ジシクロヘキシルカルボジイミドのラットを用いた
単回投与毒性試験
Single Dose Toxicity Test of Dicyclohexylcarbodiimide in Rats
要約
ジシクロヘキシルカルボジイミドをSD系(Crj:CD)ラットの雌雄に単回経口投与した時の毒性について検討した。
雄は700、1000、1400および2000 mg/kgの4用量、雌は500、700、1000、1400、2000 mg/kgの5用量を設定し、1群各5匹に投与した。
死亡動物は雌雄とも1000 mg/kg以上の群で認められ、雌の2000 mg/kg群では全例が死亡した。死亡の発現は投与後30分から2日以内であった。
一般状態の観察では、雌雄とも700 mg/kg以上の群で自発運動量減少、つま先立ち歩行、うずくまり、横たわり、不整呼吸、呼吸緩徐、あえぎ、流涎、軟便および腹部膨満が観察された。これらの症状は投与後9日までに消失した。
体重では、雄の2000 mg/kg群で投与後7日に増加抑制が認められたが、以後は順調な増加を示した。雌では、ほぼ順調な増加が認められた。
剖検において、死亡動物では心房拡張、肺の鬱血/水腫・出血、気管内粘液貯留、胃の出血・びらん/潰瘍・膨満、小腸の出血・鬱血・拡張、肝臓の黄白色化/白色点、膀胱に暗赤色尿貯留が認められた。生存動物では、前胃部の肥厚、胃と腹腔内臓器の癒着がほぼ全例に認められた。
LD50値は、雄が1110 mg/kg(95%信頼限界:832〜1480 mg/kg)、雌が1110 mg/kg(95%信頼限界:877〜1404 mg/kg)であった。
緒言
ジシクロヘキシルカルボジイミドは、優れた脱水縮合剤として、ペプチド合成に使用されるほか、ヌクレオチド合成、酸無水物の製造、アルコール類の酸化剤として利用されている。蒸気または溶液に触れると皮膚に炎症を起こすといわれている。実験動物での毒性情報は極めて少ない。
今回、ジシクロヘキシルカルボジイミドをラットの雌雄に単回経口投与した時の毒性について検討したので報告する。
方法
1. 被験物質
日本化学工業協会より提供されたジシクロヘキシルカルボジイミド(タマ化学工業株式会社、Lot No. 10705、純度99.7%)を使用した。被験物質は白色の結晶塊である。なお、本ロットについては投与開始前および投与終了後に分析し、安定であることを確認した。
2. 試験動物
日本チャールス・リバー株式会社より1991年9月4日に購入したSD系(Crj:CD)ラット(SPF)の雌雄を6〜7日間馴化し、健康な動物を試験に使用した。1用量群の動物数を5匹とし、投与前日に各群の平均体重がほぼ均一になるように体重別層化無作為抽出法により群分けした。投与時の週齢は5〜6週齢、体重範囲は雄で154g〜171g、雌で112g〜132gであった。
3. 動物飼育
1) 飼育管理
馴化・検疫期間を含めた全飼育期間中、温度20〜25℃、湿度40〜70%R.H.、換気約12回/時、照明12時間(7:00〜19:00)に自動調節された飼育室を使用した。
実験動物用床敷(ベータチップ:日本チャールス・リバー株式会社)を敷いたポリカーボネート製ケージ(265W×426D×200Hmm)に1ケージ当り5匹(同性)で収容し、スチール製架台上で飼育した。ステンレス製の固型飼料用給餌器およびポリカーボネート製の給水瓶(700 ml)を用いた。
ケージ(含床敷)、給餌器および給水瓶は、週1回の頻度でオートクレーブ滅菌したものと交換した。
2) 飼料
実験動物用固型飼料(MF:オリエンタル酵母工業株式会社)を自由摂取させた。飼料は週1回の頻度で交換した。残留農薬等汚染物質の分析値が当社のSOPで定めた濃度以下であることが保証された飼料を使用した。
3) 飲水
5μmのフィルター濾過後、紫外線照射した水道水を自由摂取させた。飲水は週1回の頻度で交換した。なお水道法に準拠した水質検査を定期的に行い、厚生省令56の別表に定める基準範囲内であることを確認している。
4. 投与液の調製
秤量した被験物質にオリーブ油を加え、40℃以下で加温し溶解調製した。
