2-メルカプトベンツイミダゾールのラットを用いる
28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test of 2-Mercaptobenzimidazole in Rats

要約

 既存化学物質の毒性学的性質を評価するために,ゴムの加硫促進剤あるいは老化防止剤としてゴム業界において広く使用されている,2-メルカプトベンツイミダゾールを雌雄ラットに1日1回,28日間経口投与し,その毒性について検討した.なお,一部の動物については14日間の回復期間を設けた.投与量は 1.2,4,12 および 40 mg/kgとし,対照として媒体(0.5%CMC)投与群を設けた.

 40 mg/kg群の雌では,投与18日以降〜回復8日まで少数例で被毛光沢不良がみられた.当群では,投与24日に 1 例が死亡した.

 12 mg/kg群の雄は投与18日から,40 mg/kg群の雄は投与 11 日から,雌は投与15日から,いずれも最終投与日まで有意な体重増加抑制が認められた.回復期間中は,40 mg/kg 群の雌雄とも体重の有意な低値が継続して認められた.

 12 mg/kg群の雄は投与2週から,40 mg/kg群の雌雄は投与 1 週から,いずれも投与4週まで摂餌量の有意な低値が認められた.回復期間中は,40 mg/kg群の雌雄とも摂餌量の有意な低値が継続して認められた.

 40 mg/kg群の雄で尿量が有意な高値を,12 mg/kg以上の群の雄で尿比重が有意な低値を示した.当変動は,回復期間終了前には消失した.

 血小板数および網状赤血球数の低値ならびに MCHC の高値が12 mg/kg以上の群の雄と40 mg/kg群の雌で,MCV の低値が12 mg/kg以上の群の雄で,赤血球数の低値が 12 mg/kg以上の群の雌で,HCTの低値,PTの延長が 40 mg/kg群の雌雄で,APTTの延長が 40 mg/kg群の雄で,白血球数の低値が 40 mg/kg群の雌で認められた.回復期間終了時には,40 mg/kg群の雌雄で HCT,雌で赤血球数の低値が継続して認められた他に,雄で赤血球数の低値,雌雄でHGBの低値,雄で白血球数の低値が新たに認められた.

 Kの低値が4 mg/kg以上の群の雌雄で,Caの低値が4 mg/kg以上の群の雄で,Clおよび GOTの低値が12 mg/kg以上の群の雌雄で,総蛋白,尿素窒素,クレアチニン,総コレステロールの高値が12 mg/kg以上の群の雄と40 mg/kg群の雌で,γ-GTP,アルブミン量の高値が40 mg/kg群の雌雄で,α2-グロブリン比,β-グロブリン比,トリグリセライド,無機リンの低値が12 mg/kg以上の群の雄で,アルブミン比,A/G比,総ビリルビンの高値が40 mg/kg群の雄で,ブドウ糖の高値が 40 mg/kg群の雌で,Naの高値が12 mg/kg以上の群の雌で認められた.回復期間終了時には,40 mg/kg群の雄で GOT,β-グロブリン比の低値が継続して認められた他に,雄でNaの高値が新たに認められた.

 4 mg/kg以上の群の雌雄で,甲状腺の大型化がみられた.回復期間終了時にも,40 mg/kg群の雌雄で同様の所見が得られた。

 4 mg/kg以上の群の雄および12 mg/kg以上の群の雌で,甲状腺絶対重量および相対重量がともに有意な高値を示した.回復期間終了時には変動の程度はやや弱くなったものの,40 mg/kg群の雌雄で甲状腺重量の有意な高値が継続して認められた.

 甲状腺で,濾胞細胞の過形成および肥大が1.2 mg/kg以上の群の雌雄でみられた.副腎では,皮質細胞の空胞化が40 mg/kg群の雌雄でみられた.回復期間終了時には,40 mg/kg群の雌雄ともに甲状腺および副腎の組織変化の程度が弱くなったものの,同様の変化が継続してみられた.

 以上により,2-メルカプトベンツイミダゾールは造血機能,甲状腺,肝機能および腎機能などに影響を及ぼすことが推察された.当試験条件下における28日間反復経口投与による毒性学的無影響量は,1.2 mg/kg未満と考えられた.

