ラットは 1群雌雄各5匹で4試験群,対照群および高用量群には雌雄各5匹の回復群を設け,計60匹を使用した.
ベンジルトリメチルアンモニウムクロリドは,超純水に溶解し, 0,30,60および120 mg/kgを毎日1回,4週間連続経口投与し,一般状態の観察,体重測定,摂餌量測定,血液学検査,血液凝固能検査,血液生化学検査,尿検査,器官重量測定および病理学的検査を行った.なお,回復期間は2週間とし,投与終了時と同様な検査を実施した.
その結果は,次のとおりである.
雌の 120 mg/kg群で1例が投与4週に死亡した.病理学検査の結果には死因に結びつく変化は認められなかった.
一般状態の観察では,雄の 60 mg/kg群で流涎,雌雄の120 mg/kg群で流涎,流涙および被毛の汚れが,さらに雌の120 mg/kg群で立毛が認められた.雌雄の120 mg/kg群で観察された症状は回復試験では観察されず回復を示した.
体重は雄の 120 mg/kg群で増加が抑制され,投与3週以降有意であった.摂餌量は,雄の120 mg/kg群で投与期間を通して減少が認められた.飼料効率は雄の120 mg/kg群で投与4週のみ低値であった.回復期間中は,体重変化を除き回復が認められた.
血液学検査の結果,雄の 120 mg/kg群で,ヘモグロビン量,MCVおよびMCHの高値が認められた.回復期間終了時には,被験物質の投与と関連づけられる変化は認められなかった.
血液生化学検査の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.
尿検査の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.
器官重量測定の結果,雌雄とも被験物質投与と関連づけられる変化は認められなかった.
病理学的検査の結果,計画屠殺動物において剖検所見および組織所見では被験物質の影響が示唆される所見は認められなかった.投与期間中に, 120 mg/kg群の雌で1例死亡動物が観察され,組織学的検査の結果,肝細胞腫脹と好酸性小体の出現が認められた.
以上の結果,無影響量は雄で 30 mg/kg/day,雌で60 mg/kg/dayと判断された.
なお,動物の馴化期間を含め,投与および回復期間中,データの信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因の変化はなかった.
採血するに当り,動物は約 16時間絶食させた.動物をエーテルで麻酔後開腹し,腹部大動脈から採血した.
a. 血液学検査
EDTA-3Kを添加した初血を用い,白血球数(WBC:暗視野板法),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB, RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB, HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法)および白血球百分率(フローサイトケミストリー法)を血液自動分析装置THMS H・1E(米国マイルス社)を用いて測定した.
網赤血球 (RC)率算定用に,全血をキャピロット(テルモ株式会社)で染色後,血液塗抹標本を作製し鏡検した.
また,クエン酸ソーダ添加血液の血漿について,プロトロンビン時間 (Quick 1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(クロット法)およびフィブリノーゲン量(トロンビン時間法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国 Amelung社)を用いて測定した.
b. 血液生化学検査
血清を用いて,総蛋白 (ビューレット法),アルブミン(B.C.G.法),A/G比(計算値),血糖(グルコースオキシダーゼ法),中性脂肪(酵素法),総コレステロール(酵素法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼ改良法),総ビリルビン(ジアゾ色素法),カルシウム(アルセナゾ�型Я破�),無機リン(モリブデン酸ブルー法),ナトリウム(電極法),カリウム(電極法)および塩素(電極法)をEKTACHEM 700N(米国コダック社)で,クレアチニン(アルカリ性ピクリン酸比色法),グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT:Karmen改良法),グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT:Karmen改良法),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP:Szasz改法)およびアルカリホスファターゼ(ALP:Bessey-Lowry-Brock改良法)をCentrifiChem ENCORE��(米国ベーカー社)で測定した.
c. 尿 検 査
血液学検査に先立ち,採尿器を用いて 24時間(午前10時から翌日午前10時まで)尿を採取し,尿量,色調および濁度を検査後,尿比重計UR-S((株)アタゴ)を用いて尿比重を測定した.また,尿を遠心分離後Sternheimer変法により沈渣を染色し,鏡検した.pH,潜血,ケトン体,糖,蛋白,ビリルビンおよびウロビリノーゲンについて,N-マルティスティックスSG試験紙(マイルス・三共(株))およびCLINITEK 200(米国マイルス社)を用いて測定した.
病理組織学検査は固定した器官・組織のうち,対照群と高用量群の唾液腺,肝臓,心臓,脾臓,腎臓,副腎および骨髄 (大腿骨)について実施した.常法に従って薄切標本を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色し鏡検した.
有意水準は 5および1%の片側検定で実施した.
回復期間中には,雌雄とも対照群および 120 mg/kg群で死亡例は認められなかった.
雌では, 120 mg/kg群で投与2週から流涎が全例に,また,流涙および被毛の汚れが8例に,立毛が3例に観察され,投与4週には流涙および被毛の汚れが10例に,立毛が4例に増加し,このうち1例が投与4週に死亡したが,死亡例では流涎,流涙および被毛の汚れが投与2週から観察された以外,特記すべき変化は認められなかった.いずれの症状も回復期間に入ると認められなかった.なお,流涎の程度や発現時間は雄とほぼ同じであった.流涙についても発現時間は流涎と同様であったが,程度は軽度で眼瞼が濡れる程度であった.
