S9 mix非存在下および存在下の短時間処理(6時間処理後18時間の回復時間)ならびに連続処理(24時間処理)において,1.2 mg/mL(10 mmol/L)の濃度においても細胞増殖抑制は認められなかった.従って,すべての処理群で1.2 mg/mL(10 mmol/L)を最高濃度とし,公比2で3濃度設定した.
染色体分析の結果,S9 mix非存在下および存在下における短時間処理のいずれの群においても染色体の構造異常の誘発作用は認められなかった.倍数性細胞については,S9 mix非存在下における短時間処理のいずれの群においても誘発作用は認められなかった.S9 mix存在下における短時間処理では高濃度群の1.2 mg/mLにおいて倍数性細胞の有意な増加が認められたが,出現頻度は1.13 %と低いことから生物学的には陰性であると判断した.
短時間処理で陰性の結果が得られたため,24時間処理を行った.その結果,いずれの群(0.30,0.60,1.2 mg/mL)においても染色体の構造異常ならびに倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.
以上の結果より,本試験条件下で3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは,染色体異常を誘発しない(陰性)と結論した.
その結果,すべての処理系列において最高処理濃度の1.2 mg/mL(10 mmol/L)の濃度においても細胞増殖抑制は認められなかった(Fig. 1).
また,陽性対照物質として用いたマイトマイシンC(MC,協和醗酵工業(株))およびシクロホスファミド(CP,Sigma Chemical Co.)は,日局注射用水((株)大塚製薬工場)に溶解して調製した.それぞれ染色体異常を誘発することが知られている濃度を適用した.
染色体異常試験において,溶媒対照群と処理群では1濃度あたり4枚のディッシュを用いた.このうちの2枚で染色体標本を作製し,残りの2枚については単層培養細胞密度計により細胞増殖率を測定した.無処理対照群および陽性対照群については細胞増殖率測定は行わな かった.
作製したスライド標本のうち,1つのディッシュから得られた異なるスライドを,4名の観察者がそれぞれ処理条件が分からないようにコード化した状態で分析した.染色体の分析は,日本環境変異原学会・哺乳動物試験研究会(MMS)1)による分類法に基づいて行い,染色体型あるいは染色分体型のギャップ,切断,交換などの構造異常の有無と倍数性細胞(polyploid)の有無について観察した.また構造異常については1群200個,倍数性細胞については1群800個の分裂中期細胞を分析した.
短時間処理で陰性の結果が得られたため,24時間処理を行ったところ,いずれの群(0.30,0.60,1.2 mg/mL)においても染色体の構造異常ならびに倍数性細胞の誘発作用は認められなかった(Table 3).
陽性対照物質として用いたMCは,S9 mix非存在下で短時間処理および24時間連続処理した場合において染色体の構造異常を誘発し(Table 1, 3),CPはS9 mix存在下で短時間処理した場合において染色体の構造異常を誘発した(Table 2).これらの陽性対照物質の結果より,本実験系の成立が確認された.
なお,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは,細菌を用いる復帰変異試験において陰性の結果が得られている4).また関連物質であるブチルアルコールについては,復帰変異試験(TA100,TA98)で陰性5),1,2-ブタンジオールについては,復帰変異試験および染色体異常試験で陰性の結果が報告されている6, 7)ことから,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含むブチルアルコールの類縁化合物には変異原活性がないと推察された.
以上の結果より,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは,本試験条件下でCHL/IU細胞に染色体異常を誘発しないと結論した.
1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp. 16-37. |
2) | 吉村功編,"毒性・薬効データの統計解析,事例研究によるアプローチ,"サイエンティスト社,東京,1987, pp.76-78. |
3) | 吉村功,大橋靖夫編,"毒性試験講座14,毒性試験データの統計解析,"地人書館,東京,1992, pp. 218-223. |
4) | 原巧ら,化学物質毒性試験報告,10, 595(2003). |
5) | 賀田恒夫,石館基監修,"環境変異原性データ集1,"サイエンティスト社,東京,1980, p. 82. |
6) | 高鳥浩介,化学物質毒性試験報告,1, 301(1994). |
7) | 田中憲穂,化学物質毒性試験報告,1, 305(1994). |
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試験担当者: | 山影康次,高橋俊孝,中川ゆづき,渡辺美香,橋本恵子,三枝克彦,加藤初美 | ||
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Authors: | Noriho Tanaka(Study director) Kohji Yamakage, Toshitaka Takahashi, Yuzuki Nakagawa, Mika Watanabe, Keiko Hashimoto, Katsuchiko Saegusa, Hatsumi Kato | |||
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