その結果、雌では、2000 mg/kg投与群の5例中2例と3000 mg/kg投与群の5例中1例が投与当日から3日目にかけて死亡したが、雄では2000 mg/kgを投与しても死亡例は認められなかった。従って、4−メチルベンゼンスルホンアミドのラットにおける経口投与によるLD50値は、雌雄とも2000 mg/kgを上回る量と推定された。投与後の一般状態の変化としては、活動性の低下、触発反応の低下、よろめき歩行などの歩行異常、腹臥位あるいは横臥位姿勢および赤色尿の排泄などが認められ、2000 mg/kg投与群で雌雄の一般状態の変化を比較すると、雄より雌の方が被験物質投与による影響が顕著であり、また、雌では、上述の一般状態の変化に用量依存性が認められた。死亡例の体重は、投与直前と比較していずれも減少していた。生存例では、雌雄とも2000 mg/kg以上の一部の例で2日目に一過性の体重減少がみられた以外、体重は観察終了時まで順調に増加した。病理学的検査では、死亡例において、膀胱あるいは尿道の出血や上皮の剥離または欠損、腎臓の尿細管上皮細胞の水腫性腫脹、尿細管上皮細胞の細胞質内にPAS反応陽性好酸性微細顆粒の出現あるいは肺水腫などがみられた。生存例については、15日目に屠殺剖検を行った結果、雌雄いずれの投与群においても、主要な器官・組織に肉眼的変化は認められなかった。
投与検体は、いずれも所定の濃度になるよう5%アラビアゴム水溶液に懸濁して調製した。
なお、この方法に従って調製された4−メチルベンゼンスルホンアミドの安定性および均一性試験では、1、20および30%(w/v) 懸濁液は、冷暗所保管で7日間は安定であり、均一性にも問題がないことが確認された。また、今回の試験で使用した8.89、13.33、20および30%(w/v)懸濁液について、含量試験を実施したが、その結果、各懸濁液中の被験物質含量の平均は、所定濃度の94.9〜107%の範囲であった。
なお、本試験に先立って、1群3匹の雄ラットを用いて予備試験を実施した結果、500、1000および2000 mg/kgの投与では、いずれも死亡例は認められなかった。この結果を参考にして、本試験では、初回の投与量をOECDガイドラインに従って、雌雄とも2000 mg/kgとしたが、雌においては、2000 mg/kg投与群の5例中2例が死亡したため、さらに、技術的投与限界量と考えられる3000 mg/kgを最高投与量とし、以下、公比1.5で除して2000、1333および889 mg/kg投与群を設け、用量反応を観察することとした。ただし、2回目の試験では、すでに実施ずみの2000 mg/kg投与群を除く3用量群を用いて実施した。
雌の889 mg/kg投与群では、5例中1例で投与後5分頃から活動性が低下し、よろめき歩行が認められたが、これらの症状は、投与後1時間40分には回復し、その後、観察終了時まで一般状態に異常は認められなかった。一方、他の4例では、観察期間中、一般状態に異常は認められなかった。
雌の1333 mg/kg投与群では、5例中2例が投与後20分以内に腹臥位姿勢をとり、活動性が低下して、よろめき歩行もみられ、そのうちの1例では、触発反応の低下も認められた。また、投与後1時間以降は閉眼状態でうずくまり姿勢をとることが多く、よろめき歩行あるいは触発反応の低下が継続して認められたが、これらの症状は、投与後6時間目には回復し、その後、観察終了時まで一般状態に異常は認められなかった。他の3例では、観察期間中一般状態に異常は認められなかった。
雌の2000 mg/kg投与群の投与後約7時間目および2日目に死亡した例では、投与後10ないし15分で、よろめき歩行、触発反応の低下、活動性の低下および腹臥位姿勢がみられ、その後、脱力、呼吸数の減少、耳介反射の低下が認められたほか、後肢の麻痺および耳介の蒼白が各1例に観察された。次いで、投与後3時間目には外部からの刺激に対して全く反応を示さなくなり、腹臥位あるいは横臥位姿勢のまま、次第に体表温の低下が認められ死に至った。一方、死を免れた例では、投与後15分以内に活動性の低下および触発反応の低下がみられ、その後、よろめき歩行、腹臥位あるいは横臥位姿勢、耳介反射の低下が認められたほか、個体により、閉眼状態、うずくまり姿勢、立毛、呼吸数の減少、呼吸促迫、体表温の低下、流涙、ひきつりあるいは外部からの刺激に対しての反応の低下などが観察されたが、これらの症状は2日目にはすべて回復した。