2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールの
ラットを用いる28日間反復経口投与毒性試験

Twenty-eight-day Repeat Dose Oral Toxicity Test
of 2-(2'-Hydroxy-3',5'-di-tert-butylphenyl)benzotriazole in Rats

要約

2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールの28日間反復経口投与毒性試験を雌雄のCD(SD)IGS系ラット(SPF)を用いて実施した.

1群雌雄各5匹のラットからなる5試験群を設定し,さらに対照群および最高用量群には雌雄各5匹のラットを追加して回復群を設定した.

被験物質をコーンオイルに懸濁して,0,0.5,2.5,12.5および62.5 mg/kgに相当する量を毎日1回,4週間反復経口投与し,一般状態の観察,体重測定,摂餌量測定,血液学検査,血液凝固能検査,血液生化学検査,尿検査,器官重量測定および病理学検査を行った.なお,回復期間は2週間とし,投与終了時と同様の検査を実施した.

投与期間および回復期間を通して対照群および各投与群で一般状態に異常は観察されず,死亡例も認められなかった.

体重は,各投与群の雌雄において差は認められなかった.

摂餌量は,62.5 mg/kg群の雌雄で高値を示した週がみられ,総摂餌量も高値あるいは高値傾向であった.飼料効率は62.5 mg/kg群の雄で低値を示し,投与期間の平均飼料効率も低値であった.

血液学検査では,2.5 mg/kg以上の群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値を示した.さらに,12.5および62.5 mg/kg群の雄でMCHCが低値を示した.回復期間終了時にも62.5 mg/kg群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数,MCHおよびMCHCが低値,網赤血球比率の高値が認められた.血液凝固能検査では,2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でフィブリノーゲン量が低値を示した.回復期間終了時では,フィブリノーゲン量が62.5 mg/kg群の雌で高値を示したが雄では差がなかった.

血液生化学検査では,2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌で血糖値が高値を示した.62.5 mg/kg群の雌で総コレステロールおよび中性脂肪の濃度が高値を示した.12.5 mg/kg以上の群の雄でアルブミン濃度が高値,0.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でA/G比が高値を示した.12.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でALT活性が高値,62.5 mg/kg群の雄でAST活性が高値を示した.12.5および62.5 mg/kg群の雄でALP活性が高値を示した.62.5 mg/kg群の雄で尿素窒素濃度が高値を示した.回復期間終了時には62.5 mg/kg群の雌雄でアルブミン濃度の高値および総ビリルビン濃度が低値を示した.雄では尿素窒素濃度,A/G比,ALTおよびALPの活性が,雌では血糖値,総コレステロールおよび総蛋白の濃度がいずれも高値を示し,休薬しても回復を示さないと考えられた.

器官重量では,0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で肝臓絶対重量が高値あるいは高値傾向を示した.62.5 mg/kg群の雄では腎臓絶対重量が高値を示した.回復期間終了時では62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓絶対重量が高値を示した.器官重量/体重比(相対重量)では0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で肝臓相対重量が高値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄で腎臓相対重量が高値を示した.回復期間終了時では62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓相対重量が,雄で腎臓相対重量が高値を示しており,休薬しても回復を示さないと考えられた.

解剖所見では,被験物質の影響を示唆する病変として,投与期間終了時において,肝臓の肥大が0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌,白色斑/区域が2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌に観察され,回復期間終了時においても同様の所見が62.5 mg/kg群において観察された.病理組織所見では,投与期間終了時において心臓の心筋変性,細胞浸潤および心筋肥大が雌雄に,脾臓の髄外造血が雄に,肝臓において小葉辺縁部の肝細胞の空胞変性,肝細胞肥大,分裂像増多および胆管増殖が雌雄に,巣状壊死が雄に,腎臓の尿細管好塩基化の程度の増強が雄に,管腔拡張が雄に,集合管の尿細管上皮肥大が雌雄に,甲状腺の濾胞細胞増生が雌雄に観察された.回復期間終了時の62.5 mg/kg群において,投与終了時に観察された同様の諸所見が心臓,脾臓,肝臓および甲状腺に観察された.

