N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの
ラットを用いる単回経口投与毒性試験
Single Dose Oral Toxicity Test of N,N-Dicyclohexyl-2-benzothiazolesulfenamide in Rats
要 約
ゴム製品の加硫促進剤等に用いられている高生産量既存化学物質N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドの単回経口投与毒性試験を,5週齢のSD系[Crj:CD(SD)]ラットを雌雄各1用量群5匹を用い,0,1077,1401,1821,2367,3077および4000 mg/kg(公比1.3)用量の単回経口投与により実施した.雌雄とも死亡率に用量相関性が認められず,LD50値は,死亡が認められない最大用量であった雄で1821 mg/kg以上,雌で1077 mg/kg以上と推定した.中毒症状としては自発運動の低下,深大呼吸,立毛,紅涙,下腹部被毛の尿による汚染,振戦,痙攣などが認められた.体重は,雌雄とも1077 mg/kg以上の用量群で用量依存的な増加抑制ないし減少が認められた.これらの症状や体重への影響は,生存動物においては7日以降回復した.剖検においては,被験物質投与によると思われる異常は認められなかった.
方 法
1.被験物質
N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドは,分子量346.59,融点102.7℃の水に難溶,アセトンに易溶な灰白色の顆粒である.試験には,大内新興化学工業(株)(東京)から提供されたロット番号307021,純度99.2%のものを用い,これを局方ゴマ油(宮澤薬品)で懸濁液に用時調製し,投与液とした.
2.使用動物および飼育条件
日本チャールス・リバー(株)より購入したSD系[Crj:CD(SD)]雌雄ラットを雌雄各35匹(雄140〜160 g,雌114〜128 g)用いた.1群の供試動物数は雌雄各5匹とし,各用量群への割り付けは,投与直前の体重に基づき層別化無作為抽出法により行った.ラットは,温度22±3℃,湿度55±10%,換気回数10回以上/時,照明12時間(6時〜18時)に設定された飼育室で,金網ケージに2〜3匹ずつ雌雄別に収容し,固型飼料[日本農産工業(株)製,ラボMRストック]と水は自由摂取させた.
3.投与量および投与方法
投与量設定試験において,雌雄とも750,1000,1500,2000および3000 mg/kg用量を単回経口投与した結果,死亡率(死亡動物数/供試動物数)は,各々雄が0/3,0/3,1/3,0/3および1/3,雌が0/3,0/3,0/3,2/3および3/3であった.そこで,本試験の用量は,雌雄とも同一用量の0(対照群),1077,1401,1821,2367,3077および4000 mg/kg(公比1.3)に設定した.
投与方法は,投与液量を体重1 kg当たり10 mlとし,胃ゾンデを装着した注射筒を用いて強制的に動物の胃内に単回経口投与(11時06分〜11時33分)した.対照群には媒体のみを同様に投与した.動物は投与前日の午後5時から投与後3時間まで除餌し,水のみを与えた.
4.観察事項
観察期間は投与後14日間とし,その間に一般状態の観察と生死の確認を投与日は頻回に,その後は,少なくとも1日1回行った.体重は,投与直前(投与0日),投与後1,3,7および14日に測定し,また死亡動物については発見日にも測定した.剖検は,死亡動物は発見後できるだけ速やかに,生存動物は観察期間終了後エーテル麻酔死させて行った.
結果および考察
1.死亡率およびLD50値(Table 1)
死亡は,雄では2367 mg/kg以上,雌で1401 mg/kg以上の用量群で認められたが,雌雄とも死亡率に用量相関性が認められず,LD50値を算出できなかった.したがって,LD50値は死亡が認められない最大用量であった雄で1821 mg/kg以上,雌で1077 mg/kg以上と推定した.
2.中毒症状および体重
雌雄とも,投与日には投与後6時間までの観察で,一般状態に異常はみられなかった.翌日(投与後1日)に自発運動の低下,眼瞼下垂,深大呼吸,立毛,紅涙,下腹部被毛の尿による汚染,振戦,痙攣等の症状を呈する例が,概ね用量に依存して認められた.死亡は雄で投与後1日,雌で1〜3日の間に発現した.体重は,投与後1〜3日において,1077mg/kg以上の用量群で,用量依存的な増加抑制ないし減少が認められた.生存動物の症状は投与後2〜3日に回復傾向を示し,7日以降一般状態および体重増加に異常はみられなかった.
3.剖検
死亡および生存動物の雌雄とも,被験物質投与によると思われる異常はみられなかった.
連絡先 |
| 試験責任者: | 山本譲 |
| 試験担当者: | 杉本忠美,阿部素子,潘陳真真 |
| (財)畜産生物科学安全研究所 |
| 〒229 神奈川県相模原市橋本台 3-7-11 |
| Tel 0427-62-2775 | Fax 0427-62-7979 | |
Correspondence |
| Authors: | Yuzuru Yamamoto (Study director) Tadami Sugimoto, Motoko Abe, Shinshin Hanchin |
| Research Institute for Animal Science in Biochemistry and Toxicology |
| 3-7-11 Hashimotodai, Sagamihara-shi, Kanagawa, 229, Japan |
| Tel +81-427-62-2775 | Fax +81-427-62-7979 | |