テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Tetramethylammonium hydroxide in Rats

要約

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの10,15,23,34および50 mg/kgを1群5匹からなる5週齢の雄ラットに,雌ラット5匹には23 mg/kgのみを単回経口投与した.

雄において,34 mg/kg投与群の1例および50 mg/kg投与群の4例が投与日に死亡した.50 mg/kg投与群では自発運動の減少,体温低下,半眼あるいは閉眼がみられ,死亡例には歩行失調,間代性痙攣,流涎,緩徐呼吸等もみられた.23および34 mg/kg投与群でも半眼あるいは閉眼が認められた.34および50 mg/kg投与群の生存例では,観察第2日に体重の減少あるいは増加抑制がみられ,その後は体重増加がみられた.

雌においては,23 mg/kg投与群で半眼あるいは閉眼および体重増加抑制が認められた.

剖検では,雌雄全例で特記すべき変化は見られなかった.

テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの雄でのLD50値は,34 mg/kgから50 mg/kgの間であると判断された.

方法

1. 被験物質

被験物質として,昭和電工(株)(福島)より提供されたテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの20.19 %水溶液(Lot No. 81029)を使用した.提供された水溶液は無色透明の液体で,不純物として炭酸根3 ppm,塩化物0.17 ppmを含有していた.受領物質は,使用時まで室温で保管した.なお試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であったことを確認した.

投与検体の調製は,供給物質を局方注射用水(製造番号:9707SA,光製薬(株))で希釈し,被験物質濃度として0.25 w/v%溶液を調製し,これを注射用水により段階希釈して各濃度の水溶液を調製した.調製は投与日に行った.各投与検体中の含量を測定した(99.5〜101 %).

2. 使用動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD(SD)IGS)雌雄ラットを,日本チャールス・リバー(株)筑波飼育センターから購入し,検疫と馴化を兼ねて7日間予備飼育した.試験には,予備飼育中の一般状態に異常が認められなかった雄25匹雌5匹を用い,雄は検疫終了時の体重を基に体重別層化無作為抽出法により1群5匹からなる5群に分け,雌は無作為に5匹を選んで1群とした.投与時の週齢は雌雄ともに5週齢であり,体重は雄が119.0〜135.1 g,雌が109.3〜117.5 gであった.

全飼育期間を通じ,動物を金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,温度23〜25 ℃,湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に設定された飼育室で,固型飼料s(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量の設定および投与方法

投与量は,予備試験の結果に基づいて決定した.すなわち,被験物質の50および100 mg/kgの投与で雌雄全例が死亡し,25 mg/kg投与群でも立毛,半眼,自発運動の減少等が認められたことから,雄について,10,15,23,34および50 mg/kg(公比約1.5)の5用量を設定した.また,予備試験では明らかな性差は認められなかったことから,雌については,23 mg/kgの1用量を設定した.

投与容量は体重1 kg当たり20 mLとし,動物を約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.

4. 観察および検査

観察第1日(投与日)から14日間にわたって死亡の有無を確認し,各動物の一般状態を観察した.観察は投与日においては投与直後から1時間まで連続して行い,その後は投与後6時間まで約1時間間隔で実施した.観察第2日から15日までは毎日1回行った.

体重は生存例について,投与直前,観察第2,4,8,11および15日に測定し,死亡例については死亡発見時に測定した.

剖検は,死亡例は発見時に,生存例では観察第15日にペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血屠殺して実施した.

結果および考察

雄では,34 mg/kg投与群の1例,50 mg/kg投与群の4例が投与日に死亡した(Table 1).

死亡例では自発運動の減少,体温低下,半眼あるいは閉眼がみられ,50 mg/kg投与群の死亡例では歩行失調,間代性痙攣,流涎,緩徐呼吸等もみられた.生存した50 mg/kg投与群の1例および34 mg/kg投与群の3例にも半眼あるいは閉眼,自発運動の減少,体温低下,間代性痙攣等がみられ,23 mg/kg投与群の雄4例にも半眼あるいは閉眼が観察された.これらの症状は投与量の増加に伴って発現時間が早く,持続時間も長い傾向がみられた.10および15 mg/kg投与群では,一般状態に変化はみられなかった.

体重では,34 mg/kg投与群の3例および50 mg/kg投与群の生存した1例では,観察第2日に体重の減少あるいは増加抑制がみられ,その後体重は増加したが,観察第15日における体重は他の低用量投与群の平均体重には至らなかった.

雌では,23 mg/kg投与群において,1例に半眼および閉眼,観察第2日に体重減少が認められた.

剖検では,雌雄いずれの器官・組織にも変化は認められなかった.

以上の結果から,雌雄で明らかな感受性の差はないものと判断され,テトラメチルアンモニウムヒドロキシドの雄ラットにおける単回投与によるLD50値は,34 mg/kgから50 mg/kgの間であると判断された.

連絡先
試験責任者:永田伴子
試験担当者:勝村英夫,松本浩孝,堀内伸二,三枝克彦,稲田浩子,安生孝子
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Tomoko Nagata(Study director)
Hideo Katsumura, Hirotaka Matsumoto, Shinji Horiuchi, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel+81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627