3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールのラットを用いる
反復経口投与毒性・生殖発生毒性併合試験

Combined Repeat Dose and Reproductive/Developmental Toxicity Screening Test of
3,5,5-Trimethylhexan-1-ol by Oral Administration in Rats

要約

3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール(CAS No. 3452-97-9)の12,60および300 mg/kgを雄ラットに対しては交配前,交配期間および交配後の計46日間,雌ラットに対しては交配前,交配および妊娠期間,ならびに哺育3日までの期間経口反復投与し,雌雄動物への反復投与による影響,雌雄動物の生殖および次世代の発生に及ぼす影響について反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験を実施した.

雌雄動物への反復投与により,雌の300 mg/kg群で妊娠21日に1例が死亡し,妊娠14〜19日に衰弱により3例が屠殺された.死亡例の病理組織学検査では,肝臓の小葉周辺性脂肪化などが認められた.衰弱屠殺例では屠殺前に体重および摂餌量の減少などが認められ,病理組織学検査では肝臓の小葉周辺性脂肪化,腎臓の尿細管上皮の脂肪変性などが認められた.

雄の300 mg/kg群では摂餌量の高値および体重の高値傾向が認められたが,雌では300 mg/kg群で体重増加抑制および摂餌量の低値が認められた.尿,血液および血液生化学検査では,雄の300 mg/kg群で尿量および飲水量の増加,赤血球数,ヘマトクリット値および血色素量の軽度の減少,ならびに尿素窒素およびクロールの軽度の減少が認められた.器官重量では,肝臓の重量の増加が雌雄の300 mg/kg群で,肝臓の体重重量比の増加が雌雄の60および300 mg/kg群で,左右の腎臓の重量および体重重量比の増加が雄の60 mg/kg以上の群で,左右の腎臓の体重重量比の増加が雌の300 mg/kg群で認められた.剖検では,腎臓の褪色が雄の60および300 mg/kg群で,腎臓の腫大が雄の300 mg/kg群で,また雌では肝臓の黄白色化が300 mg/kg群で認められた.病理組織学検査では,肝臓に軽度の小葉周辺性脂肪化が雄の60 mg/kg以上の群で,軽度あるいは中等度の小葉周辺性脂肪化が雌の300 mg/kg群で認められた.そのほかに,雄では腎臓に軽度あるいは中等度の尿細管上皮の再生および顆粒円柱が60および300 mg/kg群で,甲状腺に軽度の濾胞の不整形,濾胞上皮の円柱化およびコロイドの減少が300 mg/kg群で,また雌では腎臓に軽度の尿細管上皮の脂肪変性が60 mg/kg以上の群で,胸腺の萎縮が300 mg/kg群で認められた.

以上,雄では60 mg/kg以上の群で腎臓の重量および体重重量比の増加,ならびに軽度の尿細管上皮の再生がみられたこと,雌では60 mg/kg以上の群で肝臓の体重重量比の増加および腎臓で軽度の尿細管上皮の脂肪変性がみられたことから,本試験における3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールの反復投与による無影響量は雌雄ともに12 mg/kg/dayであると判断された.

雌雄動物の生殖能については雄動物に影響はみられなかったが,雌動物の性周期検査で発情休止期の継続が300 mg/kg群で認められた.母動物の分娩および母性行動観察では,全哺育児死亡例が300 mg/kg群で認められたほか,着床率および出産生児数の低値が60 mg/kg以上の群で,着床数および出産児数の低値が300 mg/kg群で認められた.また,新生児に対する影響として,300 mg/kg群で新生児の哺育4日の生存率の低値,ならびに哺育0日に雌雄の新生児に体重の低値が認められた.

以上,雄動物の生殖能に対しては300 mg/kg群においても影響は認められなかったが,雌では300 mg/kg群で発情休止期の継続および全哺育児死亡例がみられたこと,60 mg/kg以上の群で着床率の低値ならびにそれに起因すると考えられる出産生児数の低値が認められたことから,本試験における3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールの雄動物の生殖に対する無影響量は300 mg/kg/day,雌動物の生殖に対する無影響量は60 mg/kg/day,次世代の発生に対する無影響量は12 mg/kg/dayであると判断された.

方法

1.被験物質

3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール(CAS No. 3452-97-9)は,特有の臭いを有する無色透明な液体であり,遮光気密容器に入れ,冷蔵庫内に保存した.本試験では,協和油化(株)製造のロット番号707173(純度:92.7%)を使用した.なお,被験物質は投与期間中安定であったことが製造業者の分析により確認された.

