トリイソブチレンのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Triisobutylene in Rats

要約

 既存化学物質の安全性を評価するため,トリイソブチレンを雌雄のCrj:CD(SD)系ラットに単回経口投与し,急性毒性を検討した.なお,投与量は雌雄ともに2,000 mg/kg とした.

 上記の試験は,OECD毒性試験ガイドライン401(1987年2月24日)に従い,環企研第233号,衛生第38号,63基局第823号(昭和63年11月18日)の「新規化学物質に係る試験及び指定化学物質に係る有害性の調査の項目等を定める命令第4条に規定する試験施設について」に基づいて実施したものである.

 試験の結果,死亡例は雌雄ともに認められず,LD50値は2,000 mg/kg以上と推定された.一般状態の観察では,雌雄ともに自発運動低下および下痢がみられ,さらに雄で軟便が認められた.投与後の体重は,雌雄とも観察終了時まで順調に増加した.観察終了時の剖検では,雌雄ともに肉眼的異常は認められなかった.

方法

1.被験物質

 トリイソブチレン(CAS No.7756-94-7,別名:イソブチレントリマー,丸善石油化学(株)製造,(社)日本化学工業協会提供)は無色透明の液体で非水溶性,分子式C12H24,分子量168.3の物質である.本試験に用いたロット227606の純度は99.13%以上であった.

2.供試動物

 5週齢の Crj:CD(SD) 系ラット(SPF) 雌雄各30匹を日本チャールス・リバー(株)(神奈川県厚木市)から購入した.動物は,8日間検疫・馴化飼育した後,6週齢で投与に用いた.投与時の体重は,雄で164〜171 g,雌で128〜132 gであった.

3.飼育

 動物は,温度21〜25℃,湿度45〜65%,換気回数20回/時間,照度150〜300 lux,照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定された飼育室(W 3.6×D 10×H 2.5 m,90 m^3)で,(株) 東京技研サービス(東京都府中市)の自動水洗式飼育機(W 745.0×D 50.0×H182.0 cm)を使用し,金属製網目飼育ケージ(W 21.5×D 27.5×H 19.5 cm,飼育ケージ・スペース11,529 cm^3)に5匹ずつ収容して飼育した.飼育ケージおよび給餌器は週1回取り換えた.動物には,オリエンタル酵母工業(株)(東京都中央区)製造の固型飼料MFを自由に摂取させ,飲料水としては,水道水を自由に摂取させた.

4.用量設定理由

 本試験に先立ち,雌雄各3匹のラットを用いて予備試験を実施した結果,2,000 mg/kgの投与では死亡例は認められなかった.この結果を参考にして,本試験ではOECDガイドラインに従って雌雄ともに2,000 mg/kgの1用量を設定した.

5.投与液の調製および投与方法

 所定量の被験物質をコーンオイル(ナカライテスク(株),京都府京都市)に溶解し,20w/v%液を調製した.

 投与経路は,経口とし,投与前16時間絶食させた動物に上述の被験物質溶液を注射ポンプおよび胃ゾンデを用い,投与した.

 投与容量は体重100 gあたり1 mlとし,個体別に測定した体重に基づいて算出した.

給餌は被験物質投与後3時間に行った.

6.一般状態の観察

 中毒症状および生死の観察は,投与後6時間までは1時間間隔,以後1日2回午前と午後(休日は午前のみ)14日間にわたって実施した.

7.体重

 体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.

8.病理解剖

 観察終了時に全個体をエーテル麻酔後放血安楽死させ解剖し,全身の器官・組織を肉眼的に観察した.

結果および考察

1.死亡率およびLD50値

 死亡動物は,雌雄いずれの群にも認められず,従ってLD50値は雌雄ともに2,000 mg/kg以上と推定された.

2.一般状態

 一般状態の観察では,投与後2から3時間に自発運動低下が雄1例および雌3例にみられ,さらに投与後3から5時間に下痢あるいは軟便が雄4例および雌全例に認められた.これらの症状は比較的軽度で,投与後2日までに全て消失した.

3.体重

 投与後7および14日の体重測定では,いずれも1週間前の測定値に比較して雌雄の全例に増加が認められた.

4.剖検所見

 観察終了時における剖検では,雌雄ともに肉眼的異常は認められなかった.

連絡先
試験責任者:大庭耕輔
試験担当者:藤島 敦
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Kousuke Oba (Study director),
Atsushi Fujishima
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan
Tel +81-538-58-1266Fax +81-538-58-1393