その結果,いずれの投与群においても死亡動物はみられなかった.一般状態の変化として,雄の60 mg/kg投与群において,投与直後に一過性の流涎が観察された.体重および摂餌量には被験物質投与の影響は認められなかった.剖検では,60 mg/kg投与群の雌雄に前胃粘膜の肥厚が,組織検査では前胃の扁平上皮の瀰漫性の過形成が認められた.また,雌の60 mg/kg投与群で脾臓の髄外造血の程度が増強された.器官重量では,60 mg/kg投与群の雌において胸腺の絶対重量および相対重量が低値を示した.
生殖毒性に関しては,性周期,雌雄の交尾および受胎能力,妊娠期間,分娩ならびに哺育状態に被験物質投与の影響は認められなかった.また,出生児の形態,生存ならびに体重にも,投与の影響は認められなかった.
以上の成績から,本試験条件下における4-(1-メチルエテニル)フェノールの親動物に対する無作用量は,15 mg/kg/day,生殖毒性に関する無作用量は,親動物および出生児ともに60 mg/kg/dayと判断された.
媒体は,カルボキシメチルセルロースナトリウム(日本薬局方カルメロースナトリウム,製造番号:6Z09,丸石製薬(株))および注射用水(製造番号:9912ST,光製薬(株))を用いて調製した0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液を用いた.投与検体は,4-(1-メチルエテニル)フェノールを各濃度ごとに秤量し,所定の濃度となるように媒体に懸濁して調製した.0.08および1.2 w/v%の調製検体の,冷蔵,気密条件下での8日間の安定性が確認されていることから,調製検体は,冷蔵,気密の条件下で保存し,調製後1週間以内に使用した.
各濃度の調製検体については,秦野研究所において被験物質の含量測定および均一性試験を実施した結果,所定濃度の102〜108 %にあり,また,均一に含有されていることを確認した.
動物は,照明12時間(7時〜19時点灯),換気回数約15回/時,許容温度21.0〜25.0 ℃,許容湿度40〜75 %に設定された飼育室で,金属製金網床ケージに1匹ずつ収容し,固型飼料(CE-2,日本クレア(株))および水道水(秦野市水道局給水)を自由に摂取させて飼育した.交尾した雌については,妊娠14日から哺育4日まで,紙パルプ製チップ(ペパークリーン,日本エスエルシー(株))を入れたラット用プラスチック製繁殖ケージに収容した.
対照群には,4-(1-メチルエテニル)フェノールの媒体である0.5 %カルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液を被験物質投与群と同一条件にて投与した.
投与期間は,雄に対しては交配前2週間,交配期間(最長2週間),剖検前日まで(総投与回数47回),雌に対しては交配前2週間,交配期間(最長2週間),交尾した雌では,妊娠期間を通して哺育3日(分娩日=哺育0日)まで(投与回数41〜54回),交尾しなかった雌は剖検前日まで(総投与回数54回)とし,1日1回,9時から12時の間に投与した.投与容量は体重1 kg当たり5 mLとし,雄ならびに交配前,交配期間中の雌および交尾しなかった雌では,週1回測定した体重を基に,交尾した雌では,妊娠0日(交尾確認日),7日,14日および20日の体重を基に算出した.
飼育期間中,毎日1回以上観察した.
(2) 体重測定
投与期間中週1回[雄:投与1,8,15,22,29,36,43日,雌:投与1,8,15,22,29,36,43,50日(雌の投与22日以降の体重測定は交尾しなかった動物のみを対象とした.)]および解剖日に測定した.交尾した雌は妊娠0,7,14,20日に,分娩した雌は哺育0および4日に測定した.
(3) 摂餌量測定
投与期間中(交配期間を除く)週1回,体重測定日と同じ日に給餌量を測定し,その翌日に残餌量を測定し,1日の摂餌量を算出した.交尾した雌では妊娠0〜1,7〜8,14〜15,20〜21日および分娩した雌では,哺育3〜4日の摂餌量を測定した.
