メトキシメタノールのラットを用いた単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Methoxymethanol in Rats

要約

メトキシメタノールをSD系ラットの雌雄に単回経口投与した時の毒性について検討した.投与量は,雌雄とも707,1000,1414,2000および2828mg/kgの5用量とした.なお,被験物質には46.73%のメトキシメタノールの他,メタノールが44.93%含まれる.

死亡動物は雌雄とも1000mg/kg以上の群で認められ,雄の2000mg/kg以上の群,雌の2828mg/kgの群では全例が死亡した.死亡の発現は役与後5分以内から翌日までがほとんどであり,1000mg/kgの雄1例のみが役与後7日に死亡した.

一般状態において,投与当日に自発運動量減少,呼吸緩徐,眼瞼下垂,流挺,横たわり,あえぎ,間代性痙攣,流涙,赤色流涙,赤色鼻汁および挙尾が観察された.これらの症状は役与後5日までに消失した.なお,役与後7日の死亡例には3日から腹部膨満が認められた. 体重において,1414および2000mg/kg群の生存動物の一部が役与後3日に減少を示したが,他の生存動物はいずれも観察期間中増加を示した.

剖検において,死亡例では心房拡張,肺の鬱血・水腫,胃の鬱血・水腫・出血・びらん,胃・腸管のガス膨満が認められた.生存動物では,胃の肥厚・びらん・潰瘍および肝臓との癒着が1414mg/kg以上の群で認められた.

LD50値は,雄が1269mg/kg(95%信頼限界:981〜1636mg/kg),雌が1451mg/kg(95%信頼限界:1059〜2000mg/kg)であった.

方法

1.被験物質

メトキシメタノール(三井東圧化学(株),ロット番号:9209261,純度:46.7%)は,分子量62.07,水,アルコールに可溶の無色の液体である.被験物質にはメトキシメタノールの他,メタノールが44.93%含まれる.本ロットについては試験期間中安定であることが確認された.

2.試験動物およぴ飼膏条件

日本チャールス・リバー(株)より人手したSD系ラット(Crj:CD,SPF)の雌雄を6〜12日間検疫・馴化し,試験に使用した.投与前に各群の平均体重がほぽ均一になるように体重別層化無作為抽出法により1用量群につき雌雄各 5匹を振り分けた.投与時の週齢は雄が5週齢,雌が5〜6週齢,体重範囲は雄が125〜147g,雌が104〜144gであった.

検疫・馴化期間を含めた全飼育期間中,温度20〜25℃,湿皮40〜70%R.H.,換気約12回/時,照明12時間(7:00〜l9:00)に自動調節された飼育室を使用した.動物は,実験動物用床敷(ベータチップ:日本チャールス・リバー(株))を敷いたポリカーボネート製ケジに1ケージ当り5匹収容し飼育した.

動物には,実験動物用固型飼料(MF:オリエンタル酵母工業(株))および5μmのフィルター濾過後紫外線照射した水道水を,それぞれ自由摂取させた.

3.投与量およぴ投与方法

予備試験の結呆に基づき,雌雄とも707,1000,1414,2000,2828mg/kgの5用量を設定した.被験物質は,投与直前に精製水に溶解させ,投与前日のタ方から絶食させたラットに胃ゾンデを用いて1回強制経口投与した.投与液量は10ml/kgとし,投与後約3時間は飼料を与えなかった.なお,投与液の調整に際して純度換算は行わなかった.

4.観察およぴ検査方法

一般状態は,役与当日は投与後5,15,30分,1,3および6時間,その後は1日1回,14日間にわたって観察した.体重は,投与直前,投与後3,7および14日に測定した.死亡動物については,発見後速やかに剖検した.また,生存動物については観察終了後(役与後14日)にチオペンタールナトリウムによる麻酔下で腹大動脈を切断し,放血致死させ剖検した.LD50値は,各用量群における役与後14日の死亡率をもとにProbit法により算出した.

結果

1.死亡率およぴ致死量(Table 1)

雄ともに1000mg/kg以上の群で死亡が認められ,雄は2000mg/kg以上,雌は2828mg/kgで前例が死亡した. 死亡の発現は投与後5分以内から翌日までがほとんどであり,1000mg/kg群の雄1例のみは投与後7日に死亡した.

LD50値は,雄が1269mg/kg(95%信頼限界:981〜1636mg/kg),雌が1451mg/kg(95%信頼限界:1059〜2000mg/kg)であった.

2.一般状態

自発運動量減少,呼吸緩徐,眼瞼下垂が全群,横たわり,あえぎおよび間代性痙攣が1414mg/kg以上の群,流挺が雌の707および2828mg/kgを除く群で認められた.その他に,流涙,赤色流涙,赤色鼻汁,挙尾も観察された.これらの中毒症状は投与後5分以内に発現し,1000mg/kg以上の群では自発運動減少及び呼吸緩徐が4日まで観察された.また,役与後7日の死亡例には3日以降,腹部膨満が認められた.

3.体重

1414および2000mg/kg群の生存動物の一部が投与後3日に減少を示したが,以後は増加した.その他の群の生存動物はいずれも観察期間中増加を示した.

4.剖検

死亡例では,心房拡張,肺の鬱血・水腫,腺胃粘膜の鬱血・水腫・出血・びらんが認められた.また,腹部膨満を示した動物には胃および小腸のガスによる膨満が観察された.生存例では,胃と肝臓の癒着,前胃粘膜の肥厚および腺胃粘膜のびらん・潰瘍が1414mg/kg以上の群で認められた.

連絡先
試験責任者:松浦郁夫
試験担当者:加瀬真理子,佐藤ゆかり
(株)三菱化学安全科学研究所鹿島研究所
〒3l4-02茨城県鹿島郡波崎町砂山l4
Tel 0479-46-287lFax 0479-46-2874

Correspondence
Authors:Ikuo Matsuura(Study director)
Mariko Kase, Yukari Satoh
Mitsubishi Chemical Safety Institute Ltd., Kashima Laboratory
14 Sunayama, Hasaki-mach, Kashima-gun, Ibaraki, 314-02, Japan
Tel +8l-479-46-287lFax +8l-479-46-2874