以上のように,本試験条件下における2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールの無影響量は,雌では12.5 mg/kg群で肝臓の絶対重量および相対重量の高値,肝臓の肥大,肝細胞肥大が認められたことから2.5 mg/kg/day,また,雄では0.5 mg/kg群で肝臓絶対重量の高値傾向および相対重量の高値,肝臓の肥大,肝細胞肥大が認められたことから0.5 mg/kg/day未満と判断された.

方法

1. 被験物質および投与液の調製

2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール[シプロ化成(株)(福井),Lot No. S4-034-1,純度100 %]は常温で安定な白色粉末の化合物である.投与終了後,残余被験物質を提供元で再分析し,被験物質物質が試験期間中安定であったことを確認した.

投与液は被験物質をコーンオイル(Lot No. V1A1849,ナカライテスク(株))に懸濁して0.1,0.5,2.5および12.5 mg/mLの濃度となるように調製した.なお,コーンオイル中の2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールは冷蔵保存条件下で7日間安定であることから,投与液の調製は毎週1回実施し,1日分ずつ小分けして投与まで冷蔵庫に保管した.全ての試験群の投与液について適切に調製されていることを確認するため,初回および最終調製時に各投与液の一部を分取し,被験物質濃度を測定した.その結果,初回調製時は設定濃度の94.2〜104.3 %および最終調製時は99.6〜103.4 %であり,適切に調製されていることが確認された.

2. 動物および飼育方法

4週齢のCrj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)雌雄各52匹を日本チャールス・リバー(株)から購入し,検収後9日間,試験環境に馴化させた後,体重増加が順調で一般状態に異常を認めなかった雌雄各35匹(計70匹)を選び,5週齢で投与を開始した.動物は群分け当日の体重に基づいて層別化し,平均体重が均等となるように各群に割り付けた.投与開始時の体重は雄で136〜153 g,雌で111〜127 gであった.試験群は0,0.5,2.5,12.5および62.5 mg/kgの5群とし,1群雌雄各5匹を用い,0および62.5 mg/kg群に雌雄各5匹を追加して回復群を設定した.

動物は,温度21.4〜25.9 ℃,湿度51〜75 %,換気回数1時間20回,照明12時間(午前7時点灯,午後7時消灯)に設定されたバリアシステム飼育室で飼育した.アルミ製前面・床ステンレス網目飼育ケージに動物を1匹ずつ収容し,オリエンタル酵母工業(株)製造の放射線滅菌したラット,マウス飼料CRF-1(Lot No. 010406)および水道水を自由に摂取させた.飼育ケージは隔週1回,給餌器は週1回取り換えた.

3. 投与量の設定および投与方法

投与量設定のため雌雄とも0,100,300および1000 mg/kgの4用量で2週間反復投与試験を実施した結果,100,300および1000 mg/kg群の雌雄において肝臓の絶対重量および相対重量が高値を示した.特に相対重量の増加率は雄で131〜165 %,雌で80〜138 %であった.肝臓相対重量の増加率を指標として解析した結果,肝臓に影響のみられない用量を1〜3 mg/kgと推定した.以上の成績を基に28日間反復投与毒性試験の投与期間を考慮して肝臓に影響の認められないと推定される用量0.5 mg/kgを低用量とした.さらに公比5で乗し中用量を2.5 mg/kg,高用量を12.5 mg/kgおよび最高用量を62.5 mg/kgと設定した.

投与液量は体重100 g当たり0.5 mLとし,個体別に測定した体重に基づいて投与液量を算出し,1日1回胃ゾンデを用いて強制経口投与した.対照群にはコーンオイルのみを同様に投与した.なお,回復期間は14日間とした.

4. 観察および検査

1) 一般状態の観察

全動物を投与期間中は投与前,投与後1および5時間,回復期間は午前および午後に観察し,中毒症状の有無や行動異常を記録した.

2) 体重

投与開始時から回復期間終了時まで毎週1回測定した.

3) 摂餌量

給餌した飼料の残量を毎週1回,測定し,摂餌量(g/day)および飼料効率(%)を算出した.

