C.I.ピグメントレッド22のチャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる染色体異常試験

In Vitro Chromosomal Aberration Test of C.I. Pigment Red 22
in Cultured Chinese Hamster Cells

要約

C.I.ピグメントレッド22の培養細胞に及ぼす細胞遺伝学的影響について,チャイニーズ・ハムスター培養細胞(CHL/IU細胞)を用いて染色体異常試験を実施した.

染色体異常試験に用いる濃度を決定するため,4300 μg/mL(10mM相当)を最高濃度として細胞増殖抑制試験を行った結果,連続処理法(24および48時間)と,短時間処理法(6時間,S9 mix添加および無添加)とも最高濃度において細胞毒性は認められなかったが,いずれの処理群も268.8 μg/mL以上の濃度において,処理終了時に被験物質の析出物が認められた.このことから試験濃度は,いずれの処理群も析出物が認められる濃度が2濃度以上含まれるように37.5〜600 μg/mLの5濃度設定した.また,媒体として無水エタノールを用いたため,無処置対照を設け,試験系に及ぼす無水エタノールの影響を検討した.

試験の結果,連続処理法ならびに短時間処理法のいずれの処理群においても,染色体の構造異常,倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.また,媒体として用いた無水エタノールは無処置対照群と同様な値を示し,試験系に及ぼす影響は認められなかった.

以上の結果より,C.I.ピグメントレッド22は,上記の試験条件下で染色体異常を誘発しない(陰性)と判定する.

方法

1. 被験物質

C.I.ピグメントレッド22(ロット番号:000207,大日本インキ化学工業(株))(茨城)は,赤色粉末で水,アセトン,DMSOに不溶で,水,熱および光に対して安定,純度:99.8 %(不純物として,水分:0.15 %,水可溶分:0.05 %含有)である.被験物質は室温で保管した.被験物質は無水エタノールに懸濁して最高濃度原液を調製し,その後,無水エタノールで順次希釈して所定の濃度の被験物質調製液を調製した.被験物質調製液は,すべての試験において培養液の1.0 vol%になるように加えた.

2. 試験細胞株

大日本製薬(株)から入手したチャイニーズ・ハムスター由来のCHL/IU細胞を,解凍後継代10代以内で試験に用いた.

3. 培養液の調製

Eagle-MEM粉末(GIBCO)を常法に従い調製し,非働化(56 ℃,30分)した仔牛血清(GIBCO)を最終濃度で10 vol%になるように加えた培養液を用いた.

4. 培養条件

2 × 104個のCHL/IU細胞を,培養液5 mLを入れたディッシュ(径6 cm,CORNING)に播き,37 ℃のCO2インキュベーター(5 % CO2)内で培養した.

連続処理法では,細胞播種3日後に被験物質を加え,24および48時間処理した.また,短時間処理法では,細胞播種3日後に被験物質を加え,S9 mix添加および無添加で6時間処理し,処理終了後,新鮮な培養液でさらに18時間培養した.

5. S9

S9(オリエンタル酵母工業(株))は,誘導剤としてフェノバルビタールおよび5,6-ベンゾフラボンを投与したSprague-Dawley系雄ラットの肝臓から調製されたものを購入し,製造後6ヵ月以内のものを用いた.添加量は培養液に対して5 vol%とした.

6. 細胞増殖抑制試験

染色体異常試験に用いる被験物質の処理濃度を決定するため,被験物質の細胞増殖に及ぼす影響を調べた.被験物質のCHL/IU細胞に対する増殖抑制作用は,血球計算盤を用いて各群の細胞を計測し,陰性(溶媒)対照群に対する割合をもって指標とした.

その結果,連続処理法(24および48時間処理)および短時間処理法(S9 mix添加および無添加)とも最高濃度の4300 μg/mL(10 mM相当)において細胞の増殖抑制は認められなかったが,268.8 μg/mL以上の濃度において,いずれの処理群も処理終了時に被験物質の析出が認められた(Fig. 1).

