4−メチルベンゼンスルホンアミドのラットにおける
反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of 4-Methylbenzenesulfonamide in Rats

要約

既存化学物質安全性スクリ−ニング試験の一つとして4−メチルベンゼンスルホンアミドの反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を行った。すなわち4−メチルベンゼンスルホンアミドの0(溶媒対照)、120、300および750 mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄(各13匹/群)に交配前2週間および交配期間2週間を通して経口投与し、さらに雄では交配期間終了後2週間、雌では妊娠期間を通して分娩後哺育3日まで投与を継続して親動物に対する反復投与毒性およびその生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に及ぼす影響について検討した。

その結果、300 mg/kg/day以上の量は、ほぼ6週間の連続投与によって雌雄ラットに流涎、体重増加の抑制あるいは摂餌量の減少を来たし、主として膀胱粘膜に器質的障害を、また雌では特徴的に胸腺の強度の退縮を惹起する毒性発現量であることが示唆された。また、雄について実施した血液学的および血液生化学的検査では、リンパ球数の減少を伴う白血球数減少、血中尿素窒素および塩素濃度の上昇、カリウム濃度の低下、GOTおよびGPT活性の軽度の上昇が認められたほか、雄では、さらに750 mg/kgの初回投与により血尿の排泄がみられた。

120 mg/kgの投与では、流涎および精細管の萎縮が散見され、膀胱粘膜上皮層の肥厚が雄でやや高率に、雌で低率に観察されたが、このほかには被験物質投与の影響とみなされる変化は認められなかった。

雌雄の生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に対しては、300 mg/kg以下の量の4−メチルベンゼンスルホンアミドは何ら影響を示さなかった。750 mg/kgの投与では、雌雄の交尾および受胎能力、着床ならびに胚の子宮内生存性に影響はみられなかったが、分娩あるいは哺育機能の障害および胚の子宮内発育抑制が惹起される可能性が示唆された。出生児の形態には、4−メチルベンゼンスルホンアミドの影響を示唆する異常は認められなかった。

これらのことから本試験条件下では、4−メチルベンゼンスルホンアミドの雌雄ラットに対する反復投与毒性に関する無影響量は120 mg/kg/dayを下回る量であり、また、生殖発生毒性に関するそれは300 mg/kg/dayと推察される。

緒言

4−メチルベンゼンスルホンアミド(4-methylbenzenesul-fonamide、別名:p-toluenesulfonamide)は、古くはsaccharinの化学合成過程で生じる不純物の一つとして知られた化合物であるが、化学産業の分野においては可塑剤あるいは塗料の防黴剤として広く使用されている化合物である。本化合物の毒性については、腹腔内投与によるマウスのLD50値が250 mg/kgであること1)、Salmonellaを用いたエ−ムス試験では弱い変異原性を示すこと2)などが報告されているが、ヒトや実験動物の生体に及ぼす毒性については、ほとんど知られていない。一方、本化合物の位置異性体であり、saccharinの化学合成で生じる主要な不純物の一つとして知られるo-toluenesulfonamide(o-TS)については、ラットへの反復投与で膀胱の腫瘍、血尿、アルカリ尿あるいは腎盂上皮下の毛細血管拡張などを誘起し、さらには出産児数の減少あるいは出生児体重の低下を来すことが報告されており3)、本化合物についてもo-TSと類似の毒性が推定される。今回、OECDによる既存化学物質の安全性点検に係わる毒性調査事業の一環として4−メチルベンゼンスルホンアミドの反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(以下、併合試験)を行い、本化合物の反復投与毒性および生殖・発生毒性について検討したのでその結果を報告する。

方法

1.被験物質

4−メチルベンゼンスルホンアミド[ロット番号、AB-05(日本曹達(株)製);純度、99.9%;CAS No. 70-55-3;別名、p-toluenesulfonamide]は、分子量171.23、融点136.6℃、沸点221℃/10 mmHgのアルコ−ルに可溶、水に難溶な白色の結晶性粉末であり、使用時まで乾燥・冷暗条件下で密封保管した。