また、死を免れた3例のうち2例では、2日目に潜血反応陽性を示す赤色尿の排泄がみられ、そのうち1例では、3日目にも潜血反応陽性を示す尿の排泄が持続して認められたほか、他の1例では、2日目に排尿によると思われる下腹部被毛の汚れが観察された。しかし、その後は、3例とも観察終了時まで一般状態に異常は観察されなかった。雌の3000 mg/kg投与群では、5例全例で投与後30分以内に、活動性の低下、触発反応の低下、よろめき歩行がみられ、4例で腹臥位姿勢、1例でうずくまり姿勢と閉眼状態が認められた。また、投与後約1時間20分には、全例とも耳介反射の低下がみられ、その後、個体によっては、うずくまり姿勢、呼吸数の減少、耳介の蒼白、体表温の低下、流涙、横臥位姿勢あるいは立毛などの症状が観察された。また、4例では、投与後4時間以降に潜血反応陽性を示す赤色尿の排泄がみられた。3日目に死亡した1例では、2日目においても、横臥位姿勢、後肢の麻痺が持続してみられ、さらに、被毛の汚れ、呼吸数の減少、体表温の低下、耳介の蒼白を伴って死に至った。なお、この例では、2日目に潜血反応陽性を示す赤色尿の排泄も認められた。一方、死を免れた例では、4例中1例で2日目によろめき歩行がみられ、また、3例では、潜血反応陽性あるいは疑陽性を示す尿の排泄が認められたが、いずれも3日目以降は消失し、観察終了時まで一般状態に異常は観察されなかった。
雄の2000 mg/kg投与群の5例中2例では、投与後45分以内に、活動性の低下、触発反応の低下、腹臥位姿勢およびよろめき歩行が認められた。また、これらの例を含む3例では、投与後1時間目に耳介反射の低下が観察され、その後、全例が閉眼状態でケージの隅にいることが多く、個体によっては、よろめき歩行、つま先立ち歩行などの歩行異常および軽度な呼吸促迫がみられたが、2日目以降は、観察終了時まで一般状態に異常は観察されなかった。一方、1例では投与後約4時間頃から横臥位姿勢、後肢の麻痺、体表温の低下、外部からの刺激に対しての反応の低下、頚部を上げるひきつり、呼吸数の減少などが認められた。2日目には、体躯を左右に揺らしながら歩く歩行異常および腹部の被毛の汚れがみられたが、投与当日に認められた症状は観察されず、また、3日目以降、観察終了時まで一般状態に異常は観察されなかった。
なお、2000 mg/kg投与群における雌雄の一般状態の変化を比較すると、雄より雌の方が被験物質投与による影響が顕著であった。
その結果、雌では、2000 mg/kg投与群の5例中2例と3000 mg/kg投与群の5例中1例が投与当日から3日目にかけて死亡したが、雄では2000 mg/kgを投与しても死亡例は認められなかった。従って、4−メチルベンゼンスルホンアミドのラットにおける経口投与によるLD50値は、雌雄とも2000 mg/kgを上回る量と推定される。投与後の一般状態の変化としては、活動性の低下、触発反応の低下、よろめき歩行などの歩行異常、腹臥位あるいは横臥位姿勢および赤色尿の排泄などが認められた。死亡例では、さらに呼吸数の減少、体表温の低下、耳介の蒼白が加わって死に至った。死亡例の病理所見としては、肺水腫、腎臓の尿細管上皮細胞の水腫性腫脹あるいはPAS反応陽性の微細顆粒の出現が認められ、膀胱あるいは尿道に出血と上皮の剥離、欠損も観察された。これらの所見から4−メチルベンゼンスルホンアミドは、神経系あるいは運動器官系に抑制的に作用する可能性が示唆されるが、死亡動物の主な死因は、神経系−運動器官系の障害に、さらに肺水腫が加わったためではないかと推察される。また、2000 mg/kg以上の投与群では、潜血反応陽性の赤色尿の排泄が認められる例が観察されたが、死亡例の一部に膀胱あるいは尿道粘膜の剥離、欠損が認められたことから、4−メチルベンゼンスルホンアミドによる膀胱あるいは下部尿路系の障害が血尿あるいは赤色尿の原因ではないかと考えられる。なお、2000 mg/kg投与における影響を、雌雄の死亡率および一般状態の変化で比較すると、雄より雌への影響が顕著であることから、ラットにおける4−メチルベンゼンスルホンアミドの急性経口投与による毒性には性差があるものと思われる。
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