2−ヒドロキシプロパンニトリルのラットを用いた単回投与毒性試験

Single Dose Toxicity Test of 2-Hydroxypropanenitrile in Rats

要約

2−ヒドロキシプロパンニトリルをSD系(Crj:CD)ラットの雌雄に単回経口投与した時の毒性について検討した。

雄は15、21、30、42および60 mg/kgの5用量、雌は21、30、42、60および84 mg/kgの5用量を設定し、1群各5匹に投与した。

死亡動物は雄の21 mg/kg、雌の30 mg/kg以上の群で認められ、雄の60 mg/kg群、雌の84 mg/kg群で全例が死亡した。死亡の発現は投与後15分から1時間以内であった。

一般状態の観察では、投与当日に自発運動量減少、歩行失調、つま先立ち歩行、うずくまり、横たわり、強直性痙攣、間代性痙攣、振戦、呼吸緩徐およびあえぎが観察されたが、全ての動物の症状は投与後6時間には消失した。

体重では、いずれの被験物質投与群も順調な体重推移を示した。

剖検において、死亡動物では心房拡張、肺の鬱血・水腫・出血、気管内粘液貯留、小腸のびらん/潰瘍・鬱血等が認められた。生存動物では異常は認められなかった。

LD50値は、雄が31.0 mg/kg(95%信頼限界:22.8〜42.8 mg/kg)、雌が41.1 mg/kg(95%信頼限界:29.8〜56.4 mg/kg)であった。

緒言

2−ヒドロキシプロパンニトリルはDL−アラニンの合成に利用されている。毒性は強く、経口、経皮、経粘膜のいずれの経路でも強い中毒症状が現れる。実験動物では、0.05 ml程度の原液を眼に接触させると5分以内に死亡し、皮膚接触によるLD50値は1 ml/kg以下で1時間以内に死亡するといわれている。

今回、2−ヒドロキシプロパンニトリルをラットの雌雄に単回経口投与した時の毒性について検討したので報告する。

方法

1. 被験物質

日本化学工業協会より提供された2−ヒドロキシプロパンニトリル(関東化学株式会社, Lot No. 210P4102, 純度92.3%)を使用した。被験物質は黄褐色の液体である。なお、本ロットについては投与開始前および投与終了後に分析し、安定であることを確認した。

2. 試験動物

日本チャールス・リバー株式会社より1991年9月4日に購入したSD系(Crj:CD)ラット(SPF)の雌雄を6〜7日間馴化し、健康な動物を試験に使用した。1用量群の動物数を5匹とし、投与前日に各群の平均体重がほぼ均一になるように体重別層化無作為抽出法により群分けした。投与時の週齢は5〜6週齢、体重範囲は雄で153g〜182g、雌で113g〜139gであった。

3. 動物飼育

1) 飼育管理

馴化・検疫期間を含めた全飼育期間中、温度20〜25℃、湿度40〜70%R.H.、換気約12回/時、照明12時間(7:00〜19:00)に自動調節された飼育室を使用した。

実験動物用床敷(ベータチップ:日本チャールス・リバー株式会社)を敷いたポリカーボネート製ケージ(265W×426D×200Hmm)に1ケージ当り5匹(同性)で収容し、スチール製架台上で飼育した。ステンレス製の固型飼料用給餌器およびポリカーボネート製の給水瓶(700ml)を用いた。

ケージ(含床敷)、給餌器および給水瓶は、週1回の頻度でオートクレーブ滅菌したものと交換した。

2) 飼料

実験動物用固型飼料(MF:オリエンタル酵母工業株式会社)を自由摂取させた。飼料は週1回の頻度で交換した。残留農薬等汚染物質の分析値が当社のSOPで定めた濃度以下であることが保証された飼料を使用した。

3) 飲水

5μmのフィルター濾過後、紫外線照射した水道水を自由摂取させた。飲水は週1回の頻度で交換した。なお水道法に準拠した水質検査を定期的に行い、厚生省令56の別表に定める基準範囲内であることを確認した。

4. 投与液の調製

秤量した被験物質を精製水に溶解調製した。

5. 投与

1) 投与用量および投与液量

予備試験の結果を参考に、雄は15、21、30、42、60 mg/kgの5用量、雌は21、30、42、60、84 mg/kgの5用量を投与した。投与液量は10 ml/kgとした。

2) 投与方法

投与前日の夕方から絶食させ、胃ゾンデを用いて、胃内に1回強制経口投与した。投与後約3時間は飼料を与えなかった。

6. 観察および検査方法

1) 一般状態

投与当日は投与後5、15、30分、1、3および6時間、以後1日1回、14日間にわたって各動物の生死および一般状態を観察した。

2) 体重

投与日を0日として、投与直前、投与後7および14日に体重を測定した。測定には上皿電子天秤(EB-5000:株式会社島津製作所)を使用した。

3) 剖検

死亡動物については、発見後速やかに剖検した。生存動物については観察終了後(投与後14日)にペントバルビタール・ナトリウム(ネンブタール注射液:ダイナボット株式会社)麻酔下で腹大動脈を切断し、放血致死させ剖検した。

4) LD50値の算出

各用量群における投与後14日の死亡率をもとにProbit法によりLD50値を算出した。

結果および考察

1. 死亡動物(Table 1)

雄では21 mg/kg以上、雌では30 mg/kg以上の群で死亡が認められ、雄の60 mg/kg、雌の84 mg/kg群で全例が死亡した。死亡の発現は投与後15分から1時間以内であった。

LD50値は雄が31.0 mg/kg(95%信頼限界:22.8〜42.8 mg/kg)、雌が41.1 mg/kg(95%信頼限界:29.8〜56.4 mg/kg)である。

2. 一般状態

投与当日に雌雄とも20 mg/kg以上の群で自発運動量減少、歩行失調、横たわり、間代性痙攣、強直性痙攣、呼吸緩徐、あえぎが観察された。その他に一部の動物でつま先立ち歩行、うずくまり、振戦も観察された。これらの症状は、いずれも投与後5分から観察されたが投与後6時間までには消失した。

3. 体重

14日間の観察期間を通していずれの群も順調な体重推移を示した。

4. 剖検

死亡動物の剖検では、心房拡張、肺の鬱血・水腫・出血、気管内粘液貯留、小腸のびらん/潰瘍および鬱血が認められた。生存動物の観察終了後の剖検では、被験物質投与に起因すると考えられる変化は認められなかった。

連絡先:
試験責任者松浦郁夫
(株)三菱化成安全科学研究所鹿島研究所
〒314-02 茨城県鹿島郡波崎町砂山14
Tel 0479-46-2871Fax 0479-46-2874

Correspondence:
Matsuura, Ikuo
Mitsubishi-Kasei Institute of Toxicological and Environmental Sciences, Japan
14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, 314-02, Japan
Tel 81-479-46-2871Fax 81-479-46-2874