ペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Pentaerythritol tetra(2-ethylhexanoate) in Rats

要約

 ペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)は無色透明な液体で合成樹脂や塗料に使用されている.1群につき雌6匹のCD(SD)IGS系(SPF)ラットを用いて単回経口投与毒性試験を実施した.

 ペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)は,コーンオイルに溶解し,300および2000 mg/kgに相当する量を単回強制経口投与した.観察期間は14日間とし,一般状態の観察,死亡動物の確認,体重測定および病理学検査を実施した.

 死亡動物は300および2000 mg/kg群ともに認められず,死亡率はいずれも0 %であった.

 一般状態の観察では300mg/kg群の1例で下痢がみられたが,投与後4時間には回復した.その他の動物では一般状態に異常は認められなかった.

 生存動物の体重は順調な増加を示した.

 観察期間終了時の解剖においてはいずれの生存動物にも異常は認められなかった.

 したがって,本試験条件下においてペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

 ペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)〔日本精化(大阪),純度98.4 %,Lot No. TOL-887〕は無色透明の液体であり,室温・気密・遮光の条件下で被験物質保管庫に保管した.試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であることを確認した.

 投与液の調製においては,秤量した被験物質をコーンオイル〔ナカライテスク〕に溶解させた.調製濃度は300および2000 mg/kgで,それぞれ6および40 w/v%とした.調製後の投与液は室温に保存し,調製後72時間以内に使用した.なお,投与液中の被験物質は調製後72時間まで安定であることが確認されている.また,投与液中の被験物質濃度については,調製後に測定し,適切に調製されていたことが確認された.

2. 供試動物および飼育方法

 7週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌13匹を日本チャールス・リバーから購入した.動物は検収後,試験環境への馴化のために9〜16日間予備飼育し,8〜9週齢で投与した.動物は,23 ± 3℃(実測値:23.5〜24.2℃),相対湿度55 ± 20 %(実測値:48〜81 %),照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に制御された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに1〜3匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業製造の固型飼料MF(Lot No. 040705,041102)および水道水を自由に摂取させた.

3. 投与量の設定および投与方法

 被験物質の毒性に関する情報がなかったため,初回投与は300 mg/kgを設定し,2回目以降の投与量の選択についてはOECD Test Guideline 423に示されたフローチャートの手順に従った.投与容量は体重100 g当たり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出した.投与回数は1回とし,投与前約16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.給餌は,被験物質投与後約3時間に行った.

4. 群構成

 初回絶食日に全例の体重を測定し,最も体重が大きい動物から順に3匹選び,これらを初回投与に用いた.2回目以降の投与も同様にして順次3匹ずつ選んだ.投与時の体重は191〜214 gであった.

5. 観察および検査

 中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,投与翌日からは1日1回,投与日を観察第1日として14日間にわたって実施した.体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.観察期間終了時に全ての動物をエーテル麻酔後放血死させ解剖した.

結果

1. 死亡率

 300および2000 mg/kgのいずれの用量においても死亡動物は認められず,死亡率は0 %であった.

2. 一般状態

 300 mg/kg群の1例で投与後1時間から下痢がみられたが,投与後4時間には回復した.その他の動物には異常が認められなかった.

3. 体重

 全ての動物が観察期間中順調な体重増加を示した.

4. 病理所見

 観察期間終了時の解剖においていずれの動物にも肉眼的な異常は認められなかった.

考察

 ペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)を300および2000 mg/kgの用量で8〜9週齢のCrj:CD(SD)IGSラットの雌に単回経口投与し,投与後14日間観察した.

 一般状態の観察では300 mg/kg群の1例で投与当日に下痢がみられたが,その他の動物に異常は認められず,死亡例は認められなかった.

 観察期間終了時の解剖において,いずれの動物にも肉眼的な異常は認められなかった.

 以上の結果から,本試験条件下においてペンタエリスリトールテトラ(2-エチルヘキサノアート)のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.

連絡先
試験責任者: 藤島 敦
試験担当者: 保母真由美
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田市塩新田582-2
Tel 0538-58-1266 Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors: Atsushi Fujishima (Study director)
Mayumi Hobo
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden, Iwata, Shizuoka, 437-1213, Japan
Tel +81-538-58-1266 Fax +81-538-58-1393