1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼンのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test
of 1,4-Dimethyl-2-(1-phenylethyl)benzene by Oral Administration in Rats

要約

OECD既存化学物質安全性点検に係わる毒性調査の一環として,1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼンの0(媒体対照),12.5,50および200 mg/kg/dayをCrj:CD(SD系)IGSラットの雌雄(各12匹/群)に交配前14日間,雄ではその後交配期間を含む35日間,雌では交配期間,妊娠期間および哺育3日まで通して経口投与し,親動物に対する反復投与毒性及び生殖能力ならびに次世代児の発生・発育におよぼす影響について検討した.

1. 反復投与毒性

一般状態では,雌雄とも被験物質投与の影響は認められなかった.体重では,200 mg/kg群の雄で投与後期に,雌で妊娠および哺育期間中に体重の増加抑制あるいは増加抑制傾向が認められた.摂餌量では,200 mg/kg群の雄で投与後期に低値傾向が認められた.

尿検査では,200 mg/kg群の雄で尿量の増加,浸透圧および比重の低下ならびに結晶出現の頻度の増加が認められた.

血液学検査では,50および200 mg/kg群の雄でプロトロンビン時間の延長が認められた.

血液生化学検査では,50 mg/kg以上の群の雄で総コレステロールの高値,200 mg/kg群の雄でγ-GTPおよびリン脂質の高値ならびにクロールの低値,200 mg/kg群の雌でグルコースの高値が認められた.

病理学検査では,50 mg/kg以上の群の雄および200 mg/kg群の雌で肝臓重量の高値が認められ,組織学的には小葉中心性の肝細胞肥大が認められた.また,200 mg/kg群の雄で門脈周囲性の肝細胞の脂肪化の発現頻度が減少した.12.5 mg/kg以上の群の雄で副腎重量の低値がみられ,組織学的には束状帯細胞の萎縮が認められた.更に,200 mg/kg群の雄では球状帯細胞の肥大の発現頻度が増加した.

2. 生殖発生毒性

親動物の生殖機能に関しては,性周期,黄体数,着床痕数,交尾率,受胎率および交尾所要日数に被験物質投与の影響は認められなかった.分娩および哺育期検査では,妊娠期間,出産率,出産児数,出生率,新生児数,死産率,性比,哺育0および4日の新生児体重ならびに4日の生存率に被験物質投与の影響はみられず,新生児の外表検査においても,異常は認められなかった.

以上のように,反復投与毒性では,12.5 mg/kg以上の群の雄で副腎への影響,50 mg/kg以上の群の雄および200 mg/kg群の雌で肝臓への影響が認められたことから,本試験条件下における反復投与毒性に対する無影響量は雄で12.5 mg/kg/day未満,雌で50 mg/kg/dayと推察された.生殖発生毒性では,親動物の生殖能力および次世代児の発生・発育におよぼす影響はいずれの群においても認められなかったことから,本試験条件下における生殖発生毒性に対する無影響量は親動物及び児動物ともに200 mg/kg/dayと推察された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

1,4-ジメチル-2-(1-フェニルエチル)ベンゼン(Lot No. PPXE000204,純度 99.0 mass%,日本石油化学(株),神奈川)は水に不溶で,アセトン,DMSOに溶解する無色透明の液体である.入手後の被験物質は室温で被験物質室の保管庫に保管し,投与終了後に供給源にて分析を行い試験期間中安定であったことを確認した.媒体はオリーブ油(Lot No. SER4844及びSEK5852,和光純薬工業(株),大阪)を使用し,これに被験物質を0.25,1および4 w/v%濃度になるように溶解して投与液を調製した.なお,初回に投与液の濃度を測定し設定値の± 10 %以内にあることを確認した.また,投与開始前に本調製法による0.25および20 w/v%オリーブ油溶液は,褐色バイアル中にて,室温,遮光下で1日および冷蔵,遮光下で8日間安定であることを確認した.

2. 使用動物および飼育条件

8週齢のCrj:CD(SD)IGSラット(日本チャールス・リバー(株))を雌雄各55匹購入し,12日間の検疫・馴化を行った.この期間中に一般状態の観察および体重測定を行い,異常がないことを確認したのち,雌雄各48匹を選抜し,10週齢で試験に使用した.投与開始時の体重は雄で353.3〜413.8 g,雌で216.0〜270.7 gであった.動物は温度24 ± 2 ℃,湿度55 ± 10 %,照明12時間(午前7時〜午後7時)および換気回数13〜15回/時に設定したバリアーシステム飼育室でステンレススチール製ハンガーケージに,投与期間中は1匹(雌雄別),交配期間中は2匹(雌雄各1匹),妊娠および哺育期間中は床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたポリカーボネイト製ケージに1匹ずつ(哺育期間中は哺育児を含む)収容し,飼育した.飼料は高圧蒸気滅菌処理した固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を,飲水は次亜塩素酸ナトリウムを添加(約2 ppm)した水をそれぞれ自由に摂取させた.