4) 血液学検査

投与期間終了時および回復期間終了時の計2回実施した.採血するに当たり,動物は約16時間絶食させた.動物をエーテルで麻酔して開腹し,腹部大動脈から採血した.

採取した血液の一部にEDTA-2Kを添加し,白血球数(WBC:フローサイトメトリー),赤血球数(RBC:暗視野板法),ヘモグロビン量(HGB:シアンメトヘモグロビン法),ヘマトクリット値(HCT:RBC,MCVより算出),平均赤血球容積(MCV:暗視野板法),平均赤血球血色素量(MCH:HGB,RBCより算出),平均赤血球血色素濃度(MCHC:HGB,HCTより算出),血小板数(PLT:暗視野板法),白血球百分率(フローサイトメトリー)および網赤血球率(Reticulocyte:RNA染色法)を総合血液学検査装置ADVIA120(バイエル社)を用いて測定した.さらに,3.13 %クエン酸ナトリウム水溶液添加血液の血漿を用いて,プロトロンビン時間(PT:Quick1段法),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT:クロット法)およびフィブリノーゲン量(Fibrinogen:トロンビン時間法)を血液凝固自動測定装置KC-40(独国Amelung社)により測定した.

5) 血液生化学検査

血液学検査に引き続き採取した血液を静置後,遠心分離して得られた血清を用いて,総蛋白(T.protein:Biuret法),アルブミン(Albumin:BCG法),A/G比(A/G:総蛋白およびアルブミンより算出),血糖(Glucose:HK-G-6-PDH法),中性脂肪(Triglyceride:GK-GPO遊離グリセロール消去法),総コレステロール(T.cholesterol:コレステロールオキシダーゼHDAOS法),尿素窒素(BUN:ウレアーゼGLDH法),クレアチニン(Creatinine:酵素法),総ビリルビン(T.bilirubin:バナジン酸酸化法),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST:酵素-UV法),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT:酵素-UV法),アルカリホスファターゼ(ALP:P-ニトロフェニルリン酸基質法),γ-グルタミルトランスペプチターゼ(γ-GTP:L-γ-グルタミル3-カルボキシ4NA法),カルシウム(Calcium:MXB法)および無機リン(I.phosphorus:PNP-XDH法)を多項目生化学自動分析装置日立7170((株)日立製作所)により測定した.電解質のナトリウム(Sodium:イオン選択電極法),カリウム(Potassium:イオン選択電極法)および塩素(Chloride:イオン選択電極法)を電解質測定装置EA06R((株)エイアンドティー)を用いて測定した.

6) 尿検査

投与期間終了週および回復期間終了週に検査を実施した.すなわち,検査動物を代謝ケージに個別に収容し,飼料および飲料水を自由に与えて3時間尿(午前10時から午後1時まで)および24時間尿(午前10時から翌日午前10時まで)を採取した.3時間尿を用いて,N-マル ティスティックスSG(バイエル メディカル(株))と尿分析装置CLINITEK 500(バイエル社)でpH,潜血,ケトン体,糖,蛋白,ビリルビン,ウロビリノーゲンを検査した.24時間尿を用いて,尿量,色調,尿浸透圧および尿沈渣を検査した.なお,尿浸透圧は,自動浸透圧測定装置OM-6030((株)アークレイファクトリー)を用いて氷点降下法で測定した.また,尿を1500 r.p.m.で5分間遠心し,残渣を用いてステルンハイマー変法による染色を施し,尿沈渣について鏡検した.

7) 病理学検査

投与期間終了時および回復期間終了時に動物をエーテル麻酔し,放血後解剖を実施した.解剖では動物の体表,体腔および諸器官について観察し,すべての肉眼異常(部位,大きさ,硬さなど)を記録した.