本被験物質は5%アラビアゴム水溶液〔アラビアゴム:ロット番号、JD03(宮澤薬品);注射用蒸留水:ロット番号、L05019(山口製薬)〕に懸濁し、いずれの用量においても1回の投与液量が5 ml/kgになるように含量を調整して投与検体とした。調製した投与検体は、冷暗条件下で密封保管し、調製後7日以内に投与した。調製液中の被験物質は、室温・遮光の保管条件下で少なくとも7日間安定であり、均一性も保持されることを確認した。また、使用した投与検体には、ほぼ所定量の4−メチルベンゼンスルホンアミドが含有されていたことを確認した。

2.使用動物および飼育条件

試験には、雌雄とも7週齢にて購入した日本チャールス・リバー(株)厚木飼育センター生産のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD、SPF)を使用した。購入した動物は、入荷後1週間、馴化と検疫を兼ねて予備飼育し、一般状態に異常が認められなかったものを試験に供した(群分け時体重範囲:雌186.3〜225.0g、雄268.4〜306.5g)。

各動物は、温度24±1℃、相対湿度55±5%、換気回数約15回/時間、照明12時間(午前7時〜午後7時)に調節されたバリアーシステムの飼育室で、金属製金網床ケージ(22×27×19 mm、日本ケージ(株))に個別に収容して飼育し、固型飼料(CA-1、日本クレア(株))および水道水を自由に摂取させた。妊娠18日以後の母動物には、飼育ケージの床に金属製床板を敷き、床敷として木製チップ(ホワイトフレーク(R)、日本チャールス・リバー(株))を適宜供給した。

供給した飼料、水、および床敷には試験に支障を来す可能性が考えられる夾雑物の混在はなかった。

3.群分け法

雌雄とも初回投与日の体重をもとに体重別層化無作為抽出法に準じて群分けし、1群あたりに各13匹を用意した。

4.投与量、群構成、投与期間および投与方法

4−メチルベンゼンスルホンアミドの投与量は、次項に示す予備試験の結果を参考に、120、300および750 mg/kgとした。投与液量は、各用量とも5 ml/kgとし、対照群のラットには、懸濁用媒体である5%アラビアゴム水溶液を4−メチルベンゼンスルホンアミド投与群と同一条件にて投与した。

各用量の投与検体は、雄に対しては交配前14日間と交配期間14日間および交配期間終了後14日間の連続42日間、また、雌に対しては交配前14日間と交配期間中(交尾成立まで最長14日間)ならびに交尾成立雌では妊娠期間を通して分娩後の哺育3日まで毎日1回、ラット用胃管を用いて強制的に経口投与した。毎日の投与は、原則として一定時刻の間(通常13時〜16時)に行い、各動物の投与液量は、雄ならびに交配前および交配期間中の雌については週1回の測定体重をもとに、また、交尾成立後の雌については妊娠0日の体重をもとにそれぞれ算出した。

5.予備試験(投与量の設定)

4−メチルベンゼンスルホンアミドの 0(溶媒対照)、125、250および500 mg/kgをSprague-Dawley系(Crj:CD)ラットの雌雄各5匹に1日1回、15日間、反復して経口投与し、投与終了日の翌日に剖検して雌雄ラットに及ぼす反復投与毒性について検討した。投与期間中は、生死、一般状態を毎日観察し、体重を投与0(投与開始日)、7および14日に測定した。摂餌量については、投与0〜7日および7〜14日の各期間における総摂取量を求めた。剖検時には、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、副腎、胸腺、卵巣、子宮、精巣および精巣上体の重量を測定し、これらの器官は、10%ホルマリンに固定して保存した。試験材料および方法は、併合試験法に準じた。なお、用量は、889、1333、2000および3000 mg/kgを用いて行われた「4-メチルベンゼンスルホンアミドのラットにおける急性(経口投与)毒性試験」4)の結果を参考にして設定した。この急性毒性試験では、雌への2000 mg/kg以上の投与で死亡がみられ、また、889 mg/kg以上の投与では、歩行異常などの神経症状が用量依存的に認められた。予備試験の結果は、次のように要約される。

