雄においては,いずれの群とも死亡および瀕死例は認められなかった.一般状態では,投与による変化はみられなかった.体重は,100および300 mg/kg群で低値がみられた.摂餌量は,300 mg/kg群で低値がみられた.剖検では,投与による変化はみられなかった.器官重量では,300 mg/kg群で精巣の相対重量の高値がみられた.精子検査では,投与による変化はみられなかった.病理組織学検査では,精巣および精巣上体に投与による変化はみられなかった.
雌においては,死亡例が300 mg/kg群で4例認められた.一般状態では,300 mg/kg群で体温低下,自発運動の低下,立毛,被毛の汚れおよび軟便がみられた.体重は,300 mg/kg群では,交配前,妊娠期および哺育期に低値がみられた.摂餌量は,100 mg/kg群で交配前に一過性の低値が,300 mg/kg群で交配前および妊娠期に低値がみられた.剖検では,300 mg/kg群の死亡例では,腺胃粘膜暗赤色斑がみられた.生存例では,投与による変化はみられなかった.器官重量では,投与による変化はみられなかった.病理組織学検査では,卵巣に投与による変化はみられなかった.
100 mg/kg群では,死産児数の高値,児の産出率および出生率の低値,哺育0日の新生児数の低値傾向がみられた.300 mg/kg群では,死産児数の高値,総出産児数,哺育0日の新生児数,分娩率,児の産出率および出生率の低値がみられた.100 mg/kg群では,哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率の低値あるいは低値傾向がみられた.300 mg/kg群では,哺育4日の生存児は1例も得られなかった.300 mg/kg群では,哺育0日に雌雄別体重の低値あるいは低値傾向がみられた.新生児の外表,一般状態および剖検では,投与による変化はみられなかった.
以上のように,4-エチルビフェニルの一般毒性学的無影響量は,雄では100 mg/kg投与により体重に影響が認められたことから30 mg/kg/day,雌では100 mg/kg投与により摂餌量に影響が認められたことから30 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では300 mg/kg投与しても精子検査成績,精巣および精巣上体の病理組織学検査成績,交尾率に影響が認められなかったことから300 mg/kg/dayと考えられる.雌では,100 mg/kg投与で妊娠期間の延長が認められたことから30 mg/kg/dayと考えられる.児動物では,100 mg/kg投与で死産児数の高値,児の産出率および出生率の低値,哺育0日の新生児数,哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率の低値傾向がみられたことから30 mg/kg/dayと考えられる.
被験物質は,コーンオイルで溶解して調製した.調製に際して,被験物質の純度による換算は実施しなかった.なお,調製液は,室温・遮光条件下で7日間保存しても安定性に問題のないことが確認されていたため,各濃度の調製液は調製後,室温・遮光条件下で保管し,調製後7日以内に使用した.投与開始日および雄投与終了日に使用した各投与液中の被験物質濃度を確認した結果,被験物質濃度に問題はなかった.
動物は,室温20〜26 ℃,湿度40〜70 %,明暗各12時間(照明:午前6時〜午後6時),換気回数12回/時に維持されている飼育室で飼育した.検疫・馴化期間中はステンレス製ケージを用いて1ケージ当たり5匹までの雌雄別群飼育とし,群分け後はステンレス製ケージを用いて個別飼育した.母動物は,妊娠18日以降オートクレーブ処理した床敷(サンフレーク,日本チャールス・リバー(株))を入れたプラスチック製ケージで個別飼育し,自然分娩および哺育させた.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を,飲料水は水道水をいずれも自由に摂取させた.
投与開始日の週齢は雌雄とも10週齢であり,体重範囲は雄が321〜354 g,雌が245〜269gであった.
投与量は,4-エチルビフェニルのラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験1)の結果により決定した.すなわち,死亡例が1000 mg/kg群で雄4/10例と雌1/10例,500 mg/kg群で雄1/5例認められた.また,500 mg/kg以上の群で体重および摂餌量の低値がみられた.しかし,100 mg/kg群では,肝臓,腎臓および胃に病理組織学変化がみられるものの,重篤な変化は認められなかった.そこで,当試験では,ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験において死亡例の認められた500 mg/kgと重篤な変化は認められなかった100 mg/kgの中間量に相当する300 mg/kgを最高用量とし,以下公比約3により100,30および10 mg/kgとした.また,対照として媒体(コーンオイル)のみを同容量投与する群を設けた.1群の動物数は雌雄それぞれ12例とした.
投与期間は,雄では交配前14日間とその後36〜38日間(精子検査に3日間必要なため,雄の剖検を3日間に分けて実施)の合計50〜52日間とし,雌では交配前14日間,交配期間中(最長14日間),妊娠期間中および哺育3日までの合計41〜45日間とした.なお,投与開始日を投与1日とした.
