染色体異常試験に用いる用量は,細胞増殖抑制試験の結果に基づき,短時間処理法では31.3,62.5,125,187.5および250 μg/mL,連続処理法では15.6,31.3,62.5,125,187.5および250 μg/mLを設定した.
試験の結果,短時間処理法S9 mix非存在および存在下並びに連続処理法のいずれの場合においても,染色体異常を有する細胞の増加は認められなかった.
以上の成績から,1-メトキシカルボニルペンタデカンスルホン酸ナトリウムのCHL/IU細胞に対する染色体異常誘発性は陰性と判定した.
短時間処理法では,培養開始3日後に被験物質を加えS9 mix 非存在および存在下で6時間処理し,処理終了後,新鮮培養液でさらに18時間培養した.連続処理法では,培養開始3日後に被験物質を加え24時間処理した.
実験終了後,残余被験物質を分析した結果,安定性に問題はなかった.
,MI-60,オリンパス光学工業(株))を用いて測定し,溶媒対照群の細胞増殖率を100 %とした時の各用量群の細胞増殖率を求めた.
その結果(Fig. 1),短時間処理法の場合は250 μg/mL 以上の用量で50 %を上回る細胞増殖抑制が認められ,50 %細胞増殖抑制用量はS9 mix非存在および存在下ともに125〜250 μg/mLの用量域にあるものと判断した.連続処理法の場合は125 μg/mL以上の用量で50 %を上回る細胞増殖抑制が認められ,125 μg/mLでほぼ50 %細胞増殖抑制を示した.
陽性対照として,短時間処理法S9 mix存在下では3,4-benzo[a]pyrene(B[a]P,Sigma Chemical Co.)を10 μg/mL,短時間処理法S9 mix非存在下および連続処理法では1-methyl-3-nitro-1-nitrosoguanidine(MNNG,Aldrich Chemical Co.)を2.5 μg/mLの用量で用いた.陽性対照物質の溶媒には,いずれもDMSO(和光純薬工業(株))を使用した.
染色体構造異常細胞および倍数性細胞の出現頻度について,多試料χ2検定を行い有意差(有意水準5 %以下)が認められた場合は,フィッシャーの直接確率法を用いて溶媒対照群と各用量群との間の有意差検定(有意水準は多重性を考慮して,5 %または1 %を処理群の数で割ったものを用いた)を行った.
その結果,溶媒対照群と比較して,被験物質による染色体異常細胞の出現頻度が2用量以上で有意に増加し,かつ用量依存性あるいは再現性が認められた場合,陽性と判定した.
連続処理法による結果をTable 2に示した.被験物質を加えて24時間処理したいずれの用量においても,染色体の構造異常および倍数性細胞の誘発作用は認められなかった.
なお,連続処理法並びに短時間処理法S9 mix非存在下の187.5 μg/mL以上,およびS9 mix存在下の250 μg/mLでは,細胞毒性のため観察可能な分裂中期像は認められなかった.
したがって,1-メトキシカルボニルペンタデカンスルホン酸ナトリウムのCHL/IU細胞に対する染色体異常誘発性は陰性と判定した.本試験結果は,CHL/IU細胞において,染色体異常を有する細胞の出現頻度が5 %未満を陰性とする石館らの判定基準2)からみても,明らかに陰性と判断されるものであった.
1-メトキシカルボニルペンタデカンスルホン酸ナトリウムは,アルファスルホ脂肪酸エステル塩(a-SF)に属するアニオン系界面活性剤である.本物質以外のアニオン系界面活性剤には,アルキルベンゼンスルホン酸塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩,a-オレフィンスルホン酸塩,アルキル硫酸エステル塩,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレン脂肪酸エステル,脂肪酸塩などがある.これらについては,広範な文献をレビューした単行本「洗剤の毒性とその評価」3)で安全性が評価されており,変異原性に関してはいずれも陰性の結果が報告されている.
| 1) | 日本環境変異原学会・哺乳動物試験分科会編,"化学物質による染色体異常アトラス,"朝倉書店,東京,1988, pp.16-37. |
| 2) | 石館基監修,"改定増補染色体異常試験データ集," エル・アイ・シー,東京,1987, p.19. |
| 3) | 厚生省環境衛生局食品化学課編,"洗剤の毒性とその評価,"(社)日本食品衛生協会,東京,1983, pp.17-219. |
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