雌では,投与期間中は 120 mg/kg群で僅かに体重増加抑制傾向にあったもののいずれの被験物質投与群も対照群と有意な差は認められなかった.回復1週では,対照群に比較して120 mg/kg群で僅かに低値であったが,2週には有意な差は認められなかった.
雌では,投与期間および回復期間を通じて,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.
雌では,いずれの検査項目も対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.
雌では,対照群に比較して 120 mg/kg群で血小板数が高値を示したが,背景値の範囲内の変化であった(背景値 1103±124×10^3/mm^3,n=50).
雌では,すべての検査項目について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.
雌では,対照群に比較して 120 mg/kg群で総蛋白の低値が認められたが,対照群が僅かに高値傾向にあり,120 mg/kg群の値は正常範囲(背景値:5.66±0.20 g/dl, n=50)内の値であった.
雌では,重量測定を行ったすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差は認められなかった.
雌では,重量測定を実施したすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.
雌では,重量測定を実施したすべての器官について,対照群と被験物質投与群とで差が認められなかった.
投与終了時の計画屠殺された動物の剖検所見で被験物質による影響と考えられる所見は雌雄いずれの投与群にも認められなかった.
対照群を含め観察された所見としては,肺の赤色斑/区域と有色斑/区域が,それぞれ雌雄で少数例,胸腺の赤色斑/区域は雌で少数例認められた.その他観察された所見はごく僅かか、単発性の発生に止まった.
回復期間終了時の所見は,いずれも単発性の発生に止まり,被験物質による影響と考えられる所見は認められなかった.
投与終了時の組織学的検査の結果,被験物質による影響と考えられる所見は認められなかった.対照群を含め観察された所見として,肝臓の周辺性脂肪化あるいは脂肪化,肉芽巣,腎臓の尿細管の好塩基化,繊維化や管腔拡張などの変化が認められた.
一般状態の観察では,雌雄の 120 mg/kg群で流涎,流涙および被毛の汚れが,さらに雌の120 mg/kg群で立毛が認められ,これらの症状のうち,流涎については雄の60 mg/kg群の1部の例でも観察された.投与中止により消失が認められいずれも被験物質投与による変化と考えられた.
体重,摂餌量および飼料効率は,雄の 120 mg/kg群のみ低値または減少が認められ,摂餌量および飼料効率は投与の中止により回復した.体重については投与終了時の差が縮まらず,回復は認められなかった.
血液学検査の結果,雄の 120 mg/kg群で認められたヘモグロビン量,MCVおよびMCHの高値のみが被験物質投与と関連づけられる変化であったが,変化の程度は僅かであり,被験物質の血液に対する影響は弱いものと考えられた.回復試験終了時に雌雄の120 mg/kg群で認められた変化も,軽微または投与終了時に認めれなかった変化であり,被験物質投与との関連は示唆されない.血液凝固能検査に関しては,雌雄とも変化が認められなかった.
血液生化学検査および尿検査の結果,被験物質投与によると考えられる変化は,雌雄いずれの群にも認められなかった.
器官重量測定の結果,明確に被験物質投与の影響を示唆する変化では認められなかった.雄の 30および60 mg/kg群で認められた脳,腎臓および脾臓の実重量の変化は,相対重量に有意な差が認められず,この両群の体重が高値傾向にあることから,体重による影響と考えられた.また,雄の60 mg/kg群で認められた胸腺の実重量および相対重量の高値についても,投与用量との関連性がなく,被験物質投与による変化とは考えられなかった.回復試験終了時に認められた雄の120 mg/kgの脳相対重量の高値も,この群の体重が低いことによるものと推察された.
病理学的検査の結果,剖検所見では計画屠殺動物,死亡動物ともに特筆すべき所見は観察されなかった.
組織所見では,計画屠殺動物においては,被験物質の影響を示唆する所見は観察されなかったが,死亡した1例の動物では肝細胞腫脹と好酸性小体の出現が観察された.しかし,いずれも軽度の変化であり,死に至らしめるほどの肝細胞腫脹,好酸性小体の出現とは考えがたく死因は不明であった.なお,予備試験において,計画屠殺動物の 180 mg/kg群では肝臓の肥大は観察されなかったが,投与期間中に死亡した180 mg/kg群の雌雄の大部分の例で肝臓の肥大が肉眼的に観察されている.本試験の死亡動物の肝臓では肥大が認められなかったが,組織学的に観察された肝細胞腫脹と好酸性小体の出現は被験物質投与による影響が考えられた.
以上のことから,本試験では雌雄で認められた一般状態の変化および雄の 120 mg/kg群で認められた血液学検査値の変化が被験物質投与と関連づけられるものであり,無影響量は一般状態に変化が認められなかった,雄で30 mg/kg/day,雌で60 mg/kg/dayと判断された.
| 連絡先 | |||
| 試験責任者: | 井上博之 | ||
| 試験担当者: | 各務 進,庄子明徳,渡 修明,小林和雄,高木留美子 | ||
| (財)食品農医薬品安全性評価センター | |||
| 〒437-12 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜 582-2 | |||
| Tel 0538-58-1266 | Fax 0538-58-1393 | ||
| Correspondence | |||
| Authors: | Hiroyuki Inoue(Study director), Susumu Kakamu, Akinori Shoji, Nobuaki Watari, Kazuo Kobayashi, Rumiko Takagi | ||
| Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center) | |||
| 582-2 Shioshinden Aza Arahama, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-12, Japan | |||
| Tel 81-538-58-1266 | Fax 81-538-58-1393 | ||