方法

1. 被験物質,媒体および投与検体液

 被験物質の 2-メルカプトベンツイミダゾールは,分子量:150.21,融点:約 304℃で水にほとんど溶けない淡黄白色粉末である(Lot No. 30807,製造元:住友化学工業(株),純度:98.5%).投与終了後に残余被験物質の一部を製造元に送付して分析した結果,純度は98.5%であり,使用期間中の安定性が確認された.

 投与検体液は,被験物質を 0.5%CMC 水溶液に懸濁して調製した.投与開始時および投与期間終了時の2回,試験施設内で滴定法により各投与検体液中の被験物質濃度を測定した.その結果,被験物質濃度は適正範囲内の値を示した.0.5%CMC 水溶液中の0.6,10および40 mg/ml濃度の被験物質は,調製後冷蔵・遮光下で7日間,さらに室温・遮光下で 4 時間の保存条件で安定であることが確認された.そこで,当濃度範囲内の投与検体液の調製は1週間に1回以上とし,1日分毎に分割して冷蔵・遮光下で保存し,用時室温に戻して投与に用いた.当濃度範囲外の投与検体液は用時調製とし,調製後は速やかに投与に用いた.

2. 使用動物および飼育方法

 Sprague-Dawley 系の雄(4 週齢)および雌(3 週齢)ラット[Crj:CD(SD),(SPF)]を,日本チャールス・リバー(株)日野飼育センターから購入した.5日間の検疫期間およびその後,雄は7日間,雌は14日間の馴化期間を設け,一般状態および体重推移に異常の認められない雌雄各 60 匹の動物を群分けして試験に用いた.群分けは,コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に,無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように,投与開始日の前日に行った.

 動物は,室温20〜24℃,湿度40〜70%、明暗各12時間,換気回数12回/時に設定した飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製懸垂式ケージを用いて1ケージあたり5匹までの群飼育とし,群分け後はステンレス製五連ケージを用いて個別飼育した。

 飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を給餌器に入れ,自由に摂取させた.飲料水は,水道水を給水瓶を用いて自由に摂取させた.飼料および飲料水の分析の結果,いずれも検査成績は試験施設で定めた基準値の範囲内であった.

3. 投与経路,投与方法および群構成

 2-メルカプトベンツイミダゾールは継続して経口的に人に摂取される可能性が考えられるため,投与経路として経口投与を選択した.投与液量は投与日に最も近い測定日の体重を基準とし,5 ml/kgで算出した.投与開始時の週齢は約 6 週齢,体重範囲は雄が167〜195 g,雌が139〜164 gであった.

 群構成は,以下の如くとした.すなわち,被験物質投与群として雌雄各4群を設定し,その他に対照群を設けた.1群の動物数は,対照群および最高用量群は投与期間終了時剖検例10匹と回復期間終了時剖検例5匹の合計15匹とした.また,被験物質の低用量,中用量および高用量群は,投与期間終了時剖検例10匹とした.

投与量設定の理由:

 雌雄ラットを用いた2週間投与による予備試験(投与量:0,6.25,12.5,25,50,100 および200 mg/kg,一群5例)の結果,200 mg/kg群では雌雄とも投与5日までに全例が,100 mg/kg群では投与13日までに雄4例と雌の全例が死亡した.50 mg/kg 以下の投与群では,一般状態に異常はみられなかった.一方,25 mg/kg以上の投与群では雌雄とも体重は増加抑制傾向であり,雄では25 mg/kg群は投与開始15 日に, 50 mg/kg 群は投与11 日および投与開始15 日に有意差が認められた.

 そこで,当試験では投与期間を考慮して,25 mg/kg と 50 mg/kgの間の用量の40 mg/ kgを最高用量とし,以下公比約3により12,4 および1.2 mg/kgを設定した.対照として,被験物質と同一液量の媒体投与群を設けた。

 投与期間は,1日1回で28日間反復投与とした.また,28日間の投与後に対照群および最高投与群の一部の動物につき14日間の回復期間を設け,回復性について検討した.

 なお,初回投与日を投与1日とし,最終投与日の翌日を回復1日とした.

4. 観察および検査項目

1) 一般状態

 一般状態および死亡の有無を,投与期間中は投与前・後の1日2回ならびに回復期間中は毎日1回観察した.

2) 体重

 投与期間中および回復期間中とも1週間に2回,体重を測定した.