器官重量は脳,心臓,肝臓,腎臓,副腎,胸腺,脾臓,精巣,精巣上体,卵巣,甲状腺(上皮小体を含む)および下垂体について測定した.器官重量/体重比(相対重量)は投与27日または回復13日の測定体重および器官重量から算出した.また,リンパ節(腸間膜,下顎),骨髄(大腿骨),胸腺,気管,肺(気管支を含む),心臓,甲状腺,上皮小体,胃,十二指腸,空腸,回腸(パイエル氏板を含む),盲腸,結腸,直腸,肝臓,脾臓,膵臓,腎臓,副腎,膀胱,精嚢,前立腺,精巣,精巣上体,卵巣,子宮,腟,眼球,脳,下垂体,脊髄(頸部,胸部,腰部),骨格筋(大腿部)および坐骨神経を10 %中性緩衝ホルマリン液で固定した.なお,精巣および精巣上体はホルマリン酢酸液(FA液)で前固定した後,10 %中性緩衝ホルマリン液で固定した.病理組織学検査は対照群および最高用量群の上記器官および組織について実施した.また,最高用量群の心臓,脾臓,肝臓,腎臓および甲状腺で被験物質の影響と考えられる変化が認められたため,他の用量群および回復群についても実施した.組織標本は,常法に従ってパラフィン包埋,薄切後,ヘマトキシリン・エオジン染色を施した.鏡検では,病変の種類および程度を含む各所見について記録した.

5. 統計解析

各試験群の体重,摂餌量,血液学検査値,血液凝固能検査値,血液生化学検査値,尿検査値(尿量および浸透圧),器官重量および器官重量/体重比は,最初にBartlettの等分散検定を実施した.等分散の場合はDunnettの多重比較検定1, 2)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.Bartlettの等分散検定で不等分散の場合はSteelの検定3)で対照群と各投与群間の有意差を検定した.上記定量値の有意水準は5 %および1 %の両側検定で実施した.また,病理学検査結果の検定はFisherの確率計算法を用いた.

結果

1. 一般状態

投与期間では,0.5 mg/kg群の雌の1例に外傷/頸部が観察されたが,被験物質に関連する変化ではなかった.その他,対照群を含む各投与群の雌雄において変化は認められなかった.

回復期間では,対照群および62.5 mg/kg群の雌雄において変化は認められなかった.

2. 体重(Fig. 1)

投与期間では,対照群と各投与群の雌雄において差は認められなかった.

回復期間では,対照群および62.5 mg/kg群の雌雄において差は認められなかった.

3. 摂餌量

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雄で投与14および21日に,雌で投与21および27日にいずれも高値を示し,総摂餌量も高値あるいは高値傾向を示した.

回復期間では,対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄で差が認められなかった.

飼料効率では,対照群に比較して62.5 mg/kg群の雄で投与21および27日に低値を示し,平均飼料効率も低値を示した.

4. 血液学検査(Table 1)

[投与期間終了時]

対照群に比較して2.5 mg/kg以上の群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値を示し,さらに12.5 mg/kg以上の群の雄でMCHCが低値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄では血小板数が高値を示した.その他,2.5 mg/kg群の雄で単球比率が高値,12.5 mg/kg群の雄で網赤血球比率が高値を示したが,いずれも用量に依存した変化ではなかった.血液凝固能検査では,対照群に比較して2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でフィブリノーゲン量が低値を示した.その他,12.5および62.5 mg/kg群の雌ではPTが短縮を示したが,軽微であり毒性学的に意義のある変化ではなかった.

[回復期間終了時]

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄で血小板数が高値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数,MCHおよびMCHCが低値,網赤血球比率が高値を示し,雌でフィブリノーゲン量が高値を示した.

その他,62.5 mg/kg群の雌で好酸球比率が低値を示したが軽微な変化であった.

5. 血液生化学検査(Table 2)

[投与期間終了時]

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄,2.5および12.5 mg/kg群の雄で血糖値が高値を示した.62.5 mg/kg群の雌で総コレステロールおよび中性脂肪の濃度が高値を示した.12.5および62.5 mg/kg群の雄でアルブミン濃度が高値,各投与群の雄および62.5 mg/kg群の雌でA/G比が高値を示した.62.5 mg/kg群の雌雄および12.5 mg/kg群の雄でALT活性が高値,62.5 mg/kg群の雄でAST活性が高値を示した.12.5および62.5 mg/kg群の雄でALP活性が高値を示した.62.5 mg/kg群の雄で尿素窒素濃度が高値を示した.その他,0.5および2.5 mg/kg群の雄で総ビリルビン濃度が低値,2.5 mg/kg群の雄でナトリウム濃度が低値を示したがいずれも用量に依存した変化ではなかった.

