3−メトキシベンゼナミンのラットにおける経口投与による
反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of
3-Methoxybenzenamine by Oral Administration to Rats

要約

3−メトキシベンゼナミンのラットにおける経口投与による毒性試験を行い、雌雄動物に対する反復投与による一般毒性学的な影響を検討するとともに、性腺機能、交尾行動、受胎および分娩などの生殖発生に及ぼす影響について検討した。投与段階は、2.4、12、60、および300 mg/kgとした。

I.反復投与毒性

1.雄(P)動物に及ぼす影響

一般状態:300 mg/kg群で、褐色尿が投与2日から最終投与日まで全例に、流涎が投与25日から最終投与日まで少数例〜全例にみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。その他に、全身の被毛汚染が投与20〜24日に1例でみられた。

体重:300 mg/kg群では、投与8日から剖検日まで有意な低値が認められた。

摂餌量:300 mg/kg群では、主として投与期間の初期に有意な低値が認められた。

血液学的検査:60および300 mg/kg群では、赤血球数、ヘモグロビン量およびヘマトクリット値が有意な低値を、さらに300 mg/kg群では網状赤血球数、白血球数および好中球比が有意な高値を、リンパ球比が有意な低値を示した。

血液化学的検査:60および300 mg/kg群では総ビリルビンが有意な高値を、300 mg/kg群ではNaおよび無機リンが有意な高値を、総蛋白、ブドウ糖およびCaが有意な低値を示した。

剖検所見:300 mg/kg群では、全例で脾臓が大型であった。

器官重量:300 mg/kg群では、脾臓絶対重量および相対重量が有意な高値を示した。

病理組織学的検査:肝臓で髄外造血およびKupffer細胞内に褐色色素沈着、および腎臓で近位尿細管上皮に褐色色素沈着が300 mg/kg群でみられた。脾臓ではうっ血およびB細胞領域(白脾髄辺縁帯)のリンパ球減少が60 mg/kg以上の群でみられた他に、褐色色素沈着が12 mg/kg以上の群で、髄外造血が2.4 mg/kg以上の群でみられた。

2.雌(P)動物に及ぼす影響

一般状態:交配開始前および交配期間中には、300 mg/kg群で褐色尿が投与2日から交配終了日まで全例にみられたが、翌日の投与前には消失していた。その他に、全身の被毛汚染が交配期間中に1例にみられた。また、褐色尿が妊娠0〜25日の剖検前日まで全例に、流涎が妊娠4日から妊娠25日の剖検前日まで少数例〜全例にみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。さらに、全身の被毛汚染が妊娠期間中の初期に1例で、腟口からの出血が妊娠14〜22日に少数例〜約半数例にみられた。哺育期間中には、対照群および60 mg/kg以下の投与群で異常症状は観察されなかった。

体重:300 mg/kg群では、交配開始前および交配期間中に有意な低値が認められた。

摂餌量:300 mg/kg群では、交配開始前、妊娠期間中に有意な低値が認められた。

剖検所見:300 mg/kg群では、全例で脾臓が大型であった。

器官重量:60 mg/kg以上の群で、脾臓重量が高値を示した。

病理組織学的検査:肝臓で髄外造血およびKupffer細胞内に褐色色素沈着、および腎臓で近位尿細管上皮に褐色色素沈着が300 mg/kg群でみられた。脾臓ではうっ血が300 mg/kg群でみられた他に、褐色色素沈着およびB細胞領域のリンパ球減少が60 mg/kg以上の群で、髄外造血が2.4 mg/kg以上の群でみられた。

II.生殖発生毒性

1.親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響

発情回数、交尾率、妊娠動物数、受胎率:各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。

妊娠期間:60 mg/kg以下の投与群は対照群とほぼ同程度であり、分娩状態に異常はみられなかった。一方、300 mg/kg群では全例で分娩が認められなかった。

着床痕数:60 mg/kg以下の投与群は対照群とほぼ同程度であった。300 mg/kg群では出産児が得られなかったものの、対照群とほぼ同程度の着床痕数が認められた。

出産率:対照群および60 mg/kg以下の投与群では100%であったが、300 mg/kg群では0%であった。

2.新生児(F1)に及ぼす影響

(300 mg/kg群では全例で分娩が認められなかったため、60 mg/kg以下の群について述べる。)

出産率、分娩率、哺育1日の新生児数:各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。

死産児数、出生率、性比:用量依存性の変動はみられなかった。

一般状態:対照群および各投与群とも異常症状はみられなかった。

哺育4日の新生児数:用量依存性の変動はみられなかった。

哺育4日の生存率:各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。

外表観察:対照群および各投与群とも異常はみられなかった。

体重:各投与群とも、新生児の体重は対照群とほぼ同程度であった。

以上のように、3−メトキシベンゼナミンは300 mg/kgで雌雄(P)の一般状態(流涎、褐色尿、腟口からの出血など)、体重、摂餌量、脾臓重量、剖検(脾臓の大型化)、および肝臓・腎臓の病理組織学的検査(髄外造血、褐色色素沈着など)、雌(P)で胎児の発育に、また60 mg/kg以上で雄(恐らく雌も同様)(P)の血液学的検査(溶血性貧血)、血液化学的検査(総ビリルビン、Na、無機リン、総蛋白、ブドウ糖、Caなど)に、2.4 mg/kg以上の雌雄(P)で脾臓の病理組織学的検査(髄外造血、褐色色素沈着、B細胞領域のリンパ球減少、うっ血など)に影響がみられた。