1)一般状態

死亡例は、雌雄ともにいずれの投与群においても認められなかった。一般状態に関しては、血様尿あるいは潜血反応陽性尿が、500および250 mg/kg投与群の雄各1例および250 mg/kg投与群の雌1例にみられたほか、流涎が500 mg/kg投与群の雄4例および雌1例に認められた。

2)体重および摂餌量

体重、体重増加量、摂餌量のいずれにも、対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。しかし、500および250 mg/kg投与群の体重増加および摂餌量は、雌雄ともに軽度に抑制される傾向を示した。

3)器官重量

500 mg/kg投与群では、精巣上体の重量が有意(p<0.05)な低値を、また子宮の重量が有意(p<0.05)な高値を示した。この他の器官重量とその比体重値については、250 mg/kg投与群において雄の副腎重量および比体重値がともに有意(p<0.05)な低値を示したほかには、雌雄ともに対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

4)剖検所見

用量に依存する変化、あるいは被験物質投与によると思われる明らかな変化はなかった。

5)併合試験における投与量

併合試験では、4−メチルベンゼンスルホンアミドのより明確な毒性を検索する目的で、最高用量を750 mg/kg/dayに上げ、以下を公比2.5で除して中間用量を300 mg/kg/day、最低用量を120 mg/kg/dayにそれぞれ設定した。

6.観察方法

1)親動物

A.一般状態

雌雄とも、全例について試験期間中毎日観察した。

B.体重

雌雄とも、全例について体重を試験期間中週1回〔雄:投与0、7、14、21、28、35、41日、雌:投与0、7、14、21日〕および解剖日に測定した。また、交尾成立雌では、妊娠0、7、14、21日、分娩した雌では、分娩後1および4日(哺育1および4日)の体重を測定した。

C.摂餌量

雌雄とも、全例について体重測定日と同日に餌重量を測定し、測定日から次の測定日までの間の摂餌量を算定した。交配期間中の摂餌量は測定しなかった。交尾成立雌では、妊娠0-7、7-14、14-20日および分娩した雌では、哺育1-4日の摂餌量を測定した。

D.交配

交配は、投与14日(15回投与日)の夕方から最長2週間、同一群内の雌雄を1対1で同居させて行った。交尾成立の確認は、毎朝、腟内の腟栓および腟垢中の精子の存在を調べることにより行い、交尾が確認された雌は、その日を妊娠0日と起算して雄から分離し、個別に飼育した。交配結果から、各群について交尾率[(交尾動物数/同居動物数)×100]、受胎率[(妊娠動物数/交尾動物数)×100]および同居開始日から交尾確認日までの日数

E.分娩状態

各群とも交尾成立雌は、全例を自然分娩させた。分娩状態の直接観察は、可能なものについて行った。ただし、直接観察できなかった個体についても、分娩後の徴候から分娩困難や分娩遅延などの分娩障害の有無を判断し、個別に記録した。

F.分娩日の算定

分娩の確認は、午前9時〜11時に限定し、この時間帯に分娩が完了していることを確認した個体について、その日を哺育1日、その前日を分娩日(哺育0日)と規定した。午前11時を過ぎて分娩した個体については、翌日を哺育1日とした。

分娩を確認した全例について妊娠期間(妊娠0日〜分娩日の日数)を算定した。また、出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100]を各群について求めた。

G.病理学的検査

a)雄動物

イ.剖検、器官重量および病理組織学的検査

42回投与後、全例を約18時間絶食させ、翌日(投与42日)にペントバルビタ−ル深麻酔下で放血・致死させて剖検した。その際、全例について胸腺、肝臓、腎臓、精巣および精巣上体の重量を測定した。また、これらの器官および脳、心臓、脾臓、副腎、膀胱および剖検において異常を認めた器官は10%ホルマリン液に、精巣および精巣上体は、ブアン液に固定して保存し、750 mg/kg投与群および対照群の全例について病理組織学的検査を行った。300および120 mg/kg投与群については胸腺、肝臓、腎臓、副腎、膀胱、精巣の病理組織学的検査を行った。

