存的に抑制された.上記のWistar系ラットを用いた実験6)やSprague-Dawley系ラットを用いた28日間反復投与毒性試験4)においても,体重の増加抑制がみられていることから,本試験でみられた体重および摂餌量の変化もメタクリルアミドの投与に起因したものと考えられる.剖検および病理組織学検査では,200 mg/kg投与群の肺に炎症像が観察され,その程度は死亡例で重度であった.アクリルアミドを含む類似物質では,本試験でみられた肺病変の原因を特定できる情報は得られなかったが,本試験の50 mg/kg以下の投与群には肺病変がみられていないこと,200 mg/kg投与群では気管支腔内に異物が認められていることなどから,高濃度のメタクリルアミドの投与により神経障害に関連した誤嚥を引き起こした可能性が考えられる.一方,内部生殖器には,死亡例を含む全ての動物で著変は認められなかった.雄のddYマウスを用いた実験3)においても,メタクリルアミドは他のアクリルアミド類似物質と異なり,精巣には影響を及ぼさないことが報告されていることから,メタクリルアミドは神経症状を呈する用量を反復投与しても内部生殖器の異常は起こさないものと考えられた.なお,200 mg/kg投与群の精巣および精巣上体の相対重量が対照群よりも高値を示したが,これらは同群の解剖時体重が低値であったことに起因するもので,メタクリルアミドの雄性生殖器への影響を示唆する変化ではないと判断した.

生殖能力については,200 mg/kg投与群で交尾率が低下した.雌の性周期および受胎率にはメタクリルアミドの影響はみられていないこと,アクリルアミドにおいても神経症状を呈す用量では交尾行動の異常7)が報告されていることなどから,メタクリルアミドは歩行異常以外に交尾行動にも影響を及ぼす可能性が示唆された.その他,200 mg/kg投与群では群平均の妊娠期間が延長し,分娩および哺育状態においても,分娩時間の延長や児を集めないなどの異常を示した例が観察されたことから,メタクリルアミドの影響が疑われた.なお,妊娠動物の黄体数,着床数および着床率には,メタクリルアミドの影響はみられなかったことから,アクリルアミドで報告されている着床への影響8)は,メタクリルアミドにはないと考えられた.

出生児については,生存性が200 mg/kg投与群において低下し,同群の出生児体重も低値を示した.Swissマウスを用いた発生毒性試験9)では,180 mg/kg/dayの投与により出生児の生存性の低下,120 mg/kg/day以上の投与により出生児体重の低下が報告されていることから,メタクリルアミドが出生児に影響を及ぼす可能性は否定できない.しかしながら,本試験の200 mg/kg投与群においては,母動物の体重推移も対照群と比較すると著しく低下していること,出生児の形態には何ら異常は認められていないことなどから,出生児にみられた変化は,母体環境の悪化に伴った二次的影響と考える方が妥当であろう.

以上の結果から,本試験条件下におけるメタクリルアミドの雌雄動物に対する無作用量は12.5 mg/kg,生殖毒性に対する無作用量は50 mg/kg,出生児に対する無作用量は50 mg/kgと考えられた.

文献

1)須永昌男ら, 化学物質毒性試験報告,7, 41(1999).
2)H. A. Tilson, Neurobehav. Toxicol. Teratol., 3, 445(1981).
3)K. Hashimoto, J. Sakamoto, H. Tanii, Arch. Toxicol., 47, 179(1981).
4)須永昌男ら, 化学物質毒性試験報告,7, 44(1999).
5)R. E. Chapin et al., Fundam. Appl. Toxicol., 27, 9 (1995).
6)H. Tanii, K. Hashimoto, Arch. Toxicol., 54, 203 (1983).
7)H. Zenick, E. Hope, J. Toxicol. Environ. Health, 17, 457(1986).
8)N. Holland, et al., Reprod. Toxicol., 13, 167(1999).
9)J. D. George, et al., Toxicologist, 11, 343(1991).

連絡先
試験責任者:太田 亮
試験担当者:渡辺千朗,永田伴子,堀内伸二, 稲田浩子,三枝克彦,安生孝子
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-4751

Correspondence
Authors:Ryo Ohta(Study director)
Chiaki Watanabe, Tomoko Nagata, Shinji Horiuchi, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano, Kanagawa 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627