3. 投与量,投与方法,試験群構成および群分け

投与量は,予備試験の結果から設定した.すなわち,本被験物質の100,500および1000 mg/kgを2週間反復経口投与した結果,1000 mg/kg群の雌雄で自発運動の低下,緩徐呼吸などがみられ,全例死亡した.また,500 mg/kg群の雌で貧血,雌雄でA/G比の低下,総コレステロール値およびリン脂質の増加,肝臓重量の増加が認められた.更に100 mg/kg群の雌雄で肝臓重量の増加が認められた.したがって,本試験では,200 mg/kgを高用量とし,以下公比約4で除した50及び12.5 mg/kgをそれぞれ中用量および低用量とした.試験群は,上記3用量に媒体のみを投与する対照を加え計4群とした.1群当たりの動物数は雌雄各12匹とし,群分けは,投与開始前日に,その日の体重を基に層別連続無作為化法で群分けを行い,平均体重の20 %以内の動物を使用した.また,雌については性周期が正常に回帰している個体を使用した.なお,群分け後の残余の雌雄各7例については,試験から除外した.

投与経路は,経口投与とし,雄では交配前14日間およびその後交配期間を含む35日間の合計49日間,雌では交配前14日間,交配期間(最長14日間),妊娠期間および哺育3日までの期間,1日1回,胃管を用いて投与した.投与容量は5 mL/kgとし,雄ならびに交配前および交配期間中の雌については最新の体重を基に,交尾成立後の雌については妊娠0日の体重を基にそれぞれ算出した.

4. 反復投与毒性に関する観察・検査

1) 一般状態

雌雄とも,全例について一般状態の観察および生死の確認を1日2回以上行った.

2) 体重および摂餌量

体重については,雄は投与期間を通じて週2回測定した.雌は,交配前の投与期間および交配期間中は週2回,妊娠期間中は妊娠0(妊娠確認日),4,7,10,14,17および21日,哺育期間中は哺育0(分娩日)および4日に測定した.摂餌量については,雄は交配期間を除く投与期間中,週2回測定した.雌は,交配前の投与期間は週2回,妊娠期間中は妊娠1,4,7,10,14,17および21日,哺育期間中は哺育1および4日に測定した.

3) 尿検査

雄全例について,最終投与週に実施した.代謝ケージを用いて午前8〜12時の時間帯(投与前)の新鮮尿を採取し,引き続き24時間蓄積尿を採取した.なお,採尿日の給餌は新鮮尿採取後に行い,飲水は通常通り与えた.絶食,給水下で投与前の時間帯に採取した新鮮尿について,比色試験紙(プレテスト8a,和光純薬工業株式会社)を用いてpH,蛋白質,ブドウ糖,ケトン体,ビリルビン,潜血およびウロビリノーゲンを検査した.更に,新鮮尿は毎分1500回転で5分間遠心分離し,得られた尿沈渣についてステルンハイマーの変法を施して鏡検した.また,新鮮尿採取後に給餌,給水下で採取した24時間蓄積尿について,尿量,色調,浸透圧(氷点降下法; OSMOMETER OM801,VOGEL社)および比重(屈折率法; 尿屈折計,(株)アタゴ)を測定した.

4) 血液学検査

雌雄とも最終投与日の翌日に実施し,ペントバルビタール・ナトリウム30 mg/kg腹腔内投与麻酔下に開腹し,後大静脈腹部から採血を行った.採取した血液の一部は,EDTA-2K処理(EDTA-2K 2 mg加血液)して多項目自動血球計数装置(Sysmex CC-780,シスメックス(株))により白血球数(電気抵抗検出方式),赤血球数(電気抵抗検出方式),ヘモグロビン量(オキシヘモグロビン法),ヘマトクリット値(血球パルス波高値検出方式)および血小板数(電気抵抗検出方式)を測定し,赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトクリット値の測定結果を基にWintrobeの赤血球恒数[平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)]を算出した.また,3.8 %クエン酸ナトリウム加血液を毎分3000回転で15分間遠心分離し,得られた血漿を用いて,全自動血液凝固測定装置(Sysmex CA-5000,シスメックス(株))によりプロトロンビン時間(PT,散乱光検出方式),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT,散乱光検出方式)およびフィブリノーゲン量(散乱光検出方式)を測定した.なお,雄については採血前に18時間以上絶食させたが,雌については絶食は行わなかった.