3−メトキシベンゼナミンは、造血系、肝機能および腎機能への影響が示唆された。また、交尾および受胎には影響はみられなかったものの、300 mg/kgではいずれの母体も新生児が得られなかった。この原因として、これらの母体を剖検した場合に妊娠初期の子宮内胎児死亡に基づいた着床痕が認められたことから、3−メトキシベンゼナミンの胚・胎児致死作用が示唆された。

したがって、当試験条件下における一般毒性学的な無影響量は雌雄とも2.4 mg/kg未満と考えられた。また、生殖発生毒性学的な無影響量は、雄の生殖に関しては300 mg/kg、雌の生殖および児動物の発生に関しては60 mg/kgと考えられた。

緒言

既存化学物質の毒性学的性質を評価するために、OECD GUIDELINE FOR TESTING OF CHEMICALS、Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Testに従って、3−メトキシベンゼナミン(CAS No.536-90-3)を雌雄ラットに1日1回、40〜50日間経口投与し、雌雄動物に対する反復投与による一般毒性学的な影響を検討するとともに、性腺機能、交尾行動、受胎および分娩などの生殖発生に及ぼす影響について検討した。

方法

1.被験物質および媒体

被験物質の3−メトキシベンゼナミンは、融点0℃、沸点251℃、比重1.10で水に約20g/l溶解する黄褐色の液体である(Lot No.FBX01、東京化成工業株式会社、純度98%以上)。なお、投与終了後に残余被験物質の一部を販売元に送付して分析した結果、純度は規格値に適合しており、保管期間中の安定性が確認された。

媒体として、コーンオイルを用いた。

2.投与検体および濃度確認

被験物質を秤取し、コーンオイルに溶解して必要濃度の投与検体液を調製した。なお、被験物質は純度換算しないで投与量は原体重量で表示した。

投与開始前および投与終了前の2回、当試験施設内で高速液体クロマトグラフィーにより、各投与検体液中の被験物質濃度を測定した。その結果、被験物質濃度は適正範囲内の値を示した。

コーンオイル中の60〜15 mg/ml濃度の被験物質は、冷蔵・遮光・気密の保管条件下で調製後10日間までの安定性が確認された。そこで、当濃度内の投与検体液の調製は1週間に1回以上行い、1日分ずつ分割して冷蔵・遮光・気密条件下で保存し、用時室温にもどして使用した。当濃度範囲以下の投与検体液は、用時調製とした。

3.使用動物および飼育条件

(1)動物種および系統

試験には、一般毒性試験および生殖・発生毒性試験に汎用され、自然発生奇形等の成績に関する知見が多く得られているSprague-Dawley系雌雄ラット[Crj:CD (SD)]を用いた。ラットは、日本チャールス・リバー株式会社から8週齢で雌雄各73匹を購入した。入手後2日の体重範囲は、雄で303〜340 g、雌で191〜224 gであった。

(2)検疫および馴化、群分け法ならびに個体識別法

入手した動物は、5日間の検疫期間およびその後6日間の馴化期間を設け、一般状態および体重推移に異常がみられず、また性周期観察で異常の認められない動物を群分けして試験に用いた。

群分けは、コンピュータを用いて体重を層別に分けた後に無作為抽出法により各群の平均体重および分散がほぼ等しくなるように、投与開始日の前日に行った。

動物は、検疫・馴化期間中は動物入手日に油性インクおよび色素による染毛法を用いて、群分け後は色素による染毛法および耳パンチ法を併用して識別した。

(3)環境条件および飼育管理

動物は、室温20〜24℃、湿度40〜70%、明暗各12時間、換気回数12回/時に設定した飼育室で飼育した。

検疫・馴化期間中はステンレス製懸垂式ケージ(W:240×D:380×H:200 mm)を用いて1ケージあたり5匹までの群飼育とし、群分け後はステンレス製五連ケージ(W:755×D:210×H:170 mm)を用いて個別飼育した。ただし、交配はステンレス製懸垂式ケージ内で行った。また、母動物は妊娠18日にオートクレーブ処理した床敷(サンフレーク、日本チャールス・リバー株式会社)を入れたプラスチック製ケージ(W:310×D:360×H:175 mm)に個別に移し、自然分娩および哺育させた。ケージの受け皿、給水瓶およびプラスチック製ケージの交換は1週間に2回以上行い、ステンレス製懸垂式ケージ・五連ケージおよび給餌器の交換は2週間に1回以上行った。

床敷の微量金属および汚染物質の分析の結果、分析成績は試験施設で定めた基準値の範囲内であった。

(4)飼料および飲料水

飼料は固型飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業株式会社)を給餌器に入れ、自由に摂取させた。飲料水は、水道水を給水瓶を用いて自由に摂取させた。