ロ.血液学的検査

全例について、剖検に先立ち、ペントバルビタール麻酔下で腹部後大静脈よりEDTAを抗凝固剤として採血し、以下の項目について検査した。

ハ.血液生化学的検査

全例について、血液学的検査のための採血に引き続き、ヘパリンを抗凝固剤として用いて採血し、それぞれ血漿を分離して次の項目について検査を行った。

b)雌動物

イ.剖検、器官重量および病理組織学的検査

分娩した雌は哺育4日に、また、交尾したが分娩しない雌は妊娠25日相当日にそれぞれエーテル深麻酔下で放血・致死させ、剖検した。妊・不妊のいずれの例においても卵巣および子宮を摘出し、子宮についてはSalewski法5)を応用して着床痕を染色して着床数を確認した。卵巣はブアン液に固定して保存し、実体顕微鏡下で黄体数を数えた。不妊例の卵巣については、病理組織学的検査を行った。器官重量については、全例について胸腺、肝臓および腎臓の重量を測定した。また、これらの器官および脳、心臓、脾臓、副腎、膀胱、子宮および剖検において異常を認めた器官は10%ホルマリン液に固定して保存し、750 mg/kg投与群および対照群の全例について病理組織学的検査を行った。300および120 mg/kg投与群については胸腺、肝臓、腎臓、副腎、膀胱の病理組織学的検査を行った。

2)出生児

A.産児数の算定

哺育1日に産児数(生存児+死亡児)を調べ、児の産出率[(産児数/着床痕数)×100]および出生率[(出産生児数/着床痕数)×100]を求めた。産児の性別を調べ、外表異常の有無を観察した。

B.死亡児数の算定

死亡児数を毎日調べ、哺育1日の生存率[(生児数/産児数)×100]および哺育4日の生存率[(哺育4日の生児数/哺育1日の生児数)×100]を求めた。死亡児は剖検し、胸腔および腹腔内の器官を除去した後、エタノ−ルに固定して保存した。

C.体重測定

哺育1日および4日に一腹単位で雌雄別に体重(litter重量)を測定し、[litter重量/測定児数]を各腹について求めた。

D.剖検

哺育4日に全例をエ−テル深麻酔下で致死させ、剖検した。胸腔および腹腔内の器官は、一括して摘出し、各腹ごとに10%ホルマリン液に固定して保存した。カ−カスは、各腹ごとにエタノ−ルに固定して保存した。

E.骨格観察

750 mg/kg投与群および対照群について哺育4日に剖検した児の全例および観察可能な死亡児をDawson法6)により骨格標本とし、骨格異常および変異の有無を調べた。

7.動物の個体識別法

試験に使用した動物には、F1出生児を除き、すべて尾にフェルトペンで群および個体番号を記して個体識別した。各飼育ケージには、個体番号等の必要事項を記入した、群ごとに色彩の異なるカードを掛けて個体識別の補助とした。F1出生児は、個体を識別しなかった。

8.統計処理

交尾率および受胎率についてはχ^2検定を行った。その他のすべてのデ−タは、個体ごとに得られた値あるいはlitterごとの平均値を1標本として、先ず、Bartlett法により各群の分散の一様性について検定した。その結果、分散が一様とされた場合には、一元配置型の分散分析を行い、群間に有意性が認められた場合にはDunnett法あるいはScheffにより対照群と各被験物質投与群との間で平均値の差の検定を行った。分散が一様でなかった場合は、Kruskal-Wallisの順位検定を行い、群間に有意性が認められた場合に対照群と各被験物質投与群との差についてDunnett型あるいはScheff型の検定を行った。

有意水準は、5%および1%とした。

結果

I.反復投与毒性

1.親動物所見

1)途中死亡例

死亡例は、雌雄ともにいずれの投与群においても認められなかった。

2)一般状態

A.雄(Table 1)

750 mg/kg投与群の4例において初回投与の翌日あるいは翌々日に一過性の血尿がみられた。また、750 mg/kg投与群では投与第1週、300 mg/kg投与群では投与第2週、120 mg/kg投与群では投与第3週から流涎が観察され、発症例数は用量依存的に増加した。