3) 摂餌量

 投与期間中および回復期間中ともに連続2日間量を測定して1日量に換算し,1週間に1回,摂餌量を測定した.なお,剖検前日の夕刻からは絶食とした.

4) 摂水量

 摂餌量測定と同様にして摂水量を測定した(ただし,絶食期間中は給水を行った).

5) 尿検査

 投与期間終了前に投与期間終了時の剖検用動物について,回復期間終了前に回復期間終了時の剖検用動物について尿検査を実施した.すなわち,採尿ケージを用いて絶食・給水下で3時間で採取した尿(3時間尿)と,引き続いて給餌・給水下で21時間で採取した尿(21時間尿),およびそれらを合計した尿(24時間尿)について,以下の検査を実施した.なお,投与期間中の採尿は当日の検体投与後に行った.

3時間尿 :色調は,外観判定とした.pH,潜血,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲンおよびビリルビンは,エームスクリニテック用検査紙(マイルス・三共(株))に尿を滴下後に,エームス尿分析器(クリニテック200,マイルス・三共(株))を用いて検査した.尿沈渣は,沈渣を尿沈渣染色液で染色後に顕微鏡下で観察した.
21時間尿:比重を,屈折率により屈折型比重計(ユリペット・II D,(株)ニコン)を用いて測定した.
24時間尿:尿量を重量により測定した.

6) 血液学検査

 最終投与の翌日および回復期間終了後に,ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与による麻酔下で腹大動脈から血液を採取し,以下の検査を実施した.

 プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は,3.13%クエン酸ナトリウムで処理した血漿について,散乱光検出方式により血液凝固分析装置(コアグマスターII,三共(株))を用いて測定した.

 赤血球数(RBC),ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数および白血球数(WBC)は,EDTA-2K コーティングしたSysmexサンプルカップに採取した血液について,多項目自動血球計数装置(Sysmex E-2000,東亜医用電子(株))を用いて測定した.さらに,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH)および平均赤血球血色素濃度(MCHC)を算出した.

 網状赤血球数は,EDTA-2K処理した血球をBrecher法により超生体染色してスライドグラスに塗抹後,Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で赤血球 1000個中の数を数えた.

 白血球百分率は,EDTA-2K処理した血液をスライドグラスに塗抹し,May-Giemsa染色標本を作製して顕微鏡下で白血球 100個を分類計数した.

7) 血液生化学検査

 血液学検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液から分離して得た血清について,以下の検査を実施した.

GOT および GPT は Henry変法,ALP は p-NPP基質法,γ-GTP はγ-G-P-NA 基質法,総蛋白(TP)はBiuret法,総ビリルビン(T-Bil)は Azobilirubin法,尿素窒素(BUN)は Urease・GlDH法,クレアチニンは Jaff法,ブドウ糖は Glucose dehydrogenase法,総コレステロール(T-Cho)は COD・DAOS法,トリグリセライド(TG)は GPO・DAOS法,無機リン(IP)は Molybdenum blue法,Ca は o-CPC 法により,いずれも自動分析装置(AU 500,オリンパス光学工業(株))を用いて測定した.

 NaおよびKはイオン選択電極法により,Clは電量滴定法により,いずれも全自動電解質分析装置(EA04,(株) A&T)を用いて測定した.

 蛋白分画は,自動電気泳動装置(AES 600,オリンパス光学工業(株))を用いて測定した.

 アルブミン量は総蛋白量および蛋白分画値から,A/G 比は蛋白分画値から算出した.

8) 剖検

 上記の 6) および 7) の項で採血した動物をさらに放血致死させた後に,器官・組織の肉眼的観察を行った.

9) 器官重量

 剖検時に,以下の器官重量を測定した.さらに,剖検前に測定した体重を基準として器官重量の体重比(相対重量)を算出した.

 脳(大脳,小脳,延髄),肝臓,腎臓,副腎,甲状腺(上皮小体を含む),精巣または卵巣.

10) 病理組織学的検査

 以下の器官または組織を摘出して10%中性緩衝ホルマリン液(ただし,眼球はグルタールアルデヒド・ホルマリン液)で固定し,全例について常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した.

 心臓,肺,肝臓,胃,脾臓,腎臓,膀胱,精巣,卵巣,下垂体,副腎,甲状腺(上皮小体を含む),脳(大脳,小脳,延髄),眼球,骨髄(大腿骨).