飼料中の微量金属および汚染物質の分析ならびに飲料水の水質検査の結果、いずれも検査結果は試験施設で定めた基準値の範囲内であった。

4.投与経路、投与方法、群構成および投与量

(1)投与経路および投与方法

3−メトキシベンゼナミンは、継続して経口的に人に摂取される可能性が考えられたため、投与経路として経口投与を選択した。

投与に際しては、金属製胃ゾンデを取り付けたプラスチック製ディスポーザブル注射筒を用いて強制経口投与した。投与液量は、雄では投与日に最も近い測定時の体重を基準とし、5 ml/kg体重で算出した。雌では、交配前および交配期間中は投与日に最も近い測定時の体重を、妊娠期間中は妊娠0、7、14および21日の体重を、哺育期間中は哺育1日の体重を基準とし、5 ml/kg体重で算出した。投与回数は1日1回とした。

(2)群構成および投与量

群構成は、以下の如くとした。一群の動物数は、雌雄各12匹とした。

投与量設定の理由:雄ラットを用いた投与量設定のための2週間投与による予備試験(投与段階:コーンオイルを媒体として0、37.5、75、150および300 mg/kg;蒸留水を媒体として0、18.8、37.5および75 mg/kg)の結果、いずれの投与群とも死亡例はみられなかった。一方、剖検では150および300 mg/kg群で脾臓の大型化がみられ、さらに300 mg/kg群では体重増加抑制傾向がうかがえた。

そこで、当試験ではコーンオイルを媒体とし、連続投与可能なほぼ最大量と考えられ、2週間投与による予備試験の体重推移および剖検で異常が認められた300 mg/kgを最高用量とし、以下公比5により60、12および2.4 mg/kg群を設定した。対照として、媒体のコーンオイルを投与する群を設けた。

(3)投与期間

投与期間は、OECD GUIDELINE FOR TESTING OF CHEMICALS、Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Testに従って、雄では交配前14日間とその後36日間(合計50日間)とし、雌では交配前14日間、交配期間中(最長10日間)、妊娠期間および哺育4日の剖検前日まで(40〜49日間)毎日とした。

5.観察および検査項目

(1)雄(P)

1) 一般状態観察:投与期間中は毎日投与前・後の2回(ただし、剖検日は剖検前1回)観察した。

2) 体重測定:1週間に2回および剖検日に測定した。

3) 摂餌量測定:交配前14日間および交配終了後に、連続2日間量を測定して1日量を算出し、1週間に2回測定した。なお、剖検前日の夕刻からは絶食とした。

4) 血液学的検査:投与期間(50日間)終了の翌日に、ペントバルビタールナトリウムの腹腔内投与(約40 mg/kg)による麻酔下で腹大動脈からEDTA-2KコーティングしたSysmexカップにカニュレーションにより血液を採取し、以下の検査を行った。

赤血球数(RBC)、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、白血球数(WBC)および血小板数は、多項目自動血球計数装置(Sysmex E-2000、東亜医用電子株式会社)を用いて測定した。なお、最高用量群の白血球数は機器による測定(電気抵抗検出方式)が不能であったため、当群と対照群については別に血球計算盤を用いた数値を採用し、両数値の比較を行った。

白血球百分率は、血液をスライドグラスに塗抹後、May-Giemsa染色して顕微鏡下で分類計数した。

網状赤血球数(Ret)は、血液をBrecher法により超生体染色後にGiemsa染色し、顕微鏡下で観察した。

5) 血液化学的検査:血液学的検査用の血液と同時期に腹大動脈から採取した血液から分離(約4℃、3000 rpm、15分間)して得た血清について、以下の検査を行った。

GOTおよびGPTはHenry変法、γ-GTPはγ-G-P-NA基質法、総蛋白(TP)はBiuret法、尿素窒素(BUN)は酵素法、クレアチニンはJaffe法、総ビリルビン(T-Bil)はAzobilirubin法、ブドウ糖(Glucose)はGlucose dehydrogenase法、無機リン(IP)はMolybdenum blue法、Ca はo-CPC法により、いずれも自動分析装置(AU 500、オリンパス光学工業株式会社)を用いて測定した。

NaおよびKは、炎光光度法により炎光光度計(FLAME-30C、日本分光メディカル株式会社)を用いて測定した。

Clは、電量滴定法によりクロールメータ(CHLOR METER C-200AP、株式会社常光)を用いて測定した。

アルブミン量は、総蛋白量および蛋白分画値(自動電気泳動装置AES 600、オリンパス光学工業株式会社)から算出した。

6) 剖検:剖検時に採血した動物について、放血致死後に、器官・組織の肉眼的観察を行った。肝臓、腎臓、脾臓、胸腺、精巣および精巣上体を摘出後に重量を測定し、さらに副腎、脳および心臓を摘出した。その後、精巣および精巣上体はブアン液に、その他の器官・組織は10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

7) 病理組織学的検査:固定した全例の各器官および組織について、常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した。対照群および300 mg/kg群についてはHematoxylin-Eosin染色組織標本を作製し、病理組織学的検査を行った。また、300 mg/kg群で異常所見が認められた肝臓、腎臓および脾臓については、60 mg/kg以下の投与群も観察した。さらに、一部の例については胆汁染色(Hall method)、鉄染色(Berlin blue stain)およびLipofuscin染色(Schmorl method)組織標本を作製し、観察した。