投与には,被験物質を0.24,1.2および6 w/v%の濃度となるようにオリーブ油(日本薬局方,ヤクハン製薬(株))に溶解して調製した.調製頻度は7日間に1回以上とし,投与に用いるまで遮光気密容器に入れ,冷蔵庫内に保存した.各濃度の調製液は規定の濃度であり,かつ均一であることが(財)日本食品分析センターにより確認された.

2.試験動物および飼育条件

生後8週齢のCrj:CD(SD)系のSPFラットを日本チャールス・リバー(株)から受け入れ,15日間の検疫・飼育を行い,順調な発育を示した動物を試験に用いた.雌については,10日間の性周期検査を併せて行い,性周期に異常の認められない動物を用いた.

動物は,温度23±3 ℃,湿度55±10%,換気回数10〜15回/時間および照明時間12時間に設定されたバリアシステムの飼育室において,ブラケット式金属製金網床ケージを用いて飼育した.雌は,妊娠17日から金網床のかわりに実験動物用床敷(ホワイトフレーク,日本チャールス・リバー(株))を敷いたステンレス製受皿を使用した.ケージ当たりの収容匹数は,群分け前は2匹以内,群分け後は1匹,交配中は雌雄各1匹,妊娠期間中は1母動物,哺育期間中は1腹とした.飼料は固形飼料(CRF-1,オリエンタル酵母工業(株))を金属製給餌器を用いて,飲料水は水道水(札幌市水道水)を自動給水装置あるいは給水器を用いて,それぞれ自由に摂取させた.

3.投与量の設定,試験群の構成および群分け

試験群は,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールの100,300および1000 mg/kgを雌雄各5例に14日間反復経口投与した用量設定試験の結果を参考に設定した.すなわち,1000 mg/kg群では死亡あるいは衰弱による屠殺が雄で5例中4例,雌で5例全例にみられ,300 mg/kg群で体重増加抑制,摂餌量の低値,肝臓の体重重量比の高値および性周期の異常が,100 mg/kg群で肝臓の体重重量比の高値が認められた.本試験では投与期間が用量設定試験の約3倍になることを勘案し,高用量は明らかな毒性徴候がみられる用量として300 mg/kg群とし,以下公比5で60および12 mg/kgを設定した.さらに,媒体であるオリーブ油を投与する対照群を加えて計4群とし,動物数は1群当たり雌雄各12匹を用いた.群分けは,投与開始前日に投与開始前々日の体重値をもとに各群の体重が均一になるように体重別層化無作為抽出法を用いて行った.なお,生殖能検査における交配期間中の腟スメア標本の観察で12 mg/kg群の雌1例の妊娠期日の判定および投与容量の算定誤りが生じたため,同例では交尾および妊娠の成立までのデータを採用し,妊娠期間以降については評価から除くこととした.

4.投与方法

投与経路は経口投与とし,胃ゾンデを用いて強制的に胃内に行った.

投与期間は,雄については交配前14日間および交配期間を含む46日間,雌については交配前14日間および交尾までの交配期間,さらに交尾例は妊娠期間および哺育3日までの期間とした.

投与容量は,体重1 kg当たり5 mlとして投与日に最も近い日に測定した体重に基づいて算出し,体重測定当日の投与容量はその日の体重に基づいて算出した.投与は10週齢から開始し,投与開始時の平均体重(体重範囲)は雄で373.9 g(335〜399 g),雌で231.5 g(204〜260 g)であった.

5.観察,測定および検査項目

1) 一般状態観察

雌雄全例について,試験期間中1日1回以上の頻度で,視診および触診により行動,外観を観察した.

2) 体重測定

投与1日(投与前),投与2,5,7,10および14日,その後は雄については7日毎(投与終了日を含む)および剖検日に,雌については妊娠0,1,3,5,7,10,14,17および20日,哺育0,1および4日に,また交配期間中(雄と同居中)は相手雄の測定日と同じ日に電子天秤を用いて体重を測定した.また,雄については投与1から46日の,雌については投与1から14日,妊娠0から20日および哺育0から4日の体重増加量および体重増加率を算出した.