B.雌(Table 1)

流涎が、雄と同様に各被験物質投与群において観察された。また、750 mg/kg投与群の1例では、一時的に流涙がみられた。

3)体重

A.雄

a)体重(Table 2)

750 mg/kg投与群の体重は、投与第1週以後、一貫して有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。300 mg/kg以下の投与群の体重には、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

b)増加量

750 mg/kg投与群では、投与開始〜第1週、第1週〜2週および第3週〜4週の増加量が有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。300 mg/kg以下の投与群の増加量には、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

B.雌

(1)交配開始前

a)体重(Table 3)

いずれの被験物質投与群においても対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

b)増加量

いずれの被験物質投与群においても有意な変化は認められなかったが、750 mg/kg投与群の増加量は軽度に低下する傾向を示した。

(2)妊娠期間中

a)体重(Table 3)

750 mg/kg投与群では、妊娠7、14および20日の体重が有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。300 mg/kg以下の投与群の体重には、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

b)増加量

750および300 mg/kg投与群において妊娠0〜7日の増加量が有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。120 mg/kg投与群の増加量には、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

(3)分娩後

a)体重(Table 3)

750 mg/kg投与群では、哺育1および4日、300 mg/kg投与群では、哺育4日の体重が有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。120 mg/kg投与群の体重には、対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

b)増加量

いずれの被験物質投与群においても有意な変化は認められなかった。

4)摂餌量

A.雄(Table 4)

750 mg/kg投与群において投与第1週の摂餌量が有意(p<0.01)な低値を示したほかには、対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

B.雌

(1)交配前(Table 5)

いずれの被験物質投与群においても対照群と比較して有意な変化は認められなかった。

(2)妊娠期間中(Table 5)

750 mg/kg投与群では、妊娠0〜7、14〜20日、300 mg/kg投与群では、妊娠0〜7、7〜14および14〜20日の摂餌量が有意(p<0.05, 0.01)な低値を示した。

(3)分娩後(Table 5)

300 mg/kg投与群の摂餌量が有意(p<0.05)な低値を示したが、用量依存的な変化ではなかった。

5)血液学的、血液生化学的および病理学的検査所見

A.雄〔解剖日:投与期間(42回投与)終了翌日〕

a)血液学的検査所見(Table 6)

300 mg/kg以上の投与群において白血球数が、用量依存的かつ有意(p<0.01)に減少し、リンパ球の比率が減少傾向を示したほか、750 mg/kg投与群では、分葉核好中球の比率が有意(p<0.05)に増加した。赤血球数は、300 mg/kg投与群において有意(p<0.05)に減少したが、用量依存的な変化ではなく、血色素濃度、ヘマトクリット値、平均赤血球容積、平均赤血球血色素量、平均赤血球血色素濃度および血小板数にも被験物質の投与に起因したと推定される異常所見は認められなかった。

b)血液生化学的検査所見(Table 7)

尿素窒素濃度の用量依存的かつ有意(p<0.05, 0.01)な増加が、300 mg/kg以上の投与群において認められたほか、GOT活性が、300 mg/kg以上の投与群において、GPT活性が、750 mg/kg投与群において、塩素濃度が、300 mg/kg以上の投与群においてそれぞれ軽度ではあるが有意(p<0.05, 0.01)に上昇した。また、750 mg/kg投与群では、カリウム濃度が、軽度ではあるが有意(p<0.01)に低下した。このほかには、総蛋白濃度が、300および120 mg/kg投与群において、アルブミン濃度が、120 mg/kg投与群において、無機リン濃度が、300および120 mg/kg投与群において、カルシウム濃度が、300 mg/kg投与群においてそれぞれ有意(p<0.05, 0.01)な低値を、また、γ-GTP活性が、120 mg/kg投与群において有意(p<0.01)な上昇を示したが、用量依存性はみられなかった。

c)剖検所見

750 mg/kg投与群の6例において肝臓が暗色を呈していた。このほかには被験物質の投与に起因したと推定される肉眼的変化は認められなかった。

d)器官重量(Table 8)

