塩基性炭酸ニッケル(II) 四水和物は薄い緑色の粉末で,メッキ用金属として使用されている.1群につき雌6匹のCD(SD)IGS系(SPF)ラットを用いて単回経口投与毒性試験を実施した.
塩基性炭酸ニッケル(II) 四水和物を0.5 %CMC・Na水溶液に溶解し,300および2000 mg/kgに相当する量を単回強制経口投与した.観察期間は14日間とし,一般状態の観察,死亡動物の確認,体重測定および病理学検査を実施した.
死亡は2000 mg/kg群で6例中1例に認められたが,300 mg/kg群では認められなかった.
一般状態の観察ではいずれの動物にも異常は認められなかった.
途中死亡動物の病理解剖では死後変化と考えられる胃と小腸の自己融解がみられたが,観察期間終了時の解剖においてはいずれの生存動物にも異常は認められなかった.
したがって,塩基性炭酸ニッケル(II) のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.
塩基性炭酸ニッケル(II) 四水和物〔和光純薬工業(大阪),純度94.7 %,Lot No. PKN2539〕はうすい緑の粉末であり,室温・密閉の条件下で被験物質保管庫に保管した.試験終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質が試験期間中安定であることを確認した.
投与液の調製においては,被験物質をメノウ乳鉢で粉砕した後0.5 %カルボキシメチルセルロース・ナトリウム〔和光純薬工業〕水溶液に懸濁させた.調製濃度は300および2000 mg/kg(無水物換算値:四水和物でそれぞれ393および2620 mg/kg相当)でそれぞれ3および20 w/v%(無水換算値:四水和物でそれぞれ3.93および26.2 w/v%相当)とした.調製後の投与液は室温に保存し,調製後72時間以内に使用した.なお,投与液中の被験物質は調製後72時間まで安定であることが確認されている.また,投与液中の被験物質濃度については,調製後に測定し,適切に調製されていたことが確認された.
7週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌13匹を日本チャールス・リバーから購入した.動物は検収後,試験環境への馴化のために8〜16日間予備飼育し,8〜9週齢で投与した.動物は,23 ± 3℃(実測値:23.5〜24.2℃),相対湿度55 ± 20 %(実測値:48〜81 %),照明時間12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に制御された飼育室で,ステンレス製網目飼育ケージに1〜3匹ずつ収容して飼育した.動物には,オリエンタル酵母工業製造の固型飼料MF(Lot No. 040705,041102)および水道水を自由に摂取させた.
入手した被験物質情報において,ラットLD50値がNi換算で840 mg/kgであることが確認されたことから,初回投与は300 mg/kgを設定し,2回目以降の投与量の選択についてはOECD Test Guideline 423に示されたフローチャートの手順に従った.投与容量は体重100 g当たり1 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出した.投与回数は1回とし,投与前約16時間絶食させた動物に胃ゾンデを用いて強制経口投与した.給餌は,被験物質投与後約3時間に行った.
初回絶食日に全例の体重を測定し,最も体重が大きい動物から順に3匹選び,これらを初回投与に用いた.2回目以降の投与も同様にして順次3匹ずつ選んだ.投与時の体重は181〜205 gであった.
中毒症状および生死の観察は,投与6時間までは1時間毎に,投与翌日からは1日1回,投与日を観察第1日として14日間にわたって実施した.体重は投与直前,投与後7および14日に測定した.観察期間中の死亡例は発見時に解剖し,生存動物は観察期間終了時にエーテル麻酔後放血死させ解剖した.
2000 mg/kg群では投与後5日に6例中1例が死亡し,死亡率は17 %であった.300 mg/kg群では死亡動物は認められず,死亡率は0 %であった.
300 mg/kg群では観察期間中,いずれの動物にも一般状態の異常は認められなかった.
2000 mg/kg群では,死亡した1例を含め,いずれの動物にも一般状態の異常は認められなかった.
全ての生存動物が観察期間中順調な体重増加を示した.
途中死亡した1例の病理解剖では死後変化と考えられる胃と小腸の自己融解がみられたが,その他に異常は認められなかった.観察期間終了時の解剖においては,いずれの生存動物にも異常は認められなかった.
塩基性炭酸ニッケル(II) 四水和物を300および2000 mg/kgの用量で8〜9週齢のCrj:CD(SD)IGSラットの雌に単回経口投与し,投与後14日間観察した.
死亡動物は2000 mg/kg群で6例中1例に認められたが,300 mg/kg群では認められず,死亡率は300および2000 mg/kg群でそれぞれ0および17 %であった.
一般状態の観察ではいずれの動物にも異常は認められなかった.
生存動物の体重は順調な増加を示した.
途中死亡動物の病理解剖では死後変化と考えられる胃と小腸の自己融解がみられたのみで死因は不明であった.観察期間終了時の解剖においてはいずれの生存動物にも異常は認められなかった.
以上の結果から,本試験条件下において塩基性炭酸ニッケル(II) 四水和物のLD50値は2000 mg/kg以上であり,GHS分類のCategory 5に分類された.
連絡先 | |||
試験責任者: | 藤島 敦 | ||
試験担当者: | 保母真由美 | ||
(財)食品農医薬品安全性評価センター | |||
〒437-1213 静岡県磐田市塩新田582-2 | |||
Tel 0538-58-1266 | Fax 0538-58-1393 |
Correspondence | |||
Authors: | Atsushi Fujishima (Study director) Mayumi Hobo |
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Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides (An-Pyo Center) | |||
582-2 Shioshinden, Iwata, Shizuoka, 437-1213, Japan | |||
Tel +81-538-58-1266 | Fax +81-538-58-1393 |