3) 摂餌量測定

摂餌量は,雄については交配期間および剖検日を除き,雌については妊娠0日および哺育0日を除き体重測定日と同じ日(投与終了日を除く)に,電子天秤を用いて測定した.測定前日に適当量の飼料をケージ毎にセットし,翌日(測定日)に残量を測定して1匹当たりの1日分の摂餌量を算出した.

4) 尿検査

投与期間の最終週(投与43〜44日)に雄の各群6例について,ラット用代謝ケージ(KN-646 B-1型,夏目製作所)に収容して非絶食下で採尿を行った.約3時間の蓄尿の一部を用いて,pH,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲン,ビリルビン,潜血反応(以上,試験紙マルチスティックス;バイエル・三共)および沈渣(鏡検)を検査し,21時間蓄尿を用いて比重(アタゴ製屈折計ユリコン)および尿量(容量)を測定した.また,採尿中の飲水量測定も併せて実施した.

5) 血液学検査

投与46日の翌日の剖検時に約16時間絶食した雄の全例について,エーテル麻酔下で大腿静脈から採血した.EDTA・2Kで処理した血液を用いて,赤血球数,平均赤血球容積,血小板数,白血球数(以上,電気抵抗法;コールターカウンターT660型),血色素量(シアンメトヘモグロビン法;コールターカウンターT660型),ヘマトクリット値(赤血球数,平均赤血球容積より算出),平均赤血球ヘモグロビン量(赤血球数,血色素量より算出),平均赤血球ヘモグロビン濃度(ヘマトクリット値,血色素量より算出),網赤血球率(Brecher法)および白血球百分比(メイ・ギムザ染色法による鏡検)を測定した.また,大腿静脈から採取した無処理血液を用いて凝固時間(流体粘度変化による空気圧測定法;グライナー社製マイクロコアグロメーター)を測定した.さらに,腹部大動脈から採取した血液をクエン酸ナトリウムで処理した後,3000 r.p.m.で10分間遠心し,得られた血漿を用いてプロトロンビン時間(トロンボプラスチン法)および活性化部分トロンボプラスチン時間(エラジン酸法)(以上,AMELUNG KC-10A,バクスターKK)を測定した.

6) 血液生化学検査

投与46日の翌日の剖検時に約16時間絶食した雄の全例について,血液学検査のための採血後,腹部大動脈から採取した血液を3000 r.p.m.で10分間遠心し,得られた血清を用いてGOT,GPT(以上,IFCC法),γ-GTP(包接L-γ-グルタミル-p-ニトロアニリド基質法),コリンエステラーゼ(ヨウ化ブチリルチオコリン基質法),血糖(ヘキソキナーゼ法),総コレステロール(酵素法),トリグリセリド(遊離グリセロール消去法),リン脂質(酵素法),総ビリルビン(アゾビリルビン法),尿素窒素(ウレアーゼ・インドフェノール法),クレアチニン(ヤッフェ法),カルシウム(OCPC法),無機リン(フィスケ・サバロー法),総蛋白(ビウレット法)およびアルブミン(BCG法)(以上,日立7150形自動分析装置),ナトリウムおよびカリウム(以上,炎光法;コーニング480型炎光光度計),クロール(電量滴定法;平沼CL-6M型クロライドカウンター),A/G比(総蛋白,アルブミンより算出)および蛋白分画(セルロースアセテート膜電気泳動法)を測定した.

7) 剖検および器官重量測定

雄については投与46日の翌日にエーテル麻酔下で採血後放血致死させ,全身の器官および組織を肉眼的に観察した.雌は全哺育児死亡例は発見後直ちに,哺育3日まで生存児のみられた例は哺育4日に,妊娠25日まで分娩の認められない例は妊娠26日に,エーテル麻酔下で放血致死させ,全身の器官および組織を肉眼的に観察し,子宮の着床痕および卵巣の妊娠黄体を計数した.さらに,雌雄の全例について,肝臓,腎臓(左右),胸腺,副腎(左右),精巣,精巣上体(左右)および卵巣の重量を電子天秤を用いて測定するとともに,器官体重重量比を算出した.

8) 病理組織学検査

雌雄の全例について,肝臓,腎臓,脾臓,心臓,肺,脳,下垂体,胸腺,副腎,甲状腺,胃(前胃・腺胃),十二指腸,空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸,前立腺および卵巣を10%中性緩衝ホルマリン液で,精巣および精巣上体をブアン液で固定後,パラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色標本ならびに必要に応じて特殊染色(PAS染色,PTAH染色,Oil red O染色,ベルリン青染色,好銀線維染色)標本を作製して病理組織学検査を行った.