5) 血液生化学検査

血液学検査に引き続き採取した血液を室温で約60分間放置後,毎分3000回転で10分間遠心分離し,得られた血清を用いて自動分析装置(7170,(株)日立製作所)により,総蛋白質(ビウレット法),アルブミン(BCG法),総ビリルビン(バナジン酸酸化法),GOT(UVレート法),GPT(UVレート法),γ-GTP(L-γ-グルタミル-3-ヒドロキシメチル-4-ニトロアニリド基質法),アルカリ性フォスファターゼ(ρ-ニトロフェニルリン酸基質法),総コレステロール(COD・HDAOS法),トリグリセライド(GPO-HDAOS法・グリセリン消去法),リン脂質(コリンオキシダーゼ・DAOS法),グルコース(ヘキソキナーゼ・G-6-PDH法),尿素窒素(ウレアーゼ・GlDH法),クレアチニン(Jaff法),無機リン(PNP・XOD法)およびカルシウム(MXB法)を測定した.また,総蛋白質およびアルブミンからA/G比を算出した.更に,電解質分析装置(PVA-a,(株)アナリティカル・インスツルメンツ)によりナトリウム(電極法),カリウム(電極法)およびクロール(電量滴定法)を測定した.

6) 病理学検査

雌雄とも投与期間終了後の採血を行ったのちに,解剖して諸器官および組織の肉眼的観察を行い,雌について黄体数および着床痕数を調べた.剖検後,脳,心臓,肺(気管支を含む),胸腺,肝臓,脾臓,腎臓,副腎,精巣,精巣上体および卵巣を摘出して器官重量(絶対重量)を測定するとともに,剖検日の体重を基に体重比器官重量(相対重量)を算出した.重量測定器官に加え,肉眼的異常部位を採取して10 %中性緩衝ホルマリン溶液(精巣および精巣上体はブアン液で前固定)で固定した.固定後,全群の肉眼的異常部位,対照群および200 mg/kg群の脳,下垂体,脊髄,甲状腺(両側,上皮小体を含む),下顎リンパ節,心臓,肺(気管支を含む),気管,胸腺,肝臓,脾臓,腎臓(両側),副腎(両側),胃,十二指腸,空腸,回腸,膵臓,盲腸,結腸,直腸,腸間膜リンパ節,膀胱,精嚢(凝固腺を含む),前立腺(腹葉および背側葉),精巣(両側),精巣上体(両側),大腿骨(骨髄を含む),乳腺,坐骨神経および大腿二頭筋について,常法に従ってパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施し,光学顕微鏡下で観察した.また,200 mg/kg群で変化がみられた肝臓および副腎については12.5 mg/kg群まで同様に検査を行った.

5. 生殖発生毒性に関する観察・検査

1) 生殖機能

雌について,投与開始日(投与1日)から15日間,毎日午前の一定時間に膣垢を採取し,性周期検査を行った.

交配は雌雄(12週齢)1対1で一晩同居させる方法で行い,翌朝膣垢中の精子または膣栓が確認された日を妊娠0日とした.また,交配は同一群内で行い,交配期間は最長2週間とした.交配期間終了後,交尾所要日数,交尾率[(交尾動物数/同居動物数×100]および受胎率[(受胎動物数/交尾動物数)×100]を算出した.

2) 分娩および哺育状態ならびに新生児の観察

交尾が確認された雌は全例を自然分娩させ,分娩徴候を含め分娩状態および授乳,営巣などの哺育状態を観察するとともに,妊娠期間,出産率[(生児出産雌数/妊娠雌数)×100]を算出した.午後0時の時点で分娩が終了している動物を当該日分娩とし,その日を哺育0日とした.出産児については,分娩時に出産児数,新生児数,死産児数,新生児の性別および外表異常を検査した.新生児については,出生日および哺育4日に体重を個体ごとに測定するとともに出生率[(新生児数/着床痕数)×100]および新生児の4日の生存率[(哺育4日の生児数/新生児数)×100]を算出した.哺育4日に新生児の全例をエーテル麻酔下で放血致死させ,器官・組織の肉眼的観察を 行った.また,出産児(死産児及び死亡児を含む)については,剖検後一腹単位で純エタノールに固定保存した.