胸腺、肝臓、腎臓、精巣、精巣上体の重量を測定した結果、腎臓および精巣の比体重値が、750 mg/kg投与群において有意な高値を示した。他の器官重量については、胸腺重量が750 mg/kg投与群において低下傾向を示したほかには、被験物質の投与に起因したと推定される変化は認められなかった。

e)病理組織学的検査所見(Table 9)

(肝臓)

肝小葉周辺部の肝細胞脂肪変性が各群にみられたが、被験物質投与群における変化は対照群より軽度であり、750 mg/kg投与群では4例に軽度な変化がみられたにすぎなかった。また、各群に小肉芽腫がみられたが対照群との間に頻度および程度の差はなかった。このほかには750 mg/kg投与群の1例に壊死巣が認められた以外に変化はなかった。

(腎臓)

再生あるいは萎縮尿細管およびeosinophilic bodyが、各群に認められたが、対照群との間に頻度および程度の差はなかった。このほか、対照群の1例に1本の尿細管の拡張が、300 mg/kg投与群の1例に結石がみられた。

(副腎)

120 mg/kg投与群および対照群の各1例に褐色色素の沈着があったほかに変化はみられなかった。

(脳)

いずれの群にも変化はみられなかった。

(心臓)

750 mg/kg投与群の2例に心筋変性が、対照群の2例に心筋線維化がみられたがいずれも軽度の変化であった。

(脾臓)

750 mg/kg投与群および対照群に褐色色素の沈着および髄外造血がみられたが、頻度および程度の差はなかった。

(膀胱)

粘膜上皮層の剥離が各被験物質投与群の各1例にみられ、そのうちの750および120 mg/kg投与群の各1例では出血および粘膜固有層の水腫が認められた。また、粘膜上皮層の肥厚が、750および300 mg/kg投与群の各11例および120 mg/kg投与群の6例にみられ、粘膜固有層にリンパ球やマクロファ−ジなどの細胞浸潤を伴う例が多く認められた。

(胸腺)

750 mg/kg投与群の2例に退縮があり、300および120 mg/kg投与群の各1例および対照群の2例に出血があったほかに変化はなかった。

(精巣)

750および300 mg/kg投与群の各3例および120 mg/kg投与群の5例では、萎縮して精細胞の減少した精細管が点在していた。

(精巣上体)

対照群の1例において変性して塊状になった精子の周囲に異物巨細胞が形成されていたほかに変化はみられなかった。

(その他の器官)

被験物質の投与に起因したと考えられる変化はみられなかった。

B.雌〔解剖日:哺育4日、全児死亡日、妊娠25日相当日(全胚吸収および不妊例)〕

a)剖検所見

胸腺の退縮が、750 mg/kg投与群の8例(全児死亡2例、除外例1例を含む)、300 mg/kg投与群の3例および対照群の1例にみられた。このほかには左側子宮角の低形成がみられた120 mg/kg投与群の1例(不妊例)を含めて被験物質の投与に起因したと推定される肉眼的変化は認められなかった。

b)器官重量

イ.哺育4日解剖例(Table 8)

胸腺、肝臓、腎臓の重量を測定した結果、腎臓の比体重値が、300 mg/kg以上の投与群において、肝臓の比体重値が、750 mg/kg投与群において有意(p<0.01)な高値を示した。他の器官重量については、胸腺重量が300 mg/kg以上の投与群において低下傾向を示したほかには、被験物質の投与に起因したと推定される変化は認められなかった。

ロ.不妊例、全児死亡例、全胚吸収例、除外例

750 mg/kg投与群の全児死亡例2例において胸腺重量が著しく低値であったほかには、被験物質の投与に起因したと推定される変化は認められなかった。

c)病理組織学的所見(Table 10)

(肝臓)

750および120 mg/kg投与群の各1例に壊死巣がみられ、そのうちの750 mg/kg投与群の1例(全児死亡例)では肝小葉全体に脂肪変性がみられた。また、各群に肝小葉周辺部における肝細胞の脂肪変性がみられたが、750および300 mg/kg投与群では少数例であった。このほか、各群に小肉芽巣がみられたが、頻度および程度の差はなかった。