(2)雌(P)

1) 一般状態観察:投与期間中は毎日投与前・後の2回(ただし、剖検日は剖検前1回)観察した。

2) 性周期観察:投与開始日から交尾確認日まで毎日1回観察した。なお、発情期が連続2日間にわたって観察される場合は1回と計数した。

3) 体重測定:交配開始前14日間および交配期間中は毎週2回、妊娠期間中には妊娠0、7、14および21日に、哺育期間には哺育1および4日にそれぞれ測定した。

4) 摂餌量測定:交配前14日間までは連続2日間量を測定して1日量を算出し、1週間に2回測定した。また、妊娠期間中は妊娠0、7、14および19日からの連続2日間量を、哺育期間中には哺育1〜4日の累積量を測定し、それぞれ1日量に換算した。

5) 分娩状態の観察:自然分娩させ、分娩状態の異常の有無、分娩終了の確認を妊娠21日から妊娠25日の午前9時まで毎日行った。午前9時までに分娩が終了していた場合、その日を哺育1日とした。

6) 妊娠25日の午前9時までに分娩しない母動物の処置:エーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し、妊娠の有無を確認した。妊娠が確認された母動物は、妊娠黄体数および着床痕数の算定、ならびに着床位置を観察することとしたが、このうち妊娠黄体はほとんどの母動物で不明瞭であったため、数値を採用しなかった。肝臓、腎臓、脾臓、胸腺および卵巣を摘出後に重量を測定し、副腎、脳および心臓とともに10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

なお、交尾が確認されたものの、剖検で着床痕がみられない雌(No.151、152、251、253、352)は不妊動物とした。肝臓、腎臓、脾臓、胸腺および卵巣を摘出後に重量を測定し、副腎、脳および心臓とともに10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

7) 哺育状態の観察および剖検:哺育4日まで毎日観察し、哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後に剖検し、着床痕数を算定した。肝臓、腎臓、脾臓、胸腺および卵巣を摘出後に重量を測定し、副腎、脳および心臓とともに10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

8) 病理組織学的検査:固定した全例の各器官および組織について、常法に従ってパラフィン包埋標本を作製した。対照群および300 mg/kg群についてはHematoxylin-Eosin染色組織標本を作製し、病理組織学的検査を行った。また、300 mg/kg群で異常所見が認められた肝臓、腎臓および脾臓については、60 mg/kg以下の投与群も観察した。さらに、一部の例については胆汁染色、鉄染色およびLipofuscin染色組織標本を作製し、観察した。

(3)親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響

14日間にわたって検体を投与し、12週齢に達した同一群内の雌雄1対1の組み合わせで、同居交配した。交配期間は14日を限度として交尾を確認するまで同居したままの連続としたが、同居開始後10日までに全例の交尾が確認された。

なお、交尾確認は毎朝ほぼ一定時刻に行い、腟垢内に精子または腟栓を確認した雌を交尾成立動物として、その日を妊娠0日として起算した。

(4)新生児(F1)

1) 出産時の観察:総出産児数と性、死産児数、新生児数および外表異常の有無を観察した。死産児は、10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

2) 新生児の観察:一般状態および死亡の有無を生存期間中毎日観察した。死亡児は、剖検後10%中性緩衝ホルマリン液に固定し、保存した。

3) 体重測定:哺育1(出生日)および4日に測定した。

4) 剖検:哺育4日にエーテル麻酔下で腹大動脈から放血致死させた後、剖検した。

6.統計学的方法

測定値の統計学的方法は下記の検定法を用い、有意差検定は対照群と3−メトキシベンゼナミンの各投与群との間で行った。いずれの検定の場合も危険率5%未満を有意とし、5%未満(p<0.05)と1%未満(p<0.01)とに分けて表示した。なお、不妊動物の交尾後の体重および摂餌量は集計から除外した。また、新生児は一腹の平均を一単位とした。

1)多重比較検定

Bartlett法による等分散の検定を行い、等分散の場合には一元配置法による分散分析を行い、有意ならば対照群との群間比較はDunnett法(例数が等しい場合)またはScheff法(例数が等しくない場合)により行った。一方、等分散と認められなかった場合は、順位を利用した一元配置法による分析(Kruskal-Wallisの検定)を行い、有意ならば対照群との群間比較は順位を利用したDunnett法またはScheff法を用いて行った。

体重(親動物、新生児)、摂餌量、発情回数、同居日数、妊娠期間[分娩日(哺育1日)−交尾確認日]、着床痕数、出産児数、死産児数、分娩率[(出産児数/着床痕数)×100]、児の産出率[(哺育1日の新生児数/着床痕数)×100]、哺育4日の生存率[(哺育4日の新生児数/哺育1日の新生児数)×100]、新生児数、出生率[(哺育1日の新生児数/出産児数)×100]、性比(雄/雌)、外表異常の出現率[(外表異常児数/新生児数)×100]、器官重量(相対重量を含む)、血液学的検査成績、血液化学的検査成績。