9) 生殖能検査

雌全例について,投与開始日の10日前から交尾までの連日,ギムザ染色による腟垢塗抹標本を作製し,光学顕微鏡下で性周期段階(発情前期,発情期前期,発情期後期,発情後期および発情休止期)の判定を行い,性周期の異常の有無を検索した.投与14日の雌雄について,同試験群内で夕方から1対1(無作為組合わせ)で14日間を限度として同居させ,雌の腟垢中に精子が確認された日を妊娠0日とした.妊娠の成立は雌の子宮に着床痕が確認された場合とし,交尾率〔(交尾動物数/同居動物数)×100〕および受胎率〔(受胎動物数/交尾動物数)×100〕を算出した.

10) 分娩および母性行動観察

交尾した雌全例について,妊娠21日から分娩終了日まで分娩状態を観察し,午前9時に分娩が終了していた動物を当該日分娩とし,その日を哺育0日とした.分娩終了が確認された母動物について母性行動,総出産児数,生存児数および死亡児数,出産児の性別および外表を観察した.また,妊娠期間〔妊娠0日から哺育0日(分娩終了日)までの日数〕,出産率〔(生児出産雌数/妊娠雌数)×100〕,分娩率〔(総出産児数/着床痕数)×100〕,出生率〔(出産生児数/総出産児数)×100〕,哺育4日時哺育率〔(哺育4日時に哺育児の認められる雌動物数/正常に分娩した雌動物数)×100〕および性比〔雄生児数/雌生児数〕を算出し,解剖時の計測結果から着床率〔(着床痕数/妊娠黄体数)×100〕を算出した.

11) 新生児の一般状態観察および生存性

全例について,哺育0日から哺育4日まで1日1回生存および死亡を確認し,一般状態および外表について観察した.観察結果から,新生児の哺育4日の生存率〔(哺育4日生存児数/出産生児数)×100〕を1腹を単位として算出した.なお,喰殺を受け死亡あるいは不明例となった新生児は死亡例として扱った.

12) 新生児の体重測定

測定対象となる全例について,哺育0,1および4日に電子天秤を用いて測定し,体重値は1腹毎に雌雄別に1匹あたりの平均値で示した.得られた測定値から体重増加量(哺育4日体重-哺育0日体重)および体重増加率〔(体重増加量/哺育0日体重)×100〕を算出した.

13) 新生児の剖検

死亡例は発見後直ちに剖検し,その他の例については哺育4日に二酸化炭素吸入法を用いて安楽致死させた後,体外表(口腔内を含む)およびを全身の器官および組織を肉眼的に観察した.死亡例および異常所見部位の認められた例については,whole bodyを10% 中性緩衝ホルマリン液で固定し,保存した.

6.統計解析

性周期,交尾率,受胎率,出産率および哺育率,ならびに病理組織学的検査結果のうち1段階の陽性グレードがみられた所見については,多試料χ^2-検定を行い,有意な場合2試料χ^2-検定を行った.また,これらの検定に不適合の場合はFisherの直接確率検定法を用いた.その他の項目および病理組織学検査の結果のうち2段階以上の陽性グレードがみられた所見についてはBartlettの等分散性検定後,一元配置分散分析法あるいはKruskal-Wallis法により解析し,有意な場合,Dunnettの検定法あるいはMann-WhitneyのU-検定法により,対照群と3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール各投与群との比較を行った.

対照群との検定に際しては,有意水準を5および1%とした.

結果

1.反復投与毒性

1) 一般状態観察

雄では,流涎が300 mg/kg群の3例で投与6日以降,断続的に投与36日までみられ,1日内の発現は投与後1分から40分の間であった.また,外尿道口周囲の被毛汚染が300 mg/kg群の4例で投与15〜18日に認められた.

雌では,妊娠前投与期間に流涎が300 mg/kg群の1例で投与22日に,外尿道口周囲の被毛汚染が300 mg/kg群の3例で投与6日以降に認められた.妊娠期間では,死亡が300 mg/kg群の1例で妊娠21日に認められ,同例では妊娠8および15日に流涎が認められた.300 mg/kg群では衰弱例として3例をそれぞれ妊娠14,18および19日に屠殺した.これらの屠殺例では呼吸緩除および外尿道口周囲の被毛汚染が3例全例に,自発運動の減少が2例に,散瞳,体温低下がそれぞれ1例に,また,妊娠14日の屠殺例では腹臥ならびに妊娠13日より腟口からの出血が認められた.その他の例では,流涎が300 mg/kg群の1例で妊娠16日に認められた.哺育期間では,外尿道口周囲の被毛汚染が300 mg/kg群の1例で哺育0日に,また全哺育児死亡例が300 mg/kg群の2例で哺育1日に認められた.

