2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラット
における急性経口投与毒性試験

Single Dose Toxicity Test of 2,2,4,4,6,8,8-Heptamethylnonane in Rats

要約

2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンの急性経口投与毒性試験を雌雄のSprague-Dawley系(Crj:CD)ラット計20匹を用いて実施した。なお、投与量は、雌雄とも0(溶媒対照群)および2000 mg/kgとした。

その結果、雌雄とも、溶媒対照群および2000 mg/kg投与群に死亡例はみられず、また、投与後の一般状態の変化も、溶媒として用いたコーンオイルの大量投与に起因すると思われる一過性の下痢便あるいは軟便の排泄がみられた以外には、異常は認められなかった。投与後の体重は、溶媒対照群、2000 mg/kg投与群ともに順調に増加し、15日目に行った剖検においても各器官・組織に異常所見は認められなかった。

以上の結果から、2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラットにおける経口投与によるLD50値は、雌雄とも2000 mg/kgを上回る量と推定された。

緒言

既存化学物質の安全性評価の一環として、2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラットにおける急性経口投与毒性試験を実施した。

方法

1. 被験物質および投与検体

本試験の被験物質として、(社) 日本化学工業協会から提供された2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナン[CAS No.:4390-04-9、ロット番号:AU02(東京化成工業 (株) 製)、無色透明の液体、比重:0.78、純度:99.9%]を用いた。

投与に際して、比重を考慮し、被験物質を25.6%(v/v)の濃度になるようコーンオイルに混和し、投与検体とした。

なお、この方法に従って調製された2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンの安定性試験では、コーンオイルに混和して調製した2.56および25.6%(v/v)溶液中の被験物質は、室温遮光の条件下で7日間は安定であることが確認された。また、今回の試験で使用した溶液中の平均被験物質含量は、所定濃度の97.9%であった。

2. 動物および飼育方法

生後4週で購入した雌雄のSprague-Dawley系ラット(Crj:CD; SPF、日本チャールス・リバー (株)、厚木飼育センター生産)を7日間にわたり予備飼育した後、一般状態に異常の認められなかった雌雄各10匹を試験に供した。投与時体重は、雌が98.2〜109.5 g、雄が107.7〜120.1 gであった。全飼育期間を通じて、動物を金属製金網床ケージ(220 W×270 D×190 H mm、日本ケージ (株) 製)に1匹ずつ収容し、温度24±1℃、湿度55±5%、換気回数約15回/時間、照明12時間(7〜19時点灯)に設定された飼育室内(バリアーシステム)で飼育した。動物には、投与前約18時間と投与後約3時間の絶食期間を除く全飼育期間を通じて固型飼料(CE-2、日本クレア (株))を自由に摂取させ、また、飲料水としては、全飼育期間を通じて水道水を自由に摂取させて維持管理した。

3. 群分けおよび投与方法

群分けは、無作為選択により行い、投与は以下の要領で行った。即ち、雌雄ともあらかじめ約18時間の絶食を行った後、1群5匹からなる2群に分け、体重100 g当たり1 mlの割合でラット用胃管を用いて強制経口投与した。本試験に先立って実施した1群3匹の雄ラットを用いた予備試験の結果、500、1000および2000 mg/kg投与群では、いずれも死亡例は認められなかったため、本試験では、雌雄とも被験物質の投与用量を2000 mg/kgとし、他の1群(対照群)には溶媒(コーンオイル)のみを投与した。

4. 観察および病理学的検査

投与日(1日目)においては、投与直後から約2時間まで継続して、また、それ以降6時間までは、1ないし2時間に1回の頻度で各動物の一般状態と死亡例の有無を観察した。2日目から15日目には、毎日1回動物の状態を観察した。また、投与直前、2、4、8、11および15日目に体重の測定を行い、各群ごとに平均値と標準偏差を求めた。15日目には各動物をペントバルビタール・ナトリウム麻酔下で放血屠殺した後、病理解剖を行い、雌雄とも2000 mg/kg投与群の各1例の主要な器官・組織を10%リン酸緩衝ホルマリン液で固定し保存した。

試験結果および考察

1. 死亡率およびLD50値

雌雄とも、いずれの投与群にも14日間の観察期間中に死亡例は認められなかった。従って、2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラットにおける経口投与によるLD50値は、雌雄とも2000 mg/kgを上回る量と推定された。

2. 一般状態の変化

投与後約30分から4時間の間に一過性の下痢便あるいは軟便の排泄が、溶媒対照群の雌雄の全例、2000 mg/kg投与群の雌の5例中3例および雄の5例中4例に認められた。しかし、いずれも、それ以降は正常便となり、観察終了時まで一般状態に異常はみられなかった。

3. 体重の変化(Table 1)

雌雄とも、いずれの投与群においても体重の増加抑制はみられず、観察期間中の体重増加は順調であった。

4. 病理学的検査所見

15日目に屠殺剖検を行った結果、雌雄とも溶媒対照群および2000 mg/kg投与群のいずれの動物にも、肉眼的変化は認められなかった。

なお、肉眼的観察において、病理組織学的検査を要すると思われる変化がみられなかったため、病理組織学的検査は行わなかった。

以上のように、2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラットにおける急性経口投与毒性試験を行った結果、雌雄とも溶媒対照群および2000 mg/kg投与群のいずれにも死亡例はみられず、投与後の一般状態の変化として、いずれの投与群にも、一過性の下痢便あるいは軟便の排泄がみられた以外に異常は認められなかった。一般状態においてみられた一過性の下痢便あるいは軟便の排泄については、一般に大量の植物油を経口投与すると、一過性の下痢便の排泄がみられることが知られており、溶媒として用いたコーンオイル1)に起因するものと考えられる。

以上の結果から、2, 2, 4, 4, 6, 8, 8−ヘプタメチルノナンのラットにおける経口投与によるLD50値は、雌雄とも2000 mg/kgを上回る量と推定される。

文献

1)白須泰彦、吐山豊秋編 "新毒性試験法 −方法と評価−," リアライズ社, 東京, 1985, p.46.

連絡先:
試験責任者今井清
(財)食品薬品安全センター秦野研究所
〒257 神奈川県秦野市落合 729-5
Tel 0463-82-4751Fax 0463-82-9627

Correspondence:
Imai, Kiyoshi
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center
729-5 Ochiai, Hadano-shi, Kanagawa, 257, Japan
Tel 81-463-82-4751Fax 81-463-82-9627