5. 投与
1) 投与用量および投与液量
予備試験の結果を参考に、雄は700、1000、1400、2000 mg/kgの4用量、雌は500、700、1000、1400、2000 mg/kgの5用量を投与した。投与液量は5 ml/kgとした。
2) 投与方法
投与前日の夕方から絶食させ、胃ゾンデを用いて、胃内に1回強制経口投与した。投与後約3時間は飼料を与えなかった。
6. 観察および検査方法
1) 一般状態
投与当日は投与後15、30分、1、3、4、6、7および8時間、以後1日1回、14日間にわたって各動物の生死および一般状態を観察した。
2) 体重
投与日を0日として、投与直前、投与後7および14日に体重を測定した。測定には上皿電子天秤(EB-5000:株式会社島津製作所)を使用した。
3) 剖検
死亡動物については、発見後速やかに剖検した。生存動物については観察終了後(投与後14日)にペントバルビタール・ナトリウム(ネンブタール注射液:ダイナボット株式会社)麻酔下で腹大動脈を切断し、放血致死させ剖検した。
4) 病理組織学的検査
死亡動物の剖検時に異常の認められた肝臓および腎臓については、代表的な標本(雄の1000および1400 mg/kg群の各1例、雌の1000および2000 mg/kg群の各1例)を10%中性リン酸緩衝ホルマリン液にて固定後、常法によりパラフィン包埋、薄切およびヘマトキシリン・エオジン染色を施し鏡検した。
5) LD50値の算出
各用量群における投与後14日の死亡率をもとにVan der Waerden法によりLD50値を算出した。
結果および考察
1. 死亡動物(Table 1)
雌雄とも1000 mg/kg以上の群で死亡が認められ、雌の2000 mg/kg群で全例が死亡した。死亡の発現は投与後30分〜2日以内であった。
LD50値は、雄が1110 mg/kg(95%信頼限界:832〜1480 mg/kg)、雌が1110 mg/kg(95%信頼限界:877〜1404 mg/kg)である。
2. 一般状態
投与当日に雌雄とも700 mg/kg以上の群で自発運動量減少、つま先立ち歩行、うずくまり、横たわり、不整呼吸、呼吸緩徐、あえぎ、流涎、軟便が観察された。投与1日以降も1000 mg/kg以上の群で自発運動量減少、呼吸緩徐が雌雄とも観察された他、雄では肛門周囲の汚れ、腹部膨満、雌ではつま先立ち歩行が観察された。これらの症状は投与後9日までに消失した。
3. 体重
雄の2000 mg/kg群で投与後7日に増加抑制が認められたが、以後は順調な増加を示した。雌では、ほぼ順調な増加が認められた。
4. 剖検
死亡動物の剖検では、心房拡張、肺の鬱血/水腫・出血、気管内粘液貯留、胃の出血・びらん/潰瘍・膨満、小腸の出血・鬱血・拡張、肝臓の黄白色化/白色点、膀胱に暗赤色尿貯留が認められた。
生存動物の観察期間終了後の剖検では、前胃部の肥厚および胃と腹腔内臓器の癒着が各群ほぼ全例に認められた。
5. 病理組織学的検査
死亡動物の肝臓および腎臓について組織学的検査を実施した結果、肝臓では小葉辺縁性の肝細胞の空胞化、壊死およびグリソン鞘結合織内の出血が認められた。腎臓では尿細管上皮細胞の硝子滴変性が認められた他、暗赤色尿貯留を示した動物には腎乳頭管内にヘモグロビン円柱が認められた。
連絡先: |
| 試験責任者 | 松浦郁夫 |
| (株)三菱化成安全科学研究所鹿島研究所 |
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| Matsuura, Ikuo |
| Mitsubishi-Kasei Institute of Toxicological and |
| Environmental Sciences, Japan |
| 14 Sunayama, Hasaki-machi, Kashima-gun, Ibaraki, |
| 314-02, Japan |
| Tel 81-479-46-2871 | Fax 81-479-46-2874 | |