2) 体重推移(Table 1,2)

雄の300 mg/kg群において,対照群と比較して有意差は認められなかったが,体重増加量および増加率の高値傾向が認められた.

雌では,300 mg/kg群の妊娠前投与期間,妊娠期間および哺育期間のいずれにおいても体重増加抑制が認められ,妊娠前投与期間の体重増加量および体重増加率,妊娠期間の体重増加量が低値であった.300 mg/kg群の死亡例および衰弱による屠殺例では妊娠前投与期間に異常はみられなかったが,妊娠期間では2例で屠殺前の体重に減少が認められた.

3) 摂餌量(Table 3,4)

雄では,摂餌量の高値が300 mg/kg群の投与10,14,42および46日に認められた.他に12および60 mg/kg群で投与28日に低値が認められたが,一過性であり,300 mg/kg群では認められない変化であった.

雌では,妊娠前投与期間で投与5および7日に300 mg/kg群の摂餌量が低値を示した.その他,妊娠前投与期間で投与2日に60 mg/kg群で高値,妊娠期間で妊娠10日に被験物質投与群全群で低値,妊娠17日に12 mg/kg群で低値がみられたが,いずれも一過性の変化であった.哺育期間では異常は認められなかった.

4) 尿検査

尿量の増加が雄の300 mg/kg群で認められ,同群では有意差は認められなかったが,対照群と比較して飲水量が高値を示す例がみられた.

5) 血液学検査(Table 5)

ヘマトクリット値および血色素量の軽度の減少が雄の300 mg/kg群で認められ,同群では赤血球数の減少傾向もみられた.また,300 mg/kg群でみられた好酸球の軽度な増加は生理的変動範囲内の値であり,60 mg/kg群でみられた平均赤血球ヘモグロビン濃度の低値は300 mg/kg群では認められない変化であった.

6) 血液生化学検査(Table 6)

尿素窒素およびクロールの減少が雄の300 mg/kg群で認められた.

7) 器官重量(Table 7,8)

雄では,肝臓の体重重量比の増加が60 mg/kg群で,肝臓の重量および体重重量比の増加が300 mg/kg群で,左右の腎臓の重量および体重重量比の増加が60および300 mg/kg群で認められた.

雌では,肝臓の重量の増加が300 mg/kg群で,肝臓の体重重量比の増加が60および300 mg/kg群で,左右の腎臓の体重重量比の増加が300 mg/kg群で認められた.

8) 剖検

雄では,腎臓の褪色が60 mg/kg群の2例,300 mg/kg群の11例に認められ,300 mg/kg群では発現例数に有意差が認められた.また,300 mg/kg群の2例では腎臓の褪色に加えて腫大が認められた.

雌では,300 mg/kg群の死亡あるいは切迫屠殺例で,肝臓の黄白色化が2例に,副腎の腫大が2例(うち1例で暗赤色化)に,胃の内腔拡張および胃内の液状内容物貯留が1例に,腺胃粘膜の暗赤色斑が3例に認められた.なお,これらの母動物ではいずれも妊娠が成立しており,子宮内に胎児が確認されたが,妊娠14日衰弱屠殺例では子宮内に死亡胎児,子宮内および腟内に血液貯留が認められた.計画屠殺例(全哺育児死亡例を含む)では肝臓の黄白色化が300 mg/kg群の全哺育児死亡例の1例に認められた.

9) 病理組織学検査(Table 9,10)