(腎臓)

750 mg/kg投与群の1例(全児死亡例)に尿細管の変性があり、尿細管腔内に出血と褐色色素の貯留が認められ、尿細管上皮細胞に空胞の形成があった。尿細管腔内へのごく軽度な出血は、120 mg/kg投与群の1例に、尿細管上皮細胞の空胞形成は750 mg/kg投与群の1例(全児死亡例)にもみられた。また、120 mg/kg投与群および対照群の各1例に尿細管の拡張が、各群の1〜4例に再生尿細管が、対照群の1例に結石がそれぞれ認められた。

(副腎)

750 mg/kg投与群の2例(全児死亡例)では、束状帯細胞に空胞が増加していた。また、750および120 mg/kg投与群の2および1例に褐色色素の沈着がみられた。

(脳)

いずれの群にも変化はみられなかった。

(心臓)

いずれの群にも変化はみられなかった。

(脾臓)

750 mg/kg投与群および対照群に褐色色素の沈着および髄外造血がみられたが、頻度および程度の差はなかった。

(膀胱)

750 mg/kg投与群の7例および300 mg/kg投与群の12例に粘膜上皮層の肥厚がみられ、120 mg/kg投与群の1例にも軽度な変化が認められた。各被験物質投与群の2〜4例の粘膜固有層に細胞浸潤があった。

(胸腺)

対照群を含む各群に退縮がみられたが、750 mg/kg投与群の5例および300 mg/kg投与群の4例では強い退縮が認められた。

(子宮)

750 mg/kg投与群の2例(不妊例1例、全児死亡例1例)に内腔の拡張があったほかに変化はなかった。

(卵巣)

不妊例を含むいずれの例にも異常な所見はなかった。

(その他の器官)

被験物質の投与に起因したと考えられる変化はみられなかった。

II.生殖発生毒性

1.生殖学的検査所見

A.交配成績(Table 11)

雌雄全例が交尾し、受胎率にも対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。また、同居開始から交尾確認日までの日数および交尾成立までの回帰発情回数についても対照群と各被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

B.分娩および哺育状態

750 mg/kg投与群では、哺育1日の観察結果から分娩例10例(漏水事故による除外例1例を含む)中2例において分娩状態が不良であったと推定された。この2例では、いずれも哺育2日までに全児が死亡した。この他には、いずれの投与群の雌においても分娩状態あるいは哺育状態に異常は認められなかった。

C.黄体数、着床数および着床率(Table 12)

妊娠雌の黄体数、着床数および着床率に対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

D.出産率および妊娠期間(Table 12)

出産率および妊娠期間ともに対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

2.出生児所見

A.生存性(Table 12)

750mg/kg投与群では、哺育1日の生存率が有意(p<0.05)に低下した。児の産出率[(産児数/着床痕数)×100]、出生率[(出産生児数/着床痕数)×100]および哺育4日の生存率には、対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

2)体重(Table 13)

750 mg/kg投与群では、哺育1日の体重(雄+雌)が低値(p<0.01)を示し、雌雄別にみると雌において対照群と比較して有意差(p<0.05)が認められた。哺育4日の出生児体重には、対照群と被験物質投与群との間で有意差は認められなかった。

3)形態

出生日の外表観察、死亡児および哺育4日における全出生児の剖検において被験物質の投与に起因したと推定される外表および内臓の異常は認められなかった。750 mg/kg投与群と対照群について実施した骨格観察においては、750 mg/kg投与群の死亡児6例中1例に胸骨裂、他の1例に頭骨、脊椎および肋骨の複合奇形がみられたが、発生頻度に両群間で有意差は認められなかった。