[回復期間終了時]

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄でアルブミン濃度の高値および総ビリルビン濃度が低値を示した.雄では尿素窒素濃度,A/G比,ALTおよびALPの活性が,雌では血糖値,総コレステロールおよび総蛋白の濃度がいずれも高値を示した.

6. 尿検査(Table 3)

[投与期間終了時]

対照群に比較して2.5 mg/kg群の雌で尿量が増加,尿浸透圧が低値を示したが用量に依存した変化ではなかった.

[回復期間終了時]

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄において検査したいずれの項目においても変化が認められなかった.

7. 器官重量(Table 4)

[投与期間終了時]

対照群に比較して12.5および62.5 mg/kg群の雌雄,0.5および2.5 mg/kg群の雄で肝臓絶対重量が高値あるいは高値傾向を示した.62.5 mg/kg群の雄では腎臓絶対重量が高値を示した.

器官重量/体重比では,対照群に比較して12.5および62.5 mg/kg群の雌雄,0.5および12.5 mg/kg群の雄で肝臓相対重量が高値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄で腎臓相対重量が高値を示した.その他,62.5 mg/kg群の雌で脳および副腎の相対重量が低値を示したが絶対重量に差がみられなかった.また,0.5 mg/kg群の雌で腎臓相対重量が低値を示したが,用量に依存した変化ではなかった.

[回復期間終了時]

対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓絶対重量が高値を示した.その他,雄で精巣上体絶対重量が低値を示したが,この群の体重の低値に起因するものであった.

器官重量/体重比では,対照群に比較して62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓相対重量が高値を示した.62.5 mg/kg群の雄で心臓および腎臓の相対重量が高値を示した.

8. 病理学検査

1) 剖検所見(Table 5)

[投与期間終了時]

肝臓の肥大が0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で増加した.また,肝臓の白色斑/区域が2.5 mg/kg以上の群の雄と62.5 mg/kg群の雌に観察された.その他に観察された所見は各投与群に散発性または単発性であった.

[回復期間終了時]

肝臓の肥大が62.5 mg/kg群の雄5例,雌2例に認められた.肝臓の褐色化が62.5 mg/kg群の雄5例に認められた.肝臓の赤色斑/区域および白色斑/区域が62.5 mg/kg群の雄にそれぞれ1および2例に観察された.その他に観察された所見は,対照群および62.5 mg/kg群に散発性または単発性であった.

2) 組織所見(Table 6)

[投与期間終了時]

被験物質によると考えられる所見として,心臓の心筋変性が12.5 mg/kg以上の群の雌雄に,細胞浸潤が0.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌に,心筋肥大が12.5 mg/kg以上の群の雌雄に,脾臓の髄外造血が2.5 mg/kg以上の群の雄に,肝臓の小葉辺縁部の肝細胞の空胞変性が2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌に,巣状壊死が2.5 mg/kg以上の群の雄に,肝細胞肥大が0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌に,分裂像増多が62.5 mg/kg群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌に,胆管増殖が0.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌に,腎臓の尿細管好塩基化の程度の増強が62.5 mg/kg群の雄に,管腔拡張が62.5 mg/kg群の雄に,集合管の尿細管上皮肥大が12.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌に,甲状腺の濾胞細胞増生が62.5 mg/kg群の雌雄にそれぞれ観察された.その他,肝臓において色素沈着および好酸性細胞質内封入体が62.5 mg/kg群の雄に,肉芽形成が2.5および62.5 mg/kg群の雄に,髄外造血が12.5 mg/kg群の雄でそれぞれ1例に観察された.一方,雄の対照群および雌の対照群と12.5 mg/kg群に認められた肝細胞の脂肪化は,0.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌では観察されなかった.また,雄の腎臓で近位尿細管の硝子滴が対照群および0.5 mg/kg群で認められたが,2.5 mg/kg以上の群では認められなかった.

その他の所見は用量に依存しないか,対照群も含めて観察されたか,少数例あるいは散発性のものであった.