2)χ^2検定

新生児出産雌数、交尾率[(交尾成立動物数/同居動物数)×100]、受胎率[(妊娠動物数/交尾成立動物数)×100]、出産率[(新生児出産雌数/妊娠雌数)×100]。

結果

I.反復投与毒性

1.雄(P)に及ぼす影響

(1)一般状態

対照群および60 mg/kg以下の投与群では、異常症状はみられなかった。

300 mg/kg群では、褐色尿が投与2日から最終投与日まで全例で、流涎(透明)が投与25日から最終投与日まで少数例〜全例でみられた。これらの症状は投与後約30分からみられたが、いずれも翌日の投与前には消失していた。また、全身の被毛汚染が投与20日から24日まで1例でみられた。その他には、異常症状は観察されなかった。

(2)体重(Fig.1)

60 mg/kg以下の投与群は対照群とほぼ同様の推移を示し、いずれの測定日にも有意差は認められなかった。一方、300 mg/kg群では投与1週から体重増加抑制傾向がみられ、投与8日から剖検日まで有意差が認められた。

(3)摂餌量(Fig.2)

300 mg/kg群の主として投与期間の初期の摂餌量は対照群に比して低値であり、投与3、6、10および38日には有意差が認められた。また、投与6日の対照群の値が他の測定日の値に比してやや高値を示したことから、当日のみ2.4、12および60 mg/kg群でも有意な低値が認められた。

(4)血液学的検査(Table 1)

60および300 mg/kg群では対照群に比して赤血球数、ヘモグロビン量およびヘマトクリット値が有意な低値を、さらに300 mg/kg群では網状赤血球数が有意な高値を示した。また、300 mg/kg群で白血球数の有意な高値が認められた(ただし、目算法による計数)。白血球分画では、300 mg/kg群でリンパ球比が有意な低値を、好中球比が有意な高値を示した。なお、塗抹標本の観察では300 mg/kg群で赤血球の多くが多染性赤血球であった。また、用量依存性のない変化として、2.4 mg/kg群の好酸球比の有意な高値が認められた。その他には、対照群との有意差は認められなかった。

(5)血液化学的検査(Table 2)

対照群に比して、60および300 mg/kg群では総ビリルビンが有意な高値を、さらに300 mg/kg群ではNaおよび無機リンが有意な高値を、総蛋白、ブドウ糖およびCaが有意な低値を示した。その他には、対照群との有意差は認められなかった。

(6)剖検所見

脾臓の大型化が、300 mg/kg群の全例にみられた。また、精巣ならびに精巣上体の小型化(いずれも左側)が対照群および300 mg/kg群の各1例にみられた。その他には、著変はみられなかった。

(7)器官重量(Table 3)

対照群に比して、300 mg/kg群の脾臓絶対重量および相対重量が有意な高値を示した。また、体重の低値に基づく変動として同群の肝臓、腎臓、精巣および精巣上体の相対重量が有意な高値を示した。60 mg/kg以下の投与群では、いずれの器官重量とも有意差は認められなかった。

(8)病理組織学的検査(Table 4)

肝臓:ごく軽度〜軽度の髄外造血が300 mg/kg群の11例に、Kupffer細胞内にごく軽度〜中等度の褐色色素沈着が300 mg/kg群の10例にみられた。褐色色素は、肝臓の門脈周囲にやや多い傾向がみられ、これらは胆汁染色では陰性を、鉄染色およびLipofuscin染色では陽性を示した。

腎臓:近位尿細管上皮内にごく軽度〜軽度の褐色色素沈着が、300 mg/kg群の12例にみられた。褐色色素は、胆汁染色では陰性を、鉄染色では一部が陽性を、Lipofuscin染色では陽性を示した。その他に、尿細管上皮のごく軽度の好塩基性化が60および300 mg/kg群の各1例に、尿細管のごく軽度の拡張が300 mg/kg群の1例に、ごく軽度の嚢胞が60 mg/kg群の1例にみられた。

脾臓:軽度〜中等度のうっ血が300 mg/kg群の12例に、ごく軽度〜中等度の髄外造血が12 mg/kg以上の群の5〜12例に、ごく軽度〜軽度の褐色色素沈着が60 mg/kg以上の群の9〜12例に、B細胞領域(白脾髄辺縁帯)のごく軽度〜軽度のリンパ球減少が300 mg/kg群の12例にみられた。褐色色素は、胆汁染色では陰性を、鉄染色およびLipofu-scin染色では陽性を示した。また、ごく軽度のうっ血およびB細胞領域のごく軽度のリンパ球減少が60 mg/kg群の1例に、ごく軽度の褐色色素沈着が12 mg/kg群の1例に、ごく軽度の髄外造血が2.4 mg/kg群の1例にみられた。

精巣:中等度の萎縮が対照群および300 mg/kg群の各1例にみられた。

心臓:ごく軽度の肉芽腫が対照群の3例にみられた。

対照群および300 mg/kg群の胸腺、精巣上体、副腎および脳では、著変はみられなかった。

2.雌(P)に及ぼす影響

(1)一般状態

交配開始前および交配期間中:対照群および60 mg/kg以下の投与群では、異常症状は観察されなかった。

300 mg/kg群では、褐色尿が投与2日から交配終了日まで全例でみられた。当症状は投与後約30分からみられたが、翌日の投与前には消失していた。また、全身の被毛汚染が交配期間中に1例でみられた。