 投与期間終了時剖検例の対照群および最高用量(40 mg/kg)群の心臓,肝臓,脾臓および腎臓についてH-E染色組織標本を作製し,病理組織学的検査を行った.さらに,剖検時に大型化の所見が得られた甲状腺(上皮小体を含む),および投与期間終了時の40 mg/kg群の観察で対照群に比して異常所見を示す動物数が多かった副腎は,投与期間終了時および回復期間終了時の対照群を含む全投与群の雌雄について同様に検査した.また,死亡例の剖検で異常がみられた肺および胸腺についても検査した.

5.統計学的方法

 測定値の統計学的方法は下記のように多重比較検定を行い,有意差検定は対照群と被験物質各投与群との間で行った.いずれの検定においても,危険率 5%未満を有意とし,5%未満(p<0.05)と 1%未満(p<0.01)とに分けて表示した.

 体重,摂餌量,摂水量,尿量,尿比重,血液学検査,血液生化学検査,器官重量(相対重量を含む)については,各群で平均値および標準偏差を算出した.多重比較検定では,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散ならば一元配置法による分散分析を行い,有意ならば対照群との群間比較はDunnett法(例数が等しい場合)またはScheff法(例数が等しくない場合)を用いて行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い,有意ならば対照群との群間比較は順位を利用したDunnett法またはScheff法を用いて行った.

結果

1. 一般状態

1) 投与期間中

 対照群および12 mg/kg以下の群の雌雄ならびに40 mg/kg群の雄では,異常症状は観察されなかった.40 mg/kg群の雌では,投与18日以降剖検日まで1〜3例で被毛光沢不良がみられた.投与24日に,40 mg/kg群の雌1例が死亡した.当例では,死亡前日まで異常症状は観察されなかった.

2) 回復期間中

 40 mg/kg群の雌では,投与期間中から引き続いて1〜2例で被毛光沢不良がみられたが,回復9日以降には当症状は消失した.その他には,異常症状は観察されなかった.

2. 体重(Fig.1)

1) 投与期間中

 4 mg/kg以下の群の雌雄および 12 mg/kg群の雌の体重は,対照群とほぼ同様の推移を示した.

 12 mg/kg群の雄では,対照群に比して投与3週頃から体重増加抑制傾向,あるいは前回測定値に比して減少を示す日もあり,投与18日から最終投与日まで有意差が認められた.40 mg/kg群では,雌雄ともに対照群に比して投与2週頃から体重増加抑制傾向,あるいは前回測定値に比して減少を示す日もあり,雄は投与11日から,雌は投与15日から,いずれも最終投与日まで有意差が認められた.一般状態の観察で被毛光沢不良がみられた40 mg/kg群の雌の3例の体重は,同群内でもやや低い値で推移した.なお,40 mg/kg群の雌の死亡例では,同一群内の他の動物に比して体重推移に異常はみられなかった.

2) 回復期間中

 40 mg/kg群では,雌雄ともに回復期間中の体重増加量は対照群よりも大きかったが,回復14日まで有意な低値が継続して認められた.

3. 摂餌量(Fig.2)

1) 投与期間中

 4 mg/kg以下の群の雌雄および12 mg/kg群の雌の摂餌量は,対照群とほぼ同様の推移を示した.

 12 mg/kg群の雄では対照群に比して低値であり,投与2週から投与4週まで有意差が認められた.

 40 mg/kg群では,雌雄とも投与1週から投与4週まで有意な低値を示した.一般状態の観察で被毛光沢不良であった雌3例の内の2例の摂餌量は,低い値を示す日がみられた.なお,雌の死亡例では同一群内の他の動物に比して摂餌量推移に異常は認められなかった.

2) 回復期間中

 40 mg/kg群の雌雄ともに,回復期間中の摂餌量は投与期間中の後期よりもわずかの増加傾向がうかがわれたが,対照群に比して有意な低値が継続して認められた.

4.摂水量

1) 投与期間中

 各投与群の摂水量は,雌雄とも対照群に比してほぼ同程度かやや高値傾向であった.投与用量に関連性の無い変動として,1.2 mg/kg群の投与4週に有意な高値が認められた.なお,40 mg/kg 群の雌の死亡例では,同一群内の他の動物に比して摂水量推移に異常は認められなかった.

2) 回復期間中

 対照群に比して 40 mg/kg群の雄はほぼ同程度,雌は高値であったが,有意差は認められなかった.

