3,4-ジクロロ-1-ブテンのラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of 3,4-Dichloro-1-butene in Rats
要約
主にプラスチック産業で,合成ポリマーの製造に用いられている既存化学物質
3,4-ジクロロ-1-ブテンの単回経口投与毒性試験を,SD系[Crj:CD(SD)]ラットを雌雄各1群5匹用い,0(対照),670,804,965,1158,1398および1660 mg/kg(公比1.2)用量の投与により実施した.死亡は,投与後1時間以降3日までみられ,その多くが投与翌日から2日に認められた.中毒症状としては自発運動の低下,呼吸深大,眼瞼下垂,流涎,筋弛緩,腹臥姿勢,立毛,鼻汁による鼻周囲被毛の汚染などが認められた.体重は投与翌日に減少した.生存動物の症状は概ね2日には回復し,体重も3日以降順調に増加した.剖検においては,死亡動物で肺の膨化,膀胱の尿貯留による膨満,膀胱内緑色結晶物が雌雄に,腺胃粘膜の黒色点散在が雌にみられた.LD50値(95%信頼限界)は雄で943(828〜1068)mg/kg,雌で946(808〜1085)mg/kgであった.
方法
1. 被験物質
3,4-ジクロロ-1-ブテンは,分子量124.99,融点-61℃の無色透明な液体で,水に溶けにくく,エタノール,植物油に溶けやすく,ベンゼン,クロロホルムに極めて溶けやすい.試験には,東京化成工業(株)製造の試薬(ロット番号FHD01,純度99.7%)を入手し,これを投与直前に局方ゴマ油(宮澤薬品)に溶解させて投与液とした.
2. 使用動物および飼育条件
日本チャールス・リバー
(株)より搬入したSD系[Crj: CD(SD)]雌雄ラットを5日間馴化・検疫飼育し,5週齢(雄125〜138 g,雌110〜122 g)で,1群雌雄各5匹として用いた.ラットは,温度22±3℃,湿度55±10%,換気回数10回以上/時,照明12時間(6〜18時)に設定された飼育室で,金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料〔ラボMRストック,日本農産工業(株)〕と水は自由に摂取させた.ただし,投与前日午後5時から投与後3時間まで除餌し,水のみを与えた.
3. 投与量および投与方法
投与量設定試験として,雌雄ラットに,
372,521,729,1020,1429および2000 mg/kg用量を単回経口投与した結果,死亡率(死亡動物数/供試動物数)は,各々雌雄とも0/3,0/3,0/3,1/3,3/3および3/3であった.そこで,本試験の用量は,雌雄とも0,670,804,965,1158,1398および1667 mg/kg(公比1.2)に設定した.投与方法は,投与液量を体重1kg当たり10 mlとし,胃ゾンデを装着した注射筒を用いて強制的に動物の胃内に単回経口投与した.対照群には溶媒を同様に投与した.
4. 観察事項
観察期間は投与後
14日間とし,その間に一般状態の観察と生死の確認を,投与日は頻回に,その後は,少なくとも1日1回行った.体重は,投与直前(投与0日),投与後1,3,7および14日に,また死亡動物については発見日にも測定した.剖検は,死亡例については発見後速やかに,生存例については観察期間終了後にエーテル麻酔死させて行った.LD50値は,投与後14日間の観察期間終了時における死亡率を基に,プロビット法を用いて算出した.
結果
1. 死亡率およびLD50値(Table 1)
死亡は,雌雄とも
804 mg/kg以上の用量群で投与後1時間以降3日までみられ,その多くが投与翌日から2日に認められた.LD50値(95%信頼限界)は雄で943(828〜1068)mg/kg,雌で946(808〜1085)mg/kgであった.
2. 中毒症状および体重
中毒症状については,雌雄とも
670 mg/kg以上の用量群で投与後5〜15分から自発運動の低下,呼吸深大,眼瞼下垂,流涎,筋弛緩および腹臥姿勢がみられ,さらに1〜3時間から立毛も認められた.また,鼻汁による鼻周囲被毛の汚染が雄では670 mg/kg以上,雌では965 mg/kg以上の用量群で用量依存的に認められた.死亡動物では,死亡直前に呼吸の微弱化がみられた.生存動物の症状は,投与後1時間以降回復傾向がみられ,概ね2日には回復した.体重は,雌雄とも投与翌日(1日)に,投与直前に比べ減少したが,3日には増加に転じ,以降順調に増加した.
3. 剖検
死亡動物において,投与日に死亡した雌雄に肺の膨化が高い頻度で認められた.肺の膨化は多くは含気によるもので,一部に水腫性のものもあった.投与翌日以降死亡の雌雄に,尿の貯留による膀胱の膨満が比較的高頻度でみられ,膀胱の尿中に緑色で最大
2 mm程度の板状結晶を多数含む例もあった.また,2〜3日死亡の雌に,腺胃粘膜の黒色点散在が高頻度で認められた.生存動物の器官には,異常は認められなかった.
考察
3,4-ジクロロ-1-ブテンについて,ラットを用いる単回経口投与毒性試験を実施した.
その結果,死亡が投与後
1時間以降3日までみられ,その多くが投与翌日から2日に認められた.中毒症状として,雌雄とも自発運動の低下,呼吸深大,眼瞼下垂,流涎,筋弛緩,腹臥姿勢,立毛および鼻汁による鼻周囲被毛の汚染がみられた.死亡動物では,死亡直前に呼吸の微弱化も認められた.体重も投与翌日に減少した.剖検では,死亡動物で,肺の膨化がみられ,臨床症状における呼吸の深大化や微弱化と関連する変化と考えられた.また,膀胱には尿貯留による膨満がみられた.膀胱内には緑色の結晶物がみられたが,これは生体由来とは考え難く,恐らく被験物質の代謝物が析出したものと推察された.さらに,腺胃粘膜の黒色点散在が認められ,被験物質の胃粘膜に対する障害性がうかがわれた.LD50値(95%信頼限界)は,雄で943(828〜1068)mg/kg,雌で946(808〜1085)mg/kgであった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 山本譲 |
| 試験担当者: | 伊藤雅也,藩栗緒 |
| (財)畜産生物科学安全研究所 |
| 〒229-11 神奈川県相模原市橋本台3-7-11 |
| Tel 0427-62-2775 | Fax 0427-62-7979 | |
Correspondence |
| Authors: | Yuzuru Yamamoto(Study director)
Masaya Ito, Cleo Pan |
| Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology |
| 3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229-11, Japan |
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