(4) 性周期および交配
予備飼育に引き続いて投与開始後,交尾が確認されるまで,毎日午前中に腟スメアを採取し,性周期を観察した.交配は,投与15日の夕方から最長2週間,同群内の雌雄を1対1の連続同居方式で行った.交尾の確認は,腟スメア中の精子あるいは腟栓の確認により行い,交尾が確認された雌については,その日を妊娠0日として起算し,雄から分離して個別に飼育した.交配結果および妊娠の成否により,各投与群における交尾率[(交尾動物数/同居動物数)× 100],受胎率[(妊娠動物数/交尾動物数)× 100],同居開始から交尾日までの日数およびその間に回帰した発情期の回数を求めた.
(5) 分娩および哺育状態の観察
交尾した雌は,全例を自然分娩させた.分娩状態の直接観察は,可能な動物について行い,分娩状態が直接観察できなかった動物については,分娩後の徴候から分娩障害の有無を判断して記録した.分娩の確認は,午前9時〜11時に行い,分娩が完了していることを確認した動物については,その日を分娩日(哺育0日)として妊娠期間(妊娠0日〜分娩日の日数)を算出した.分娩後は,哺育状態を毎日観察した.
(6) 剖検・病理組織学検査
雄動物は,投与47日の翌日に,致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,剖検した.その際,胸腺,脾臓,精巣および精巣上体の重量を測定した.精巣および精巣上体はブアン液に固定し,対照群および高用量群について病理組織学検査を実施した.胃については,60 mg/kg投与群で剖検時に異常が認められたため,4および15 mg/kg投与群についても病理組織学検査を実施した.その他,剖検時に観察された病変部(肺,脱毛部の皮膚)についても病理組織学検査を実施した.
雌動物のうち,分娩した雌は哺育4日に,交尾しなかった雌は投与54日の翌日にそれぞれ致死量のペントバルビタールナトリウム麻酔下で放血・致死させ,剖検した.その際,胸腺および脾臓の重量を測定し,卵巣および子宮は摘出して,卵巣については実体顕微鏡下で妊娠黄体数を,子宮については着床数を数え,着床率[(着床数/妊娠黄体数)× 100]を算出した.卵巣は,対照群および60 mg/kg投与群について病理組織学検査を実施した.胃については,60 mg/kg投与群で剖検時に異常が認められたため,4および15 mg/kg投与群についても病理組織学検査を実施した.また,胸腺は60 mg/kg投与群で,脾臓は4 mg/kg投与群で重量に有意差が認められたため,病理組織学検査を実施した.その他,剖検時に観察された病変部(肝臓,脱毛部の皮膚)についても病理組織学検査を実施した.
哺育0日に産児数(生存児 + 死亡児)を調べ,分娩率[(産児数/着床痕数)× 100],生児出産率[(出産生児数/着床痕数)× 100],出生率[(出産生児数/総産児数)× 100]および哺育0日の性比[(哺育0日雄生児数/哺育0日総生児数)× 100]を求めた.また,出産率[(生児出産雌数/妊娠動物数)× 100]を算出した.生存児は外表を観察し,性別および外表奇形の有無を検査した.哺育0日の性比[(哺育0日雄生児数/哺育0日雌生児数)× 100]を算出した.
哺育1日以降は死亡児数を毎日調べ,新生児の4日の生存率[(哺育4日の生児数/哺育0日の生児数)× 100]および哺育4日の性比[(哺育4日雄生児数/哺育4日雌生児数)× 100]を求めた.観察可能な死亡児は剖検した.
(2) 体重
哺育0および4日に個体別に測定し,各腹ごとに雌雄別の平均値を算出した.
(3) 剖検
出生児は哺育4日に剖検し,外表および内部器官の異常の有無を観察した.
雄では,投与21日以降,6例に投与直後に流涎が散見された.流涎は投与1時間20分後までには回復した.その他の一般状態の変化として,雄では60 mg/kg投与群1例,雌では対照群2例および15 mg/kg投与群1例に四肢あるいは四肢から頚部にかけての脱毛が認められた.
雌では,60 mg/kg投与群の7例に前胃粘膜の肥厚が,他の1例に前胃粘膜の浮腫および腺胃粘膜に陥凹部を伴う黒色斑が認められた.また,15 mg/kg投与群の1例に肝臓の淡色化および胸腺の小型化が観察されたほか,15 mg/kg投与群の1例,対照群の2例に局所的な脱毛が観察された.
