1-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウムのラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of 1-Naphthol-4-sulfonic acid sodium salt in Rats

要約

1-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウムの2000 mg/kg を1群5匹からなる5週齢の雌雄ラットに単回経口投与した.

その結果,2000 mg/kg 投与群の雄3例および雌全例では,観察初期に一過性の軟便排泄が観察されたが,その他には全例において一般状態の変化はみられなかった.また,体重の推移についても,全例とも順調に増加し,被験物質投与の影響を示唆する明らかな変化は認められず,剖検所見でも全例で著変は認められなかった.

以上のことから,本試験条件下における1-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウムのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.

方法

1. 被験物質

被験物質として,スガイ化学工業(株)(和歌山)より提供された1-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウム〔ロット番号9342,純度95.7 %(カップリング滴定法)〕を使用した.提供された物質は白色の粉末で,不純物として水3.2 %,塩化ナトリウム1.0 % を含有していた.被験物質は,使用時まで室温で保管した.なお,試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であったことを確認した.

投与検体は,被験物質を日局注射用水(製造番号9707SA,光製薬(株))に溶解して10 w/v%溶液を調製し,気密容器に入れ,翌日の投与時まで冷蔵,遮光下で保存した.動物試験に先立ち,被験物質の0.05および10 w/v%溶液について,冷蔵,遮光条件下における調製後8日間の安定性を確認した.また,投与検体中の被験物質の平均含量は99.0 %であった.

2. 使用動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系[Crj:CD(SD)IGS, SPF]雌雄ラットを,日本チャールス・リバー(株)厚木飼育セン ターから購入し,飼育環境への馴化と検疫を兼ねて7日間予備飼育した.予備飼育中,一般状態に異常が認められなかった雌雄各10匹を用い,検疫終了時の測定体重を基に体重別層化無作為抽出法により1群5匹からなる2群に分けた.投与時の週齢は,雌雄ともに5週齢であり,体重は雄が119.7〜127.0 g,雌が97.9〜106.9 gであった.

全飼育期間を通じ,動物を金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,温度22〜25 ℃,湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に制御された飼育室で,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量の設定および投与方法

投与量は,予備試験の結果に基づいて決定した.すなわち,被験物質の500,1000および2000 mg/kgの用量を単回投与した結果,体重増加は全例とも観察期間を通じて順調であり,一般状態の変化としては,最低用量群を含めた各群の雄または雌で,観察初期に一過性の軟便排泄が散見されたのみであった.従って,雌雄とも2000 mg/kg投与群および対照群の2群を設定した.

投与容量は体重1 kg当たり20 mLとし,動物を投与前約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.給餌は投与約3時間後に開始した.

4. 観察および検査

観察第1日(投与日)から14日間にわたって死亡の有無を確認し,各動物の一般状態を観察した.観察は,投与日においては投与直後から1時間まで連続して行い,その後は投与後6時間まで約1時間間隔で実施した.観察第2日から15日までは毎日1回行った.

体重は全例について,投与直前,観察第2,4,8,11および15日に測定した.

剖検は,観察第15日に全例をペントバルビタール・ナトリウム麻酔下で放血屠殺して実施した.なお,剖検所見に特記すべき変化が認められなかったため,組織学検査は実施しなかった.

5. データ解析法

体重について,群ごとに平均値と標準偏差を求め,Studentのt検定法あるいはAspin-Welchのt検定法を用いて検定した(有意水準:5 %).

結果および考察

雌雄ともに,死亡例は認められなかった.投与後2〜6時間の観察において,2000 mg/kg投与群の雌2例で軟便排泄が認められた.観察第2日では,同群の雄3例および雌全例で軟便が確認された.その他には,一般状態の変化は認められなかった.

体重では,雄は観察第8日以降に2000 mg/kg投与群が対照群と比較して有意な高値を示し,雌では観察第8および11日に2000 mg/kg投与群が有意な低値を示した.2000 mg/kg投与群の雌を含め,いずれの個体も順調な体重増加を示していたことから,これらの有意差は被験物質投与に起因する変化ではないと考えられる.

剖検では,雌雄全例の器官・組織に肉眼的異常所見は認められなかった.

以上の結果より,本試験条件下では被験物質投与との関連を示唆する変化は,観察初期にみられた一過性の軟便排泄のみであった.1-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウムのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると判断された.

連絡先
試験責任者:永田伴子
試験担当者:関  誠,堀内伸二,三枝克彦,稲田浩子,安生孝子
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Tomoko Nagata(Study director)
Makoto Seki, Shinji Horiuchi, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan
Tel +81-463-82-4751Fax +81-463-82-9627