妊娠期間中:対照群および60 mg/kg以下の投与群では異常症状は観察されなかった。なお、妊娠23日までに対照群の12母動物、2.4および12 mg/kg群の10母動物ならびに60 mg/kg群の11母動物で分娩がみられた。

300 mg/kg群では、褐色尿が妊娠0日から妊娠25日の剖検前日まで全例で、流涎が妊娠4日から妊娠25日の剖検前日まで少数例〜全例でみられた。これらの症状は投与後約30分からみられたが、翌日の投与前には消失していた。また、全身の被毛汚染が妊娠期間中の初期に1例でみられた。その他に、腟口からの出血が妊娠14〜16日および20〜22日に少数例〜ほぼ半数例でみられた。当症状は、当日の投与前あるいは投与後に、または投与前および投与後にみられる例もあり、多くは1日のみであったが、2日間にわたって見られる例もあった。また、これらの内の1例は妊娠15〜16日と21〜22日に、他の1例は妊娠15日と20日にみられた。なお、同群では妊娠25日までに全例で分娩がみられなかった。

哺育期間中:対照群および60 mg/kg以下の投与群で、分娩がみられた全母動物で異常症状は観察されなかった。一方、300 mg/kg群では分娩母動物がみられなかったため、哺育動物は認められなかった。

(2)体重(Fig.3)

交配開始前および交配期間中:60 mg/kg以下の投与群の体重は対照群とほぼ同程度であり、いずれの測定日とも有意差は認められなかった。一方、300 mg/kg群では体重増加抑制傾向がみられ、投与11日には有意差が認められた。

妊娠期間中:60 mg/kg以下の投与群の体重は対照群に比してやや低値であったが、有意差は認められなかった。一方、300 mg/kg群では体重増加抑制がみられ、妊娠0〜21日まで有意差が認められた。

哺育期間中:60 mg/kg以下の投与群の体重は対照群とほぼ同程度であり、いずれの測定日とも有意差は認められなかった。

(3)摂餌量(Fig.4)

交配開始前:60 mg/kg以下の投与群の摂餌量は対照群とほぼ同程度かやや低値傾向であったが、有意差は認められなかった。一方、300 mg/kg群では低値であり、投与3、6および10日には有意差が認められた。

妊娠期間:60 mg/kg以下の投与群の摂餌量は対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。一方、300 mg/kg群では低値であり、妊娠21日には有意差が認められた。

哺育期間:60 mg/kg以下の投与群の摂餌量は対照群とほぼ同程度であり、有意差は認められなかった。

(4)剖検所見

母動物:母動物の剖検では、いずれの例とも著変はみられなかった。

不妊動物および未分娩動物:2.4および12 mg/kg群の各2例ならびに60 mg/kg群の1例の不妊動物では、いずれも著変はみられなかった。一方、300 mg/kg群の未分娩動物(12例)では、全例で脾臓の大型化が認められた。また、300 mg/kg群では子宮内に胎児は観察されなかったが、全例で着床痕がみられた。

(5)器官重量

母動物:60 mg/kg群では、対照群に比して脾臓は絶対重量が高値傾向であり、相対重量は有意な高値を示した。その他には、対照群との間に有意差は認められなかった。

不妊動物および未分娩動物:2.4、12および60 mg/kg群の不妊動物および300 mg/kg群の未分娩動物の胸腺重量は、対照群の母動物に比してやや高値傾向であった。また、300 mg/kg群の未分娩動物の脾臓重量は、対照群の母動物に比して高値であった。

(6)病理組織学的検査(Table 5)

肝臓:ごく軽度〜中等度の髄外造血およびKupffer細胞内にごく軽度〜軽度の褐色色素沈着が、300 mg/kg群のそれぞれ12例にみられた。褐色色素は、肝臓の門脈周囲にやや多い傾向がみられ、これらは胆汁染色では陰性を、鉄染色およびLipofuscin染色では陽性を示した。その他に、ごく軽度の髄外造血が2.4 mg/kg群の1例にみられた。

腎臓:近位尿細管上皮内にごく軽度の褐色色素沈着が、300 mg/kg群の12例にみられた。褐色色素は胆汁染色では陰性を、鉄染色では一部が陽性を、Lipofuscin染色では陽性を示した。その他に、尿細管のごく軽度〜軽度の拡張が300 mg/kg群の2例に、ごく軽度のCalcium沈着が300 mg/kg群の1例に、軽度の嚢胞が60 mg/kg群の1例にみられた。

脾臓:軽度〜中等度のうっ血、ごく軽度〜軽度の褐色色素沈着およびB細胞領域のごく軽度〜軽度のリンパ球減少が300 mg/kg群の11〜12例に、ごく軽度〜中等度の髄外造血が60および300 mg/kg群の10〜12例にみられた。褐色色素は、胆汁染色では陰性を、鉄染色およびLipofuscin染色では陽性を示した。また、ごく軽度の褐色色素沈着およびB細胞領域のごく軽度のリンパ球減少が60 mg/kg群の各1例にみられた。その他に、ごく軽度の髄外造血が2.4および12 mg/kg群の各3例にみられた。

