(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドの
ラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test
of (Methacryloyloxyethyl)trimethylammonium chloride in Rats

要約

(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドの1000および2000 mg/kgを1群5匹からなる5週齢の雄ラットに,雌ラット5匹には2000 mg/kgを単回経口投与した.

雌雄のいずれの群にも死亡はなく,2000 mg/kg投与群の雌1例で投与直後一過性の流涎がみられたほかに一般状態に異常はみられず,体重の推移および剖検所見にも変化は認められなかった.

(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると推定された.

方法

1. 被験物質

被験物質として,三菱ガス化学(株)(新潟)より提供された(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドを78.1 %含有する水溶液(Lot No. CA81012)を用いた.この化学物質のマウスにおける単回経口投与時のLD50値は1044 mg/kgであるとことが報告されている1).提供された水溶液は,安定剤として4-メトキシフェノールを1962 ppm含有していた.受領物質は,使用時まで密栓,冷蔵,遮光下で保管した.なお試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であったことを確認した.

投与検体の調製においては,供給物質を局方注射用水(製造番号:9707SA,光製薬(株))で希釈して被験物質濃度として20 w/v%溶液を調製し,これを注射用水により希釈して10 w/v%溶液を調製し,投与時まで冷蔵・遮光下で保存し,調製2日後に使用した.被験物質の1および20 w/v%の調製検体の,冷蔵,遮光条件下での8日間の安定性を確認し,また,各投与検体の含量を測定した(102〜103 %).

2. 使用動物および飼育方法

4週齢のSprague-Dawley系(Crj:CD(SD)IGS)雌雄ラットを,日本チャールス・リバー(株)筑波飼育センターから購入し,検疫と馴化を兼ねて7日間予備飼育した.試験には,予備飼育中の一般状態に異常が認められなかった雄10匹雌5匹を用い,雄は検疫終了時の体重を基に体重別層化無作為抽出法により1群5匹からなる2群に分け,雌は無作為に5匹を選んで1群とした.投与開始時の週齢は,雌雄ともに5週齢であり,体重は雄が126.4〜134.7 g,雌が102.4〜119.5 gであった.

全飼育期間を通じ,動物を金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,温度23〜25 ℃,湿度50〜65 %,換気回数約15回/時,照明12時間(7時〜19時点灯)に設定された飼育室で,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.

3. 投与量および投与方法

投与量は,予備試験の結果に基づいて決定した.すなわち,雌雄各3匹のラットに2000 mg/kgの本被験物質を投与し,雌1例に下痢,流涎,流涙,自発運動の減少,体重増加抑制等が認められたことから,雄では,1000および2000 mg/kgの2用量を設定した.また,予備試験では明らかな性差は認められなかったことから,雌については,2000 mg/kgの1用量を設定した.

投与容量は体重1kg当たり10 mLとし,動物を約18時間絶食させた後,投与直前に測定した体重を基に投与液量を算出し,ラット用胃管を用いて強制的に単回経口投与した.給餌は投与後約3時間に行った.

4. 観察および検査

観察第1日(投与日)から14日間にわたって死亡の有無を確認し,各動物の一般状態を観察した.観察は投与日においては投与直後から1時間まで連続して行い,その後は投与後6時間まで約1時間間隔で実施した.観察第2日から15日までは毎日1回行った.

体重は全例について,投与直前,観察第2,4,8,11および15日に測定した.

剖検は,観察第15日に全例をペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血屠殺して実施した.

結果および考察

雌雄とも死亡例はなかった.

一般状態では2000 mg/kg投与群の雌1例で,投与直後に一過性の流涎がみられた.

体重は,雌雄ともに順調に増加した.

剖検において,雌雄いずれの器官・組織にも変化は認められなかった.

以上の結果から,(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドのLD50値は,雌雄ともに2000 mg/kgを上回ると推定された.

文献

1)W. H. Lawrence, G. E. Bass, W. P. Purcell, J. Autian, J. Dent. Res., 51, 526(1972).

連絡先
試験責任者:永田伴子
試験担当者:勝村英夫,松本浩孝,堀内伸二,三枝克彦,稲田浩子,安生孝子
(財)食品薬品安全センター 秦野研究所
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5
Tel 0463-82-4751 Fax 0463-82-9627

Correspondence
Authors:Tomoko Nagata(Study director) Hideo Katsumura, Hirotaka Matsumoto, Shinji Horiuchi, Katsuhiko Saegusa, Hiroko Inada, Takako Anjo
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center,
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257-8523, Japan.
Tel +81-463-82-4751 Fax +81-463-82-9627