雌では,60 mg/kg投与群において胸腺の絶対重量および相対重量が対照群と比較して有意(p<0.05)な低値を示した.また,4 mg/kg投与群において脾臓の絶対重量および相対重量が対照群と比較して有意(p<0.05,p<0.01)な高値を示した.
60 mg/kg投与群では,雄全例および雌9例の前胃に扁平上皮の瀰漫性の過形成が観察され,その程度および頻度ともに対照群と比較して有意差が認められた.さらに雌では,2例に粘膜固有層に浮腫を伴っていたほか,1例には腺胃粘膜に糜爛も観察された.その他,60および4 mg/kg投与群の各1例には腺胃の粘膜固有層にリンパ球の浸潤が観察された.
脾臓では,対照群を含む各投与群の雌全例に髄外造血および褐色色素の沈着が観察され,60 mg/kg投与群では髄外造血の程度が対照群と比較して有意に増強され,褐色色素の沈着の程度も増強される傾向が認められた.また,胸腺については対照群を含む各投与群で2〜3例に萎縮が観察されたが,対照群と被験物質各投与群との間に程度および頻度の明らかな差は認められなかった.
剖検時に肺に赤色点が観察された雄動物のうち,対照群の1例には泡沫細胞の集簇および動脈に鉱質沈着が観察された.雌動物では,15 mg/kg投与群1例の肝臓に,門脈周囲および中間帯に著しい肝細胞の脂肪化が認められ,脱毛が観察された対照群2例のうち1例に,表皮上に限局性の痂皮が観察された.その他の病変部には異常は認められなかった.
一般状態の変化として,60 mg/kg投与群の雄において,投与後に一過性の流涎が散見された.剖検では,60 mg/kg投与群の雄雌に前胃粘膜の肥厚が認められた.胃の病理組織学検査の結果,前胃に扁平上皮の瀰漫性の過形成が認められた.さらに雌では,少数例に粘膜固有層の浮腫,腺胃粘膜の糜爛も観察された.器官重量では,雌の胸腺の絶対重量および相対重量が低値を示した.これらの変化は,より高用量を投与した予備試験においても認められている変化であり,被験物質投与の影響を示唆する変化と考えられる.なお,雌の4 mg/kg投与群において脾臓重量が有意に高値を示したが,用量に依存した変化ではないことから,偶発的な変化と考えられた.しかし,60 mg/kg投与群の雌の脾臓に認められた髄外造血の程度の有意な増強,褐色色素の程度の増強傾向については被験物質の投与に起因した変化であると考えられる.
雌の性周期,雌雄の交尾および受胎能に投与の影響は認められなかった.また,妊娠期間,分娩および哺育状態にも投与の影響は認められなかった.出生児の形態,生存ならびに体重には,投与の影響は認められなかった.なお,15 mg/kg投与群の出生児に曲尾が観察されたが,1例のみであり,用量に依存した発現ではないことから,自然発生的な変化と考えられる.
以上の結果から,本試験条件下における4-(1-メチルエテニル)フェノールの親動物に対する無作用量は,15 mg/kg/day,親動物の生殖能力および出生児に対する無作用量は,60 mg/kg/dayと考えられる.
連絡先 | |||
試験責任者: | 和田和義 | ||
試験担当者: | 宮原 敬,丸茂秀樹,堀内伸二,稲田浩子,三枝克彦,安生孝子 | ||
(財)食品薬品安全センター秦野研究所 | |||
〒257-8523 神奈川県秦野市落合729-5 | |||
Tel 0463-82-4751 | Fax 0463-82-9627 |
Correspondence | ||||
Authors: | Kazuyoshi Wada(Study director) Takashi Miyahara, Hideki Marumo, Shinji Horiuchi, Hiroko Inada, Katsuhiko Saegusa, Takako Anjo | |||
Hatano Research Institute, Food and Drug Safety Center | ||||
729-5 Ochiai, Hadano, Kanagawa, 257-8523, Japan | ||||
Tel +81-463-82-4751 | Fax +81-463-82-9627 |