胸腺:軽度の萎縮が、対照群の1例にみられた。

対照群および300 mg/kg群の卵巣、副腎、脳および心臓では、著変はみられなかった。

II.生殖発生毒性

1.親動物(P)の生殖発生に及ぼす影響(Table 6、7)

(1)発情回数

検疫・馴化期間中の7日間および交尾確認までの投与期間の発情回数は、各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。

(2)交尾率、妊娠動物数および受胎率

各群の動物とも同居開始後10日までに全例で交尾が確認された。交尾確認までの日数は、各投与群とも対照群とほぼ同程度であった。交尾率は、対照群および各投与群とも100%であった。

一方、前述のように2.4および12 mg/kg群の各2例ならびに60 mg/kg群の1例が不妊であったため、妊娠動物数は対照群および300 mg/kg群が12例、60 mg/kg群が11例、2.4および12 mg/kg群が10例であった。したがって、受胎率は対照群および300 mg/kg群は100%であったが、60 mg/kg群が91.7%、2.4および12 mg/kg群が83.3%であった。受胎率には、各投与群とも、対照群との間に有意差は認められなかった。

新生児を分娩した母動物数は、対照群で12例、2.4および12 mg/kg群で10例、60 mg/kg群で11例であったが、300 mg/kg群では妊娠25日までに分娩は認められなかった。

(3)妊娠期間および分娩状態

60 mg/kg以下の投与群の妊娠期間は、対照群とほぼ同程度であった。これらの群では、分娩状態に異常はみられなかった。

(4)着床痕数および妊娠黄体数

着床痕数は、60 mg/kg以下の投与群が15.5〜16.4で対照群の16.7とほぼ同程度であった。なお、300 mg/kg群では前述の如く子宮内に胎児は観察されなかったが、着床痕数は16.1であり、対照群とほぼ同程度であった。また、300 mg/kg群の妊娠黄体はほとんどの母動物で不明瞭であったため、その数値を採用しなかった。

(5)出産率

60 mg/kg以下の投与群の出産率は100%であり、対照群と同様であった。一方、300 mg/kg群では妊娠25日までに全例で分娩がみられず、出産率は0%であった。

2.新生児(F1)に及ぼす影響(Table 7)

(1)総出産児数、性、死産児数および新生児数

総出産児数は、60 mg/kg以下の投与群では14.1〜14.5で対照群の15.6とほぼ同程度であった。分娩率は、60 mg/kg以下の投与群では87.8〜91.1%で対照群の93.4%とほぼ同程度であった。

哺育1日の新生児数は、60 mg/kg以下の投与群では13.1〜14.3で対照群の15.4とほぼ同程度であった。死産児数は、対照群(総数雄2例)および60 mg/kg群(雌2例)が0.2例に対して、2.4 mg/kg群(雄5例、雌9例)は1.4例でやや高値であった。出生率は対照群が99.0%、60 mg/kg以下の投与群が91.3〜100%であった。また、児の産出率は2.4 mg/kg群は80.0%で対照群の92.4%に比して有意な低値を示したが、12および60 mg/kg群では91.1および88.3%で有意差は認められず、用量依存性はみられなかった。

性比は、60 mg/kg以下の投与群では0.60〜1.54で対照群の1.02に比してやや低値あるいは高値を示す群がみられたが、投与量に依存した一定の変動傾向はうかがえなかった。

(2)新生児の一般状態、哺育4日の生存率および外表異常の観察

新生児の一般状態では、いずれの群とも異常症状は観察されなかった。

哺育期間中に、対照群では雄1例と雌3例、2.4、12および60 mg/kg群ではそれぞれ雌雄各1例、雌1例および雄3例と雌1例が死亡した。哺育4日の新生児数は、60 mg/kg以下の投与群では12.9〜14.0で対照群の15.1に比してやや低値であったが、用量依存性はなく、また有意差も認められなかった。哺育4日の生存率は2.4、12および60 mg/kg群でそれぞれ98.5、99.3および97.4%で、対照群の98.0%とほぼ同程度であった。

新生児の外表異常の観察では、異常はみられなかった。

(3)新生児の体重

60 mg/kg以下の投与群の体重は、哺育1日および4日とも雌雄ともに対照群とほぼ同程度であった。

考察

3−メトキシベンゼナミンのラットを用いた反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を実施した。投与段階は、300 mg/kgを最高用量とし、以下60、12および2.4 mg/kgとした。