精子の生存性として,加藤らの方法2)に従い,マイクロウェルプレート内で精子原液を精子培養液にて約2〜3倍希釈した後,Calcein acetoxy methyl esterとEthidium homodimer-1とで約2時間培養・染色(培養条件:37 ℃,5 %炭酸ガス,95 %空気)した後,蛍光顕微鏡下で精子を生存精子,途中死亡精子と死滅精子に分類し,生存精子率と生き残り精子率を求めた.なお,生存,途中死亡および死滅精子の判定は,頭部〜尾部にかけて緑色の蛍光発色が認められるものを生存精子,頭部には赤色の蛍光発色が,尾部には緑色の蛍光発色が認められるものを途中死亡精子,頭部には赤色の蛍光発色が認められるが,尾部には蛍光発色が認められないものを死滅精子とした.
精子の形態は,精子原液をスライドガラスに塗抹し,10 %中性緩衝ホルマリンで固定後,1 %エオジン染色液で染色し,顕微鏡下で観察した.
精子数は,左精巣上体尾部を0.1 % Triton X-100中でホモジナイズ後,HTM-IVOS(Hamilton Thorne Research)を用いて算出した.なお,左精巣上体尾部1 g当たりの精子数も算出した.
死亡例は,発見後速やかに剖検した.
交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い,腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として,その日を妊娠0日として起算した.
体重,摂餌量,器官の絶対重量および相対重量,精子検査,発情回数,交尾所要日数,妊娠期間,妊娠黄体数,着床数,着床率,総出産児数,死産児数,新生児数,分娩率,児の産出率,出生率,哺育4日の生存児数,新生児の4日の生存率,性比および外表異常の出現率は,各群で平均値および標準偏差を算出した.その後,Bartlett法による等分散性の検定を行い,等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い,有意ならばDunnett法により行った.一方,等分散と認められなかった場合は,順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い,有意ならば順位を利用したDunnett型の検定法により行った.
交尾率,受胎率および出産率は,x2検定により行った.
一般状態観察において,対照群および10 mg/kg群では異常はみられなかった.30 mg/kg群では,投与30日以降の投与後に一過性の流涎がみられた.100および300 mg/kg群では,投与2日以降の投与後に一過性の流涎がみられた.
300 mg/kg群では,対照群と比べて投与4〜49日に体重の有意な低値がみられた.
器官重量において,10および30 mg/kg群では対照群と比べて精巣および精巣上体の絶対ならびに相対重量に有意差はみられなかった.100 mg/kg群では,対照群と比べて精巣上体の相対重量の有意な高値がみられたが,対照群との体重差による変化と考えられる.300 mg/kg群では,対照群と比べて精巣の相対重量の有意な高値がみられた.また,300 mg/kg群では,対照群と比べて精巣上体の相対重量の有意な高値がみられたが,対照群との体重差による変化と考えられる.
精巣上体(頭部):対照群および300 mg/kg群とも,異常はみられなかった.
生存例の一般状態観察において,対照群,10および30 mg/kg群では異常はみられなかった.100 mg/kg群では,投与4日以降の投与後に一過性の流涎がみられた.300 mg/kg群では,投与2日以降の投与後に一過性の流涎がみられた.その他に,300 mg/kg群で体温低下,自発運動の低下,立毛,被毛の汚れおよび軟便がみられた.
妊娠期間中において,10,30および100 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠0〜21日に体重の有意な低値がみられた.
哺育期間中において,10,30および100 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の体重にも有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて哺育0日に体重の有意な低値がみられた.
妊娠期間中において,30および100 mg/kg群では対照群と比べていずれの測定日の摂餌量にも有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠21日に摂餌量の有意な低値がみられた.なお,10 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠21日に摂餌量の有意な低値がみられたが,投与量に依存した変化ではなかった.
哺育期間中において,10,30および100 mg/kg群では対照群と比べて摂餌量に有意差はみられなかった.
死亡例においては,300 mg/kg群で鼻口周囲の被毛の汚れが1例,腺胃粘膜暗赤色斑が2例みられた.
器官重量において,10,30および100 mg/kg群では対照群と比べて卵巣の絶対ならびに相対重量に有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて卵巣の相対重量の有意な高値がみられたが,対照群との体重差による変化と考えられる.
対照群の1組を除いた全例で交尾が確認された.交尾所要日数は,各投与群とも対照群との間に有意差はみられなかった.また,交尾率にも,各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.
不受胎雌は,300 mg/kg群で2例みられた.しかし,受胎率には各投与群と対照群との間に有意差はみられなかった.
分娩状態において,対照群,10,30および100 mg/kg群ではいずれの母動物とも異常はみられなかった.300 mg/kg群の3例では,哺育0日に出産児が全例死亡したため,新生児は得られなかった.
10,30および100 mg/kg群では,対照群と比べて妊娠黄体数,着床数および着床率に有意差はみられなかった.300 mg/kg群では,対照群と比べて着床数の有意な低値および着床率の低値傾向がみられた.
出産率は,対照群,10,30および100 mg/kg群では100 %であった.300 mg/kg群では,3母動物で新生児が得られなかったため出産率は50.0 %であり,対照群と比べて有意差はないものの低値であった.対照群および各投与群とも,哺育状態に異常はみられなかった.
新生児の外表観察では,いずれの群とも異常はみられなかった.