[回復期間終了時]

以下に示す投与終了時に観察されたと同様の所見が62.5 mg/kg群に観察された.心臓の心筋変性および細胞浸潤が雄に,脾臓の髄外造血が雄に,肝臓の肝細胞肥大および巣状壊死が雌雄に,肝細胞の空胞変性および胆管増生が雄に,甲状腺の濾胞細胞増生が雄にそれぞれ認められた.また少数例ではあるが肝臓の色素沈着が雌雄で,好酸性細胞質内封入体,肉芽形成および髄外造血が雄に認められた.一方,62.5 mg/kg群の雄では対照群で観察された肝臓の脂肪化および腎臓の近位尿細管の硝子滴が認められなかった.

その他の所見は対照群と62.5 mg/kg群に観察されるものか,少数例あるいは散発性のものであった.

考察

2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールを0,0.5,2.5,12.5および62.5 mg/kgの用量で雌雄のCrj:CD(SD)IGS系ラットに28日間にわたって強制経口投与し,その後,対照群および最高用量群の5匹の動物については投与を休止して14日間の回復期間を設定した.

投与期間および回復期間を通して一般状態に異常は観察されず,対照群を含む各投与群で死亡例も認められなかった.

体重は,各投与群の雌雄において差が認められなかった.

摂餌量は,62.5 mg/kg群の雌雄で高値を示した週がみられ,総摂餌量も高値あるいは高値傾向であった.飼料効率は62.5 mg/kg群の雄で低値を示し,投与期間の平均飼料効率も低値であった.

血液学検査では,2.5 mg/kg以上の群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量および赤血球数が低値を示した.さらに,12.5 mg/kg以上の群の雄でMCHCが低値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄では血小板数が高値を示しており,いずれも被験物質の影響と考えられた.回復期間終了時にも62.5 mg/kg群の雄でヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数,MCHおよびMCHCが低値,網赤血球比率が高値を示した.また,62.5 mg/kg群の雌雄で血小板数が高値を示しており,休薬しても回復を示さないものと考えられた.

血液凝固能検査では,2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でフィブリノーゲン量が低値を示し,被験物質の影響と考えられた.回復期間終了時では,フィブリノーゲン量が62.5 mg/kg群の雌で高値および雄では差がみられなかった.なお,12.5および62.5 mg/kg群の雌ではPTが短縮を示したが,短縮方向への変化であり毒性学的意義のない変化と考えられた.

血液生化学検査では,後述するALT,ASTおよびALPの活性増加が認められた.その他に,2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌で血糖値,62.5 mg/kg群の雌で総コレステロールおよび中性脂肪の濃度がいずれも高値を示した.さらに,12.5 mg/kg以上の群の雄でアルブミン濃度,0.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌でA/G比が高値,62.5 mg/kg群の雄で尿素窒素濃度が高値を示した.これらの変化はいずれも被験物質の影響と考えられたがその機序を明らかにすることはできなかった.回復期間終了時には62.5 mg/kg群の雌雄でアルブミン濃度の高値および総ビリルビン濃度が低値を示した.また,雄では尿素窒素濃度,A/G比,ALTおよびALPの活性が,雌では血糖値,総コレステロールおよび総蛋白の濃度がいずれも高値を示し,休薬しても回復を示さないものと考えられた.

器官重量測定では,0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で肝臓絶対重量が高値あるいは高値傾向を示した.62.5 mg/kg群の雄では腎臓絶対重量が高値を示した.回復期間終了時では62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓絶対重量が高値を示した.器官重量/体重比では,0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で肝臓相対重量が高値を示した.また,62.5 mg/kg群の雄で腎臓相対重量が高値を示した.回復期間終了時では62.5 mg/kg群の雌雄で肝臓相対重量が,雄で腎臓相対重量がいずれも高値を示しており,休薬しても回復を示さないものと考えられた.なお,雄で心臓相対重量が高値を示しており,後述する病理組織学所見と連動するものと考えられた.