雄では,腎臓の軽度の近位尿細管上皮の硝子滴沈着が12 mg/kg群で9例,60 mg/kg群で12例全例,300 mg/kg群で10例に,中等度の近位尿細管上皮の硝子滴沈着が300 mg/kg群で2例に,軽度の近位尿細管上皮の好酸性小体が12 mg/kg群で9例,60 mg/kg群で11例,300 mg/kg群で12例全例に,軽度の尿細管上皮の再生が60 mg/kg群で5例,300 mg/kg群で7例に,中等度の尿細管上皮の再生が60 mg/kg群で1例に認められ,統計学的にも有意な変化であった.また,12 mg/kg群では1例のみであったが,軽度の尿細管上皮の再生が認められた.腎臓ではこの他に,軽度の顆粒円柱が60 mg/kg群で2例,300 mg/kg群で5例に,中等度の顆粒円柱が60および300 mg/kg群で各1例に認められ,300 mg/kg群では発現例数に有意差がみられた.一方,発現に有意差は認められないものの,高用量群にのみ認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与との関連が考えられる所見として,300 mg/kg群では甲状腺に軽度の濾胞の不整形および軽度の濾胞上皮の円柱化が各2例に,軽度のコロイドの減少が4例に,肝臓では軽度の小葉周辺性脂肪化が60および300 mg/kg群で各2例に認められた.

雌では,死亡あるいは切迫屠殺例において,肝臓で軽度あるいは中等度の小葉周辺性脂肪化が4例全例に,胸腺で軽度あるいは中等度の萎縮が3例に認められ,計画屠殺例も含めた発現例数に有意差が認められた.腎臓では尿細管上皮の軽度の脂肪変性が3例に,脾臓では軽度の萎縮が2例,軽度のヘモジデリン沈着が3例に,副腎では束状帯における軽度のリポイド増加が1例,束状帯における軽度の皮質細胞肥大が2例,うっ血が1例に,腺胃では軽度のびらんが3例に認められた.雌の哺育4日屠殺例および全哺育児死亡例では,300 mg/kg群において肝臓に軽度あるいは中等度の小葉周辺性脂肪化ならびに胸腺に中等度の萎縮がそれぞれ3例に認められた.腎臓では尿細管上皮の軽度の脂肪変性が60 mg/kg群の3例および300 mg/kg群の全哺育児死亡例2例に認められた.また,脾臓ではヘモジデリン沈着が対照群,12 mg/kg群および60 mg/kg群で各2例に,300 mg/kg群で4例に認められ,途中屠殺例も含めて300 mg/kg群で多い傾向がみられたが,発現例数に有意差は認められなかった.なお,300 mg/kg群の全哺育児死亡例の2例では,副腎の束状帯で軽度のリポイド増加も認められた.300 mg/kg群の交尾不成立例1例では肝臓に軽度の小葉周辺性脂肪化が認められた.

対照群および12 mg/kg群の不妊例各1組の例に不妊を示唆する所見は認められなかった.

2.生殖発生毒性

1) 生殖能検査(Table 11)

雌の性周期検査では,8〜14日間の発情休止期の継続が300 mg/kg群の4例に認められ,このうち3例では交尾および妊娠が成立したが,1例は交尾不成立であった.対照群と比較して,交尾までの日数,交尾率および受胎率に有意差は認められなかった.

2) 分娩および母性行動観察(Table 12)

哺育異常として,全哺育児死亡例が300 mg/kg群で2例に認められ,同群の哺育率に低値傾向がみられた.さらに300 mg/kg群では死亡および屠殺例がみられたため,出産率にも低値傾向がみられた.また,着床率,出産生児数および性比の低値が60 mg/kg群で,着床数,着床率,出産児数,出産生児数の低値が300 mg/kg群で認められた.これらのうち,60 mg/kg群で認められた性比の低値は用量依存性のない変化であった.

分娩終了時に死亡児が対照群で雄1例,12および60 mg/kg群で雌各1例,300 mg/kgで雄10例および雌1例で認められたが,いずれの死亡児についても剖検で異常は認められなかった.

3) 新生児の生存性(Table 12)

60 mg/kg群で哺育4日の生存児数の低値が,300 mg/kg群で哺育4日の生存児数および生存率の低値が認められた.

4) 新生児の一般状態観察

死亡あるいは不明例が対照群で雄1例および雌2例に,12 mg/kg群で雌2例に,60 mg/kg群で雌雄各3例に,300 mg/kg群で雄15例および雌10例に認められた.これらの例のうち,痕跡尾が対照群の雌1例に認められた.生存例ではいずれの例においても異常は認められなかった.

5) 新生児の体重推移(Table 12)

体重の低値が雌雄の300 mg/kg群で哺育0日に認められ,全哺育児の死亡がみられた例では特に低値であった.また,12 mg/kg群で雄の体重増加量および増加率に低値が認められたが,低用量群のみの変化であった.

6) 新生児の剖検

死亡例および哺育4日に屠殺した新生児の剖検では,いずれの例においても異常は認められなかった.