雄(P)動物に対しては、300 mg/kg群では投与後に褐色尿および流涎がみられたが、翌日の投与前には消失しており、一過性の症状であった。褐色尿は被験物質あるいはその代謝物の尿からの排泄に起因したものと思われた。体重は300 mg/kg群で投与初期から増加抑制が認められ、摂餌量の低値に起因した変動と考えられた。血液学的検査では60 mg/kg以上の群で貧血症状(赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値の低値)および血清中総ビリルビンの高値が認められ、血球破壊の亢進(溶血性貧血)が起こっていると考えられた。網状赤血球数の高値、肝臓および脾臓の髄外造血ならびに脾臓重量の高値は、貧血に対する代償性反応と推測された。塗抹標本の観察では300 mg/kg群で多染性赤血球が多数認められ、赤血球の多くが幼若の状態で末梢に出てきていると思われた。また、白血球数は自動血球計数装置では計数が不能であり、血球計算盤による計数では白血球数は300 mg/kg群で高値であり、またリンパ球比は低値で好中球比は高値であった。自動血球計数装置による計数が不能の原因としては、溶血剤は一部の多染性赤血球に対して効果がないといわれている1)ことから、多染性赤血球の混在のために白血球数測定範囲が設定した下限閾値以下となったことが考えられた。これらのことから、造血系への影響を検査するために今後の課題として骨髄の検査(塗抹標本による骨髄分画、骨髄の病理組織学的検査など)が必要であろうと思われた。病理組織学的検査では、肝臓および脾臓に褐色色素の沈着がみられたが、これらは胆汁染色に陰性であり、鉄染色および Lipofuscin 染色に陽性を示したことから、溶血性貧血に伴った鉄由来物と考えられた。また、腎臓では鉄由来物が一部を占めていると推測された。血液化学的検査では総蛋白が低値を示したが、アルブミン量にはほとんど影響がなく、グロブリン量の減少に起因する変動と思われた。さらに、脾臓ではB細胞領域(白脾髄辺縁帯)のリンパ球減少もみられた。Na、Caおよび無機リンの変動は、腎臓の尿細管上皮に褐色色素の沈着がみられることから再吸収機能障害の可能性が、ブドウ糖の変動は肝臓の糖代謝機能障害の可能性が考えられた。これらの結果から、3−メトキシベンゼナミンは造血系、肝機能および腎機能への影響が示唆された。

雌(P)動物に対しては、300 mg/kg群の交配開始前、交配期間中および妊娠期間中の症状は雄の同量投与群の場合と同様であり、投与後に褐色尿、流涎などの症状がみられた。さらに、妊娠期間の後期には少数例〜ほぼ半数例で腟口からの出血がみられたが、出産児は認められなかった。体重は、交配前、交配期間中および妊娠期間中とも300 mg/kg群で低値であり、摂餌量が低値を示した影響と考えられた。なお、妊娠期間中の体重増加抑制は着床後の胎児の発育がみられなかったことにも関連した変動と思われた。剖検および器官重量では300 mg/kg群で脾臓の大型化ならびに脾臓重量の高値が認められ、病理組織学的検査では肝臓、腎臓および脾臓に雄と同種の組織変化がみられていることから、雄の場合と同様に溶血性貧血が起こっていると考えられた。

以上のように、一般毒性学的には60 mg/kg以上では脾臓重量、血液学的検査で貧血、血液化学的検査で総ビリルビン、無機リン、Na、ブドウ糖、総蛋白、Caなどに、300 mg/kgでは一般状態(流涎、褐色尿、腟口からの出血)、体重、摂餌量および剖検で脾臓の大型化に影響がみられた。2.4 mg/kgでも脾臓に髄外造血がみられた他に12 mg/kg以上で褐色色素沈着、60 mg/kg以上でうっ血およびB細胞領域のリンパ球減少が脾臓に、300 mg/kgで髄外造血と褐色色素沈着が肝臓に、褐色色素沈着が腎臓にみられた。

したがって、当試験条件下における3−メトキシベンゼナミンの一般毒性学的な無影響量は雌雄ともに2.4 mg/kg未満と推測された。

親動物(P)の生殖発生に対しては、雄側の交尾率および授胎率、雌側の発情回数、交尾率、妊娠動物数および受胎率には、各投与群とも影響はみられなかった。また、60 mg/kg以下の投与群では妊娠期間、分娩状態、着床痕数および出産率に影響はみられなかった。一方、300 mg/kg群では妊娠25日までに全母動物で分娩が認められず、剖検で対照群とほぼ同程度の着床痕がみられるのみであった。したがって、300 mg/kgでは着床後の早期に胚・胎児の致死作用がみられたものと考えられた。

新生児(F1)に対しては、60 mg/kg以下の投与群で出産児数、死産児数、新生児数、性比に用量に依存した変動は認められず、影響はみられなかったと判断された。また、一般状態で異常はみられず、哺育4日の生存児数および生存率に用量に依存した変動は認められなかった。体重にも影響は認められず、外表異常も観察されなかった。したがって、60 mg/kg以下では新生児に影響を及ぼさないと考えられた。

以上のように、300 mg/kgでは分娩が認められなかった。したがって、当試験条件下における3−メトキシベンゼナミンの生殖発生毒性学的な無影響量は雄の生殖に関しては300 mg/kg、雌の生殖および児動物の発生に関しては60 mg/kgと推測された。

文献

1)第16回日本毒科学会学術年会, 横浜, 1989, p.42

連絡先:
試験責任者和田浩
(株)日本バイオリサーチセンター羽島研究所
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Tel 0583-92-6222Fax 0583-92-1284

Correspondence:
Wada, Hiroshi
Nihon Bioresearch Inc., Hashima Laboratory, Japan
6-104 Majima, Fukuju-cho, Hashima, Gifu, 501-62,Japan
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