4-メチル-1-ペンテンのチャイニーズ・ハムスター肺由来細胞(CHL/IU細胞)を用いる染色体異常試験を実施した.
細胞増殖抑制試験の結果,50 %細胞増殖抑制濃度は短時間処理法のS9 mix非存在下が102 μg/mL,S9 mix存在下が209 μg/mL,連続処理法(24時間処理)が105 μg/mLであった.
染色体異常試験は,各系列において150 μg/mLあるいは300 μg/mLを最高用量とする9試験群で実施した.
短時間処理法のS9 mixの非存在下および存在下ならびに連続処理法ともに,被験物質処理群の染色体の構造異常ならびに倍数性異常の出現頻度は5 %未満であった.
以上の結果から,4-メチル-1-ペンテンは,本試験条件下において染色体異常を誘発しないと判断した.
4-メチル-1-ペンテンは沸点が54℃の無色透明の液体で,水にほとんど不溶である.被験物質は,三井化学(山口)よりロット番号3B24A(純度98.36 %)が提供され,遮光,室温,気密条件で保存した.
被験物質はジメチルスルホキシド(DMSO,同仁化学研究所)を用いて溶解ならびに希釈し調製した.被験物質調製液は,全ての試験において培養液の1 vol%になるように加えた.なお,被験物質調製時に変色,発熱,発泡はみられなかった.
チャイニーズ・ハムスター肺由来のCHL/IU細胞を,大日本製薬から入手(1999年2月)した.細胞は凍結保存し,試験に際して解凍および継代を行い,継代数23を使用した.
非働化した牛胎児血清(GIBCO)を最終調製量の10 %になるように加えたイーグルMEM培地(日水製薬)を使用した.調製後の培養液は冷蔵で保存した.
2.4あるいは3.6×10^4 cells/6 mLのCHL/IU細胞を,被験物質処理時に被験物質の揮発を防ぐため密栓が可能な培養フラスコ(25 cm2,Becton Dickinson)に播き,5.0 %CO2,37.0℃に設定したCO2インキュベーターで培養した.
短時間処理法では,細胞播種3日後に被験物質調製液を混和した培養液と交換し,S9 mix非存在下および存在下において密栓条件で6時間処理し,処理終了後,さらに新鮮培地および開放条件で18時間培養した.連続処理法では,細胞播種3日後に被験物質調製液を混和した培養液と交換し,密栓条件で24時間処理した.
S9 mix(キッコーマン)は,フェノバルビタールおよび5,6-ベンゾフラボンを投与したSprague-Dawley系ラット(雄,7週齢)の肝ホモジネートより調製されたものを購入し,製造後6ヶ月以内に使用した.添加量は培養液に対し5 vol%とした.
染色体異常試験に用いる被験物質の処理濃度を決定するため,被験物質の細胞増殖におよぼす影響を調べた.被験物質の細胞増殖抑制作用は,生細胞数の計数により測定し,陰性対照群に対する割合を持って指標とした.
被験物質は,各系列ともに溶媒への溶解性に基づき300 μg/mLを最高濃度とし,以下公比2で低下させた計6用量を処理した.その結果,50 %細胞増殖抑制濃度は短時間処理法のS9 mix非存在下で102 μg/mL,S9 mix存在下で209 μg/mL,連続処理法の24時間処理で105 μg/mLであった(Fig. 1).なお,被験物質の析出ならびに培養液pHの変化はみられなかった.
細胞増殖抑制試験の結果に基づき,各系列において150 μg/mLあるいは300 μg/mLを最高用量とする計9試験群を設定した.
陽性対照として,短時間処理法のS9 mix存在下ではベンゾ〔a〕ピレン(和光純薬工業)の10 μg/mL,S9 mix非存在下ではマイトマイシンC(協和発酵工業)の0.1 μg/mL,連続処理法ではマイトマイシンCの0.05 μg/mLの濃度を用いた.
陽性対照群を除く各群には細胞増殖抑制計測用の2個を加えた4個の培養フラスコを使用し,陽性対照群では2個の培養フラスコを使用した.
培養終了の約2時間前に,コルセミドを最終濃度が2 μg/mLとなるように培養液に加えた.染色体標本の作製は常法に従って行った.スライド標本は,各培養フラスコより1枚(細胞毒性により得られた細胞数が少ない場合)あるいは2枚を作製し,2 vol%ギムザ溶液で20分間染色した.
標本観察の前に各用量の各培養フラスコにつき1枚の標本を選択してブラインド化した.
染色体の分析は,日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会(MMS)による分類法 1)に基づいて行い,ギャップ(gap),染色分体型切断(ctb),染色分体型交換(cte),染色体型切断(csb),染色体型交換(cse)およびその他の異常など構造異常の種類ならびに異常を持つ細胞の数を記録した.ギャップは構造異常には含めなかった.同時に倍数性細胞の数も記録した.
各用量あたり200個(1培養フラスコあたり100個)の分裂中期像について観察を行った.
構造異常または倍数性異常のtotalの出現率(%)が10 %以上となり,その出現様式に用量依存性がみられる場合,あるいは5 %以上の出現率について再現性がみられる場合を陽性,それ以外を陰性とした.なお,統計学的手法による検定は実施しなかった.
短時間処理法の結果をTable 1および2に,連続処理法の結果をTable 3に示す.被験物質処理群における染色体の構造異常および倍数性異常の出現頻度は,短時間処理法のS9 mix非存在下および存在下ならびに連続処理法ともに5 %未満であった.
以上の結果から,4-メチル-1-ペンテンは,本試験条件下において染色体異常を誘発しないと判断した.
なお,当該被験物質は当施設で実施した細菌を用いる復帰変異試験 2)で陰性の結果が得られている.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会(編):「化学物質による染色体異常アトラス」朝倉書店,東京(1988)pp. 16-37. |
2) | 河村ら:4-メチル-1-ペンテンの細菌を用いる復帰変異試験.化学物質毒性試験報告,13:138-141(2006). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 河村公太郎 | ||
試験担当者: | 二平佳苗,榊原隆史 | ||
(株)化合物安全性研究所 | |||
〒004-0839 札幌市清田区真栄363番24 | |||
Tel 011-885-5031 | Fax 011-885-5313 |
Correspondence | |||
Authors: | Khotaro Kawamura (Study Director) Kanae Nihei, Takashi Sakakibara |
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Safety Research Institute for Chemical Compounds | |||
363-24 Shin-ei Kiyota-ku, Sapporo-shi, 004-0839, Japan | |||
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