考察

1.反復投与毒性

死亡あるいは衰弱による屠殺例が,雌の300 mg/kg群で妊娠14〜21日に4例観察された.これらの例では剖検で肝臓の黄白色化,病理組織学検査で肝臓に小葉周辺性脂肪化,腎臓に尿細管上皮の脂肪変性,胸腺の萎縮が認められた.その他に腺胃にびらん,副腎に束状帯におけるリポイド増加および皮質細胞肥大,ならびにうっ血が認められた.その後,哺育期間では死亡あるいは衰弱例はみられなかったことから,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールは妊娠期間の母動物に特に強い影響を及ぼしたと考えられた.これらの死亡例および衰弱屠殺例ではいずれも子宮内に胎児が確認されたが,妊娠14日衰弱屠殺例では妊娠13日より腟口からの出血がみられ,剖検で死亡胎児,子宮内および腟内に血液の貯留がみられたことから,胎児の死亡および出血による一般状態の悪化による衰弱と考えられ,胸腺および脾臓の萎縮,副腎の束状帯におけるリポイド増加および皮質細胞肥大ならびにうっ血は,衰弱あるいは投与に起因するストレスによる変化と考えられた.

一般状態観察では流涎が300 mg/kg群の雌雄で認められたが,剖検および病理組織学検査で唾液腺に異常は認められず,少数例における散発的な所見であること,ならびに投与の継続により発現の増強はみられなかったことから,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による毒性症状とは断定できなかった.300 mg/kg群では外尿道口周囲の被毛汚染が切迫屠殺例を含む雌雄で観察されたが,他に一般状態の悪化などを示唆する異常は認められず,被験物質投与との関連は認められなかった.

雄の300 mg/kg群では摂餌量の高値が認められ,同群の体重も有意差は認められないものの対照群より高値で推移しており,摂餌量の高値との関連が考えられた.一方,雌の300 mg/kg群では,摂餌量の低値が交配前の投与期間に認められ,体重増加抑制が全投与期間を通して認められた.

血液学検査では,雄の300 mg/kg群でヘマトクリット値および血色素量の減少,ならびに赤血球数の減少傾向が認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による影響と考えられ,網赤血球率や脾臓の病理組織学検査に異常のないことから,軽度の貧血と考えられた.

肝臓では,雌雄の60 mg/kg以上の群で体重重量比の増加ならびに300 mg/kg群で重量の増加が認められた.剖検では肝臓の黄白色化が雌の300 mg/kg群で,病理組織学検査では小葉周辺性の脂肪化が雄の60 mg/kg以上の群および雌の300 mg/kg群で認められたことから,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与に関連した変化と考えられた.

腎臓では,雄の60 mg/kg以上の群で重量および体重重量比の増加ならびに腎臓の褪色が,また300 mg/kg群で腎臓の腫大が,雌の300 mg/kg群で腎臓の体重重量比の増加が認められた.病理組織学検査では,雄において12 mg/kg以上の群で近位尿細管上皮の硝子滴沈着および好酸性小体,ならびに尿細管上皮の再生が,60 mg/kg以上の群で顆粒円柱がみられた.炭化水素化合物をラットに投与した場合,特に雄では腎臓の近位尿細管に硝子滴が沈着することが知られており,それ自体に毒性学的な意義はないと考えるが,硝子滴の沈着の程度が強い場合には尿細管上皮の障害および再生を惹き起こすと考えられている1).好酸性小体についても硝子滴と同一物質という報告がある2).したがって,本試験でみられた近位尿細管上皮への硝子滴あるいは好酸性小体の出現の増加は3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による影響と考えられたが,毒性病理学的に意味ある所見としては60 mg/kg以上の群でみられた尿細管上皮の再生および顆粒円柱の出現の増加と考えるのが妥当と判断した.12 mg/kg群でも尿細管上皮の再生が認められたが,1例のみの自然発生的にもみられる出現頻度であり,同群の腎臓重量にも影響はみられないことから,12 mg/kg群には3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による毒性病理学的影響はないものと判断した.なお,雄の300 mg/kg群では血液生化学検査で尿素窒素およびクロールの減少,尿検査で尿量の増加および採尿中の飲水量の増加が認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与の影響が考えられたが,これらの所見が腎臓の病理組織学変化と関連しているかどうかについては,明らかではなかった.

雌では,雄に認められない尿細管上皮の脂肪変性のみが60 mg/kg以上の群で認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与の影響と考えられたが,性差の発現した機序については明らかではなかった.