5.尿検査

1) 投与期間終了前

 尿量は,対照群に比して12 mg/kg以上の群の雌と40 mg/kg群の雄で高値であり,雄では有意差が認められた.

 尿比重は,対照群に比して12 mg/kg以上の群の雌雄で低値であり,12および40 mg/kg群の雄で有意差が認められた.

 色調,pH,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,各投与群の雌雄とも対照群とほぼ同様であった.

2) 回復期間終了前

 尿量は,40 mg/kg群の雄で投与期間終了前の有意な高値に代わり,有意な低値を示した.また,尿比重は40 mg/kg群の雌で新たに有意な低値が認められた.

 色調,pH,蛋白,糖,ケトン体,ビリルビン,潜血,ウロビリノーゲンおよび沈渣は,40 mg/kg群の雌雄とも対照群とほぼ同様であった.

6.血液学検査(Table 1,2)

1) 投与期間終了時

 4 mg/kg以下の群では,雌雄ともにいずれの検査項目とも対照群とほぼ同程度であり,有意差は認められなかった.

 12 mg/kg群では,雌で赤血球数の低値に,雄で平均赤血球容積,血小板数,網状赤血球数の低値および平均赤血球血色素濃度の高値に有意差が認められた.

 40 mg/kg群の雄では,12 mg/kg 群にみられた変動に加え,ヘマトクリット値の低値,プロトロンビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間の延長に有意差が認められた.雌では,赤血球数の低値に加え,ヘマトクリット値,平均赤血球血色素濃度,血小板数,網状赤血球数およびプロトロンビン時間に雄と同様の変動が認められた.さらに,雌では白血球数が有意な低値を示した.

2) 回復期間終了時

 投与期間終了時に認められた40 mg/kg群の雌の赤血球数の低値および雌雄のヘマトクリット値の有意な低値が,継続してみられた.新たに,雄で赤血球数および白血球数,雌雄でヘモグロビン量の低値が認められた.一方,雌雄でプロトロンビン時間の延長,雄で平均赤血球容積および血小板数の低値,活性化部分トロンボプラスチン時間の延長,雌で平均赤血球血色素濃度の高値,網状赤血球数の低値および白血球数の低値の各有意差は消失した.なお,雄で平均赤血球血色素濃度は低値を,網状赤血球数は高値を,雌で血小板数は高値を示し,投与期間終了時とは逆の有意差が認められた.

7. 血液生化学検査(Table 3,4)

1) 投与期間終了時

 1.2 mg/kg群では,雌雄ともにいずれの検査項目とも対照群とほぼ同程度であり,有意差は認められなかった.

 4 mg/kg群では,雌雄でKが,雄でCaが有意な低値を示した.

 12 mg/kg群では,4 mg/kg群でみられた変動に加え,雌雄でGOT,Clの低値,雄でα2-グロブリン比,β-グロブリン比,トリグリセライドおよび無機リンの低値,総蛋白,尿素窒素,クレアチニンおよび総コレステロールの高値,雌で Na の高値に有意差が認められた.

 40 mg/kg群では,12 mg/kg群でみられた変動に加え,雌雄でγ-GTPおよびアルブミン量の高値,雄でアルブミン比,A/G比および総ビリルビンの高値,雌で総蛋白,尿素窒素,クレアチニン,ブドウ糖および総コレステロールの高値に有意差が認められた.

2) 回復期間終了時

 投与期間終了時と同様に,40 mg/kg群の雄でGOTおよび β-グロブリン比が有意な低値を示した.新たに,雄でNaの有意な高値が認められた.なお,雄では無機リンが高値を,総蛋白およびクレアチニンが低値を,雌ではブドウ糖が低値を示し,投与期間終了時とは逆の有意差が認められた.

8. 剖検所見

1) 投与期間終了時

 4 mg/kg以上の群の雌雄では,甲状腺の大型化が5〜10例にみられた.その他には,著変はみられなかった.

 死亡例(雌1例)では,甲状腺の大型化に加えて胸水(無色)貯留,胸腺の暗赤色化,肺の暗赤色化がみられた.

2) 回復期間終了時

 投与期間終了時と同様に,40 mg/kg群の雌雄の全例で甲状腺の大型化がみられた.その他には,著変はみられなかった.

