フタル酸ジヘプチルエステルのラットを用いる
単回経口投与毒性試験

Single Dose Oral Toxicity Test of Diheptyl phthalate ester in Rats

要約

フタル酸ジヘプチルエステルの 500,1000および2000 mg/kgを5週齢のCrj:CD(SD系)雌雄ラットに経口単回投与し,その毒性を試験した.

死亡例は雌雄のいずれの群においても認められず, LD50値は2000 mg/kg以上と推定された.一般状態観察,体重推移,剖検および病理組織学検査では,雌雄ともにフタル酸ジヘプチルエステル投与による影響は認められなかった.

方法

1. 被験物質

フタル酸ジヘプチルエステルは,常温で無色透明液体であり,アセトン, DMSO,芳香族炭化水素に溶けやすく,水にほとんど溶けない.本試験では新日本理化(株)より提供されたロット番号0008(純度99.56%)を使用し,金属缶またはガラス瓶にて冷暗所で保存した.被験物質は試験期間中品質に変化は認められなかったことが確認されている.

投与には,被験物質を 10,20および40 w/v%の濃度となるようにオリーブ油(日本薬局方,ヤクハン製薬(株))に用時溶解したものを用いた.なお,各濃度の調製液は規定の濃度であることが確認されている.

2. 試験動物および飼育条件

生後 4週齢のCrj:CD(SD系)のSPFラット雌雄を日本チャールス・リバー(株)より受け入れ,8日間の検疫・馴化飼育を行い,異常がなく順調な発育を示した動物を試験に用いた.動物は,温度23±3℃,湿度55±10%,換気回数10〜15回/時および照明12時間/日に設定されたバリアシステムの飼育室で,ブラケット式金属製金網床ケージに群分け前は5匹以内,群分け後は3匹以内収容して飼育した.飼料は固型飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株)),飲料水は水道水(札幌市水道水)を自由に摂取させた.

3. 試験群の設定

本試験の投与量設定のために実施した限界試験では,フタル酸ジヘプチルエステルの 500, 1000および2000 mg/kg群,媒体であるオリーブ油を投与する対照群の計4群を設定し,1群当たり雌雄各5匹のラットに投与した.投与後5日間の観察において,対照群を含む各群で投与日に下痢便が認められたのみで,死亡例は認められなかったため,限界試験の観察期間を投与後14日まで延長し,本試験の成績とした.群分けは,投与前日に体重層化無作為抽出法により行った.

4. 投与方法

投与は,動物を約 17〜18時間絶食させた後,胃ゾンデを用いて強制的に胃内に1回行った.投与容量は,体重1 kg当り5 mlとして投与日に測定した体重に基づいて算出した.投与時の週齢は雌雄ともに5週齢で,その平均体重(体重範囲)は雄で136.2 g(126〜147 g),雌で

105.3 g(97〜112 g)であった.

5. 観察,測定および検査項目

全例について,一般状態を投与日は投与後 6時間までは頻繁に,投与後1日以降は1日1回以上の頻度で投与後14日まで観察した.また,体重を投与日,投与後1,3,5,7,10および14日に測定した.投与後14日に,全例について体外表部を観察した後,エーテル麻酔下で放血致死させ,剖検した.このうち,対照群およびフタル酸ジヘプチルエステル投与各群の雌雄各2例の肝臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,脳 (大脳・小脳),胃(前胃・腺胃),十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸および異常所見部位を10%中性緩衝ホルマリン液で固定し,常法に従いパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製し,病理組織学検査を行った.

体重について Bartlettの等分散検定の後,一元配置分散分析法あるいはKruskal-Wallis法により解析し,有意な場合,Dunnettの検定法あるいはMann-WhitneyのU-検定法により対照群とフタル酸ジヘプチルエステル投与各群との比較を行った.なお,対照群との検定については危険率5%以下を統計学的に有意とした.

結果

1. 死亡状況およびLD50値

雌雄ともに,いずれの群においても死亡は認められず, LD50値は2000 mg/kg以上と推定された.

2. 一般状態

投与日に,受皿上に下痢便が雄の 1000 mg/kg群および雌の対照群を除く各群で認められ,対照群の雄1例に下痢が認められた.投与後1日以降に異常は認められなかった.

3. 体重

雌雄ともに,いずれの群においても対照群とほぼ同じ推移を示した.

4. 剖検および病理組織学検査

フタル酸ジヘプチルエステル投与による異常は認められなかった.

考察

下痢便がフタル酸ジヘプチルエステル投与群で投与日に認められたが,対照群でも認められていることから,媒体であるオリーブ油によるものと考えられた.しかし,この下痢便は投与後 1日以降には認められず,体重推移など全身に悪影響を及ぼすものではなかった.

連絡先
試験責任者:小林典子
試験担当者:茂野 均,古川正敏
運営管理者:小林茂吉
(株)化合物安全性研究所
〒004 北海道札幌市豊平区真栄363番24号
Tel 011-885-5031Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors:Noriko Kobayashi(Study director)
Hitoshi Shigeno,Masatoshi Furukawa,
Shigeyoshi Kobayashi (Management)
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Toyohira-ku, Sapporo, Hokkaido, 004, Japan
Tel +81-11-885-5031Fax +81-11-885-5313