C.I. フルオレセントブライトナー271のラットを用いる単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of C.I. Fluorescent brightner 271 in Rats

要約

 C.I. フルオレセントブライトナー271は淡黄色結晶で,増白剤として使用されている.1群につき雌6匹のCD(SD)IGS系(SPF)ラットを用いて単回経口投与毒性試験を実施した.

 C.I. フルオレセントブライトナー271は,注射用水に溶解し,2000 mg/kgに相当する量を単回強制経口投与した.観察期間は14日間とし,一般状態の観察,死亡動物の確認,体重測定および病理学検査を実施した.

 2000 mg/kg群において死亡は認められなかった.

 一般状態の観察では投与後当日に6例全例に下痢が観察されたが,いずれの動物も投与翌日には回復した.

 観察終了時の体重測定において,体重の減少あるいは体重増加抑制が認められた.

 観察期間終了時の解剖において,腎臓の淡色,肝臓のび漫性の赤色斑,肺の赤色斑点,横隔膜の菲薄および肝臓の白色結節が認められた.代表例について病理組織学検査を実施した結果,肺に炎症細胞浸潤,マクロファージの出現,肺胞壁の肥厚,出血,肝臓に多発性巣状壊死および単細胞壊死,出血,炎症細胞の浸潤,被膜炎等,腎臓に皮質尿細管壊死,尿細管上皮の変性および空胞化が観察された.

 したがって,C.I. フルオレセントブライトナー271のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

 C.I. フルオレセントブライトナー271〔日本化薬(東京),純度91.0 %,Lot No. 040303〕は淡黄色結晶であり,室温の条件下で被験物質保管庫に保管した.試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であったことを確認した.

 投与液の調製においては,秤量した被験物質を注射用水〔大塚製薬工場〕に溶解させた.調製濃度は20 w/v %(純度換算値)とした.調製後の投与液は室温および遮光条件下で保存し,調製後4時間以内に使用した.なお,投与液中の被験物質は調製後4時間まで安定であることが確認されている.また,投与液中の被験物質濃度については,調製後に測定し,適切に調製されていたことが確認された.

2. 供試動物および飼育方法

 7週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌13匹を日本チャールス・リバーから購入した.動物は検収後,試験環境への馴化のために9〜10日間予備飼育し,8週齢で投与した.動物は,23 ± 3℃(実測値:23.5〜24.2℃),相対湿度55 ± 20 %(実測値:48〜78 %),照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に制御された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに1〜3匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業製造の固型飼料MF(Lot No. 040705,041102)および水道水を自由に摂取させた.

3. 投与量の設定および投与方法

 被験物質の情報から毒性が弱いことが想定されたため,初回投与は2000 mg/kgを設定し,2回目以降の投与量の選択についてはOECD Test Guideline 423に示されたフローチャートの手順に従った.投与容量は体重100 g当たり1 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出した.投与回数は1回とし,投与前約16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.給餌は,被験物質投与後約3時間に行った.

4. 動物の選択

 初回絶食日に全例の体重を測定し,最も体重が大きい動物から順に3匹選び,これらを初回投与に用いた.2回目以降の投与も同様にして順次3匹ずつ選んだ.投与時の体重は191〜201 gであった.

5. 観察および検査

 中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,投与翌日からは1日1回,投与日を観察第1日として14日間にわたって実施した.体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.観察期間終了時に全ての動物をエーテル麻酔後放血死させ解剖し,主要な器官・組織を肉眼的に観察した.剖検時に2000 mg/kg群の雌1例で肝臓の赤色斑および白色結節,腎臓の淡色化ならびに肺の赤色斑が観察されたため,これらの器官・組織について病理組織学検査を実施した.

結果

1. 死亡率

 2000 mg/kgの投与量において死亡動物は認められず,死亡率は0 %であった.

2. 一般状態

 投与当日,全例で下痢がみられたが,いずれの動物も投与翌日には回復した.

3. 体重

 投与後7日までは全ての動物が順調な体重増加を示したが,投与後14日の測定では6例中2例で体重の減少がみられ,その他の動物でも体重増加の抑制傾向が認められた.

4. 病理所見

 観察期間終了時の解剖において全例に腎臓の淡色がみられ,さらに6例中4例で肝臓のび漫性の赤色斑が,2例に肺の赤色斑点が観察された.その他の所見として横隔膜の菲薄および肝臓の白色結節が各1例で認められた.

 2000 mg/kg群の1例について肺,腎臓および肝臓の病変部の病理組織学検査を実施した結果,肺に炎症細胞浸潤,マクロファージの出現,肺胞壁の肥厚,出血,肝臓に多発性巣状壊死および単細胞壊死,出血,炎症細胞の浸潤,被膜炎等,腎臓に皮質尿細管壊死,尿細管上皮の変性および空胞化が観察された.

考察

 C.I. フルオレセントブライトナー271を2000 mg/kgの用量で8週齢のCrj:CD(SD)IGSラットの雌に単回経口投与し,投与後14日間観察した.

 一般状態の観察では投与当日に下痢が全例に認められたが,いずれの動物も投与翌日には回復し,死亡動物は認められなかった.しかしながら,投与後14日の体重測定において投与後7日の体重と比較して減少あるいは増加抑制がみられた.

 観察期間終了時の解剖において腎臓の淡色,肝臓の白色結節,び漫性の赤色斑,肺の赤色斑点,横隔膜の菲薄が認められた.

 肉眼観察で異常のみられた動物のうち1例について病理組織学検査を実施したところ,肺に炎症細胞浸潤,マクロファージの出現,肺胞壁の肥厚および出血が,肝臓に多発性巣状壊死および単細胞壊死,出血,炎症細胞の浸潤ならびに被膜炎等が,腎臓に皮質尿細管壊死,尿細管上皮の変性および空胞化がそれぞれ観察された.肝臓および腎臓にみられた変化は被験物質投与の直接的な影響であると考えられる.

 以上の結果から,本試験条件下においてC.I. フルオレセントブライトナー271のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.

連絡先
試験責任者: 藤島 敦
試験担当者: 保母真由美
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田市塩新田582-2
Tel 0538-58-1266 Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors: Atsushi Fujishima (Study director)
Mayumi Hobo
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center)
582-2 Shioshinden, Iwata, Shizuoka, 437-1213, Japan
Tel +81-538-58-1266 Fax +81-538-58-1393