9.器官重量(Table 5,6)

1) 投与期間終了時

 4 mg/kg以上の投与群では,対照群に比して雌雄とも甲状腺の絶対重量および相対重量がともに高値であり,4 mg/kg以上の群の雄および12 mg/kg以上の群の雌で有意差が認められた.その他に,脳,肝臓,腎臓,副腎,精巣あるいは卵巣で有意差が認められたが,絶対重量と相対重量が逆の変動であった.

2) 回復期間終了時

 40 mg/kg群では,対照群に比して甲状腺の絶対重量および相対重量がともに有意な高値を示したが,その程度は投与期間終了時によりも弱くなった.その他に,脳,肝臓,腎臓,副腎あるいは精巣で有意差が認められたが,絶対重量と相対重量が逆の変動であった.

10.病理組織学的検査(Table 7,8)

1) 投与期間終了時

甲状腺:濾胞細胞の過形成および肥大が,1.2 mg/kg以上の群の雌雄の4〜10例にみられた.当所見を示す動物数および組織変化の程度には雌雄ともに投与用量との関連性がうかがわれ,1.2 mg/kg群では約半数例がごく軽度〜軽度であったが,40 mg/kg群では全例が高度の変化であった.
副 腎:皮質細胞の空胞化が,雄では対照群の3例,1.2 mg/kg以上の群の4〜10例に,雌では40 mg/kg群の5例にみられた.雄では,当所見を示す動物数および組織変化の程度に投与用量との関連性がうかがわれ,対照群および12mg/kg以下の群ではごく軽度であったが,40mg/kg群ではほとんどが軽度の変化であった.

 その他に,心臓で間質への細胞浸潤,肝臓で肉芽腫,脾臓で髄外造血,腎臓で尿細管の拡張および好塩基性化などがみられたが,程度はごく軽度であり,例数は 1 例のみかあるいは対照群にも認められる程度であった.

 死亡例でも,甲状腺で濾胞細胞の増生および肥大がみられた.また,肝臓で肉芽腫が,肺でうっ血が,肺および腎臓では死後変化がみられた.

2) 回復期間終了時

甲状腺:40 mg/kg群の雌雄全例で濾胞細胞の増生および肥大がみられたが,その程度は投与期間終了時に比して弱くなり,ごく軽度であった.
副 腎:皮質細胞の空胞化が,雄の対照群の3例および 40 mg/kg群の4例にみられた.変化の程度は対照群の1例が軽度であった以外は,ごく軽度であった.

考察

 一般状態では,投与期間の後半に40 mg/kg群の雌の少数例で被毛光沢不良がみられたが,これらの例では同群内でも体重が比較的低く,摂餌量も少ないところから,体重増加抑制,摂餌量の低値に関連した変化と思われた.同群では投与期間中に1例が死亡したが,一般状態,体重推移,摂餌量推移,摂水量推移などに異常はみられず,また剖検および病理組織学的検査によっても死亡原因は明らかではなかった.

 体重は12 mg/kg群の雄と40 mg/kg群の雌雄で低値であり,摂餌量の低値に起因した変動と思われた.回復期間中の40 mg/kg群の体重増加量は対照群よりも大きく,摂餌量は投与期間の後半よりも増加傾向を示したが,体重および摂餌量ともに有意な低値が継続して認められた.したがって,体重および摂餌量は休薬により回復傾向はうかがえるものの,回復期間が2週間では不十分であったと考えられた.

 尿検査では,12 mg/kg以上の群の雄で尿比重の低値,40 mg/kg群の雄で尿量の高値が認められた.血液化学検査で12 mg/kg群の雄と40 mg/kg群の雌雄で尿素窒素およびクレアチニンの高値が認められていること,電解質にも変動がみられることから,これらの変動は腎機能の低下に関連した変化と推測された.しかしながら,腎臓の病理組織学的検査では40 mg/kg群の雌雄に特異的な組織変化はみられず,回復期間終了時には尿量およびクレアチニンは逆に低値を示していることから,尿比重,尿量,尿素窒素,クレアチニンの変動は休薬によって回復する可逆的変化と考えられた.