6. 統計解析

体重,摂餌量,尿検査値(定量値),血液学検査値,血液生化学検査値,交尾所要日数,性周期検査値(発情回数,発情周期),器官重量,体重比器官重量,妊娠期間,黄体数,着床痕数,総出産児数,新生児数および新生児体重については,各群ごとに平均値と標準偏差を求め,対照群と被験物質投与群間でまず分散の均一性をBartlett法により検定した.分散が均一な場合は,Dunnettの多重比較検定を用いて対照群との比較を行い,分散が均一でない場合は,Steelの多重比較検定を用いて対照群との比較を行った.尿検査の試験紙法による結果,色調および尿沈渣については,グレードを数値に変換したのちSteelの多重比較検定を行った.いずれの場合も有意水準を1及び5 %とし,両側検定とした.また,交尾率,受胎率,出産率および新生児の性比についてはχ2検定により,着床率,死産率,出生率および新生児の4日の生存率についてはWilcoxonの順位和検定により,病理組織学検査については Mann-WhitneyのU検定により対照群と各投与群間の比較を行った.いずれの場合も有意水準を5 %とした.なお,新生児に関する測定値については一腹単位で処理した.

結果

1. 反復投与毒性

1) 一般状態

各群の雌雄とも死亡の発生はなかった.一般状態では,200 mg/kg群の雌1例で哺育1日より剖検日まで陰部周辺に皮下の腫瘤が認められた.このほか,12.5 mg/kg群の雄1例で投与40日から剖検日まで脱毛がみられたが,50 mg/kg以上の群では同様の所見はみられていないことから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.

2) 体重(Fig.1)

雄では,対照群と比較して有意な差はみられなかったものの,200 mg/kg群で投与36〜46日に体重の増加抑制傾向が認められた.

雌では,被験物質投与各群とも交配前の投与期間中に対照群と比較して有意な差は認められなかった.一方,妊娠及び哺育期間中では,200 mg/kg群で体重の増加抑制傾向がみられ,このうち妊娠21日には対照群と比較して有意な低値が認められた.

3) 摂餌量

雄では,対照群と比較して有意な差はみられなかったものの,200 mg/kg群で投与30〜39日に摂餌量の低値傾向が認められた.

雌では,50 mg/kg群で妊娠1および4日に対照群と比較して有意な低値がみられたが,200 mg/kg群では同様の変化は認められていないことから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.

4) 尿検査(Table 1)

200 mg/kg群で尿量の増加ならびに尿比重および浸透圧の低下が対照群と比較して有意にみられたほか,結晶出現の頻度の増加が対照群と比較して有意に認められた.

5) 血液学検査(Table 2)

雄では,50および200 mg/kg群でプロトロンビン時間の延長が認められた.

雌では,12.5 mg/kg群でMCV及びMCHの高値,50 mg/kg群で赤血球数及びヘモグロビン量の低値がみられたが,200 mg/kg群では同様の変化は認められていないことから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.

6) 血液生化学検査(Table 3)

雄では50 mg/kg以上の群で総コレステロールの高値,200 mg/kg群でγ-GPT及びリン脂質の高値ならびにクロールの低値が認められた.このほか,200 mg/kg群でクレアチニンの高値がみられたが,生理的変動範囲内の変化であり,被験物質投与との関連はないと考えられた.

雌では200 mg/kg群でグルコースの高値が認められた.

7) 器官重量(Table 4)

雄では,肝臓において50 mg/kg以上の群で相対重量の高値,200 mg/kg群で絶対重量の高値が対照群と比較して有意に認められた.また,副腎において12.5 mg/kg以上の群で絶対重量の低値,12.5及び50 mg/kg群で相対重量の低値が対照群と比較して有意に認められた.

雌では,肝臓において200 mg/kg群で絶対及び相対重量の高値が対照群と比較して有意に認められた.

8) 剖検所見

雄では,12.5 mg/kg群の1例で精巣上体の黄白色小結節,12.5 mg/kg群の1例で頸部,胸部および下腹部の皮膚の軽度脱毛が認められた.

雌では,200 mg/kg群の2例で肝臓の軽度の肥大が認められた.このほか,対照群の1例で胸腺の軽度の小型化,200 mg/kg群の1例で左副腎の軽度の小型化,200 mg/kg群の1例で下腹部皮下の灰白色腫瘤(一般状態でみられた皮下の腫瘤)が認められた.