児動物の一般状態では,いずれの群とも異常はみられなかった.
雄に関しては,死亡および瀕死例はいずれの群にも認められなかった.一般状態では,30,100および300 mg/kg群で投与後に一過性の流涎がみられたが,被験物質の刺激性に基づく変化と判断され,毒性症状とはみなさなかった.体重において,100および300 mg/kg群で低値がみられた.また,摂餌量においては,300 mg/kg群で低値がみられた.剖検,器官重量,精子検査,精巣および精巣上体の病理組織学検査において投与による影響は認められなかった.なお,ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験1)でも,500 mg/kg以上の群で体重および摂餌量の低値がみられている.
雌に関しては,300 mg/kg群で妊娠末期に4例が死亡した.300 mg/kg群では,一部の例で妊娠末期に体温低下,自発運動の低下,立毛,被毛の汚れおよび軟便がみられた.なお,一般状態観察において,雄の場合と同様に100および300 mg/kg群で認められた流涎は毒性症状とはみなさなかった.体重において,300 mg/kg群で交配前,妊娠期および哺育期に低値がみられた.摂餌量において,100 mg/kg群で交配前に一過性の低値,300 mg/kg群で交配前および妊娠期に低値がみられた.しかし,生存例の剖検所見,器官重量および卵巣の病理組織学検査において投与による影響はみられなかった.なお,300 mg/kg群の死亡例の剖検において,腺胃粘膜暗赤色斑がみられたが,該当部位の病理組織学検査では異常が認められなかったことから,軽微な変化と考えられる.ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験1)では,死亡例が1000 mg/kg群で雄4/10例と雌1/10例,500 mg/kg群で雄1/5例認められており,妊娠動物の方が4-エチルビフェニルの毒性は強く発現する可能性がある.
親動物の生殖発生に対しては,前述したように10,30,100および300 mg/kg群とも精子検査成績,精巣,精巣上体および卵巣に病理組織学変化は認められなかった.発情回数,交尾率,交尾所要日数,受胎率,妊娠黄体数,分娩状態および哺育状態では,投与に起因する変化はみられなかった.しかし,100および300 mg/kg群では,妊娠期間の延長がみられた.また,300 mg/kg群では,着床数の低値,出産率および着床率の低値傾向がみられた.10および30 mg/kg群では,妊娠期間,着床数,着床率および出産率に投与に起因する変化はみられなかった.
児動物に対しては,10および30 mg/kg群では総出産児数,死産児数,哺育0日の新生児数,性比,分娩率,児の産出率,出生率,一般状態,哺育4日の新生児数,哺育4日の生存率に投与による影響はみられなかった.100 mg/kg群では,死産児数の高値,児の産出率および出生率の低値,哺育0日の新生児数,哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率の低値あるいは低値傾向がみられた.300 mg/kg群では,死産児数の高値,総出産児数,哺育0日の新生児数,分娩率,児の産出率および出生率の低値がみられ,哺育4日の生存児は1例も得られなかった.新生児の外表観察において,投与に関連した変化はみられなかった.児動物の体重では,10,30および100 mg/kg群では対照群との間に差はみられなかった.300 mg/kg群では,哺育0日の雌雄別体重の低値あるいは低値傾向がみられた.児動物の剖検では,投与に起因する変化はみられなかった.
以上のように,4-エチルビフェニルの一般毒性学的無影響量は,雄では100 mg/kg投与により体重に影響が認められたことから30 mg/kg/day,雌では100 mg/kg投与により摂餌量に影響が認められたことから30 mg/kg/dayと考えられる.また,生殖発生毒性学的な無影響量は,雄では300 mg/kg投与しても精子検査成績,精巣および精巣上体の病理組織学検査成績,交尾率に影響が認められなかったことから300 mg/kg/dayと考えられる.雌では100 mg/kg投与で妊娠期間の延長が認められたことから30 mg/kg/dayと考えられる.児動物では,100 mg/kg投与で死産児数の高値,児の産出率および出生率の低値,哺育0日の新生児数,哺育4日の生存児数および新生児の4日の生存率の低値傾向がみられたことから30 mg/kg/dayと考えられる.
1) | 大原直樹ほか,化学物質毒性試験報告,7, 608(1999). |
2) | M. Kato et al., Congenital Anomalies, 35, 394(1995). |
連絡先 | |||
試験責任者: | 古橋忠和 | ||
試験担当者: | 牧野浩平,内藤一嘉,藤村高志,木村 均 | ||
(株)日本バイオリサーチセンター 羽島研究所 | |||
〒501-6251 岐阜県羽島市福寿町間島6-104 | |||
Tel 058-392-6222 | Fax 058-392-1284 |
Correspondence | ||||
Authors: | Tadakazu Furuhashi(Study director) Kohei Makino, Kazuyoshi Naito, Takasi Fuzimura and Hitoshi Kimura | |||
Nihon Bioresearch Inc. | ||||
6-104, Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-6251, Japan | ||||
Tel +81-58-392-6222 | Fax +81-58-392-1284 |