考察

以上の試験成績から4−メチルベンゼンスルホンアミドの300 mg/kg/day以上の用量は、ほぼ6週間の連続投与によって雌雄ラットに流涎、体重増加の抑制あるいは摂餌量の減少を来し、主として膀胱粘膜に器質的障害を、また雌では特徴的に胸腺の強度の退縮を惹起する毒性発現量であることが示唆された。また、雄について実施した血液学的および血液生化学的検査では、リンパ球数の減少を伴う白血球数減少、血中尿素窒素および塩素濃度の上昇、カリウム濃度の低下、GOTおよびGPT活性の軽度の上昇がみられ、これらの変化も同時に惹起される可能性が高い。さらに、雄では、750 mg/kgの初回投与により血尿の排泄がみられた。血尿は、4−メチルベンゼンスルホンアミドの位置異性体であるo-TSの反復投与によっても惹起されるが、このことにはo-TSの炭酸脱水酵素阻害作用による尿のアルカリ化とそれによる尿路結石の形成および結石の尿路壁に対する物理的刺激の関与が推定されている7)。また、o-TSと同様に炭酸脱水酵素阻害作用を有するacetazolamideのマウスへの反復投与では、膀胱粘膜の肥厚を惹起することが報告されており8)、4−メチルベンゼンスルホンアミドにおいても同様の機序が予想される。しかし、血尿は、初回投与の翌日あるいは翌々日にのみ観察された一過性の変化であったことから、4−メチルベンゼンスルホンアミドあるいはその代謝物の尿路に対する直接作用に起因した可能性も否定しがたい。なお、acetazolamideのヒトに対する副作用については、血球障害、代謝性アシド−ジス、低カリウム血症、腎・尿路結石が知られている9)。器官重量については、雄で750 mg/kg、雌では300 mg/kg以上の投与で腎臓重量(比体重値)が有意に増加したが、このこととの関連を示唆する病理組織学的変化は認められなかった。このほかには、精細管の萎縮が、病理組織学的検査により各被験物質投与群に散見されたが、用量依存性に乏しい変化であり、4−メチルベンゼンスルホンアミド投与との関連は明瞭ではなかった。120 mg/kgの投与では、流涎および精細管の萎縮が散見され、膀胱粘膜上皮層の肥厚が雄でやや高率に、雌で低率に観察されたが、このほかには被験物質投与の影響とみなされる変化は認められなかった。

雌雄の生殖能力ならびに次世代児の発生・発育に対しては、300 mg/kg以下の量では何ら影響を示さなかった。750 mg/kgの投与では、雌雄の交尾および受胎能力、着床ならびに胚の子宮内生存性に影響はみられなかったが、分娩あるいは哺育機能の障害および胚の子宮内発育抑制が惹起される可能性が示唆された。出生児の形態には、4−メチルベンゼンスルホンアミドの影響を示唆する異常は認められなかった。これらのことから本試験条件下では、4−メチルベンゼンスルホンアミドの雌雄ラットに対する反復投与毒性に関する無影響量は120 mg/kg/dayを下回る量であり、また、生殖発生毒性に関するそれは300 mg/kg/dayと推察される。

文献

1)N.I.Sax, and R.J. Lewis,"Dangerous Properties of Industrial Materials," Vol.III, TGN500.
2) K.Eckhardt, M.T. King, E. Gocke and D. Wild, Toxicology Letters , 7, 51 (1980).
3)D.l.Arnold, C.A. Moodie, H.C.Grice, S.M. Charbonneau, B. Stabric, B.T.Collins, P.F. McGuire, Z.Z. Zawidzka and I.C. Munro, Toxicology and Applied Pharmacology , 52, 113 (1980).
4)今井清、他, 本書, p.29.
5)E. Salewski : Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Exp.Pathol. Pharmakol., 247, 367 (1964).
6)A. B.Dawson, Stain Technol. 1, 123 (1926).
7)D.l.Arnold, Fundamental and Applied Toxicology , 4, 674 (1984).
8)C.H. Frith, R.W. West, J.W. Stanley and C.D. Jackson, J. Environ. Pathol. Toxicol, 5, 25 (1984).
9)日本医薬品情報センタ−編, "日本医薬品集," 薬業時報社, 1987.

連絡先:
試験責任者今井清
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257 神奈川県秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence:
Imai, Kiyoshi
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257, Japan
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