9) 病理組織学検査(Table 5, 6)

肝臓において50 mg/kg群の雄2例,200 mg/kg群の雄9例および雌6例で小葉中心性の肝細胞の軽度肥大が認められた.このほか,対照群の雄4例および雌1例,12.5 mg/kg群の雄2例および50 mg/kg群の雄1例で門脈周囲性の肝細胞の軽度脂肪化がみられたが,200 mg/kg群の雄では肝細胞の脂肪化は認められず,発現頻度が減少した.

副腎において12.5および50 mg/kg群の雄各2例,200 mg/kg群の雄3例で束状帯細胞の軽度萎縮が認められた.また,対照群の雄1例および雌3例,12.5 mg/kg群の雄1例および雌4例,50 mg/kg群の雄2例および雌4例ならびに200 mg/kg群の雄8例および雌3例で球状帯細胞の軽度肥大がみられ,200 mg/kg群の雄では対照群と比較して発現頻度が有意に増加した.これらのほか,肉眼的に左副腎の軽度の小型化がみられた200 mg/kg群の雌1例では,髄質に相当する部位に鉱質沈着が認められたが,同例の右副腎には異常はなく,同群の他の雌にも異常はみられなかったことから,被験物質投与と関連のない偶発性変化と考えられた.

肉眼的に下腹部皮下の灰白色腫瘤がみられた200 mg/kg群の雌1例では,乳腺の腺癌が認められた.肉眼的に精巣上体の黄白色結節がみられた12.5 mg/kg群の雄1例では,精巣上体の精子肉芽腫がみられたが,同様の変化は50 mg/kg以上の群では認められていないことから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.肉眼的に脱毛がみられた12.5 mg/kg群の雄1例の皮膚については,異常は認められなかった.なお,肉眼的に胸腺の小型化がみられた対照群の雌1例では,胸腺の皮質の軽度萎縮のほか,脾臓の軽度萎縮および腎臓の近位尿細管上皮細胞の軽度空胞変性も認められた.

このほか,対照群の雄4例および雌2例,ならびに200 mg/kg群の雄2例及び雌1例で肺の軽度の泡沫細胞集簇,対照群の雌9例および200 mg/kg群の雌5例で脾臓の軽度の髄外造血,対照群の雄1例および200 mg/kg群の雄3例で腎臓の軽度ないし中等度の好塩基性尿細管,対照群の雄1例および200 mg/kg群の雄2例で軽度のタンパク円柱,対照群の雄1例で軽度のリンパ球浸潤,対照群の雄3例で前立腺の軽度リンパ球浸潤がみられたが,いずれも対照群と比較して発現頻度に差はないことから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.

2. 生殖発生毒性

1) 生殖機能(Table 7)

性周期検査では,被験物質投与各群とも対照群と比較して発情回数および発情周期に有意な差は認められなかった.

生殖能力検査では,各群ともすべての例で交尾がみられ,全例妊娠した.したがって,交尾率および受胎率は各群とも100 %であった.また,交尾所要日数においても,対照群と被験物質投与各群との間に有意な差は認められなかった.

2) 分娩および哺育ならびに新生児の観察(Table 8)

分娩時の検査では,各群とも妊娠期間,黄体数,着床痕数,着床率,出産児数,出生率,新生児数,雌雄新生児体重,死産率,出産率および新生児の性比に対照群と比較して有意な差は認められなかった.新生児の外表検査においても,各群とも異常は認められなかった.

哺育期の検査では,各群とも新生児の哺育4日の生存率および体重に対照群と比較して有意な差は認められなかった.

考察

1. 反復投与毒性試験

各群の雌雄とも死亡の発生はなく,一般状態にも被験物質投与の影響は認められなかった.

体重では,200 mg/kg群の雄で投与後期に,雌で妊娠および哺育期間中に体重の増加抑制あるいは増加抑制傾向が認められた.摂餌量では,200 mg/kg群の雄で投与後期に低値傾向が認められた.

雄について実施した尿検査では,200 mg/kg群で尿量の増加とそれに伴うと考えられる浸透圧および比重の低下ならびに結晶出現の頻度の増加が認められた.しかし,病理組織学的検査では腎障害を示唆する所見は認められなかった.