 血液学検査では,12 mg/kg以上の群の雄,雌または雌雄で赤血球数,ヘマトクリット値,血小板数,網状赤血球数,白血球数の低値,ならびにプロトロンビン時間と活性化部分トロンボプラスチン時間の延長が認められた.平均赤血球容積の低値,平均赤血球血色素濃度の高値も認められ,これらは主としてヘマトクリット値の低値に起因した変動と思われた.休薬により,前記の変化の内で平均赤血球容積,プロトロンビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間の有意差は消失し,逆に血小板数および網状赤血球数は高値を,平均赤血球血色素濃度は低値を示した.一方,赤血球数,ヘモグロビン量およびヘマトリクット値の低値が40 mg/kg群の雌雄で,白血球数の低値が40 mg/kg群の雄で認められたことから,これらの検査値の回復には長期間が必要とされることが推測された.病理組織学的検査では,被験物質投与群にヘモジデリン沈着などの組織変化がみられておらず,血液学検査の変動は軽度の造血機能抑制の影響と考えられた.

 血液生化学検査では,4 mg/kg以上の群の雄,雌または雌雄でγ-GTP,総蛋白,アルブミン量,蛋白分画値,総ビリルビン,総コレステロール,ブドウ糖,トリグリセライドなどの主として肝機能,あるいは尿素窒素,クレアチニン,Na,Cl,Ca,無機リンなどの主として腎機能に関する検査値の変動が認められたが,ほとんどは休薬により回復あるいは回復傾向がみられた.なお,Ca値は甲状腺機能との関連性が知られており,甲状腺の重量および組織検査に異常がみられた雌ではCa値に変動が認められなかったものの,雄では変動が4 mg/kg群から認められていることから,Ca値の変動は甲状腺機能あるいは組織変化に伴ったものと推測された.さらに,肝機能および腎機能に関する検査値の変動の多くも,甲状腺機能あるいは組織変化に伴った変化の可能性が考えられた.

 器官重量では,甲状腺重量の高値が認められた.病理組織学的検査では濾胞細胞の過形成および肥大が低用量の 1.2 mg/kg群からみられ,この組織変化が重量増加の原因と考えられた.なお,当組織変化の程度はやや弱くなるものの回復期間終了時にも同様の組織像がみられており,可逆性の変化ではあるが2週間の回復期間では不十分であったと思われた.また,副腎にみられた皮質細胞の空胞化も,2週間の休薬により回復傾向を示す可逆性変化であった.甲状腺の組織変化は,2-メルカプトベンツイミダゾールの反復投与により甲状腺ホルモンの合成が抑制される結果,血中の甲状腺ホルモン濃度が減少し,これがTSH の遊離を刺激して甲状腺の肥大を惹起すると考えられている1) .

 本物質の毒性については,Gaworskiら2) はラットの反復吸入毒性試験を行い,肝臓重量増加,胸腺重量減少,白血球数減少,貧血症状,遊離脂肪酸減少,コレステロール値増加,GPTおよび尿素窒素増加を観察している.また,川崎ら3) はラットでの反復経口投与毒性試験により体重増加抑制,摂餌量減少,白血球数減少,貧血傾向(回復群),尿素窒素・コレステロール・γ-GTP 増加,胸腺重量減少を観察している.今回の著者らの成績は,これらの報告とほぼ一致するものと思われた.

 以上のように,2-メルカプトベンツイミダゾールは造血機能,甲状腺,肝機能および腎機能などに影響を及ぼすことが推測された.当試験条件下における28日間反復経口投与による毒性学的無影響量は,雌雄とも1.2 mg/kg未満と考えられた

文献

1)F.W. Janssen, et al. Toxicol.Appl.Pharmacol., 59, 355-363(1981).
2)C.L. Gaworski, et al. Fundam.Appl.Toxicol., 16, 161-171(1991).
3)川崎 靖ほか, 第 21 回日本毒科学会, 札幌, (1994).

連絡先
試験責任者:和田 浩
試験担当者:藤村高志,小池恒雄,木村 均,
長瀬孝彦,牧野浩平
(株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所
〒 501-62  岐阜県羽島市福寿町間島 6-104
Tel 058-392-6222Fax 058-391-3171

Correspondence
Authors:Hiroshi Wada(Study director)
Takashi Fujimura, Tsuneo Koike,
Hitoshi Kimura,
Takahiko Nagase and Kohei Makino
Nihon Bioresearch Inc. Hashima Laboratory
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-62, Japan
Tel +81-58-392-6222Fax +81-58-391-3171