7. 実験群の設定

細胞増殖抑制試験の結果により,染色体異常試験は,いずれの処理群においても,処理終了時に被験物質の析出物が認められる濃度が2濃度以上含まれるように600 μg/mLを最高濃度とし,以下公比2で5濃度を設定した.対照として,陰性(媒体)対照,無処置対照および陽性対照を設けた.

陽性対照として,連続処理法には,マイトマイシンC(MMC,協和醗酵工業(株))を0.05 μg/mL,短時間処理法のS9 mix添加には,ジメチルニトロサミン(DMN,和光純薬工業(株))を500 μg/mL,S9 mix無添加には,MMCを0.1 μg/mLの濃度で用いた.なお,代謝活性化の妥当性を保証するため,S9 mix無添加においてDMN(500 μg/mL)を設けた.

いずれの処理群も,各濃度3枚のディッシュに処理し,2枚を染色体標本作製,1枚を細胞増殖計測用に用いた.

8. 染色体標本の作製

培養終了2時間前にコルセミド(GIBCO)を最終濃度として約0.2 μg/mLとなるように添加した.染色体標本の作製は常法に従って行った.スライド標本は各ディッ シュにつき3枚作製した.作製した標本を2 vol%ギムザ染色液で15分間染色した.

9. 染色体の観察

各ディッシュ当たり100個,すなわち1濃度当たり200個の分裂中期像を顕微鏡下で観察した.標本はすべてコード化し,盲検法で観察を行った.染色体の分析は,日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会による分類法1)に基づいて行い,染色体型あるいは染色分体型の切断,交換などの構造異常と倍数性細胞の有無について観察した.

10. 結果の解析

構造異常を有する細胞あるいは倍数性細胞の出現頻度を,石館ら2)の基準に従って判定した.染色体異常を有する細胞の出現頻度が5 %未満を陰性(-),5 %以上10 %未満を疑陽性(±),10 %以上を陽性(+)とした.

なお,構造異常はギャップのみを有する細胞を含めない(-gap)場合について判定した.

また,統計学的手法を用いた検定は実施しなかった.

結果および考察

連続処理法による試験結果をTable 1に示した.C.I.ピグメントレッド22を24および48時間連続処理したいずれの処理群とも,染色体の構造異常および数的異常の誘発性は認められなかった.また,被験物質処理による細胞増殖抑制作用はいずれの濃度においても認められなかった.陽性対照のMMC処理では,いずれの処理群とも染色体構造異常の顕著な誘発が認められた.

短時間処理法による試験結果をTable 2に示した.C.I.ピグメントレッド22をS9 mix添加および無添加で6時間処理したいずれの処理群とも,染色体の構造異常および数的異常の誘発性は認められなかった.また,被験物質処理による細胞増殖抑制作用はいずれの濃度においても認められなかった.S9 mix添加における陽性対照のDMN処理およびS9 mix無添加における陽性対照のMMC処理では,いずれの処理群とも染色体構造異常の顕著な誘発が認められた.なお,S9 mix無添加におけるDMN処理では陰性の結果を示したことから,代謝活性化の妥当性が保証された.

媒体として用いた無水エタノールは,無処置対照群と同様な結果を示し,試験系に及ぼす影響は認められなかった.

なお,連続処理法および短時間処理法とも,いずれの処理群も処理終了時に300および600 μg/mLにおいて被験物質の析出が認められた.

以上の結果から,C.I.ピグメントレッド22は本試験条件下において,染色体異常誘発性はない(陰性)と判定する.

文献

1)日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp.16-37.
2)石館基監修,"<改定>染色体異常試験データー集,"エル・アイ・シー社,東京,1987.

連絡先
試験責任者:三輪芳久
試験担当者:小林梨沙
(株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104
Tel 058-392-6222Fax 058-392-1284

Correspondence
Authors:Yoshihisa Miwa(Study director)
Risa Kobayashi
Hashima Laboratory, Nihon Bioresearch Inc.
104, 6-chome, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan
Tel +81-58-392-6222Fax +81-58-392-1284