病理学検査では,被験物質の影響と考えられる変化として,投与終了時解剖動物において器官重量で肝臓が増加し,肉眼観察で,肝臓の肥大が0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌に,肝臓の白色斑/区域が2.5 mg/kg以上の群の雄および62.5 mg/kg群の雌で観察された.病理組織学所見では,0.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で肝細胞肥大,肝細胞の空胞変性,分裂像増多および胆管増生があり,さらに雄で巣状壊死,肉芽形成,色素沈着および細胞質内封入体が認められた.肝細胞の肥大は壊死,変性などの障害性変化を随伴しており,血液生化学検査ではALT,ALP,ASTの活性の高値が認められたことから,被験物質の肝臓に対する障害性の影響が示唆された.2.5 mg/kg以上の群の雄および12.5 mg/kg以上の群の雌で心筋変性,細胞浸潤および心筋肥大が認められた.心筋変性あるいは心筋肥大の発生機序としては被験物質作用の循環動態への影響,心筋への直接作用があると考えられるが4, 5),その病理発生は不明であった.甲状腺の濾胞細胞増生は,肝細胞肥大に示される肝臓の薬物代謝酵素誘導による影響と考えられた4, 5).また,62.5 mg/kg群の雌雄では集合管の尿細管上皮肥大,雄で尿細管好塩基化および管腔拡張が観察され,尿細管の拡張に伴い硝子円柱も一部の動物に認められた.これらの所見の病理発生は不明であったが,被験物質の影響と考えられた.脾臓では髄外造血が2.5 mg/kg以上の群の雄で認められた.血液学検査においてヘマトクリット値,ヘモグロビン量,赤血球数およびMCHCの低下が雄において観察されており,赤血球減少に対した代償性の造血亢進と考えられた.以上の結果からラットにおいては被験物質に対する感受性に性差があり,雄により強い影響が現れることが示唆された.その他の所見は対照群を含め観察され,また散発性または単発性の発生であり,明らかな用量に依存する変化ではないことから自然発生病変と考えられた.

回復終了時の62.5 mg/kg群の雌雄において肝臓の絶対重量および相対重量が増加し,病理組織所見として肝細胞肥大および巣状壊死があり,さらに雄では肝細胞の空胞変性および胆管増成,心臓の心筋変性および細胞浸潤および脾臓の髄外造血,甲状腺の濾胞細胞増生が観察された.しかし,投与終了時解剖例と比較して病変の程度に増強あるいは減弱は認められなかった.以上より,2週間の回復期間では62.5 mg/kg群に明らかな回復性を示す所見はみられなかった.

以上の結果,本試験条件下における2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールの無影響量は,雌では12.5 mg/kg群で肝臓の絶対重量および相対重量の高値,肝臓の肥大,肝細胞肥大が認められたことから2.5 mg/kg/day,また,雄では0.5 mg/kg群で肝臓絶対重量の高値傾向および相対重量の高値,肝臓の肥大,肝細胞肥大が認められたことから0.5 mg/kg/day未満と判断された.

文献

1)佐野正樹,岡山佳弘,医薬安全性研究会会報,32, 21 (1990).
2)M. Yoshida, J. Jap. Soc. Comp. Stat. 1, 111 (1988).
3)倍味繁,稲葉太一,医薬安全性研究会会報,40, 33 (1994).
4)伊東信行編,"最新毒性病理学,"中山書店,1994, p.183, 291.
5)日本毒性病理学会編,"毒性病理組織学,"日本毒性病理学会,2000, p.228, 437.

連絡先
試験責任者:渡 修明
試験担当者:各務 進,田代 淳,杉山 豊,細井理代,大橋信之
(財)食品農医薬品安全性評価センター
〒437-1213 静岡県磐田郡福田町塩新田字荒浜582-2
Tel 0538-58-1266Fax 0538-58-1393

Correspondence
Authors:Nobuaki Watari(Study director)
Susumu Kakamu, Jun Tashiro, Yutaka Sugiyama, Masayo Hosoi, Nobuyuki Ohashi
Biosafety Research Center, Foods, Drugs and Pesticides(An-pyo Center)
582-2 Arahama, Shioshinden, Fukude-cho, Iwata-gun, Shizuoka, 437-1213, Japan
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