血液学検査では,50および200 mg/kg群の雄でプロトロンビン時間の延長が認められた.しかし,その他の血液凝固系に関連する項目の異常および肝臓の傷害性変化は認められなかった.

血液生化学検査では,50 mg/kg以上の群の雄で総コレステロールの高値,200 mg/kg群の雄でγ-GPTおよびリン脂質の高値,200 mg/kg群の雌でグルコースの高値がみられ,被験物質の肝臓における糖代謝および脂質代謝機能などへの影響が示唆された.また,200 mg/kg群の雄ではクレアチニンの高値ならびにクロールの低値がみられたが,尿素窒素及び他の電解質に変動は認められなかった.

病理学検査では,50 mg/kg以上の群の雄および200 mg/kg群の雌で肝臓重量の増加が認められ,組織学的には小葉中心性の肝細胞肥大が認められた.このような小葉中心性の肝細胞肥大は薬物代謝酵素の誘導に関連して生じる1)ことが知られており,本試験でも同様の機序により生じたものと考えられた.また,門脈周囲性の肝細胞の脂肪化の発現頻度が,200 mg/kg群の雄で減少した.このほか,12.5 mg/kg以上の群の雄で副腎重量の低値がみられ,組織学的には束状帯細胞の軽度萎縮が認められた.この変化についての発生機序は明らかではなかった.また,200 mg/kg群の雄では球状帯細胞の肥大の発現頻度が増加した.球状帯細胞の肥大は,利尿剤の投与により発現することが報告されており,電解質バランスの不均衡により生じると考えられている2).前述のように,200 mg/kg群の雄では,尿量の増加が認められており,本変化との関連が疑われた.そのほか,200 mg/kg群の雌1例で乳腺の腺癌が認められた.乳腺の腺癌については,稀ではあるが同系統同週齢の雌動物で発生が報告されており3〜6),本試験でも1例のみに認められた変化であることから,被験物質投与と関連のない偶発的変化と考えられた.

以上のように,反復投与毒性では,12.5 mg/kg以上の群の雄で副腎への影響,50 mg/kg以上の群の雄および200 mg/kg群の雌で肝臓への影響が認められたことから,本試験条件下における反復投与毒性に対する無影響量は雄で12.5 mg/kg/day未満,雌で50 mg/kg/dayと推察された.

2. 生殖発生毒性

親動物の生殖機能に関しては,発情回数,発情周期,交尾所要日数,黄体数,交尾率,着床痕数および受胎率に被験物質投与の影響は認められなかった.

分娩時の観察では,妊娠期間,出産率,出産児数,出生率,新生児数,雌雄出生児体重,死産率,および新生児の性比に被験物質投与の影響はみられず,外表異常の発現も認められなかった.哺育期の観察では,新生児の哺育4日の生存率および体重に被験物質投与の影響は認められなかった.

以上のように,生殖発生毒性では,親動物の生殖能力及び次世代児の発生・発育に及ぼす影響はいずれの群においても認められなかったことから,本試験条件下における生殖発生毒性に対する無影響量は親動物および児動物ともに200 mg/kg/dayと推察された.

文献

1)J.R. Glaister, "Principles of toxicological pathology," Taylar & Francis, London and Philadelphia, 1986, pp.83-85.
2)C. Gopinath, D.E. Prentice, D.J. Lewis, "Atlas of Experimental Toxicological Pathology," MTP press, Lancaster, 1987, pp.104-108.
3)高鳥浩介,化学物質毒性試験報告,2, 157(1995).
4)吉村浩幸,化学物質毒性試験報告,5, 643(1997).
5)和泉宏幸,化学物質毒性試験報告,5, 735(1997).
6)和泉宏幸,化学物質毒性試験報告,7, 247(1999).

連絡先
試験責任者:和泉宏幸
試験担当者:木村栄介,浜村政夫,神谷光一,笠間 透,鍬先恵美子,藤井 治
(株)パナファーム・ラボラトリーズ安全性研究所
〒869-0425 熊本県宇土市栗崎町1285
Tel 0964-23-5111Fax 0964-23-2282

Correspondence
Authors:Hiroyuki Izumi(Study director)
Eisuke Kimura, Masao Hamamura, Kouichi Kamiya, Tooru Kasama, Emiko Kuwasaki, Osamu Fujii
Safety Assessment Laboratory, Panapharm Laboratories Co., Ltd.
1285 Kurisaki-machi, Uto-shi, Kumamoto, 869-0425, Japan
Tel +81-964-23-5111Fax +81-964-23-2282