他に,病理組織学検査では雄の300 mg/kg群で甲状腺に濾胞の不整形,濾胞上皮の円柱化およびコロイドの減少が,雌では300 mg/kg群で胸腺の萎縮が認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与の影響と考えられた.

以上,雄では60 mg/kg以上の群で腎臓の重量および体重重量比の増加,ならびに尿細管上皮の再生および顆粒円柱の発現がみられたこと,雌では60 mg/kg以上の群に肝臓で体重重量比の増加および小葉周辺性脂肪化,ならびに腎臓で尿細管上皮の脂肪変性がみられたことから,本試験における3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールの反復投与による無影響量は,雌雄ともに12 mg/kg/dayであると判断された.

2.生殖発生毒性

生殖能検査では雌の性周期検査で300 mg/kg群の4例に8〜14日間の発情休止期の継続がみられた.予備試験でも300 mg/kg群で発情休止期の継続が5例中2例に認められており,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与の影響と考えられた.しかし,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与群では交尾までの日数,交尾率および受胎率に対照群との有意差は認められず,300 mg/kg群で発情休止期の継続を示した4例のうち3例では交尾および妊娠が成立し,交尾不成立は1例のみであった.

母動物の剖検では60 mg/kg以上の群で着床率の低値,およびそれに起因すると考えられる出産生児数の減少が認められたことから,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による着床への影響が考えられた.また,300 mg/kg群では母動物の死亡あるいは衰弱屠殺による出産率の低値傾向がみられた.

哺育異常として,全哺育児死亡例が300 mg/kg群の2例に認められ,これらの例では出産児数に影響はみられなかったが,新生児の哺育0日の体重が低値を示した.また,母動物の病理組織学検査では,肝臓の小葉周辺性脂肪化,腎臓の尿細管上皮の脂肪変性,胸腺の萎縮および副腎の束状帯におけるリポイド増加が認められており,300 mg/kg群の切迫屠殺例とほぼ同様の所見が観察されたことから,全哺育児死亡は3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オール投与による母動物の衰弱,あるいは母動物の哺育行動への影響によるものと考えられた.

新生児では,哺育4日の生存児数および生存率が300 mg/kg群で低値を示したが,これは同群の全哺育児死亡2例による低値であった.また,60 mg/kg群では哺育4日の生存児数の低値がみられたが,前述の出産生児数の低値によるものであり,同群の新生児の生存性に対する影響は認められなかった.新生児の体重推移では,300 mg/kg群の雌雄で哺育0日に低値が認められ,3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールは母体内での成長に影響を及ぼすと考えられた.また,哺育4日の体重には有意差は認められず,体重の増加量および増加率の高値傾向がみられることから,全哺育児が死亡した例を除くと,新生児の生後発育に及ぼす影響はないものと考えられた.

以上のことから,雄動物の生殖能に対する影響は300 mg/kg群でも認められなかったが,300 mg/kg群の雌において発情休止期の継続および前哺育児死亡例がみられたこと,60 mg/kg以上の群で着床率の低値ならびにそれに起因すると考えられる出産生児数の低値が認められたことから,本試験における3,5,5-トリメチルヘキサン-1-オールの親世代の生殖に対する無影響量は雄で300 mg/kg/day,雌で60 mg/kg/day,次世代の発生に対する無影響量は12 mg/kg/dayであると判断された.

文献

1)P.Greaves, "Histopathology of Preclinical Toxicity Studies:Interpretaton and Relevance in Drug Safety Evaluation," Elsevier, Amsterdam, Netherlands, 1990, pp.532-538.
2)海平充代ら,ラット慢性腎症の病理組織学的解析 -硝子滴変性について-,第8回日本毒性病理学会講演要旨集,76(1992).

連絡先
試験責任者:吉村浩幸
試験担当者:茂野 均,長谷淳一,古川正敏,河村公太郎
(株)化合物安全性研究所
〒229 北海道札幌市清田区真栄363番24号
Tel 011-885-5031Fax 011-885-5313

Correspondence
Authors:Hiroyuki Yoshimura(Study director)
Hitoshi Shigeno,Jyunichi Nagaya,Masatoshi Furukawa,Kohtaro Kawamura
Safety Research Institute for Chemical Compounds Co., Ltd.
363-24 Shin-ei, Kiyota-ku, Sapporo, Hokkaido, 004, Japan
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